インピーダンス整合

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テンプレート:出典の明記 インピーダンス整合(インピーダンスせいごう、impedance matching)とは、一例としては電気信号伝送路において、送り出し側回路の出力インピーダンスと、受け側回路の入力インピーダンスを合わせることである。概念として、より広く力学一般に、音響その他の振動系に拡張できる。損失なく最大の効率で伝送を行うために、また特に高周波では整合がとれていない接続部分で反射が起きるため、整合するよう設計しなければならない。

概要

一般に、エネルギー電力など)の伝送をスムーズに行うには様々な工夫が必要である。ただ単に次のシステムに連結すればよいと言うものではなく、エネルギーの反射や損失などによる不都合を生ずることがある。音響ホーンは一種のインピーダンス変換装置であり、インピーダンス整合をおこなって効率よく音響・振動を伝える装置である。

以下では、インピーダンス整合概念のうち、電気回路におけるインピーダンス整合の例と音響インピーダンス、機械インピーダンスについて述べる。 ただし、電気回路におけるインピーダンス整合の例のうち、給電線空中線の間におけるインピーダンス整合については、マッチング (無線工学)を参照のこと。

インピーダンス整合の必要性

電気信号の伝送路において、送り出し側電圧が一定として、その回路の出力インピーダンスと、受け側回路の入力インピーダンスを等しくすることにより、受け側回路において得られる電力が最大になる性質を持つ。そのため、効率的に伝送を行うためには、それらのインピーダンスを等しく(整合)する必要がある。また、インピーダンスを整合させるためにその変換を行うことをインピーダンス変換という。

π(パイ)型で入出力端を構成した共振回路やトランスでインピーダンス変換を行う。

トランスを例にすると巻数比(変圧比)nのトランス2次側に繋がれた抵抗Rは1次側からみると、電圧が1/n倍、電流がn倍になるから、見かけの負荷は1/n2倍=((1/n)/n) に変換される。この値が供給側インピーダンスに等しくなるよう変圧比を設定することがインピーダンスマッチングになる。

インピーダンスが整合されていない場合、希望する最大出力を取り出せないだけでなく、高周波回路では伝送路に反射波を生じ進行波と重畳して定在波となって、感電電波障害などの不都合が生ずることもある。高周波通信においては、負荷を接続していない伝送路に反射波が生じないように終端に擬似負荷(ダミーロード)を接続して、無限長線路を繋いだのと同等の効果を作る。この場合は逆に無駄な電力を消費させることになるが、品質保持においては必要な処置である。

(参照→電力潮流制御 )

電力伝達の最大化以外に、雑音指数を最小化するためにインピーダンス整合を行うこともある。この場合は、特にノイズマッチングと呼ぶことがある。微小信号を扱う受信機や測定器ではフロントエンドにてノイズマッチングを取ることによりフロントエンドだけでなく機器全体の雑音指数が下がり、感度を上げることができる。一般に、ノイズマッチングを取った場合の最適なインピーダンスは電力伝達を最大化するインピーダンスとは一致しない。

インピーダンス整合の例

トランスによる整合

トランス(変圧器)は、交流電圧を増減する目的だけではなく、インピーダンス整合に使われることがある。この目的の場合、変成器と呼ぶ。代表的な例が、真空管アンプの出力にスピーカーを接続する際に用いられる出力トランスである。真空管の直線動作範囲に適合する負荷線のインピーダンスは極めて高く、スピーカーのインピーダンスは4~32Ω程度と低いので、トランスによる整合が必要である。2次インピーダンスを1次側からみると巻数比の2乗分の1に見える。

入力側においても変成器(入力トランス)を用いることがある[1]

高周波回路では、受信機のRFアンプなど広帯域が必要な回路で、伝送線路トランスを組み合わせてインピーダンス整合を取ることができる。後述の抵抗減衰器と比べると、適切な周波数にあっては損失が極めて小さいが、変換できるインピーダンス比に制約が生じる。

コイルとコンデンサによる整合

高周波回路にて、狭帯域でのみ整合が取れれば十分な場合は、コイルコンデンサの組み合わせによる整合回路が用いられることが多い。コンデンサやコイルの比率を調整することで電源側と負荷側の整合を図る。低周波回路では大抵の場合、実部のインピーダンス整合のみで良いが、高周波回路では虚部のインピーダンス(リアクタンス成分)の整合が必要になる。例えば、電源側と負荷側のインピーダンス比が1であっても、高周波回路では容量成分や誘導成分などのリアクタンス成分を持つのが普通であり、コンデンサやコイルで打ち消すが、これもインピーダンス整合である。

