寄宿舎
寄宿舎(きしゅくしゃ)とは、相当数の労働者又は学生・生徒・児童などが宿泊し起居寝食をともにする施設である。
建築・消防・税務法規における寄宿舎
建築基準法(昭和25年法律第201号)、消防法施行令(昭和36年政令第37号)、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示)、減価償却資産の耐用年数等に関する省令(昭和40年大蔵省令第15号)などで、建築物の種類として「共同住宅」「下宿」などと並列して「寄宿舎」という種類が示されている。
これらの法規の実務運用において、何をもって寄宿舎と定義するのか、共同住宅と寄宿舎の違いは何かといった点について明確に示されていないため、行政部署の担当者の主観によるところも大きい。
社会通念的な認識として実質的に多くの行政担当者が想定している定義は、「各戸に独立の玄関があり、それぞれの独立空間に厨房・便所などの生活設備がある形式」を共同住宅とする、「玄関・厨房・便所などは原則的に共用で、寝室だけが各入居者用に用意されている形式」を寄宿舎とするものである。 この定義に従って法解釈される限りにおいて、老人ホーム・グループホームは寄宿舎ということになる。建築・消防法規上の書類で実際にそのように分類している市町村も多い。2012年現在、福島県土木部建築指導課が出している『戸建て住宅を活用する「グループホーム等」の建築基準法上の取扱い』で2階建て以下で延べ面積が200㎡未満のグループホーム等については基本的に一般住宅として扱うとしているのが唯一の例外。
ただし、この定義はいかなる法規に明記されているものでもないことに注意すべきである。
労働法規における寄宿舎
かつて紡績工場、製糸工場に女工寄宿舎が付属していた。これは女工の福利厚生のためではなく、女工には前借りがあるから逃亡しないようにしたということと、早朝から就業させたということからであった。過酷な待遇が、女工哀史などで問題となり、また風紀上かんばしからざることもあり、政府は、昭和2年4月6日、内務省令第26号工場附属寄宿舎規則を発布したが、これには罰則がなかったため、実効はとぼしかった。
現在、使用者が労働者(従業員)に提供する寄宿舎(特にその事業に附属する場合)については、設備が劣悪であったり、労働者の私生活の自由に対する干渉があることから、労働基準法第10章(第94条~第96条の3)と事業附属寄宿舎規程(昭和22年労働省令第7号)・建設業附属寄宿舎規程(昭和42年労働省令第27号)が規制を加えている。
- 第94条
- 使用者は、事業の附属寄宿舎に寄宿する労働者の私生活の自由を侵してはならない。
- 使用者は、寮長、室長その他寄宿舎生活の自治に必要な役員の選任に干渉してはならない。
- 舎監や管理人等を置いても、私生活の事由を犯さない限りは本条違反とはならない。
- 使用者が役員の選任について案を作成するようなことは本条違反となる。
- 第95条
- 事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。
1.起床、就寝、外出及び外泊に関する事項
2.行事に関する事項
3.食事に関する事項
4.安全及び衛生に関する事項
5.建設物及び設備の管理に関する事項 - 使用者は、前項1~4の事項に関する規定の作成又は変更については、寄宿舎に寄宿する労働者の過半数を代表する者の同意を得なければならない。
- 使用者は、第1項の規定により届出をなすについて、前項の同意を証明する書面を添附しなければならない。
- 使用者及び寄宿舎に寄宿する労働者は、寄宿舎規則を遵守しなければならない。
- 事業の附属寄宿舎に労働者を寄宿させる使用者は、左の事項について寄宿舎規則を作成し、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。これを変更した場合においても同様である。
- 第96条
- 使用者は、事業の附属寄宿舎について、換気、採光、照明、保温、防湿、清潔、避難、定員の収容、就寝に必要な措置その他労働者の健康、風紀及び生命の保持に必要な措置を講じなければならない。
- 使用者が前項の規定によつて講ずべき措置の基準は、厚生労働省令で定める。
- 第96条の2
- 使用者は、常時10人以上の労働者を就業させる事業、厚生労働省令で定める危険な事業又は衛生上有害な事業の附属寄宿舎を設置し、移転し、又は変更しようとする場合においては、前条の規定に基づいて発する厚生労働省令で定める危害防止等に関する基準に従い定めた計画を、工事着手14日前までに、行政官庁(所轄労働基準監督署長)に届け出なければならない。
- 行政官庁は、労働者の安全及び衛生に必要であると認める場合においては、工事の着手を差し止め、又は計画の変更を命ずることができる。
- 第96条の3
- 労働者を就業させる事業の附属寄宿舎が、安全及び衛生に関し定められた基準に反する場合においては、行政官庁は、使用者に対して、その全部又は一部の使用の停止、変更その他必要な事項を命ずることができる。
- 前項の場合において行政官庁は、使用者に命じた事項について必要な事項を労働者に命ずることができる。
- 第106条
- (略)
- 使用者は、労働基準法及び労働基準法に基いて発する命令のうち、寄宿舎に関する規定及び寄宿舎規則を、寄宿舎の見易い場所に掲示し、又は備え付ける等の方法によって、寄宿舎に寄宿する労働者に周知させなければならない。
学校における寄宿舎
学校における寄宿舎は、学校との通学距離が長い、交通が不便という地理的な理由の他に、特別支援学校(盲学校・聾学校・養護学校)のように、重度又は重複障害を持っている場合などで、毎日の通学が困難な場合に生徒・児童のために学校に附属して設置される事がある(=全ての学校にあるわけではない)。主に後者の理由で設置された方を寄宿舎として呼ぶ事が多い。但し、看護師はいない為、重度障害の中でも吸引など医療的ケアを必要とする児童・生徒の入所は不可能である。また、建物の構造上、エレベーターがない寄宿舎では、車椅子の児童・生徒の入所も出来ない場合がある。寄宿舎指導員が児童・生徒の生活支援、夜間巡視(宿直)などの業務にあたっている。ただ、特別支援学校の寄宿舎は全国的に減少傾向にある。