M1エイブラムスのソースを表示

{{戦車|
|名称= M1エイブラムス
|画像= [[画像:M1a2-2 large.jpg|250px]]
|説明= M1A2
|全長= 9.83m
|車体長= 7.80m
|全幅= 3.66m
|全高（[[砲塔]]上面）= M1A1：2.44m<ref>http://www.gdls.com/index.php/products/abrams-family/abrams-m1a1-main-battle-tank</ref>M1A2：2.37m<ref>http://www.gdls.com/index.php/products/abrams-family/abrams-m1a2-main-battle-tank</ref>
|重量= M1：54.45t<ref>http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams01/m1a1.a2.html</ref><br />M1A1：57.15t<ref>http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams01/m1a1.a2.html</ref><br />M1A1(HA)：61.5t<ref>{{cite web|url=http://www.gdls.com/index.php/products/abrams-family/abrams-m1a1-main-battle-tank|title=ABRAMS M1A1 SIGNIFICANT BENEFITS-Improved Armor|publisher=General Dynamics Landsystems|accessdate=2014-01-31}}</ref><br />M1A2：62.1t<br />M1A2 SEP：63.2t<ref>http://www.gdls.com/index.php/products/abrams-family/abrams-m1a2-main-battle-tank</ref>
|懸架方式= 独立懸架トーションバー方式
|整地時速度= 67km/h
|不整地時速度= 48km/h
|行動距離= M1：495km<br />M1A1：465km<br />M1A2：426km
|主砲= '''M1 IPM1'''<br />[[ロイヤル・オードナンス L7|51口径105mmライフル砲M68A1]]<br />'''M1A1/A2/A2 SEP'''<br />[[ラインメタル 120 mm L44|44口径120mm滑腔砲M256]]
|副武装= [[ブローニングM2重機関銃|12.7mm重機関銃M2]]（対物・対空）<br />[[M240機関銃|7.62mm機関銃M240]]（[[主砲]][[戦車#装備と構造|同軸]]）
|装甲= [[装甲#複合装甲|複合装甲]]（砲塔前面 及び 車体前面）<br />均質圧延鋼板（車体）
|エンジン名= AGT1500<br />[[ガスタービンエンジン|ガスタービン]]
|出力= 1,500hp
|乗員= 4名
}}
'''M1 エイブラムス'''（M1 Abrams）は、[[アメリカ合衆国]]が開発した[[主力戦車]]である。

エイブラムスの名は、開発を推進した人物であり、[[バルジの戦い]]の英雄でもある[[クレイトン・エイブラムス]][[大将]]に由来する。

== 概要 ==
[[M60パットン]]の後継として[[1970年代]]に[[西ドイツ]]と共同開発を進めていた[[MBT-70]]計画の頓挫により、新たに[[アメリカ合衆国|アメリカ]]単独で開発し、[[1980年]]に正式採用された[[戦車#戦後第3世代主力戦車|戦後第3世代主力戦車]]である。主に、[[アメリカ陸軍]]及び[[アメリカ海兵隊]]が採用した。

特徴として、当時主流であった[[ディーゼルエンジン]]ではなく、[[ガスタービンエンジン]]を採用している点が挙げられる。また、当時としては最先端機器を用いた高度な[[射撃管制装置]]（FCS）を採用した事で、高い命中率を誇る。[[主砲]]は[[西側諸国|西側]][[戦車#戦後第2世代主力戦車|第2世代主力戦車]]の標準装備と言える[[ロイヤル・オードナンス L7|51口径105mmライフル砲M68A1]]を採用した。

M1は従来のアメリカ[[戦車]]と同様に発展余裕に富んだ設計で、制式化後も度重なる改良が施された事も特筆すべき点である。今日では[[ラインメタル 120 mm L44|44口径120mm滑腔砲M256]]を搭載した'''M1A1'''や、更に改修を加え[[戦車#ポスト戦後第3世代主力戦車|第3.5世代主力戦車]]に分類される'''M1A2'''が運用されている。

