火の鳥 (ストラヴィンスキー)
『火の鳥』(ひのとり、仏: L'Oiseau de feu、露: Жар-птица) は、イーゴリ・ストラヴィンスキーが作曲したロシアの民話に基づく1幕2場のバレエ音楽、およびそれに基づくバレエ作品。音楽はリムスキー=コルサコフに献呈された。
オリジナルのバレエ音楽と3種類の組曲があり、オーケストレーションが大幅に異なる。組曲版では一部曲名が異なる部分もある。
目次
概要
セルゲイ・ディアギレフの依頼によって作曲された。ディアギレフは1910年のシーズン向けの新作として、この題材によるバレエの上演を思いつき、アナトーリ・リャードフに作曲を依頼したものの、リャードフの性格もあって作品が出来上がることはなかった。リャードフの態度に業を煮やしたディアギレフは、一人の若手作曲家、すなわちストラヴィンスキーのことを思い出した。ディアギレフは、初期作『花火』初演に立ち会って以来の仲だったストラヴィンスキーに作曲を依頼した上で、ミハイル・フォーキンにストラヴィンスキーと相談しながら台本を作成するよう指示した。フォーキンは指示通りストラヴィンスキーと相談しつつ台本を仕上げ、程なく、並行して作曲していたストラヴィンスキーも脱稿した。依頼を受けてから半年あまりであった。
初演は1910年6月25日にパリ・オペラ座にて、ガブリエル・ピエルネの指揮により行われた。
日本初演は、舞台上演は1954年に小牧正英率いる小牧バレエ団とノラ・ケイによる。全曲の演奏会初演は1971年に小澤征爾指揮の日本フィルハーモニー交響楽団。
編成
- 全曲版(1910年版)、組曲(1911年版)
- 基本的には同じだが、組曲では全曲版においてオーケストラピット外で演奏するバンダが省かれている。それでもなおオーケストラの規模はほぼ4管編成とかなり大きい。
- 組曲(1919年版)
- 一般的な二管編成になり、打楽器が減らされている。チェレスタは必須ではなく、「子守歌」のピアノパートに「またはチェレスタ」の注釈が添えられている。
- 組曲(1945年版)
- 編成は、現在出版されているスコアでは1919年版とほぼ同一である。相違点は、スネアドラムが追加されていることと、イングリッシュ・ホルンのソロをオーボエに置き換えていること、そしてピアノパートの一部の「またはチェレスタ」の注釈がない点だけである。ストラヴィンスキー自身が1959年にNHK交響楽団を指揮してこの版を演奏した際にはチェレスタを加えていた(この時のチェレスタは特別参加の黛敏郎が演奏した)。
- 編成は1919年版とほぼ同一とは言え、オーケストレーションが異なる箇所が散見される。特に「凶悪な踊り」は、1919年版の「魔王カスチェイの凶悪な踊り」に比べると金管楽器や打楽器が分厚くなっている部分が多い。
全曲版(1910年) / 組曲(1911年版) | 組曲(1919年版 / 1945年版) |
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1910年原典版(全曲版)
演奏時間48分程度
構成
- 1 導入部
- 2 カスチェイの魔法の庭園
- 3 イワンに追われた火の鳥の出現
- 4 火の鳥の踊り
- 5 イワンに捕らえられた火の鳥
- 6 火の鳥の嘆願
- 7 魔法にかけられた13人の王女たちの出現
- 8 金のリンゴと戯れる王女たち
- 9 イワン王子の突然の出現
- 10 王女たちのロンド
- 11 夜明け
- 12 魔法のカリヨン、カスチェイの番兵の怪物たちの登場、イワンの捕獲
- 13 不死の魔王カスチェイの登場
- 14 カスチェイとイワンの対話
- 15 王女たちのとりなし
- 16 火の鳥の出現
- 17 火の鳥の魔法にかかったカスチェイの手下たちの踊り
- 18 カスチェイ一党の凶悪な踊り
- 19 火の鳥の子守歌
- 20 カスチェイの目覚め
- 21 カスチェイの死、深い闇
- 22 カスチェイの城と魔法の消滅、石にされていた騎士たちの復活、大団円
組曲(1911年版)
テンプレート:Portal クラシック音楽 指揮者エルネスト・アンセルメの薦めによって作られたといわれている。この版は最も演奏の機会が少ない。他の組曲と異なり「カスチェイ一党の凶悪な踊り」で組曲が閉じられる(そのため、演奏者独自の判断により、他の版と合成して「子守歌」「終曲」を付け加えて演奏する指揮者もいる)。
構成
数字は全曲版での該当部分を表す。
- 1~4 導入部~火の鳥の踊り
- 1 導入部
