五大湖
五大湖(ごだいこ、テンプレート:Lang-en-short)は、アメリカ合衆国及びカナダの国境付近に連なる5つの湖の総称。そのうち4つの湖上を両国の国境線が通る。水系は接続しており、上流から順にスペリオル湖、ミシガン湖、ヒューロン湖、エリー湖、オンタリオ湖の5つの湖からなる。塩湖以外では世界最大級の面積である。また、五大湖・セントローレンス川水系は世界最大級の淡水水系である。「内陸の海」、「アメリカの北海岸」、「北米の地中海」などと称されることがある。
目次
構成する5つの湖
- スペリオル湖:五大湖のうち面積が最大でチェコの国土よりも広く、北海道の面積より大きい。水深も最も深く、水量が最も多い。スペリオルはラテン語で「高次の」の意。しかし周辺人口は希薄である。
- ミシガン湖:五大湖のうち唯一アメリカ合衆国領内にのみ位置する。スペリオル湖に次いで水量が多い。湖岸にはいくつかの工業都市が発達し、周辺人口は多い。
- ヒューロン湖:スペリオル湖に次いで広い。しばしば前述のミシガン湖と一体とされることがあり、その場合は面積ではスペリオル湖をしのぐが、水量では及ばない。周辺人口が五大湖中最も希薄である。
- エリー湖:最も浅く、最も水量が少ない。ミシガン湖と同様、湖岸の工業都市が発達している。
- オンタリオ湖:もっとも面積が狭いが、平均水深ではスペリオル湖に次いで深い。湖面の標高が最も低く、五大湖のうち唯一海抜100mに満たない。
Huron, Ontario, Michigan, Erie, Superiorの頭文字を並べるとHOMESとなり記憶術として用いられる。他には西から東へ並べた例としてSister Mary Hates Ecumenical OverturesやShe Made Harry Eat Onionsというのがある。 日本では上流から順に頭文字をとり「すみひえお」と覚える人もいる。
一覧
- デフォルトでは上流から順に配列、さらに比較対象の参考として琵琶湖を併置した。位置の列のソートボタンで元の順序に戻る。
- セントクレア湖は小さすぎて位置の欄の図が分かりにくいが、ヒューロン湖とエリー湖の間に位置する。(拡大図)
- 透明度は最小値ではなく最大値をソート対象にしている。
水系と水路
五大湖の湖水は最終的には北東側のセントローレンス湾に注ぎ、セントローレンス川水系に属する。
この水系には、いわゆる五大湖のほかにもいくつかの湖がある。最上流のスペリオル湖からセントマリー川を経てヒューロン湖へ注ぐ。ヒューロン湖とミシガン湖は、幅約8kmのマキノー海峡[1]によりつながっており、2つの湖水面は同じ標高(177m)である。ヒューロン湖には淡水湖にある島としては世界最大のマニトゥーリン島などが湖の中央に連なり、北部はジョージアン湾と呼ばれている。ヒューロン湖からセントクレア川がセントクレア湖、デトロイト川を経て、エリー湖につながる。エリー湖からは高低差の大きなナイアガラ川がナイアガラの滝を挟んでオンタリオ湖へ流れる。オンタリオ湖から流れるセントローレンス川は、途中いくつかのダム、閘門とダム湖を経由し、セントローレンス湾へ注いでいる。
これらの水系をつなぎ大西洋までつながる航路として五大湖水路が形成されている。もっとも、標高差のある場所では、ナイアガラ滝はウェランド運河が、セントマリー川は途中でスーセントメリー運河が迂回している。しかし、厳冬期は厳しい冷え込みでしばしば凍結しまうことがある。
成因
およそ19億年前に形成されたと考えられる北米クラトンが、11-12億年前に中央部で分離を始めて地溝帯を形成した(テンプレート:仮リンク)。このときの地溝帯の一部が現在のスペリオル湖北部に相当する。続いて5億7000万年前頃に、現在のアパラチア山脈の北側に沿う形で北東から南西に延びる地溝帯(テンプレート:仮リンク)が形成されはじめた。時期的にはロディニア大陸が分裂した時期と一致し、テンプレート:仮リンクの拡大に伴っての活動と考えらる。この活動によって現在のオンタリオ湖から、エリー湖、セントローレンス川、セントローレンス湾へと続く地溝帯が形成された。