[[湾岸戦争]]や[[イラク戦争]]といった実戦も経験し、現在でも世界最高水準の戦車であると評価されている<ref>http://combat1.sakura.ne.jp/M1.htm</ref>。

== 開発経緯 ==
[[1970年代]]初頭、[[アメリカ陸軍]]は[[M60パットン]]の後継種を必要としていた。M60は[[戦車#戦後第2世代主力戦車|戦後第2世代戦車]]であり、近代化を図った「M60A2」を保有していたものの、やはり第2世代戦車の域を出ないものであった。また、[[ソビエト連邦]]が[[115mm滑腔砲]]を有する[[T-62]]の配備を進めていることが確認された事で、質・量共に劣勢にあると強い危機感を抱いた。

当初は[[ベトナム戦争]]での敗北やそれに伴う戦費、[[MBT-70]]計画の頓挫からアメリカ議会は予算の承認を渋る声も聞かれたが、[[1973年]][[1月]]に新型[[戦車]]の要求仕様が決定し、同年[[6月]]に[[クライスラー]]社（現[[ジェネラル・ダイナミクス]]社）と[[ゼネラルモーターズ]]に試作車の発注が行われた。

3年後の[[1976年]]に試作車「XM815」が完成<ref>ちなみにゼネラルモーターズ社の試作車は、従来のディーゼルエンジンを搭載していた</ref>し、アメリカ陸軍による試験評価が行われた。時を同じくして[[第四次中東戦争]]が勃発し、[[RPG-7]]や[[対戦車ミサイル]]が使用され、通常[[装甲]]の[[イスラエル国防軍]]の戦車が多数撃破された事を受けて、チョバム・アーマーや[[装甲#複合装甲|複合装甲]]の研究も並行して進められた。

[[画像:XM1 Abrams Aberdeen Proving Grounds.JPG|thumb|left|250px|XM1]]
1976年に比較検討の結果、クライスラー社の試作車に開発を一本化させる事が決定され、名称を「XM1」と改める。同時に試作車11両が追加発注され、[[1978年]]中に全車が完成し各種運用試験が行われた。

[[1979年]]には先行量産車110両が発注・製作され、各部隊での最終試験がなされ、[[1981年]]に「'''M1エイブラムス'''」として制式採用された。
{{-}}

== 特徴 ==
=== 火器 ===
{{multiple image
|align= right
|direction= vertical
|header= 
|header_align= center
|width= 250
|image1=M1A1_Abrams_tank_equipped_with_tank_urban_survivability_kit.jpg 
|caption1= M1A1の[[砲塔]]正面 
|image2= Tank050124 01.jpg
|caption2= [[ブローニングM2重機関銃|12.7mm重機関銃M2]]
}}
;主砲
M1エイブラムスは、その開発当初から120mm砲の搭載を前提として開発されていた。だが、制式化を急ぐあまり120mm砲の開発が間に合わなかったため、初期型の'''M1'''及びM1の[[装甲]]改良型である'''M1IP（IPM1）'''は、[[主砲]]に[[M60パットン|M60]]と同じ[[ロイヤル・オードナンス L7|51口径105mmライフル砲M68A1]]を装備した。しかし、高度な電子機器で構成された[[射撃管制装置]]（FCS）によって、[[戦車#戦後第2世代主力戦車|第2世代戦車]]より高い射撃能力を有していた。

[[1985年]]から[[火力 (軍事)|火力]]強化版の'''M1A1'''が導入され、この型から主砲を[[ドイツ]]の[[ラインメタル]]社製[[ラインメタル 120 mm L44|44口径120mm滑腔砲]]を[[ライセンス生産]]したM256を装備、使用弾種の内、[[APFSDS]]の弾芯には[[劣化ウラン]]を使用し、装甲[[貫徹力]]を高めている。

