「嵐が丘」の版間の差分
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2014年6月30日 (月) 21:06時点における最新版
テンプレート:Portal 文学 『嵐が丘』(あらしがおか、原題:Wuthering Heights)は、エミリー・ブロンテの唯一の長編小説。1847年に男性名エリス・ベルの筆名で発表。
イギリスのヨークシャーの荒野に立つ荒れ果てた館「嵐が丘」を舞台に、復讐に燃えるヒースクリフの愛を描いた作品。発表当時は不評であったが、20世紀に入ってから評価が高まった。
ストーリー
1801年、都会の生活に疲れた自称人間嫌いの青年ロックウッドは、人里離れた田舎にある「スラッシュクロス」と呼ばれる屋敷を借りて移り住むことにした。 挨拶のため「スラッシュクロス」唯一の近隣であり大家の住む「嵐が丘」を訪れ、 館の主人ヒースクリフ、一緒に暮らす若い婦人キャサリン・リントンや粗野な男ヘアトンといった奇妙な人々と面会する。 ヒースクリフは無愛想だし、キャサリン・リントンは彼の妻でもなさそうだ。 ヘアトンは召使の様な格好をしているが、食卓を一緒に囲んでいる。 しかもこの住人達の関係は冷え切っており、客前でも平気でののしり合っている。 彼らに興味を抱いたロックウッドは、事の全貌を知る古女中エレン(ネリー)に事情を尋ね、 ヒースクリフと館にまつわる憎愛と復讐の物語を聞かされることとなる。
昔、この「嵐が丘」では旧主人のアーンショーとアーンショー夫人、その子供であるヒンドリーとキャサリンが住んでいた。 ある日、主人は外出先で身寄りのない男児を哀れに思い、家に連れて帰ってきた。 主人は彼をヒースクリフと名づけ自分の子供以上に可愛がり、ヒースクリフはキャサリンと仲良くなった。 しかしアーンショー氏が亡くなり館の主人がヒンドリーになると、今までヒースクリフを良く思っていなかったヒンドリーはヒースクリフを下働きにしてしまう。 それでもヒースクリフとキャサリンは仲が良く、お互いに恋心を抱くようになっていた。 そんなある日、二人は「スラッシュクロス」の住人と出会うことになる。 当時、「スラッシュクロス」には上流階級の主人リントンとリントン夫人、その子供のエドガーとイザベラが住んでいた。 彼らの優雅な生活に衝撃を受けたキャサリンは上流階級に憧れを持ち、ヒースクリフを必要としながらも自分を下げることはできないとエドガーの求婚を受けてしまう。 ショックを受けたヒースクリフは姿を消す。
やがてヒースクリフは裕福な紳士になって戻ってくるが、それは自分を下働きにしたヒンドリー、キャサリンを奪ったエドガー、そして自分を捨てたキャサリンへ復讐を果たすためであった。 まずは、「嵐が丘」のヒンドリー。 彼は妻を早くに亡くし、その悲しみから息子ヘアトンと共に荒れた生活を送っていた。 そこへ賭博の申し出をして、「嵐が丘」と財産をそっくり奪い取ってしまった。 その次は、エドガーと結婚したキャサリンの住む「スラッシュクロス」に訪れ、 一緒に住んでいたエドガーの妹イザベラを言葉巧みに誘惑し、一緒に駆け落ちさせて結婚。 だがそこに愛はなく、あるのは冷たい言葉と虐待だけだった。 耐えきれなくなったイザベラは「嵐が丘」を出て、一人でリントンを出産した。 その合間にもエドガーに内緒でキャサリンにたびたび会い愛を語っていたが、そのせいでキャサリンは発狂してしまう。 二人の間で板挟みになったキャサリンは苦しみ、ついには亡くなってしまう。 その時お腹にいたキャサリン・リントンは助かり、キャサリンの忘れ形見になった。
こうして復讐を終えたヒースクリフだったが、その憎悪はとどまるところを知らなかった。 復讐はヒンドリーの息子であるヘアトンとエドガーの娘、キャサリン・リントンにも及んだ。 「嵐が丘」ではヒースクリフとヒンドリー、ヘアトンが住んでいたが、ヒンドリーは亡くなり、ヒースクリフはヘアトンと二人で暮らすようになった。 ヘアトンは元の素質が良く、本来は頭も顔も悪くなかったのだが、ヒースクリフはあえて野良仕事をさせ、悪態を覚えさせた。 そうしてヒンドリーの嫌うような、教養のない人間に育てることに成功した。 イザベラが亡くなり、ヒースクリフの息子であるリントンはイザベラの遺言によりエドガーに引き取られるはずだったが、ヒースクリフは無理やり引き取ってしまった。 しかしリントンは病弱で気弱、素質が悪いと見限ったヒースクリフは、彼を愛することはなかった。 「スラッシュクロス」ではエドガーとキャサリン・リントンが仲良く静かに暮らしていた。 ある日、キャサリン・リントンは「嵐が丘」に迷い込み、住人達と出会う。 過去の出来事を全く知らない彼女はヒースクリフ達に興味を持った。 