7万年前に始まった最終氷期では、現在のハドソン湾を中心とした当時の世界最大級のテンプレート:仮リンクが卓越し、現在の五大湖付近までを厚い氷河が覆い、同時に基岩を侵食していた。1万年前に氷期は終了し、侵食跡にはいくつかの大きな氷河跡湖(テンプレート:仮リンク - 現在のヒューロン湖の一部、テンプレート:仮リンク - 現在のオンタリオ湖など)が残り、氷床に遮られた流れは現在のモホーク川、ハドソン川を経由して現在のニューヨーク湾に注いでいたと考えられている。さらに氷床が後退してローレンス湾が開いたことにより、現在の五大湖と水系の流路がほぼ定まった。
氷床の後退により地殻の上昇が起きたが、各湖ごとに上昇率が異なり現在のような高低差が生じたと考えられている。
接する州
- アメリカ
- カナダ
- オンタリオ州 - カナダで唯一五大湖に接している。
湖岸の主要都市
五大湖周辺は北アメリカ有数の工業地帯であり、湖岸には五大湖・セントローレンス水路の港湾都市が多数発達している。また、全般的に夏に冷涼であることから、避暑地・保養都市も点在する。以下に列挙するのはその中でも著名な都市である。
- スペリオル湖
- ダルース(ミネソタ州) - 五大湖・セントローレンス水路における水上交通の起点となる港湾都市で、メサビ鉄山からの鉄鉱石の積出港。隣接するウィスコンシン州スペリオル市とともにスペリオル湖岸最大の都市圏(人口約27万人)を形成する。
- サンダーベイ(オンタリオ州) - 市域人口ではダルースをしのぎ、スペリオル湖岸で最大である。
- スー・セント・マリー(オンタリオ州およびミシガン州にある双子都市) - スー・セント・マリー運河の閘門で知られる。
- マーケット(ミシガン州) - ミシガン州北西部、アッパー半島の最大都市。もとは鉄鉱石の鉱業都市・港湾都市であったが、近年では避暑やスキーなどリゾート地としても賑わう。
- ミシガン湖
- シカゴ(イリノイ州) - アメリカ第3の都市で五大湖周辺では最大の都市。
- ミルウォーキー(ウィスコンシン州)
- グリーンベイ(ウィスコンシン州)
- ゲーリー(インディアナ州)
- トラバースシティ(ミシガン州) - ミシガン州北部の保養都市。
- ヒューロン湖
- ヒューロン湖岸は人口の密度が低く、目立った保養・観光都市もない。人口数千人〜3万人ほどの小都市・町村がほとんどである。
- エリー湖
- デトロイト(ミシガン州)
- ウィンザー(オンタリオ州) - デトロイトの対岸に位置する国境の町。
- トリード(オハイオ州)
- サンダスキー(オハイオ州) - 数多くのテーマパークを抱えるエリー湖岸きってのリゾート地。
- クリーブランド(オハイオ州)
- エリー(ペンシルベニア州)
- バッファロー(ニューヨーク州)
- オンタリオ湖
- トロント(オンタリオ州) - カナダ最大の都市。
- ハミルトン(オンタリオ州)
- キングストン(オンタリオ州)
- セントキャサリンズ(オンタリオ州)
- ロチェスター(ニューヨーク州) - 光学・イメージ産業の中心地。ロチェスター大学やロチェスター工科大学を抱える文教都市でもある。
周辺の気候
北緯42-50度と全般的に緯度が高く、かつ内陸であるため、冬は非常に寒い。夏も、湖の水が冷却水の役割を果たしている影響もあり比較的涼しく凌ぎ易い。ケッペンの気候区分では五大湖・セントローレンス水系の全域がDf(冷帯湿潤気候)に属する。スペリオル湖北岸やセントローレンス川の河口付近では平均気温摂氏10度以上の月が3ヶ月しかなく、かなり冷涼である。あまりに寒いため、五大湖はその大きさにもかかわらず、ほとんどの部分が冬季には結氷する。そのため五大湖を経由する河川運輸は冬には停止される。湖岸域の氷の厚い部分の氷上での天然のアイススケートは冬の風物詩である。