;機関銃
主砲と[[戦車#装備と構造|同軸]]で[[砲塔]]正面右側に[[M240機関銃|7.62mm機関銃M240]]が装備されている。

砲塔上には[[指揮官|車長]]用[[潜望鏡]]の[[銃架]]に[[ブローニングM2重機関銃|12.7mm重機関銃M2]]を据え付けている。装填手用には装填手用ハッチ周囲のレール上に設置された銃架に7.62mm機関銃M240を装備する。

車外戦闘の場合を考慮して砲塔内に[[M16自動小銃|M16]]か[[M4カービン]]が1丁備わっている。乗員には個人銃器として[[ベレッタM92|ベレッタM9拳銃]]が配給されている。
{{-}}

=== 装甲 ===
[[画像:Defense.gov News Photo 010525-O-0947O-003.jpg|thumb|250px]]
M1エイブラムスの[[砲塔]]前面[[装甲]]は[[避弾経始]]を考慮しているものの、それまでの[[戦車#戦後第2世代主力戦車|第2世代主力戦車]]に見られた流線型の砲塔ではなく、傾斜を施した平面で構成されている。

装甲材は、M1が対[[成形炸薬弾|HEAT]]対応の空間装甲、M1A1が対鉄弾芯[[APFSDS]]対応の無拘束[[セラミックス]]、M1A1（HA）/M1A2が対[[タングステン]]/[[劣化ウラン]]弾芯APFSDS対応の劣化ウランプレートと徐々に向上強化されている（[http://sus3041.sakura.ne.jp/contents/calcula/mbt_m1a2_arm.htm M1A2戦車の全周の装甲防御能力の推定]）。

[[1985年]]から導入された'''M1A1'''は、対化学兵器防御能力を備え、装甲を強化している。なお、[[湾岸戦争]]において配備されていたM1A1の大多数に対して劣化ウランプレート（劣化ウラン装甲材）を装着する改修が急遽実施されている。このウランプレートを装着する改修を受けた車両はM1A1（HA）に分類され区別される。

[[1987年]]初めからM1A1向けの装甲強化パッケージの提供が始まり、砲塔正面と車体正面の装甲内に網状の劣化ウランを組み込むようになっていた。

M1A1をさらに改良した'''M1A2'''は、劣化ウラン装甲が張り巡らされ防御力の強化が図られ、[[アメリカ軍]]向けには試作車輛を含む77輛が生産された。改修計画SEP（System Enhanced Package）は[[1999年]]から始まっており、旧型となった一部のM1やM1A1は、M1A2やM1A2 SEPに改修されている。

=== 動力機関 ===
[[画像:AGT1500_engine_and_M1_tank.JPEG|thumb|250px|パワーパック]]
各国の[[戦車]]用動力機関は[[ディーゼルエンジン]]が主流であるが、M1エイブラムスでは[[ハネウェル]]AGT1500[[ガスタービンエンジン]]を採用している。トランスミッション他、補器類も含めてパッケージ化されており、通称「パワーパック」と呼ばれる。

燃料はディーゼル燃料ではなく[[航空機]]用[[ジェットエンジン]]と同じ[[JP-8]]を使用している。

ガスタービンエンジンは小型軽量、高出力で信頼性、加速性能、登坂能力も高く、燃料の許容範囲が広い、動作温度範囲が広い、冷却水が不要など多くの長所もあるが、燃料消費率が悪く、1[[マイル]]走行に1[[ガロン]]以上を消費（1[[リットル]]あたり425m）するだけでなく、停車状態でも[[エンジン]]が動いているだけで毎時12ガロン（45.4リットル）を消費する。搭載燃料の容量を各国の[[戦車#戦後第3世代主力戦車|第3世代主力戦車]]に比べて2倍近い500ガロンにしている。低速/停車時の燃費が極めて悪いため、[[アメリカ陸軍]]では停車時の電力供給を目的に[[補助動力装置]]（APU）を内蔵するようにした<ref>佐藤幸徳著　『マイクロガスタービンの本』　日刊工業新聞社　2003年12月28日初版1刷発行　ISBN 4-526-05213-2</ref>。
また、ガスタービンの高温排気が真後ろに噴出するため、[[市街戦]]などで[[歩兵]]が戦車の後ろに隠れていることができない。

