飛行機雲
飛行機雲(ひこうきぐも)は、飛行機の航跡に生成される細長い線状の雲。ジェット機などのエンジンから出る排気ガス中の水分、あるいは翼の近傍の低圧部が原因となって発生する、排煙ではなく雲である。別名航跡雲(こうせきうん)、英語ではcontrail(コントレイル)。
生成過程
飛行機雲は、主に次の2つの原因によって生ずる。
2.よりも1.によって生成された雲の方が長く安定して残る傾向にある。これは、1.では大気中の水蒸気量そのものが増加するためである。
また、飛行機雲は自機の目視を容易にしてしまうため、軍用機(特に戦闘機や爆撃機)にとってはレーダー対抗技術が発達したとはいえ、厄介な存在である。このため、いかに飛行機雲を少なくするかについては発生原因とともに研究が続けられている。その成果として、アメリカ空軍のB-2には、塩化フッ化スルホン酸を排気に混ぜ、飛行機雲の発生を抑える機能が備わっている。
エンジン排気によるもの
エンジンの排気により空気中の水分が増加し、飽和水蒸気量にまで達する場合があり、それが凝縮し水滴、氷になり雲となる。航空機の燃料として、レシプロエンジンの場合はガソリン、ジェットエンジンの場合は灯油をベースとしたケロシンが使われる。いずれも主な成分は炭化水素であり、炭素は燃えて二酸化炭素になり、水素は水となり、水蒸気として放出される。もともと大気中に存在する水分と合わさり、大気中の微粒子等を核として水滴が成長、さらに高々度の低温の下で氷結して飛行機雲となる。このため、中緯度地域では5000m~13000mの高度に存在していることが多い。
エンジンが4つある飛行機(ボーイング747、エアバスA340など)からは4本の雲が出るが、左右2本ずつがまとまって2本しか出ていないように見えることがある。航空機の機種を知る手がかりにしようとする場合は注意が必要である。
翼まわりの低圧部によるもの
揚力が生じている飛行機の翼上面では気圧が低くなっている。このとき大気は断熱膨張によって温度が下がっているため大気中の水蒸気が凝縮して水滴となり、飛行機雲として観察される。
特に翼端付近では翼下面と上面の気圧差から翼端渦と呼ばれる渦が生じており、中心付近の低圧部で雲が生じやすい。ドッグトゥース(翼の切り欠き部)や、LEX(胴体と接するあたりの翼前縁部が延長されたもの)といったところに生ずる渦によっても生成されることがある。
ただし、いずれも大きな揚力が必要な引き起こしや旋回といった高G機動時に生じやすく(大きな揚力が生じているときにはより低圧になっているため)、水平飛行時にはふつうこの種の雲は見られない。しかしながら、高揚力装置の一種であるフラップを完全に展張し揚力を大きく増す着陸時には、高G機動ではないものの、フラップ端や翼端に渦による雲が生ずることがある(#外部リンク参照)。
消滅飛行機雲
空中に雲を描く飛行機雲とは逆に、雲が薄く広がる中を飛行機が通ると、雲が筋状になくなっていく。これは消滅飛行機雲(しょうめつひこうきぐも)または反対飛行機雲(はんたいひこうきぐも)と呼ばれる。発生原因は、飛行機の排出ガスの熱により大気中の水分が蒸発すること、乱気流により周囲の乾いた大気と混ざること、エンジン排気の粒子により水分が凍結し落下することの3つが挙げられる。
気象への影響の観測
アメリカのような航空交通の需要が大きな地域では、飛行機雲が気象にも影響しているとの仮説が以前からあった。すなわち日中は太陽光を、夜は地表からの熱放射を遮るというものである。この仮説を検証する機会が2001年9月11日に訪れた。アメリカ同時多発テロ事件後、3日間にわたりアメリカ全土における航空機の飛行が禁止されたことで、飛行機雲がない状態では昼夜の温度差が約1℃増加したとの観測結果が得られた。飛行機雲が地球薄暮化における大きな要因であるとの説が唱えられている。
観天望気
飛行機が長々と雲を引き、それがなかなか消えない時は天候が悪化するという観天望気がある。温度、湿度、気圧などの条件が重なって起きる現象であり、かなり正確性は高いようである。
スモーク
航空ショーなどで、アクロバット機の航跡を見せているのは、油を焚いて作られたスモークであり、飛行機雲ではない。
関連項目
- プラントル・グロワート・シンギュラリティ(高速飛行時に飛行機の周囲に生じる楕円状の雲について)
- 人工降雨
- 気象制御
- ケム・トレイル
- ヴェイパー
外部リンク
- Gallery of Fluid Mechanics(英語)
- A330の主翼上面と翼端のウィングレットに生じた雲(Airliners.net)
- 不可解な空(英語)