また、シカゴの別名をWindy Cityということからもわかるように、五大湖周辺は(特に冬場の)風が強いことでも有名である。また、湖の影響で大気の湿度が増し、とりわけ風下にあたる東岸のミシガン州・オンタリオ州・ニューヨーク州ではブリザードが吹き荒れ、大量の降雪が見られる。これはシベリア気団が日本海を通過する際に湿度を増し、日本の北陸地方に大雪を降らせるのに似ている。
周辺の経済
五大湖とそれを互いに接続し、あるいは大西洋へとつなぐ五大湖水路・セントローレンス海路はミシシッピ川と並び、北アメリカの重要な水路のひとつである。他にもいくつかの運河が五大湖から各地域へと通じている。中でも代表的なのは、1825年に建設されたエリー運河と1848年に完成したイリノイ・ミシガン運河である。前者はエリー湖とハドソン川を結び、この運河を経由することで、五大湖周辺とニューヨークが船で行き来できることになる。後者はシカゴからミシシッピ川へと通じ、セントルイス・メンフィス・ニューオーリンズなどミシシッピ川岸の主要都市へと船を進めることができる。
五大湖は周辺の州の水道水源ともなっている。周辺の州政府は共同でこの貴重な水資源を管理している。また、周辺の地域は鉄鉱石・石炭・石灰石といった天然資源も豊富である。
このように、早くから水路交通を開拓し、また豊富な水資源や天然資源を有することで、五大湖周辺、特にアメリカ合衆国側には工業都市が発達し、北アメリカ有数の工業地帯へと成長した。ダルースで積みこまれた鉄鉱石は下流のゲーリーやクリーブランドへと運ばれ、鉄鋼産業の成長を促した。デトロイトには自動車産業が発達した。1950年代に至るまで、「コーンベルト」・「フロストベルト」と呼ばれる周辺一帯は隆盛を極めた。しかし、現在では「サンベルト」と呼ばれる南部の新興工業地帯に人口・産業が流出し、デトロイトやゲーリー、バッファローなど犯罪・貧困・環境汚染といった都市問題を抱える工業都市も少なくない。
重工業と並んで五大湖周辺の経済を支えているのは観光業である。冷涼であるため、湖内に点在する無数の島々にあるコテージやキャンプ場をはじめとする避暑地が点在し、クルージングやヨット、キャンプなどのバカンスを楽しむ観光客が多い。また、カワカマス目(ノーザンパイクやマスキー)やサケ類が豊富であり釣りのメッカでもある。趣味的・娯楽的な釣りと合わせて漁業も発達し、鮭・マスや白身魚などの漁業収入は地域一帯で年間40億米ドルに達する。
環境汚染
古くはこの地のネイティブ・アメリカンが五大湖で釣りをし、食料となる魚を得ていた。しかし、漁業が発達するにつれて鮭や各種白身魚などの漁業資源の枯渇に直面するようになった。アメリカ合衆国とカナダとの連携もうまくいかず、1950年代までには、ヒューロン湖・ミシガン湖のマスは約99%減少した。原因は運河の完成によって流入したヤツメウナギであるとされていた。
1960年代に入ると、水質汚染などの環境問題がそこに追い討ちをかけた。原因としては、周辺の都市化による生活雑排水や工業排水の増加、さらには廃油や有害化学物質の流入などが挙げられる。特に有名なのは、エリー湖に注ぐカヤホガ川の汚染である。川から出火するほど廃油汚染が酷く、ヒルの類さえも棲まなかったほどであった。スペリオル湖やセントクレア川などでは、toxic blobsと呼ばれる、コールタールや重金属を含むヘドロも発見された。
The Great Lakes: An Environmental Atlas and Resource Bookによると、「かつては大きな漁場であったが、今はいくつかの牙城が残るのみ」と言われている。
脚注
- ↑ 厳密には”湖峡”であるが、テンプレート:Lang-en-short にあたる日本訳語が”海峡”以外にない。