百匹目の猿現象
百匹目の猿現象(ひゃっぴきめのさる げんしょう、テンプレート:Lang-en-short)は、ライアル・ワトソンが創作した疑似科学に分類される生物学の現象である。
宮崎県串間市の幸島に棲息する猿の一頭がイモを洗って食べるようになり、同行動を取る猿の数が閾値(ワトソンは仮に100匹としている)を超えたときその行動が群れ全体に広がり、さらに場所を隔てた大分県高崎山の猿の群れでも突然この行動が見られるようになったという。このように「ある行動、考えなどが、ある一定数を超えると、これが接触のない同類の仲間にも伝播する」という存在しない現象を指す。
経緯
ライアル・ワトソンが1979年の著書『生命潮流』 で述べ、1981年に出版されたケン・キース・ジュニア(1921年-1995年)の著書『百番目のサル』によって世界中に広まった。これが日本では船井幸雄の『百匹目の猿―思いが世界を変える』で紹介され、人間にも同様の現象が存在するのではないかということでニューエイジ関係で有名になった。
だが実際には、初めに報告されていたニホンザルの逸話は創作されたもので、高崎山の猿への伝播の事実が観測されていないことはもちろん、幸島の群全体に伝播したという事実も観測されていない。ワトソンは河合雅雄の論文[1]によるものとしていたが、この論文にはワトソンが述べたようなことは記述されていない。全くの創作であることをワトソン自身も認めている。元になった河合の論文の該当部分は、「幸島でニホンザルの行動観察を行なっていたら、芋を海水で洗って食べる事を覚えた個体が出現し、長期間おこなっていたために、群れの中でそれを真似するものが数頭現れた。」という程度のものである。
なお、高崎山の猿の観察については、伊谷純一郎の「高崎山のサル」(ISBN 9784062919777)がしばしば引用されるが、「猿がイモを洗う」という記述は、あとがきを含めて、一切ない。エサとして与えられたイモを最初は食べなかったがそのうち食べるようになったこと、エサ場に関すること、食べる量などについての記述が見られるのみである(「ノート:伊谷氏の著書に」を参照)。
作品
音楽
- 「99匹目のサル」 - ザ・コレクターズ(THE COLLECTORS)の楽曲及びオリジナル・アルバム。 (2013年)
参考文献
- 伊谷純一郎『高崎山のサル』(1954年)絶版
- 伊谷純一郎『高崎山のサル』(2010年)講談社学術文庫 ISBN 9784062919777
- ケン・キース・ジュニア 『百番目のサル』 ISBN 4914935031 (原題:"Hundredth Monkey")
- 船井幸雄, 七田眞(共著)『「百匹目の猿現象」は右脳から―ここまでわかった成人のための右脳開発法 』ISBN 4584182582
- ライアル・ワトソン 『生命潮流―来たるべきものの予感』 ISBN 4875020775 (原題:"Lifetide")
- 山本弘 「『百匹目のサル』 の甘いささやき」 『(別冊宝島)洗脳されたい!』 ISBN 4796693009
- と学会 (山本弘、志水一夫、皆神龍太郎) 『トンデモ超常現象99の真相』 ISBN 4896912519 ISBN 4796618007
脚注
- ↑ KAWAI, M 'Newly acquired precultual behaviour of the natural troop of Japanese monkeys on Koshima Islet,'Primates 6: 1-30, 1965.
関連項目
- シェルドレイクの仮説
- シンクロニシティ(共時性)
- グリセリン
外部リンク
- 百匹めのサル the hundredth monkey phenomenon(簡潔な概要説明)
- The Hundredth Monkey Phenomenon(ロン・アームンドスンによる、百匹目の猿現象に関するワトソンの問題点の指摘)
- 超常現象の謎解き 百匹目の猿
- つなぶちようじ 僕のおしゃべり Vol.19 百匹目のサル(河合雅雄へのインタビュー中に、百匹目の猿現象について河合自身が明確に否定している)
- 「百匹目の猿」の嘘を暴いた"The Hundredth Monkey Phenomenon"by Ron Amundson(上記アームンドスンの記事の日本語訳)
- ワトソンが参考文献に挙げた河合博士の論文(PDFファイルで読むことができる/30ドル)
- 宮崎県幸島(幸島のサルの写真)
- 大分県高崎山(高崎山のサルの写真)