エルミート行列
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
<math style="float: right; margin: auto 1em;">\begin{pmatrix}2 & 2+i & 4 \\2-i & 3 & i \\4 & -i & 1 \end{pmatrix}</math> 線型代数学におけるエルミート行列(エルミートぎょうれつ、テンプレート:Lang-en-short)または自己随伴行列(じこずいはんぎょうれつ、テンプレート:Lang-en-short)は、複素数に成分をとる正方行列で自身の随伴行列(共軛転置)と一致するようなものを言う。エルミート行列は、実対称行列の複素数に対する拡張版の概念として理解することができる。
行列 A の随伴を A† と書くとき、複素行列がエルミートであるということは、
- <math> A = A^\dagger</math>
が成り立つということであり、これはまた
- <math>A^{\top} = (a_{ji}) = (\bar{a}_{ij}) =\bar{A}</math>
が成り立つことと同値ゆえ、その成分は任意の添字 i, j について (i, j)-成分は (j,i)-成分の複素共軛と等しい。
随伴行列 A† は A∗ と書かれるほうが普通だが、A∗ を複素共軛(本項では A と書いた)の意味で使う文献もおおく紛らわしい。
エルミート行列の名はシャルル・エルミートに因む。エルミートは1855年に、この形の行列が固有値が常に実数となるという実対称行列と同じ性質を持つことを示した。
よく知られたパウリ行列、テンプレート:仮リンクおよびそれらの一般化はエルミートである。理論物理学においてそれらのエルミート行列には、しばしば虚数の係数が掛かって[1][2]歪エルミートとなる。
性質
- 任意のエルミート行列の主対角成分は、それが自身の複素共軛と一致することから、実数でなければならない。全ての成分が実数であるような行列がエルミートであるのは、それが対称行列(主対角線に関して全ての成分が対称)となるときであり、かつそのときに限る。実対称行列はエルミート行列の特別の場合である。
- 任意のエルミート行列は正規行列である。
- 有限次元のスペクトル定理によれば、任意のエルミート行列はユニタリ行列で対角化して、得られた対角行列の成分がすべて実数となるようにすることができる。これにより、エルミート行列 テンプレート:Math の全ての固有値が実数であり、テンプレート:Math が テンプレート:Math 個の線型独立な固有ベクトルを持つことがわかる。さらには テンプレート:Math の n 個の固有ベクトルからなる テンプレート:Math の正規直交基底をとることができる。
- 二つのエルミート行列の和はふたたびエルミートであり、エルミート行列の逆行列も存在すれば同様にエルミートになる。しかし、二つのエルミート行列 テンプレート:Math に対してそれらの積 テンプレート:Math がエルミートとなるための必要十分条件は テンプレート:Math となることである。従って、任意の整数 テンプレート:Math に対して冪 テンプレート:Math は テンプレート:Math がエルミートならばエルミートである。
- テンプレート:Math 複素エルミート行列の全体は、複素数体 テンプレート:Math 上のベクトル空間を成さない(例えば単位行列 テンプレート:Math はエルミートだがそのスカラー i-倍である テンプレート:Math はエルミートでない)。しかし複素エルミート行列の全体は実数体 テンプレート:Math 上のベクトル空間にはなる。テンプレート:Math 複素行列の全体は テンプレート:Math 上で テンプレート:Math-次元のベクトル空間であり、その中で複素エルミート行列の全体は テンプレート:Math-次元の部分空間を成す。その基底は、行列単位 テンプレート:Math(テンプレート:Math-成分が テンプレート:Math でそれ以外の成分は全て テンプレート:Math であるような テンプレート:Math-行列)を用いれば、<math>\begin{cases} E_{jj} & (1\le j\le n) \\ E_{jk}+E_{kj},\,i(E_{jk}-E_{kj}) & (1\le j < k \le n)\end{cases}</math>で与えられ、これらの形の基底ベクトルはそれぞれ n, (n2 − n)/2, (n2 − n)/2 個ずつ存在するから、次元は テンプレート:Math であることがわかる。ただし、i は虚数単位である。
- エルミート行列 テンプレート:Math の n 個の正規直交固有ベクトル <math>u_1,\ldots,u_n</math> を選び、それを列ベクトルとする行列を テンプレート:Math と書けば、A のテンプレート:仮リンク <math>が成り立って、対角行列 Λ の主対角線上に並ぶ固有値を λj として
A = U \Lambda U^\dagger\qquad (UU^\dagger = I = U^\dagger U)
</math><math>と書くことができる。A = \sum_{j} \lambda_{j} u_j u_{j}^{\dagger}
</math>- 任意の正方行列とその共軛転置との和 <math>(C + C^{\dagger})</math> はエルミートである。
- 任意の正方行列とその共軛転置との差 <math>(C - C^{\dagger})</math> は歪エルミートである。したがってまた、二つのエルミート共軛の交換子積は歪エルミートになる。
- 任意の正方行列 テンプレート:Math はエルミート行列 テンプレート:Math と歪エルミート行列 テンプレート:Math との和<math>C = A+B \quad\mbox{with}\quad A = \frac{1}{2}(C + C^{\dagger}) \quad\mbox{and}\quad B = \frac{1}{2}(C - C^{\dagger})</math>に一意的に分解される。
- エルミート行列の行列式は実数である。これは行列式は固有値の積であり、エルミート行列の固有値が実数であることから従う。あるいは直接計算で確かめるならば、転置行列の行列式がもとの行列のそれと等しいこと、および複素共軛行列の行列式がもとの行列の行列式の複素共軛であること<math>から
\det(A) = \det(A^{\top}),\quad \det(\bar{A}) = \overline{\det(A)}
</math><math>を得る。A=A^\dagger \implies \det(A) = \overline{\det(A)}
</math>関連項目
- 歪エルミート行列(反エルミート行列)
- テンプレート:仮リンク
- エルミート形式
- 自己随伴作用素
- ユニタリ行列
参考文献
外部リンク
- テンプレート:MathWorld
- テンプレート:PlanetMath
- テンプレート:Springer
- Visualizing Hermitian Matrix as An Ellipse with Dr. Geo, by Chao-Kuei Hung from Shu-Te University, gives a more geometric explanation.
- テンプレート:MathPages
- ↑ テンプレート:Cite book
- ↑ Physics 125 Course Notes at California Institute of Technology