グリーンマイル
『グリーンマイル』(The Green Mile)は、スティーヴン・キングが1996年に発表した、1932年の大恐慌時代の死刑囚が収容されている刑務所を舞台とする小説。スティーヴン・キング作品ではあるが、ホラー小説ではなく、ファンタジー小説である。
アメリカではネタばれを防ぐために(その後日本でも)6冊が毎月1冊ずつ6ヶ月連続で刊行され、話題となった。
ストーリー
1932年、アメリカの刑務所。死刑囚監房で看守を務めるポールのもとに、一人の大男が送られて来る。双子の少女を強姦殺人した罪を持つ死刑囚ジョン・コーフィは、その風貌や罪状に似合わないほど弱く、繊細で純粋な心を持っていた。これと同時期に、知事の妻の甥であるパーシーが看守となり、傲慢な態度で他の看守たちから嫌われる存在になる。
ある時、コーフィは触れるだけで、ポールの重い尿路感染症を治してしまう。彼はその後もミスター・ジングルス(ネズミ)の命を救い、これを見た看守たちは、彼はその不思議な力を神から授かった特別な存在なのではと考え始める。同時にポールは悩む。コーフィが電気椅子に送られること。それを行う自分たちは大きな過ちを犯しているのではないかと。
しばらくして、ウィリアム・ウォートン―通称“ワイルド・ビル”という凶悪な死刑囚が送られてくる。コーフィはハルの妻・メリンダから吸い取った病気をすぐに吐き出さず、パーシーに移した。パーシーは錯乱状態となってウォートンを銃で撃ち殺し、まもなく精神病院に送られた。それからコーフィはポールの手を取って双子の少女の殺人事件の真相を伝え、ポールはウォートンが双子の少女を殺害した真犯人だったと知る。しかし、コーフィの冤罪を覆す証拠は存在せず、死刑執行が決定される。ポールたちはコーフィに脱獄を勧めるが、コーフィはそれを拒否して死ぬことを選んだ。数日後、コーフィは電気椅子に送られ、ポールの手で処刑された。
その後、ポールは108歳になっても健康に生き続け、ミスター・ジングルスも60年以上生き続けていた。これはコーフィの力の副作用によるものだったが、ポールは自分がコーフィを処刑したことで神から罰を与えられ、家族や友人全員より長生きすることになると信じている。そしてミスター・ジングルスの異常な長寿ぶりから、自分が死ぬのは遠い先のことだろうと考えている。
主要登場人物
- ポール・エッジコム
- コールド・マウンテン刑務所Eブロックの看守主任。在職中、78回の死刑執行の指揮をとった。ジョン・コーフィに尿路感染症を治療してもらってから、彼が本当に双子の少女を殺害したのか、懐疑的になる。
- ブルータス・ハウエル
- Eブロック副主任。ポールの相棒であり、正義感の強い大男。「ブルータル(乱暴者)を自称しているが、これは冗談であり、体格は良かったが、必要に迫られなければ蠅1匹殺せない男であった」とポールに称されている。独身。
- パーシー・ウェットモア
- 看守の1人。州知事と義理の血縁関係にあり、コネがあることをいいことに好き放題振舞っている。「筋金入りに残酷な男で、冷酷で不注意でバカと3拍子揃っている」とポールに評されている。囚人のドラクロアとは非常に相性が悪い。
- ディーン・スタントン
- 看守の1人で比較的若手である。縁なしのメガネを着用している(映画では眼鏡をかけていない)。繊細で涙もろい。看守の中で唯一幼い子供がいる。
- ハリー・ターウィルガー
- 看守の1人。冷静で物静かな性格。
- ハル・ムーアズ
- コールド・マウンテン刑務所の署長。妻・メリンダが難病を患っており、そのことで頭を抱えている。ポールとは家族ぐるみで仲が良い。
- カーティス・アンダーソン
- コールド・マウンテン刑務所の副署長。映画には登場しない。
- ジョン・コーフィ