地上を走る戦車は吸気により塵砂を吸い込んで故障の原因となり、吸気フィルタを強化するなど手を加えねばならず、燃料タンクの拡大と合わせるとエンジン小型化の利点は相殺されている。

[[湾岸戦争]]では8時間の作戦行動で燃料が無くなるため、一日に三回の給油を必要とした。
2,500ガロン（9,500リットル）を一度に運べる[[HEMTT|M978重機動タンカー]]を動員して大量の燃料を供給し続けることで燃費の悪さを補ったが、これは[[兵站]]上の負担であり、M1の他にガスタービンエンジンを戦車で採用しているのは[[ソビエト連邦|ソ連]]製の[[T-80]]、[[スウェーデン]]の[[Strv.103]]だけである。

=== その他の装備 ===
;MCD
[[画像:M1-A1 Abrams 1.jpg|thumb|250px|砲塔上面にMCDを設置したM1A1]]
[[アメリカ海兵隊]]の幾つかのM1A1には'''MCD'''（Missile Countermeasure Device）と呼ばれるミサイル対抗装置（ソフトキル型[[アクティブ防護システム]]）が取り付けられている。この装置で有線/無線式の半自動誘導[[対戦車ミサイル]]と全自動式[[赤外線]]誘導式の対戦車ミサイルの誘導システムを無効化する。

本装置は[[砲塔]]上面の装填手ハッチ前に設置されている。
{{-}}

;TUSK
[[画像:OCPA-2005-03-09-165522.jpg|thumb|250px|開発段階のTUSKを装着したM1A2]]
[[2007年]]頃から[[イラク]]で運用していたM1A1やM1A2の一部に'''TUSK'''（Tank Urban Survival Kit）と呼ばれる[[市街戦]]など都市環境下での運用に適応させるための強化キットが取り付けられていた。

基本キットの「TUSK I」は、[[対戦車兵器]]から発射される[[成形炸薬弾]]に対する防護を念頭に車体側面に箱形の[[爆発反応装甲]]タイルを装備、防盾上に[[主砲]][[戦車#装備と構造|同軸]]の[[ブローニングM2重機関銃]]を追加、装填手用ハッチの周囲と[[機関銃]]に盾を追加、装填手用機関銃に[[暗視装置|暗視照準器]]を追加するなどの内容。

TUSK Iの追加キットである「TUSK II」では車体側面の爆発反応装甲タイルの上と砲塔側面に瓦形の爆発反応装甲タイルが追加された。また、[[指揮官|車長]]用に全周防護の盾などが追加されている。
{{-}}

;煙幕弾発射筒
[[発煙弾|スモークグレネード弾]]発射筒とも呼ばれる[[発煙弾発射機|煙幕弾発射筒]]が6個1組で左右に1組ずつ砲塔側面に取り付けられている。アメリカ海兵隊のM1A1だけは8個1組の2組となっている。

この[[煙幕]]は肉眼像だけでなく熱線映像も遮る。煙幕弾の代わりに[[チャフ]]を発射することもできる。従来は[[操縦士]]の操作で[[エンジン]]排気管内に燃料を噴霧することで排気で煙幕を発生させる仕組みが備わっていたが、使用燃料がディーゼルからJP-8に替えられ、JP-8は排気管内に燃料を噴霧すれば容易に火災が生じるために、現在ではこの機構は使用できなくなっている。

;空気殺菌システム
[[規制が議論されている兵器|NBC兵器]]にも対応できるよう空気殺菌システムが装備されており、[[生物兵器|生物]]・[[化学兵器]]攻撃を受けても乗員は[[ガスマスク]]を着用せずに戦闘活動を続けることができる。

=== 乗員 ===
M1エイブラムスには4名の乗員が搭乗する。開発当時は[[自動装填装置]]の搭載も可能とされていたが、乗員の減少に伴う負担増加が懸念された事から採用が見送られた。

