酒精強化ワインのソースを表示

[[画像:Port wine.jpg|300px|thumb|right|グラスに入ったトウニー・ポート]]
'''酒精強化ワイン'''（しゅせいきょうかワイン）は、[[醸造]]過程で[[アルコール]]（[[エタノール|酒精]]）を添加することで[[アルコール度数]]を高めた[[ワイン]]。'''フォーティファイド・ワイン'''（fortified wine）とも呼ばれる。[[赤ワイン]]、[[白ワイン]]ともに作られている。

ワインをベースに各種[[香辛料|スパイス]]・[[ハーブ]]などの[[蒸留酒]]や浸出液または[[果汁]]などを加えたものは[[フレーバードワイン]]として別記し、本項目には含めない。

== 概要 ==
酒精強化ワインは[[イベリア半島]]など気温が高く温度管理が難しい[[ブドウ]]栽培地域において、[[酸化]]・[[腐敗]]防止など保存性を高めると同時に、味わいに個性を持たせるために工夫されたワイン群である。また、保存性の良い酒精強化ワインは長期の輸送に耐えるため、船便による遠国への輸出にも向いたものであった。特に[[スペイン]]や[[ポルトガル]]のものは、[[18世紀]]に英仏関係が悪化して[[フランス]]との取引が低迷した[[イギリス]]へワインを輸出するために発達したとも言われている。

酒精強化は、液中のアルコール分が一定量を超えると[[酵母]]が働かなくなり、[[アルコール発酵]]による[[糖]]の分解が止まる現象を利用している。添加アルコールには、ワインと同様にブドウを原料とした[[ブランデー]]が多く用いられる。通常のワインのアルコール度数が概ね10-14度であるのに対し、酒精強化ワインは18度前後になる。発酵のどの段階でアルコールを加えるかで甘口・辛口の違いが生じる。基本的に、未発酵もしくは発酵途中に加えると糖分が多く残るために甘口、発酵後に加えたものは辛口となる。[[食前酒]]（アペリティフ）または[[食後酒]]（[[デザートワイン]]）として利用される。前者は酒精強化ワインの高いアルコール分による[[胃]]への刺激、[[食欲]]の増進を期待したもので、辛口のドライ・シェリーなどが好まれる。後者としては、[[消化]]の促進とともに食後の満足感を高める甘口のものが向く。飲用の他、[[菓子]]の風味付けや[[料理]]の[[ソース (調味料)|ソース]]などにも利用される。

== 主な酒精強化ワイン ==
代表的なものには[[スペイン]]の[[シェリー (ワイン)|シェリー]]、[[ポルトガル]]の[[ポートワイン]]・[[マデイラワイン]]、[[イタリア]]の[[マルサラワイン]]などがある。これらは特に4大酒精強化ワイン、もしくはマルサラを除いて3大酒精強化ワインと呼ばれる。
[[画像:Del Duque Amontillado Sherry.jpg|right|thumb|150px|シェリー・アモンティリャード]]
[[画像:Justino Henriques Madeira wine, colheita 1996.JPG|thumb|right|150px|マルムジー・タイプのマデイラ・コルエイタ]]
[[画像:Marsala Wine.jpg|thumb|right|150px|マルサラ・フィーネのボトルとグラス]]
[[画像:Revin-03.jpg|thumb|right|150px|ピノ・デ・シャラント V.D.L.]]

=== スペイン ===
; [[シェリー (ワイン)|シェリー]]
: [[スペイン]]南部[[アンダルシア州|アンダルシア]]地方、[[カディス]]に近い3つの町、[[ヘレス・デ・ラ・フロンテーラ]]、[[サンルーカル・デ・バラメーダ]]、[[エル・プエルト・デ・サンタ・マリア|エル・プエルト・デ・サンタ・マリーア]]周辺が産地。呼称統制があり、この地方で作られたブドウを用い、この場所で製造されたワインのみがシェリーの名を許される。主な栽培品種はパロミーノ、ペドロ・ヒメネスである。以下のタイプがあり、いずれもソレラ・システムという独特の熟成手法が採られる。詳細は[[シェリー (ワイン)|シェリー]]を参照。
:* フィノ ： 軽い辛口。パロミノ種のみから作られる。アルコール分は15-17度。
:* アモンティリャード ： フィノをさらに熟成させたタイプ。琥珀色で口当たりがよい。
:* オロロソ： 独特の香味とこくが特徴。20-24度。オロロソはさらにラージャ、オロロソ、パロ・コルタド、クリームの4タイプに分けられる。
:* ペドロ・ヒメネス ： ブドウの品種名でもある。13度前後。甘口。
:* マンサニージャ ： サンルカール・デ・バラメダ産のフィノ・タイプ。
; [[マラガワイン]] {{enlink|Malaga (wine)|Malaga wine}} 
: 同じくアンダルシア地方の港町[[マラガ]]で生み出される酒精強化ワイン。マラガは[[古代ローマ|ローマ時代]]からワイン産地として知られる。栽培品種はペドロ・ヒメネス、モスカテルなどで、大半が白ワイン。