特に前に少しだけあったリントンがいとこだとわかると、友達ができたと嬉しがる。 そこに目をつけたヒースクリフは、リントンとキャサリン・リントンを結婚させ、「スラッシュクロス」とエドガーの財産を自分のものにしようと企む。 この頃エドガーは衰弱しており、亡くなれば財産はリントンのものなのだが、リントンは病弱で、20まで生きられないのではないかと言われていたのだ。 どちらが先に亡くなるか分からないのだから結婚させてしまおうと考え、ヒースクリフはリントンに入れ知恵をする。 ヒースクリフの策により、キャサリン・リントンはリントンに恋したと錯覚し、エドガーに内緒で会いに行くようになる。 しかしリントンの死期は迫っており、まともに相手をすることはできなかった。 キャサリン・リントンは目を覚まし始めるが「嵐が丘」へ行き、そこでヒースクリフに閉じ込められてしまう。 リントンと結婚しなければここから出さないと脅され、エドガーの死に目に会いたかったキャサリン・リントンは、リントンへの同情心も手伝って承諾する。 数日後、エドガーは亡くなり、しばらくしてリントンも亡くなった。 ヒースクリフは遂に、「スラッシュクロス」とエドガーの財産をも自分のものにしたのだった。
エレンの長い話に納得したロックウッド。 しばらくここで過ごしていたが、あまりの退屈さに一年の契約期間を待たず都会へと帰って行った。 そうして時間が過ぎ契約が切れるとき、たまたま「嵐が丘」の近くを通り過ぎ、契約終了の挨拶でもしようと思い立った。 すると「嵐が丘」は前に来たときとまるで変わっていた。 キャサリン・リントンはののしり合っていたヘアトンと仲良く勉強しており、幸せそうにしている。 エレンに問いただしたところ、ヒースクリフは亡くなったのだという。 キャサリンに対する愛と憎しみにより、幻覚を見て発狂したと。 この「嵐が丘」と「スラッシュクロス」は本来の持ち主であるヘアトンとキャサリン・リントンに戻り、 二人は和解し、愛し合い、いずれ一緒になるだろう。 ヒースクリフはキャサリンの墓の横で、静かに眠っているのだろうか。 それとも二人で亡霊になって、今もまだ嵐が丘をさまよっているのだろうか。
登場人物
- ヒースクリフ
- 孤児。哀れに思った嵐が丘の主人に拾われる。
- キャサリン
- 嵐が丘の主人の娘。ヒースクリフと仲良くなる。
- エドガー
- リントン家の息子。キャサリンと結婚。
- イザベラ
- エドガーの妹。ヒースクリフと結婚。
- ヒンドリー
- キャサリンの兄。
- キャサリン・リントン
- キャサリンとエドガーの娘。ヒースクリフの子と結婚。
- リントン・ヒースクリフ
- ヒースクリフとイザベラの息子。
- ヘアトン・アーンショー
- ヒンドリーの息子。
- エレン・ディーン
- 嵐が丘に仕える家政婦。物語の語り手。愛称がいくつかあり、物語の中ではネリー、ネルなどとも呼ばれる。
- ロックウッド
- 嵐が丘近隣に家を借り、そこでエレンから嵐が丘の主人にまつわる話を聞かされる。
作品解説
虐げられた孤児ヒースクリフの長年にわたる復讐劇を描いた作品である。復讐に燃えるヒースクリフをはじめ、神秘的な激しい人間像を描く反面、平凡な語り手ロックウッドや家政婦ネリーら現実的な人間がうまく入れあい、複雑な恋愛構造を巧みに描いている。またイギリスのヨークシャーの自然と風土をみごとに描ききっている。作者エミリーが住んだハワースの家一帯には原野が広がっており、激しい雪と風が吹き荒れ、その中にたたずむ家を中心としゴシック要素を強く盛り込んでいる。主人公ヒースクリフ(Heathcliff)は、「ヒースの崖」の意味であるが、まさにゴシック演出の象徴といえる。
エミリーは物静かで家庭的であった一方、感情を表に出さず、孤独に耐え抜く強い力を持っていた。姉シャーロットの『ジェーン・エア』に注目が集まったのに対し、本作は酷評された(当時、男性風の匿名で出され誰も女性だとは思わなかった)。
エミリーの死後、シャーロットによって第2版が編集された。20世紀に入ってから評価が高まり、モームは自著『世界の十大小説』でその一つに挙げ、ブランデンは『リア王』『白鯨』と並ぶ英語文学の三大悲劇と評した。激しい愛憎描写や荒涼たる自然描写は圧巻である。
なお原題にある「Wuthering」とは、「嵐が荒れる」というイングランド北部の方言で、Wuthering Heightsを「嵐が丘」と訳したのは斎藤勇である。
日本語訳
- 小野寺健、光文社古典新訳文庫上下 2010年1.3月
- 河島弘美、岩波文庫上下(新) 岩波書店 2004年
- 鴻巣友季子、新潮文庫(新) 新潮社 2003年
- 田中晏男 ブロンテ姉妹集 京都修学社 2001年