[[指揮官|車長]]は[[砲塔]]の右後方で砲塔上から周囲警戒したり車内から画像によって索敵を行い、攻撃目標を[[砲手]]に指示する。砲手は砲塔の右側で車長の足元前方に座り、戦闘中はほとんど移動しない。

装填手は砲塔の左側で比較的広い空間を占有し、装填以外にも車長を補佐して周囲警戒や無線通信を担当することもある。[[操縦士]]は車体前方中央の4名の中では最も狭い空間に、戦闘中は仰向けに近い姿勢で座り、操縦に専念する。

乗員は耐火性能の高い[[つなぎ]]を着用し、CVCヘルメット、通信と騒音遮断用の[[ヘッドセット]]、ゴーグルを頭部に装着する。また、[[ボディアーマー]]は爆発時に発生した破片に対処するためにCVCアーマーを着用する場合が多かったが、現在ではより高性能な[[インターセプターボディアーマー|OTV]]や[[IOTV]]を着用している。
<gallery widths="180px" heights="150px">
画像:3rd ID M1A1 Abrams TC and Gunner 2008.jpg|車長
画像:M1A1 Abrams gunner’s primary sight.jpg|砲手
画像:Kelvin Sampson Kuwait 4.jpg|操縦士
画像:M1 abrams loading the main gun.jpg|装填手
</gallery>

=== 価格 ===
'''M1'''と'''M1A1'''の価格は235-430万[[アメリカ合衆国ドル|USドル]]（8,800両製造された各種仕様の異なるM1シリーズの価格）。M1A2の価格は不明。

=== 各型の比較 ===
{| class="wikitable" style="text-align:center"
!
! M1<ref>http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams01/m1a1.a2.html</ref>
! M1A1<ref>http://www.f5.dion.ne.jp/~mirage/hypams01/m1a1.a2.html</ref>
! M1A1(HA)<ref>{{cite web|url=http://www.gdls.com/index.php/products/abrams-family/abrams-m1a1-main-battle-tank|title=ABRAMS M1A1 SIGNIFICANT BENEFITS-Improved Armor|publisher=General Dynamics Landsystems|accessdate=2014-01-31}}</ref>
! M1A2
! M1A2SEP<ref>http://www.gdls.com/index.php/products/abrams-family/abrams-m1a2-main-battle-tank</ref>
|-
! 製造期間
| [[1979年]]–85年
| [[1985年]]–87年
| [[1987年]]–92年
| [[1992年]]–現在
| 現在
|-
! 全長
| colspan="1"| 9.76m
| colspan="5"| 9.83m
|-
! 全幅
|colspan=5 | 3.66m
|-
! 全高
| colspan="3"| 2.44m
| colspan="5"| 2.37m
|-
! 最高速度
|colspan=2 | 72km/h
|colspan=2 | 66.8km/h
| 67.6km/h
|-
! 航続距離
| 495km
| 465Km
| 479km
| 465km
| 426km
|-
! 重量
| 54.45t
| 57.15t
| 61.33t
| 62.10t
| 63.09t
|-
! 主砲
|colspan=1 | [[ロイヤル・オードナンス L7|51口径105mmライフル砲M68A1]]
| colspan=5 | [[ラインメタル 120 mm L44|44口径120mm滑腔砲M256]]
|-
! 乗員
|colspan=5 | 4名（[[指揮官|車長]], [[砲手]], [[操縦士]], 装填手）
|}
*M1A1(HA)とM1A2 SEPの重量に関しては、General Dynamics Landsystems社公式HP記載のショートトンからメートルトンに換算。

メーカー側が生産を終了してしまったため、[[アメリカ軍]]の場合、基本はリサイクル車両を利用することにしている。戦場で修理が必要になった車両、または甚大なダメージにより[[スクラップ]]になった車両を[[アラバマ州]]の工廠に戻し分解と洗浄が行われ、その後[[オハイオ州]]の工廠で再組み立てとアップデートパーツの組み付けが行われる（ナショナルジオグラフィックDVD　M1エイブラムスより）。