接続する回路または部品のインピーダンスが、複素共役の関係になるように整合回路を設計する。設計方法は、机上計算による方法、スミスチャートを使う方法の他、最近では回路シミュレータを使う方法、ネットワーク・アナライザで合わせこむ方法がある。

アンテナと無線機のインピーダンス整合を取る目的で、値を調整できるコイルまたはコンデンサをT型またはπ型に接続し、専用の筐体に納めたものをアンテナカップラーまたはアンテナチューナと呼ぶこともある。

ラジオや携帯電話など電波を使った機器内部の高周波回路や高周波ICは、インピーダンス整合回路の塊(かたまり)である。

抵抗器による整合

低周波の場合
簡易的に、あるいは広帯域にインピーダンスを整合させる方法として抵抗器を用いる方法がある。例えば、オペアンプの出力インピーダンスは0Ωであると見なせるが、仮に、特性インピーダンス75Ωの同軸ケーブルをつなぐと不整合を生じる。その場合は75Ωの抵抗器を直列につなぐことで同軸ケーブルとの整合をとることが出来る。受け側のオペアンプ(例えば非反転型)の入力インピーダンスは∞Ωであると見なせるが、この場合は75Ωの抵抗器を並列につなぐことで同軸ケーブルとの整合をとることが出来る。
高周波の場合
LCのみで整合を取ると、整合回路自体がフィルタ回路として動作してしまうため、特定の周波数でしか整合が取れない問題が生じる。また、LCを用いて整合をとることで必要以上にゲインが取れてしまったり、インピーダンスが周波数特性を持ってしまい回路が不安定になることもある。そのような場合、抵抗で整合を取ることがおこなわれる。低周波と同様に直列抵抗を挿入する他、抵抗で構成した減衰器を用いることもできる。この目的で加えられた減衰器はパッドと呼ばれ、一般に3-6dB程度の減衰量を用いる。LPFなど周波数特性を持つフィルタや、ミキサのように非線形なインピーダンスを持つ回路に対する整合手法としても用いられる。

音響インピーダンス

インピーダンスの概念は、交流だけではなく波動一般に広げられる。例えば音波の伝播にもインピーダンスを導入しうる。音響インピーダンスは一つの面における(複素表示による)音圧(SI単位はPa)を(複素表示による)体積速度(SI単位はm3/s)で除したもので,そのSI単位はPa・s/m3である。また,平面進行波について音圧を粒子速度で除したものは,その媒質の特性インピーダンス(SI単位はPa・s/m)と呼ぶ。これは電気における電流に対する電圧の比に対応したものである。特に平面波の場合は媒質の密度と媒質中の音速の積で表される。音響インピーダンスの単位はPa・s/m3又はN・s/m5(結局同じ)である。このように音響インピーダンスと音波についての特性インピーダンスは異なった概念の物理量である。

水の(音響)特性インピーダンスは約1.5×106 N・s/m3であり、空気の特性インピーダンスは約4.1×102 N・s/m3である。よって、例えば水面に向かって叫び声を上げても、空気中の音波は水面でほとんどが反射され水中には伝播しにくい。ここで、軽く大面積の振動板とそれに連結した小面積の振動板を用意し、その面積比を水と空気の特性インピーダンスの比にあわせることにする。小面積の振動板を水面に触れさせ、大面積の振動板に向かって叫び声をあげれば、狭い面積の水に大きな圧力がかかり、効率よく音のエネルギーが水に伝えられる。聴覚系では、耳小骨がこれに近い働きをし、空中の音波を内耳のリンパ液に伝えている。

音波の、チューブの開放端や閉鎖端における反射も特性インピーダンスの違いによるものである。開放端はインピーダンスが低く、閉鎖端はインピーダンスが高くなっている。金管楽器ではラッパ状の開口部はカットオフ周波数以上の音波に対してはホーンとして働き、効率良く音波を放射する。しかし低い周波数の音波に対しては開放端に近い動作をすることになり、管内に定在波が維持される。