- 中岡洋・芦沢久江 「ブロンテ全集7巻」 みすず書房 1996年
- エミリとアンの日誌及び
- シャーロットによる覚書が併収
- 固有名詞「スラシュクロス」「ジラー」
- エミリ・ブロンテの「詩」が40篇併収
- 固有名詞「ギンマートン」「スラッシクロス」「ジラー」
- 永川玲二による解説付き
- 田中西二郎 新潮文庫(旧) 新潮社 1981年
- 固有名詞「スラシュクロス」
- エミリ・ブロンテの「詩」が80篇併収
- 固有名詞「ヒースクリッフ」
- 「キャシイ」「ネリイ」「ヒンドレ」
- 永川玲二 世界文学全集16 集英社 1973年
- 固有名詞「ロクウッド」
- 固有名詞「スラシュクロス」
- 「ヒンドリ」「キャシィ」「ネリ」「スカルカァ」
- 「エドガァ」「スロットラ」「ジラー」
- 阿部知二 岩波文庫(旧) 岩波書店 1961年
- 固有名詞「スラッシクロス」「ヘヤトン」
- 「ジラー」「キャスリン」「ヒンドリ」「ギマドン」
- 「スカルカ」「ネリ」「キャシ」「エドガ」「ペニストウ」
- 「スロトラ」
派生
映画
- 「嵐ケ丘」"Wuthering Heights"(1939年、製作:アメリカ、監督:ウィリアム・ワイラー、主演:ローレンス・オリヴィエ、マール・オベロン)
- 「嵐が丘」"Abismos de Pasion"(1953年、製作:メキシコ、監督:ルイス・ブニュエル、主演:イラセマ・ディリアン、ホルヘ・ミストラル) - メキシコの砂漠が舞台
- 「嵐が丘」"Wuthering Heights"(1970年、製作:米英合作、監督:ロバート・フュースト、主演:アンナ・カルダー・マーシャル、ティモシー・ダルトン)
- 「嵐が丘」"Hurlevent"(1986年、製作:フランス、監督:ジャック・リヴェット、主演:ファビエンヌ・バーブ、リュカ・ベルボー) - フランスの田舎が舞台
- 「嵐が丘」(1988年、製作:日本、監督:吉田喜重、出演:松田優作、田中裕子) - 鎌倉室町時代の日本が舞台
- 「嵐が丘」"Wuthering Heights"(1992年、製作:イギリス、監督:ピーター・コズミンスキー、主演:ジュリエット・ビノシュ、レイフ・ファインズ)
- 「嵐が丘」(2009年、制作:イギリス、監督:コキー・ジェドロイック、主演:トム・ハーディ、シャーロット・ライリー)
舞台
- 幾多の団体によって数あまた上演された実績がある。
- 宝塚歌劇団による舞台化については、別項「嵐が丘 (宝塚歌劇)」を参照。
脚本
- 「こんな愛をしてみたい ~嵐が丘より嵐が丘~」東隆明著 企画出版天恵堂 ISBN 978-4-87657-002-7
ドラマ
- 「愛の嵐」 - 1986年6月 - 10月放送の東海テレビ放送製作の昼ドラマ。昭和の戦前戦後の日本が舞台。田中美佐子、渡辺裕之、長塚京三主演。
- 「新・愛の嵐」 - 2002年7月 - 9月放送の東海テレビ放送製作の昼ドラマ。上記のリメイク作品。藤谷美紀、要潤、石原良純主演。
小説
- 「本格小説」 - 2002年、水村美苗作。戦後の日本が舞台の翻案小説
- “文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト) - 野村美月作。本作が題材のミステリー小説。
- 「トワイライト」 - ステファニー・メイヤー/著、小原亜美/訳。第三期は本作を題材にしている。
漫画
音楽
- 「嵐が丘」"Wuthering Heights" - 1978年発表、ケイト・ブッシュのデビューシングルおよびデビューアルバム「天使と小悪魔」収録の歌曲。正確には、小説自体ではなく、テレビドラマ化された作品から着想を得ている。なお、この曲は、その後1994年から、日テレ系で放映されているテレビ番組「恋のから騒ぎ」のオープニングテーマ曲として使用される。
- 「静寂の嵐」"Wind & Wuthering" - 1976年発表、ジェネシスのアルバム
- 「嵐ヶ丘」 - 1993年発表、ALI PROJECTのシングル。アルバム「DALI(1994年)」他、「jamais vu(2000年)」、「Deja Vu 〜THE ORIGINAL BEST 1992-1995〜(2006年)」、「Romance(2006年)」にも収録されている。
- 「嵐が丘」 - 2005年発表、ヴァイオリニスト川井郁子の5番目のアルバム『嵐が丘』の表題曲。主人公の感情を表現した弦楽曲で「ヒースクリフに捧ぐ」の副題が添えられている。
- デンマークではワザリング・ハイツというヘヴィメタルバンドが活動しており、幻想的かつドラマティックな作風を持ち味にしている。