- 双子の幼女を殺害した罪でコールド・マウンテン刑務所に投獄されることになった、大男の黒人(ブルータスよりもさらに巨体)。身長2m、体重126kg。深みと静かな響きのこもった声質。まるで子供のように暗闇を恐れ、不思議な力を持っている。
- アーレン・ビターバック
- 劇中では、最初に処刑される囚人。通称「首長(チーフ)」。ネイティブ・アメリカンだが、キリスト教徒である。酒に酔って喧嘩で人を殺し、死刑を宣告された。ウォシタ・チェロキー評議会長老のビターバックの死刑は「上首尾の死刑」と称され、なんの支障もなく執行された処刑の例として挙げられている。
- アーサー・フランダース
- 死刑囚。通称<大統領>。映画版では登場しないが原作では処刑される前に減刑となりEブロックを離れ、電気椅子に座ることはなかった。その後受刑者同士の争いにより殺害される。
- エデュアール・ドラクロワ
- 通称「デル」。南部系フランス人の死刑囚(名前の日本語表記が曖昧で、エドワール・デラクロアなどと表記されることもある)。ミスター・ジングルスと名付けた鼠を飼育している。少女を強姦し、死体をアパートの裏で燃やしたところ、建物に燃え移り、中の住人6人が更に死亡。うち2人は子供だったという。心配そうな顔つきの物腰穏やかな小男であり、頭は禿げあがり、長く伸びた髪の先がシャツの後ろ襟をこすっている。看守のパーシーとの相性が非常に悪く、デルの死刑執行の際、パーシーの悪戯により、処刑が残酷な結果になってしまい、派手に惨死する末路をむかえる。
- ウィリアム・ウォートン
- 通称は「ワイルド・ビル」だが本人はこの呼び名を嫌っており、「ビリー・ザ・キッド」を自称している。凶悪な囚人であり、強盗を犯し多数を殺害(そのうち1人は妊婦だった)。少女2人を殺害した真犯人でもある。コーフィの力で錯乱状態に陥ったパーシーによって銃殺される。
- バート・ハマースミス
- コーフィの事件を取材したジャーナリスト。映画ではコーフィの弁護人に変更された。
作品解説
形式としては主人公のポール・エッジコムが1992年に老人ホームで友人のエレインに60年以上前の話を聞かせるといった形となっている。
主な舞台は回想の1932年だが、この時代はコールドマウンテンの刑務所に未だに死刑に電気椅子が使用されていた時代であり、また恐慌時代で多くの人が就職難に苦しんでいたため、職を失うことを現代よりも恐れているといった設定になっている。事実、コールドマウンテンはノースカロライナ州に属する都市だが、ノースカロライナ州では電気椅子による死刑は廃止されている。
映画
テンプレート:Infobox Film 『グリーンマイル』(The Green Mile)は、1999年のアメリカ映画。ジャンルはドラマ。
上記の小説を原作とする。トム・ハンクス主演。フランク・ダラボン監督。2000年のアカデミー賞では音響・脚本・作品賞、マイケル・クラーク・ダンカンはアカデミー助演男優賞にノミネートされた。日本での公開は2000年3月25日。
予告編では、スティーヴン・スピルバーグが「途中で堪えきれずに、4回号泣してしまった」とコメントしていた。
キャスト
役名 | 俳優 | 日本語吹き替え | |
---|---|---|---|
VHS・DVD版 | フジテレビ版 | ||
ポール・エッジコム | トム・ハンクス | 江原正士 | |
ブルータス・"ブルータル"・ハウエル | デヴィッド・モース | 石塚運昇 | 森田順平 |
ディーン・スタントン | バリー・ペッパー | 堀井真吾 | 鳥海勝美 |
ハリー・ターウィルガー | ジェフリー・デマン | 佐々木敏 | 池田勝 |
パーシー・ウェットモア | ダグ・ハッチソン | 平田広明 | 山寺宏一 |
ハル・ムーアズ | ジェームズ・クロムウェル | 糸博 | 稲垣隆史 |
ジョン・コーフィ | マイケル・クラーク・ダンカン | 大友龍三郎 | 銀河万丈 |
