JR貨物DF200形ディーゼル機関車
DF200形ディーゼル機関車(ディーエフ200がたディーゼルきかんしゃ)とは、日本貨物鉄道(JR貨物)が1992年(平成4年)から製作している電気式ディーゼル機関車である。
本項では、2013年(平成25年)から九州旅客鉄道(JR九州)が導入した同型機(DF200形7000番台)についても記述する。
目次
概要
幹線における電化区間の割合が低い北海道においては、無煙化以降の貨物輸送は電化・非電化区間の別なくDD51形ディーゼル機関車を主力としてきた。JR移行後の輸送量増大や貨物列車の高速化[1]に対し、DD51形の出力不足で恒常的に重連での運用を要したことに加え、北海道の厳しい気候風土による車両の老朽化も顕在化してきた。これを受け、重連運転の解消と老朽車両の置換えを目的として1992年に開発されたのがDF200形である。
JR貨物の公募により"ECO-POWER RED BEAR"(エコパワーレッドベア)という愛称がつけられ、車体側面にロゴが描かれている。1994年鉄道友の会ローレル賞(第34回)受賞。
構造
車体は前面を傾斜させた20m級の箱型である。重連運転は想定されず[2]、正面に貫通扉はない。屋根高さを車両限界いっぱいに高くして機器類の艤装空間を確保している。側面より見て車体中央部に放熱器・冷却ファンなどの冷却系統、その両隣に動力源となる機関と発電機のセットを搭載し、主変換装置・補助電源装置など電気系統機器は運転台の真後ろに各々配置される。機器配置は概ね前後対称である。乗務員扉は側面向かって左側のものは車体中央付近に設けられ、右側のものは運転室に設ける点対称の配置である。外部塗色は濃淡グレーと朱色の組み合わせである。
動力伝達方式は従来の主流であった液体式ではなく、国鉄DF50形以来の電気式(ディーゼル・エレクトリック方式)[3]として設計された。これは増大した出力に対応する大容量液体変速機の研究・開発が国鉄DE50形の試作を最後に中止されて久しいことと、VVVFインバータ制御など、長足の進歩を遂げた電気機器を採用することで駆動系の小型化と保守の軽減が図れるためである。
駆動機関として、V型12気筒ディーゼル機関を2基搭載する。初期の車両はドイツ・MTU社製の機関(定格出力1,700PS/1,800rpm)が採用されたが、50番台以降はコマツ製SDA12V170-1形(定格出力 1,800PS/1,800rpm、最大出力 2,071PS/2,100rpm)に変更されている。これはDD51のB更新工事車に搭載されている、同社製SD12V170-1(1,100PS/1,500rpm[4])のアフタークーラをデュアルサーキット化したものである。
車体長を詰めながら表面積を稼ぐため、1エンジンあたり2枚の冷却器を前後視でV字形に配置し、上方に設けられたファン1基とで一つのモジュールを形作るようになっており、それを2組搭載している。冷却ファンの駆動は従来の静油圧式を止めて電動式とし、モジュール全体を容量の大きな箱状としたことでDD51のシュラウドと比べて通気抵抗も低減している。
発電機も2基搭載されており、全車が東芝製FDM301形、自己通風冷却回転界磁式ブラシレス同期発電機(定格出力1550kVA/1,800rpm)となっている。
主電動機はかご形三相誘導電動機FMT100形(320kW)を6基搭載する[5]。1個のインバータで1個の主電動機を制御する1C1M方式の個別制御システムにより、定格の動輪周出力はDD51形の1.5倍となり、平坦線で110km/h以上の均衡速度(800t牽引時)を維持することができる。6軸駆動となったことで、起動時の粘着安定性も向上した。主電動機の装架方式は国鉄・JRの電気機関車で汎用的に用いられる「吊り掛け式」で、動軸への動力伝達は主電動機回転子軸の小歯車と車軸側の大歯車の係合による1段歯車減速方式である。
単機ブレーキ装置は電気指令式空気ブレーキを採用し、抑速機構として発電ブレーキを併設する。被牽引車両へのブレーキ制動はノッチ式のハンドル操作により、各ノッチで設定された圧力までブレーキ管圧力を減圧する自動空気ブレーキを採用している。自車が牽引される場合も牽引する機関車からの空気圧指令によりブレーキが作動する。台車は空気バネを用いた軸梁式台車FDT100形(両端)FDT101形(中間)で、低い位置に設けられた心皿を介して牽引力を伝達する。基礎ブレーキ装置は片押し式踏面ブレーキで、ブレーキシリンダ・ブレーキテコと一体化して台車に装架するユニットブレーキである。軸重を抑えるため軽量化された本形式の台車構造は、後続の新形式機関車にも基本として用いられている。