音響インピーダンスは媒質中の音速と媒質の密度との積で表される。代表的な媒質の音響インピーダンスを以下に示す。

音響インピーダンス (縦波)
媒質 密度
(kg/m3)
音速
(m/s)
音響インピーダンス
(kg/m2s)
備考
空気 1.29 331 428 1℃、1気圧
1×103 1452 1.5×106 25℃
ガラス 2.42×103 5440 13.2×106
天然ゴム 0.97×103 1500 1.5×106 1MHz
0.917×103 3980 3.65×106
7.86×103 5950 46.4×106
8.96×103 5010 44.6×106
アルミニウム 2.69×103 6420 17.3×106
11.3×103 1960 22.4×106
ポリエチレン 0.9×103 1950 1.75×106
[2]

機械インピーダンス

上記音響インピーダンスでは電圧は音圧(面積あたりの力)、電流は粒子の体積速度とに対応関係があった。この関係を更に見ていこう。インピーダンスは複素平面上で扱うのが普通であるが、ここではスカラーで扱える範囲だけを見ることにする。

L(コイル)C(コンデンサ)R(抵抗)の直列回路に電圧eの電源を繋いだところ電流iが流れたとする。これらの素子には全て同じ大きさの電流が流れ、電圧は加算される(*)ので、eとiには

<math>e = L\frac{di}{dt} + \frac{1}{C} \int i \, dt + Ri </math>

の関係がある。ただしL、C、Rはそれぞれコイル、コンデンサ、抵抗のインダクタンス、キャパシタンス、抵抗の大きさである。

一方、質量Mの物体を並列するバネと機械的抵抗(摩擦物や粘性物など、変位の速さに比例した力のかかるもの)で支えたとする。力Fによって、Mが速さvでxだけ変位したとすると、バネと機械的抵抗も等しく速さvでxだけ変位し、質量Mに合計した力を与える(*)。よって、その時のFとvとの間には

<math>F = M \frac{dv}{dt} + \frac{1}{C_m} \int v \, dt + R_mv</math> の関係がある。ただしCmはコンプライアンス(バネ定数の逆数)、Rmは機械抵抗の大きさである。

これらの2つの式を見比べると、F - e、v - i、M - L、Cm - C、Rm - Rという対応関係がある。

つまり、機械←→電気の間で

  • 並列的な支持←→直列接続
  • 力←→電圧
  • 速さ←→電流
  • 質量←→インダクタンス
  • コンプライアンス←→キャパシタンス
  • 機械抵抗←→抵抗

のように対応付けると、電気回路の振るまいと機械的な振るまいとを同じ式で表す事ができる。電気的なインピーダンスは電圧/電流であるから、機械インピーダンスは力/平均粒子速度(SI単位はN・s/m)、音響インピーダンスは音圧/媒体粒子の体積速度とすると都合がよい。なお機械的な仕事率は電圧と電流の積(=電力)に問題なく対応する。

(*)ここでは似而非直流源を用意しているが、実際にはeもFも時間的に変動するもの(交流)を考え、その際は電流と電圧、速度と力の位相を考慮しなければならない。そのために複素数を用いた記述を行う。しかし、重い物は力をかけてもすぐ動き出さない/止まらない(力に対して速度の位相が遅れる)、という性質と電圧をかけてもコイルにはなかなか電流が流れない(電圧に対して電流の位相が遅れる)という性質が共通するものだとは納得できるだろう。バネとコンデンサの対応関係も同様である。なお、電圧に対して電流の位相が遅れるとは「なかなか電流が流れない」という表現をしたが、誤解されやすい事柄であるが、即に電流は反応するのであるが、その変化の様子が電圧とは異なるという意味である。力と物体の速度についても同様の意味(直ぐに反応はするが変化の様子は力のそれと異なる)である。


複素表現はインピーダンスの項参照。上記の置き換えを行うと機械インピーダンスの式になる。

脚注

  1. 音声信号の場合はインピーダンス整合よりも、むしろ同相ノイズ除去の平衡配線を不平衡に変換する目的でトランスが使われることが多い。ムービングコイル型カートリッジ付属のトランスは、インピーダンス整合というよりも電圧レベル合わの目的で用いられ入力部での厳密なインピーダンス整合はあまり問題にならない。
  2. 谷村康行著、『超音波技術 基礎のきそ』、日刊工業新聞社、2007年11月29日初版1刷発行、ISBN 9784526059629 P.43

関連項目