ウィリアム・"ワイルド・ビル"・ウォートン | サム・ロックウェル | 成田剣 | 堀内賢雄 |
エデュアール・"デル"・ドラクロア | マイケル・ジェッター | 牛山茂 | 麦人 |
ジャン(ジャニス)・エッジコム | ボニー・ハント | 唐沢潤 | 山像かおり |
メリンダ・ムーアズ | パトリシア・クラークソン | 野沢由香里 | 鈴木弘子 |
バート・ハマースミス | ゲイリー・シニーズ | 仲野裕 | 登場シーンカット |
アーレン・ビターバック | グラハム・グリーン | 郷里大輔 | |
トゥート=トゥート | ハリー・ディーン・スタントン | 後藤敦 | 斎藤志郎 |
クラウス・デッターリック | ウィリアム・サドラー | 堀勝之祐 | 内田直哉 |
老人のポール・エッジコム | ダブス・グリア | 内藤武敏 | |
エレーン・コネリー | Eve Brent | 斉藤昌 | 京田尚子 |
ジャック・ヴァン・ヘイ | Bill McKinney | 高橋翔 | |
マックギー保安官 | Brian Libby | ||
ビル・ダッジ | Brent Briscoe | 辻つとむ |
原作との違い
基本的に原作の内容を忠実に再現した形となっており、キングのファンでもあるダラボンの熱意が伺える。ただし、尺の都合か相違点も幾つか存在する。
- 時代設定が1999年現在(公開された年)であり、回想の主な舞台は1935年に変更された。
- 主人公が看守時代回想を文章に書き起こすという設定から親友に口述するという形式に変更されたからか、原作では前後していた時間が完全に一つの流れに統合されている(原作ではジョン・コーフィが収監される以前にビターバックは処刑されている、等)。
- 原作ではメリンダ・ムーアズを救出に行く前にポールがコーフィが犯人でないことを確信している理由を説明するシーンがあるが、映画ではカットされた。
- 原作では90年代の現在でブラッドというパーシーそっくりの人物が登場するが、映画版では登場しない。
- 死刑囚の一人、アーサー・フランダースが登場しない。
- 原作ではハル・ムーアズの休暇中副署長であるカーティス・アンダーソンが代役を務めたが、映画ではハル・ムーアズが休暇を取る描写がないためカーティス・アンダーソンが一切登場しない。
- 映画版でははっきりと描かれていないが、90年代の現在でミスター・ジングルスは死亡する。
- ジャン・エッジコムがコーフィにお礼のコーンブレッドを贈るが、そのシーンは原作にはない。
- 終盤、ポール達がコーフィに映画を見せるシーンは映画版オリジナル。このときの映画は『トップ・ハット』であり、1935年公開作である。先述の時代設定の変更もこのためである。
- ポールが妻や看守達のその後について語る場面が存在しない。
評価
批評家の反応
Rotten Tomatoesでは132件のレビュー中80%が本作を支持し「新鮮保証」印がつけられ、平均点は6.8/10となった[1]。Metacriticでは36名の批評家レビューに基づいて61点となった[2]。
余談
作中、ミスター・ジングルスというネズミが登場する。このネズミは当初、演技の6割のみを本物の演技として、残りはCGでカバーするという予定だったが、アニマル・トレーナーのブーン・ナールと第二班監督チャールズ・ギブソンの演出があまりに見事だったため、最終的に99%のシーンが実物のネズミの演技によって行われた。
ジョン・コーフィ役のマイケル・クラーク・ダンカンの身長は196cmであるが、ブルータルを演じるデビッド・モースは193cm、ムーアズ所長役のジェームズ・クロムウェルは身の丈201cmであるなど周囲の俳優達も長身なため、彼を更に大きく見せるためにカメラのアングル等様々な工夫がされている。