耐寒・耐雪構造としては運転室では気密対策、暖房能力を向上させ前面窓ガラスは熱線入り、温風式デフロスタを装備した。エンジンは低温環境の起動を考慮し給気予熱のフレームトーチを装備し、冬期長時間停留を考慮し潤滑油、蓄電池を保温するために外部電源による冷却水保温ヒーターを装備。台車では砂撒管の目詰り防止のために電動機の排気熱による温風ヒーターを装備。ブレーキ装置では車輪踏面と制輪子間に雪が噛込むのを防ぐために耐雪ブレーキ制御を行う。ブレーキ制御装置、除湿装置に保温ヒーターを装備。
仕様区分
900番台
1992年9月、川崎重工業[6]で落成した本形式の試作車である。車両番号は「901」である。冬季の耐寒・耐雪を中心に各種試験に供された。
前照灯は正面窓上に4個設置され、運転台直下には標識灯のみを装備する。正面デザインは3面構成で、窓の傾斜角や塗り分けパターンも量産車とは異なる。排障器(スカート)は赤色である。
車体側面には"INVERTER HIGH TECH LOCO"ロゴが描かれたが、後に赤紫色(コンテナレッド)のJRFロゴに変更、2008年現在は白色のJRFロゴと"RED BEAR"のロゴが描かれる。 テンプレート:-
基本番台
1994年9月から1998年3月にかけ、12両(1 - 12)が製造された。
DF200-901の試用結果を踏まえ製作された量産機である。
前照灯は正面窓上2個+運転台直下2個(標識灯と一体で設置)、正面は2面構成となり、塗り分けの変更とも相まって外観は大きく変化した。
落成時、スカートは赤色、側面のJRFロゴは赤紫色であったが、DF200-10以降の新製機はスカートは灰色、JRFロゴは白色となった。近年は工場入場時にスカートの赤色化・JRFロゴの白色化が施工されている。台車に設置される空転防止用の砂箱は、セラジェット方式対応として小型化された。これは粒径約0.3mmのセラミック細粒と珪砂の混合物を用いるもので、従来の天然砂に比べ使用量と材料費を節減できる。DF200-4から設置され、既製機も順次換装された。
本区分まではMTU製エンジンを搭載するが、DF200-10は後に50番台で採用されるコマツ製エンジンを先行して搭載する。 テンプレート:-
50番台
1999年12月から2004年1月にかけ、13両(51 - 63)が製造された。
駆動用機関をコマツ製のSDA12V170-1形に変更した。これはDD51形のB更新工事施工車に搭載されたものと同系統で、部品の共通化による保守性向上を主目的とする。車体構造の変更はないが、製作途中で"RED BEAR"の愛称が決定し、車体に愛称のロゴが描かれる。スカートは灰色、JRFロゴは白色である。 テンプレート:-
100番台
2005年から2011年にかけ、23両(101 - 123)が製造された。
VVVFインバータのスイッチング素子をGTOサイリスタからIGBTに変更した[7]。外観の変更はなく、スカートは灰色、JRFロゴは白色である。 テンプレート:-
7000番台
九州旅客鉄道(JR九州)が2013年10月より運行を開始した豪華寝台列車(クルーズトレイン)『ななつ星in九州』の牽引機として、九州仕様に改装した本形式が川崎重工業にて製造された[8][9][10]。
当初は牽引する客車とともに、車体全面に黒色のラッピングフィルムが貼られていたが、2013年9月13日に報道公開された際にラッピングフィルムは除去された[11]。
外装は、「古代漆」を基調とした塗色が施されている。灯火類や誘導員用手摺の形状などが改められているほか、車体側面と前面に列車のエンブレムが取り付けられ、前面中央にダミーのグリルが取り付けられている、連結器はJR貨物所有機の自動連結器から密着自動連結器に変更されている。これと共に連結器の緩衝器がダブルアクション式の緩衝器に改められ、列車引き出し時や制動時に客車に伝わる衝撃を緩和する機構が追加されている他、正面向かって連結器の左上スカート部分に並形連結器と密着連結器を換装する際に切り替えるレバーが設けてある。また排気ファンやサイレンサーなどに客車への騒音や振動を低減させる機能を強化している。番台区分は、『ななつ星in九州』にちなんで7000番台としている[12]。報道公開時に、車両番号は7000であることが発表された[13]。
2013年、7月12日より単機での試運転を開始し[14]、8月15日より『ななつ星in九州』を牽引しての試運転が開始された[15]。10月15日に『ななつ星in九州』の営業運転が開始された[16]。
現況と動向
新製開始以来、900番台、基本番台、50番台、100番台の全機がJR貨物鷲別機関区に、7000番台はJR九州大分鉄道事業部大分車両センター[17]に配置されている。
