セイヨウタンポポ
テンプレート:生物分類表 セイヨウタンポポ(西洋蒲公英、学名 テンプレート:Snamei)は、キク科タンポポ属の多年草である。ヨーロッパ原産の帰化植物。環境省指定要注意外来生物。日本の侵略的外来種ワースト100に選定されている。日本の在来種とは外側の総苞の反る点が異なる。
分布
ヨーロッパ原産。北アメリカ、南アメリカ、南アフリカ、オーストラリア、ニュージーランド、インド、日本に外来種として 移入分布する。
形態
あまり季節を問わず、黄色い舌状花を長い期間にわたって咲かせる。萼のように見える部分(総苞片)が開花時に反り返ることで、花に沿って固く閉じる在来種とは区別できる[1]。ただし、在来種も花の盛りを過ぎると総苞が反り返るので注意を要する。葉は鋸歯状や羽状に深裂するが、変化が大きい[2]。生育型は、ロゼット型となる。
- Löwenzahn uhf.JPG
花
- Pusteblume 1.jpg
果実
- Taraxacum officinale - Köhler–s Medizinal-Pflanzen-135.jpg
生態
葉や茎を切ると白いゴム質の乳液が分泌され、これによって虫に食べられるのを防いでいる[3]。アレロパシー作用をもつといわれている[2]。
根茎による繁殖力が強く、どの部分の切片からも出芽する。セイヨウタンポポには有性生殖を行う2倍体と無融合生殖を行う3倍体があり、日本に定着したセイヨウタンポポは3倍体で、単為生殖で種子をつける。つまり、花粉に関係なく、種子が単独で熟してしまう。そのため繁殖力が強く、都市部を中心として日本各地に広まり、特に近年の攪乱が多い地域を中心に分布を広げた。現在ではほぼ日本全国に広がっているが、古くからの田園風景の残る地域では在来種のタンポポが勢力を持っている。そのため、都市化の指標生物になるといわれている[4]。
分類
ヨーロッパのタンポポの分類には諸説あり、タンポポ属だけでも種数は400種とも2000種ともいわれている[2]。日本に侵入・定着している外来種タンポポは、セイヨウタンポポ以外にアカミタンポポ(Taraxacum laevigatum)が知られている[1]。しかし、これらセイヨウタンポポやアカミタンポポについてはヨーロッパでは多数の種を含む節レベルの分類群として扱われており、種としては考えられていない[2]。
また、最近になって日本では、セイヨウタンポポを含む外来タンポポと在来タンポポの雑種が発見され、新たな問題として注目されている。セイヨウタンポポは無融合生殖と呼ばれる単為発生であり、不完全な花粉しか作らないので雑種の形成はあり得ないと考えられていた[5]。ところがセイヨウタンポポの作る花粉の中に、nや2nの染色体数のものができると、在来種のタンポポがそれと受粉して雑種ができる可能性があり、現にそれがあちこちに生育していることが確認された[5]。日本のセイヨウタンポポの8割以上は在来タンポポとの雑種との報告がある[6]。このような雑種では、総苞は中途半端に反り返るともいわれ、その区別は簡単ではない。雑種は反曲した総苞片の先端にこぶ状の突起があり、また総苞片の縁の毛も多い傾向があるといわれている[2]。近年は在来タンポポのように総苞が反り返らないニセカントウタンポポ(Taraxacum sp.)と呼ばれるタンポポが関東地方を中心に確認され、雑種もしくは別系統の外来タンポポとする見解がある[1]。
こうした分類の混乱や交雑の問題から、正確な種の実態はまだよくわかっておらず、これまでセイヨウタンポポとされていたものでも実際は複数の種が含まれている可能性が高い[4]。そのため、近年は外来タンポポ群(Taraxacum spp.)としてひとくくりに扱われることが多い[1]。
- Seiyo tampopo.jpg
外来種の総苞
- Kanto tampopo.jpg
在来種の総苞
- T. platycarpum Dahlst×T. officinale Weber's flower.jpg
雑種の総苞(セイヨウタンポポ×カントウタンポポ)
外来種問題
日本では1904年に北アメリカから北海道の札幌市に導入され、全国に広がった(札幌農学校のアメリカ人教師W.P.Brooksが野菜として持ち込んだという説がある)[7]。
当初は外来タンポポが日本の在来タンポポを駆逐していると考えられていたが、多くの場合、外来タンポポと在来タンポポは住み分けていることがわかった[4]。二次林では在来タンポポの割合が多く、造成地や市街地では雑種タンポポ(特に4倍体雑種)がほとんどを占めるという分布傾向がある[6]。しかし、自然度の高い場所に外来タンポポが侵入した場合、在来のタンポポ類と競合・駆逐することが危惧され、北海道礼文島、島根県隠岐諸島、長野県上高地では駆除が行われている[2]。
現在の日本に定着しているセイヨウタンポポを含む3倍体の外来タンポポは在来タンポポとの間に交雑が発生しても遺伝子汚染にはならない[4]。一方で、2倍体の外来タンポポが侵入した場合、同じく2倍体の在来タンポポと遺伝子汚染を引き起こす可能性がある[4]。
人間との関わり
古くからヨーロッパや中東では食用に供されており、多少の苦味があるがサラダなどにする。また、根を乾燥させて炒ったものがコーヒーの代用品(たんぽぽコーヒー)として知られており、食欲増進や肝機能向上に効果があるとされる。アメリカ合衆国の一部では、花弁を自家製醸造酒(タンポポワイン)の原料として用いる。薬草としては、利尿、貧血、黄疸、神経症、血液の浄化に効果があるとされる。乳液は虫よけや民間療法の疣取りに用いられる。花からは黄色や緑色の染料がとれる。
メンデルの実験
遺伝の法則の発見で有名なグレゴール・ヨハン・メンデルはエンドウ豆を材料に遺伝法則を発見したが、彼がその次に選んだ材料はセイヨウタンポポだったという。ところが、タンポポでは両親の形質に関係なく、種子を作る側の形質が発現するため、大いに悩んだと言われる。単為発生では当然ではあるが、花粉による受粉の意味すら完全にはわかっていなかった当時は、その仕組みについて明らかにされていなかった。