- 2 カスチェイの魔法の庭園
- 3 イワンに追われた火の鳥の出現
- 4 火の鳥の踊り
- 6 火の鳥の嘆願
- 8 金のリンゴと戯れる王女たち
- 10 王女たちのロンド
- 18 カスチェイ一党の凶悪な踊り
組曲(1919年版)
手ごろな管弦楽の編成と規模から実演では最も演奏機会の多い版である。「魔王カスチェイの凶悪な踊り」での有名なトロンボーンのグリッサンドはこのバージョンで導入された。
構成
数字は全曲版での該当部分を表すが、曲の長さが違う部分もある。
- 1・2 序奏
- 3 火の鳥の踊り
- 4 火の鳥のヴァリアシオン
- 10 王女たちのロンド(ホロヴォード)
- 18 魔王カスチェイの凶悪な踊り
- 19 子守歌
- 22 終曲
「序奏」から「火の鳥のヴァリアシオン」までは切れ目無く演奏されるが、それ以降の曲もアタッカで演奏する指揮者が多い。
「魔王カスチェイの凶悪な踊り」と「子守歌」の間は、切れ目無く演奏する方法と、「魔王カスチェイの凶悪な踊り」で一旦終止させる方法とがあり、どちらの方法もスコアに印刷されている。一般的には切れ目無く演奏する事例が多いが、有名な指揮者ではバーンスタイン/イスラエル・フィルの演奏(グラモフォン)が、一旦終止させる方法をとっている。
「子守歌」と「終曲」の間は切れ目無く演奏される。
組曲(1945年版)
指揮者によってはこの版を非常に好むが、全曲版や1919年版組曲に比べると、演奏機会が多いとは言えない。その原因の一つは、ストラヴィンスキーが後年大きく変えた作風が如実に反映されている版となっていることにある。顕著な特徴の1つが、「終曲の賛歌」の最後 Maestoso の部分に見られる。全管弦楽が終曲の主題を繰り返す箇所で、全曲版・1919年版組曲では4分音符の動きで朗々と旋律を奏でているところだが、この1945年版では、「8分音符(または16分音符2つ)+8分休符」という、とぎれとぎれのドライな響きで旋律が奏でられる。組曲全体の後味を大きく変える相違点であり、この版の評価を分ける1つの要因になっていると思われる。
なお、前記の理由により、この1945年版を用いながらも、「終曲の賛歌」のみ1919年版の「終曲」に差し替えて演奏する指揮者もいる(演奏者独自の判断により)。
構成
数字は全曲版での該当部分を表すが、曲の長さが違う部分もある(特に「パントマイムI」「パントマイムII」は極端に短い)。
「パ・ド・ドゥ」「スケルツォ」とパントマイム3曲以外は1919年版と同じ部分に該当するが、スコア上の各曲の題名は違っている。
- 1・2 序奏
- 3 火の鳥の前奏と踊り
- 4 ヴァリアシオン(火の鳥)
- 5 パントマイムI
- 6 パ・ド・ドゥ(火の鳥とイワン・ツァーレヴィチ)
- 7 パントマイムII
- 8 スケルツォ(王女の踊り)
- 9 パントマイムIII
- 10 ロンド(ホロヴォード)
- 18 凶悪な踊り
- 19 子守歌(火の鳥)
- 22 終曲の賛歌
「序奏」から「ヴァリアシオン」までは切れ目無く演奏される。
「ヴァリアシオン」から「ロンド」までは、切れ目無く演奏する方法と、「パントマイムI」「パントマイムII」「パントマイムIII」を省略し「ヴァリアシオン」「パ・ド・ドゥ」「スケルツォ」「ロンド」と区切りながら演奏する方法とがある。どちらの方法もスコアに印刷されている。
「凶悪な踊り」から「終曲の賛歌」までは、切れ目無く演奏する方法と、1曲ずつ区切って演奏する方法とがあり、どちらの方法もスコアに印刷されている。
作曲者以外による編曲
作曲者以外により、さまざまな編曲譜が作成され演奏されている。以下はその例である。
- 冨田勲によるシンセサイザー版
- 山下和仁によるギターの独奏版
- ガイ・デュカー、ランディー・アールズ等のアレンジャーによる吹奏楽版
- 英国のプログレッシブロックグループ、イエスのコンサートでは、開演時に「フィナーレ」の部分が流れ、それが終わるとそのまま1曲目の演奏に入る、という演出がなされていた。(ライブアルバム『イエスソングス』などで聞くことができる)
- Guido Agostiによるピアノ独奏編曲
- トニー・レヴィン、パット・マステロット、マイケル・ベルニエの3人編成のロックバンド、スティック・メンによる演奏
関連項目
- イワン王子
- 火の鳥とワシリーサ姫
- イワン王子と火の鳥と灰色狼
- アメリカ横断ウルトラクイズ - スタジオパートにおいてサルソウル・オーケストラによる編曲版がルート紹介BGMとして使用された。