== 実戦投入 ==
M1A1は、[[1991年]]の[[湾岸戦争]]において初めて戦場に投入され、[[サウジアラビア]]に展開した。M1A1は、[[イラク治安部隊#イラク軍|イラク軍]]が配備していた[[ソビエト連邦|ソ連]]製[[戦車]]の[[T-55]]、[[T-62]]、[[T-72]]に比べて性能で大幅に勝り<ref>これらの敵戦車が[[モンキーモデル|輸出用に性能を落としたもの]]だったのも要因とされる</ref>、敵側の射程を上回る3,000m以上の遠距離から[[アウトレンジ戦法|アウトレンジ攻撃]]することができた。そのため、あまり反撃を受けず、M1A1の損害は十数輛といわれている。しかし、当時のM1A1は[[敵味方識別装置]]（IFF）を持たず、また、激しく砂塵の舞う砂漠の戦いで[[サーモグラフィー|熱映像装置]]（サーマルサイト）の性能が不十分だったために[[同士討ち]]が多発し、この十数輛の損害の半数は同士討ちによるものといわれている。

:湾岸戦争においては、[[ユーフラテス川|ユーフラテス河畔]]に進撃途中であった[[アメリカ陸軍]][[第24歩兵師団 (アメリカ軍)|第24歩兵師団]]所属の1輌のM1A1が、雨でぬかるんだ泥穴にはまって味方部隊から脱落し、移動不能な状態で3輌編制のT-72部隊に遭遇し、被弾しながらも勝利した事例があるとされる<ref>Tom Clancy,Armored Cav(New York:Berkley books,1994)pp57-58 / James F.dunnigan & Austin Bay,From Shield to Storm(New York:William Morrow and Company,1992)pp294-295</ref>。
:この戦闘では、T-72の125mm[[滑腔砲]]による[[成形炸薬弾]]がM1A1の砲塔正面に命中したが、重大な損傷とならず、M1A1が反撃で放った[[APFSDS]]は[[砲撃]]してきたT-72の装甲を貫通、内部の[[砲弾]]を誘爆させ[[砲塔]]を吹き飛ばした。この時に加えられた別のT-72による砲撃もM1A1の[[装甲]]を貫通できず、前進を中止し逃走したこの車両も、M1A1から機関室へ攻撃を受け、[[エンジン]]を破壊された<ref>Tom Clancy,Armored Cav(New York:Berkley books,1994)pp57-58 / James F.dunnigan & Austin Bay,From Shield to Storm(New York:William Morrow and Company,1992)pp294-295</ref>。
:この時、最後の1輌のT-72は前進を続行しており、M1A1との距離を400mまで詰めて鋼鉄弾芯の[[徹甲弾]]を発射、M1A1の砲塔へ命中させたが、M1A1は防弾鋼板を窪ませただけだった<ref>Tom Clancy,Armored Cav(New York:Berkley books,1994)pp57-58 / James F.dunnigan & Austin Bay,From Shield to Storm(New York:William Morrow and Company,1992)pp294-295</ref>。
:このT-72は逃走せず砂丘の陰に隠れたが、M1A1は熱線映像装置により、砂丘上空にT-72のエンジンから発せられる高温の排気ガスを発見し、これをもとに砂丘越しに砲撃を行い、T-72を撃破した。このでき事は真偽不明とされるが、[[トム・クランシー]]の「Armored Cav」などの文献<ref>Tom Clancy,Armored Cav(New York:Berkley books,1994)pp57-58 / James F.dunnigan & Austin Bay,From Shield to Storm(New York:William Morrow and Company,1992)pp294-295</ref>で紹介された。
:この戦闘の後にやって来た回収部隊は、2両の[[M88戦車回収車]]で引きあげようとしたが、引き上げられなかったため、最新戦車が敵に[[鹵獲]]されないよう、別のM1A1による破壊が命令された。
:2発の120mm砲弾が発射されたが、これは一番頑丈な砲塔正面に命中したため、跳ね返されてしまった。3度目は装甲が比較的薄い後部を攻撃し貫通、砲塔内の[[火薬庫|弾薬庫]]を誘爆させることに成功したが、設計どおりに砲塔上面のパネルが吹き飛んで爆炎は車外に放出され、同時に自動消火システムが作動したため、乗員区画の破壊にも失敗した。
:破壊は断念され、この車両は3輌目の回収車の到着により引き上げられた。内部を調査した結果、照準装置は損傷していたものの、まだ主砲の射撃は可能であったことから、M1A1は主砲を装甲の方が上回ったということになる。その後、砲塔を付け替え、同車は再び戦場に復帰したとされる<ref>月刊「[[軍事研究]]」2008年12月号 ミリタリー・ジャパン・レビュー 146頁</ref>。