鷲別機関区配置車は番台による区別なく、全機とも共通に運用される。投入当初は札幌貨物ターミナル駅 - 五稜郭駅・帯広貨物駅間の運用に充当されていたが、増備が進行した2008年現在では根室本線の釧路貨物駅・宗谷本線の北旭川駅まで運用を拡大し、DD51形を徐々に淘汰しつつある。
2012年度からはこれまで軸重の関係で入線がされなかった石北本線にて試験運転が複数回実施されている。
製作実績は2007年度[18]4両、2008年度[19]4両、2009年度[20]5両であり、2010年4月1日現在で延べ45両を製作している。2010年度[21]は2両が製作され、2011年度をもってJR貨物での増備は完了した。なお、2012年に石勝線で発生した脱線事故により、DF200-56が廃車となっている[22]。
脚注
参考文献
書籍
- 鉄道貨物協会『JR貨物時刻表』2013年版 p.259 機関車配置表
雑誌記事
- 交友社 『鉄道ファン』 1992年6月号 No.374 p36 - 39
- 電気車研究会 『鉄道ピクトリアル』 1996年5月号 No.621 特集:ディーゼル機関車 p16 - 24
- 鉄道ジャーナル社 『鉄道ジャーナル』 2005年5月号 No.463 特集:鉄道貨物輸送の現状
- 誠文堂新光社 『鉄道画報』 2005年夏季号 No.2 特集:JRFの機関車たち
- 学研ムック 『貨物列車ナビ』特集2:栄光の「JR貨物の機関車」総ガイド p42 - 43
- 鉄道ジャーナル社『鉄道ジャーナル』2012年8月号 第550号「RAILWAY TOPICS」145-153頁。
- 交友社 『鉄道ファン』 2013年9月号 No.629 p63 新車速報「DF200-7000誕生!」
テンプレート:Sister
テンプレート:JR貨物の車両リスト
- ↑ 高速化の要求は、貨物列車自体の到達時分の短縮のほか、北海道旅客鉄道(JR北海道)発足後、特急用をはじめとする新型の気動車や電車が軒並み高加速化・高速化を果たし、札幌圏での列車本数も増加したことから、貨物列車のダイヤが組みづらくなったことによる。
- ↑ 実際には冬季を中心に重連で運転されることもある。
- ↑ DF50形のワードレオナード方式とは違い、この機関車の場合は、エンジンと繋がっている交流発電機(同期発電機)から得られる交流を主変換装置のコンバータ部で直流に変換後、インバータ部(VVVFインバータ)で交流に変換することにより、主電動機である交流電動機(かご形三相誘導電動機)を動かすVVVFインバータ制御方式となっている。
- ↑ 本来の定格出力は1,500PS/1.500rpmであるが、変速機や台車の許容出力容量に合わせて落として使用している。
- ↑ DF50では100kWの主電動機を6基搭載していたため、DF50一両でもDF200の台車1基分の出力に届かない計算になる。
- ↑ 銘板のロゴは、通常の「(リバーマーク)川崎重工」ではなく、オートバイ・ジェットスキー用の「(フライングKマーク)Kawasaki」が使われている(JR九州所属車も同様)また発電機を製造しした東芝の英文ロゴも併記されている。
- ↑ 鉄道ファン「JR車両ファイル2012 JR貨物」p.64
- ↑ 『鉄道ジャーナル』2012年8月号 第550号
- ↑ YOMIURI ONLINE「ななつ星の機関車完成、いざ九州へ」
- ↑ 朝日新聞デジタル「「ななつ星」専用機関車、大分到着 漆の外観はまだ内緒」
- ↑ DF200-7000と“ななつ星 in 九州”専用編成が公開される - 『鉄道ファン』交友社 railf.jp鉄道ニュース 2013年9月13日
- ↑ 鉄道ファン 2013年9月号 P63
- ↑ DF200-7000と"ななつ星 in 九州"専用編成が公開される 鉄道ニュース|鉄道ファン
- ↑ "ななつ星 in 九州"専用機関車が試運転鉄道ファン公式サイト2013年7月13日配信
- ↑ "ななつ星 in 九州"の試運転開始鉄道ファン公式サイト2013年8月15日配信
- ↑ "ななつ星 in 九州"が営業運転を開始鉄道ファン公式サイト2013年10月16日配信
- ↑ 10月15日営業開始 77系"ななつ星in九州"豪華寝台列車 - Rail Magazine2013年11月号p136 2013年9月21日閲覧
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ テンプレート:PDFlink
- ↑ JR貨物時刻表 p.259 鷲別機関区機関車配置表より