さびしんぼう (映画)
テンプレート:Infobox Film 『さびしんぼう』は、1985年公開の日本映画。
瀬戸内の尾道を舞台に少年の恋をノスタルジックに描いた作品である。主人公を監督の分身として描き[1]、監督の自伝的色彩が強いといわれる。全編に、ショパンの『別れの曲』が流れる。
“尾道三部作”のひとつ。ポスターには、「尾道三部作 完結編」と記された[2]。
概要
『さびしんぼう』という言葉は、大林監督の造語である[3]。広島弁で腕白小僧、悪ガキを意味する"がんぼう"に対する女の子の呼び名がないので『さびしんぼう』というのを考えたという[3]。子供の頃から使っている言葉で、8mmにもシナリオにも『さびしんぼう』を題名にしたのが何本かある。"がんぼう"が女の子を思うと"さびしんぼう"になる。"さびしんぼう"は両性具有のコンセプトで、人を愛することは淋しいことだという大林の感性が育んだ造語なのである[3]。大林は「ぼくの映画は全部"さびしんぼう"という題をつけてもいいと話している。『さびしんぼう』は、大林がずっと暖めていた企画で、かつては山口百恵や小林聡美で撮影しようと考えたり、『廃市』を『さびしんぼう』の題名にしようとしたこともあった。そんな中で富田靖子を主役に映画を撮影する企画が持ち上がり、題名を『さびしんぼう』にし、かつて読んだことのある山中恒の『なんだかへんて子』を原作に撮影された[4]。
黒澤明はこの作品を大変気に入り、自分のチーム“黒澤組”のスタッフにも見るように指示したというエピソードもある[5]。
スタッフ
- 原作 - 山中恒『なんだかへんて子』(偕成社, 1975年)
- 撮影中に尾道には珍しい雪が降り、訪れていた山中恒は、「小樽の雪は下から舞い上がってくるんですよ」と大林監督に語った。これがのちの『はるか、ノスタルジィ』を生むきっかけとなる。
- 脚本 - 剣持亘、内藤忠司、大林宣彦
- 監督・編集 - 大林宣彦
- 撮影 - 阪本善尚
- 音楽 - 宮崎尚志
- 主題歌 - 富田靖子「さびしんぼう」(ショパンの「別れの曲」に売野雅勇が歌詞を付け瀬尾一三が編曲したもの)
- 製作者 - 小倉斉、山本久、根本敏雄、出口孝臣
- プロデュース - 森岡道夫、久里耕介、大林恭子
キャスト
- 富田靖子 - さびしんぼう、橘百合子、ほか 一人四役
- 尾美としのり - 主人公 井上ヒロキ 役
- 藤田弓子 - 主人公の母親 井上タツ子 役
- 小林稔侍 - 主人公の父親で寺の住職 井上道了 役
- 浦辺粂子 - 主人公の祖母 井上フキ 役
- 岸部一徳 - 学校の先生 吉田徹 役
- 秋川リサ - 学校の先生 大村カズコ 役
- 佐藤允 - 学校の校長 役
- 入江若葉 - PTA会長 役
- 砂川真吾 - 主人公の友人 田川マコト 役
- 大山大介 - 主人公の友人 久保カズオ 役
- 林優枝 - 主人公の幼馴染 木鳥マスコ 役
- 根岸季衣 - マコトの母 役
- 明日香尚 - カズオの母 役
- 峰岸徹 - カズオの父 役
- 樹木希林 - 主人公の母親の旧友 雨野テルエ 役
- 小林聡美 - テルエの娘 雨野ユキミ 役
ストーリー
写真を趣味とする高校生の井上ヒロキは、名前も知らぬ他校の美少女(橘百合子)を「さびしんぼう」と呼び、憧れていた。そんなある日、友人ふたりと共に家である寺の本堂を掃除したのだが、母の古い写真の束をうっかり散乱させてしまう。その直後、ヒロキの前に突然、ピエロのような白塗りメイクとオーバーオールの奇妙な少女が、散乱した写真から抜け出たように現れた。突然現れて、何処へともなく消える彼女が名乗る名前も、なんと「さびしんぼう」!
ある日のこと、百合子は通学の自転車が壊れ難儀していた。それを助けたことをきっかけに、ヒロキは憧れの君である「さびしんぼう」とも知り合うことが出来た。 ふたりの「さびしんぼう」とヒロキが尾道の町を舞台に織り成す、懐かしくも悲しい初恋の物語である。
ショパンの『別れの歌』
大林監督は尾道の少年時代に映画『別れの曲』に感銘を受け、ショパンの「別れの曲」を練習するようになった[6]。映画『さびしんぼう』の中では、橘百合子の得意曲として、また井上ヒロキが母親からせがまれて練習させられる曲として、しばしば登場する。エンディングクレジットでは、軽快に編曲されたものが富田靖子によって歌われ、映画をしめくくる(DVDには監督の希望で劇場用とはちがうインストゥルメンタルによるオリジナルエンディングが収録されているが、劇場版に差し替えることも可能になっている)。
原作との関係
原作『なんだかへんて子』は、小学4年生の主人公井上ヒロキと神出鬼没の謎の少女「へんて子」、そしてヒロキの母親の3者が繰り広げるドタバタを描いた児童文学であり、恋愛の要素は全く無い。ピアノを弾く美少女に相当するキャラクターも原作には登場しない。
いくつかの設定は原作に基づいてはいるが、映画『さびしんぼう』を構成する要素のほとんどは大林宣彦のオリジナルであり、原作というよりは原案に近い。
逸話
- 前述したように『さびしんぼう』という言葉は、大林監督の造語であるが、2014年5月30日に放送された『あさイチ』(NHK)で、司会の有働由美子がゲストの中山美穂に「中山さんって『さびしんぼう』ですか?」と尋ねる場面があり、この質問に対して中山が「はい。『さびしんぼう』です」という会話が成立した。
ロケ地
- 井上ヒロキの通う学校-尾道北高等学校
- 橘百合子の通う明海女子高等学校-日比崎中学校
- 井上ヒロキの住む家-西願寺
- 井上ヒロキと橘百合子が自転車を押して歩いた坂道- 広島県尾道市向島町津部田、みかん畑の中の坂道
受賞
同時上映
出典
参考文献
- 大林宣彦『ぼくの映画人生』実業之日本社、2008年