{{要出典範囲|date=2014年1月|[[コソボ紛争]]以降に投入されるM1A1/A2に敵味方識別装置（IFF）が装備された。}}

[[2003年]]の[[イラク戦争]]にも投入され一定の戦果を上げたが、戦争後は至近上方からラジエーターグリルなどの脆弱箇所を狙う武装勢力の[[対戦車擲弾]]発射器などによる攻撃や、[[地雷#対戦車地雷|対戦車地雷]]、[[即席爆発装置|IED]]などによる被害が目立った。とくにIEDは炸薬量に上限が無いため、さしものM1も砲塔部を吹き飛ばされるなど大きな被害を受けている<ref>http://i.jiji.jp/jc/v2?id=20100414us_marine_corps_weapons_13</ref>。

主砲弾や一部の装甲に使用されている[[劣化ウラン]]は、戦地から帰還した将兵の間に発生した「[[湾岸戦争症候群]]」「バルカン症候群」と呼ばれる病気の原因物質ではないかと一部で疑われているが、因果関係ははっきりしない<ref>http://ihi8.fc2web.com/urandan.htm</ref>。

== 形式 ==
; M1
: 基本型。[[ロイヤル・オードナンス L7|105mm戦車砲]]を搭載。
;; IPM1 
:: M1の改良型。主に[[主砲]]基部・[[変速機]]・[[サスペンション]]・[[ショックアブソーバー]] の改良が行われた。
[[画像:M1A1 Abrams-side ID DM-SD-06-00540.JPEG|thumb|250px|M1A1]]
; M1A1
: [[ラインメタル 120 mm L44|120mm滑腔砲]]を搭載し、搭載される電子機器類を換装した。また、車内の配置も変更されている。
;; M1A1HA 
:: [[砲塔]]や車体前面部の[[装甲#複合装甲|複合装甲]]に[[劣化ウラン]]装甲材を導入し、[[APFSDS]]にも対応。[[湾岸戦争]]を目前とし、改造用キットが大量に調達・支給されたエピソードがある。
;; M1A1HC
:: [[アメリカ陸軍|米陸軍]]と[[アメリカ海兵隊|米海兵隊]]の両者のM1A1車両への部品共通化プログラムへの対応。
;; M1A1D
:: M1A1用の「Digital enhancement package」を適用した車両。共同作戦対応能力をA1に与える。
;; M1A1M 
:: M1A1のアップグレード型
[[画像:Mounted Soldier System (MSS).jpg|thumb|250px|M1A2（TUSKを装備）]]
; M1A2
: 現在、M1ファミリーの最新版。M1A1から電子機器類などの[[C4Iシステム]]が向上された車両。[[指揮官|車長]]用熱線映像装置と武器ステーション、自己位置測定装置や航法装置、各部隊・車両間での情報共有能力（[[戦術データ・リンク#IVIS|IVIS]]）、デジタルデータバス、無線インターフェース・ユニットなどが新しく追加された。
;; M1A2SEP 
:: M1A2向けのシステム拡張パッケージ（System Enhancement Package）適用車両。 [[陸軍戦闘指揮システム#FBCB2|FBCB2]]（Force XXI Battlefield Command Brigade and Below）への対応機能、多数のコンピュータによる発熱から乗員室の室温を守る向上型冷却装置を装備している。
; M1A3
: 現在開発中の型式で、重量を55tまで軽量化する予定。軽量120mm[[戦車砲]]への換装、自動装填システムの組み込み、車内電気配線の光ファイバー化、新型軽量装甲、新型[[エンジン]]、駆動装置の採用、[[赤外線]]カメラ、[[レーザー]]探知装置の搭載などの改良を施す予定で、[[2014年]]までに試作車の完成、[[2017年]]までの開発完了を目指している<ref>http://www.strategypage.com/htmw/htarm/articles/20100816.aspx</ref>。
; M1 Assault Breacher Vehicle (ABV)
: [[地雷原]]を啓開するための[[戦闘工兵車|工兵車輌]]で、M1エイブラムスの車体をベースとして生産される派生型。
{{main|M1 ABV}}

== 運用国 ==
*{{USA}}
**M1A2 - 1,174輛（[[アメリカ陸軍|陸軍]]）<ref>http://www.globalsecurity.org/military/systems/ground/m1-specs.htm</ref>
**M1A1 - 4,393輛（陸軍）<ref>http://www.globalsecurity.org/military/systems/ground/m1-specs.htm</ref>
**M1A1 - 403輛（[[アメリカ海兵隊|海兵隊]]）<ref>http://www.globalsecurity.org/military/systems/ground/m1-specs.htm</ref>
性能を限定したM1A2は、クウェート・サウジアラビア、M1A1はエジプト・オーストラリアに輸出された。
[[画像:Abrams in Tahrir.jpg|thumb|250px|[[エジプト軍]]のM1A1]]
*{{AUS}}
**M1A1 - 59輛<ref>[http://www.anao.gov.au/director/publications/auditreports/2007-08.cfm?item_id=A80C477D1560A6E8AA0CE1B9B0FB5AA8] Australian National Audit Office report on the DMO project Land 907</ref>
*{{EGY}}
**M1A2相当 - 1,005輛（M1A1からのアップグレード755輛 及び M1A2 250輛）<ref>http://www.militarium.net/wojska_ladowe/m1_abrams.php</ref>
*{{KWT}}
**M1A2 - 218輛<ref>http://www.militarium.net/wojska_ladowe/m1_abrams.php</ref>
*{{SAU}}
**M1A2 - 315輛
**M1A1 - 73輛<ref>http://www.militarium.net/wojska_ladowe/m1_abrams.php</ref>
*{{IRQ}}
**M1A1M - 140輌を導入予定<ref>http://www.defenseindustrydaily.com/M1-Abrams-Tanks-for-Iraq-05013/</ref>
{{-}}

== 登場作品 ==
{{main|M1エイブラムスに関連する作品の一覧}}

== 出典・脚注 ==
<references/>

== 関連項目 ==
* [[アメリカ軍]]
** [[アメリカ陸軍]]
** [[アメリカ海兵隊]]
* [[湾岸戦争]]
** [[湾岸戦争症候群]]
* [[イラク戦争]]
** [[劣化ウラン弾]]
* [[戦車一覧]]

== 外部リンク ==
{{Commons|M1 Abrams}}
* [http://www.army.mil/factfiles/equipment/tracked/abrams.html アメリカ陸軍factfile]
* [http://eaglet.skr.jp/MILITARY/M1.htm M1エイブラムス]{{ja icon}}

{{現代戦車}}
{{第二次世界大戦後のアメリカの装甲戦闘車両}}
{{デフォルトソート:M1えいふらむす}}
[[Category:アメリカ合衆国の戦車]]
[[Category:主力戦車]]
[[Category:湾岸戦争]]
[[Category:ガスタービンを動力とする戦闘車両]]

{{Link FA|de}}
{{Link FA|hu}}