=== ポルトガル ===
; [[ポートワイン]]
: ポルトー・ワインとも。日本に初めてもたらされたワインとされており、その出荷港が[[ポルト|ポルト港]]であったためにこの名が付いた。[[ポルトガル]]北部の[[ドウロ川]]沿岸が産地。原料となるブドウの品種は多彩で、全29種がポートワインの推奨品種となっている。発酵途中にブランデーを加えるため甘口となる。[[オーストラリア]]や[[南アフリカ]]でもポート・タイプのワインが作られている。ポートワインには以下のタイプがある。詳細は[[ポートワイン]]を参照。
:* ルビー・ポート ： 若い甘口で熟成期間が2-3年と短く、果実香が豊か。もっとも一般的なタイプ。
:* ホワイト・ポート ： 白ブドウを原料とする。甘口から辛口まである。
:* トウニー・ポート ： 黄褐色をしている。熟成期間は10年程度。安価なものから高級品まで。
:* ヴィンテージ・ポート ： 作柄のよい年に収穫されたブドウだけで作られる高級品。さらに澱を丁寧に除いたレイト・ボトルド・ヴィンテージ・ポートもある。

; [[マデイラワイン]]
: [[モロッコ]]の西600キロの海上にある[[マデイラ島]]（ポルトガル領）で作られる。発酵させたブドウ果汁を樽詰めし、樽ごと乾燥炉に入れて約50度で3-6ヶ月間加熱処理（エストファ）した上でブランデーを加える。マデイラワインには以下のタイプがある。
:* セルシアル ： 辛口
:* ヴェルデーリョ ： 中辛口
:* ブアル ： 中甘口
:* マルムジー ： 暗褐色をした甘口

=== イタリア ===
; [[マルサラワイン]] {{enlink|Marsala wine}} 
: [[シチリア]]島が産地。1773年、イギリスの商人ジョン・ウッドハウスが[[マルサラ]]でマデイラワインをまねて作ったのが最初とされる。熟成度合によって以下の3タイプがある。
:* フィーネ ： 4ヶ月以上熟成。甘口。
:* スペリオーレ ： 2年以上熟成。辛口が主体。
:* ヴェルジーネ ： 5年以上熟成。辛口。

=== フランス ===
; [[ヴァン・ド・リクール]] {{enlink|Vins de liqueur}}
: 未発酵の果汁にアルコールを添加し、数年の熟成を経て馴染ませたもの。アルコールとして[[コニャック]]を用いる[[シャラント県]][[コニャック (コミューン)|コニャック]]の[[ピノ・デ・シャラント]]（[[:en:Pineau des Charentes|Pineau des Charentes]]）や、同じく[[アルマニャック]]を添加する[[フロック・ド・ガスコーニュ]]（[[:en:Floc de Gascogne|Floc de Gascogne]]）などが有名。
; [[ヴァン・ドゥー・ナチュレル]] {{enlink|Vin doux naturel}}
: 天然甘口ワイン、もしくは天然甘味ワイン。発酵中にアルコール添加するため甘口。栽培品種はマカベオ、グルナッシュ、マルヴォワジー、ミュスカなど。赤ワインでは[[チョコレート]]と共に供される[[バニュルス]]（[[:en:Banyuls AOC|Banyuls]]）や[[リヴザルト (ワイン)|リヴザルト]]（[[:en:Rivesaltes AOC|Rivesaltes]]）、白では[[ミュスカ・ド・リヴザルト]]（[[:en:Muscat de Rivesaltes AOC|Muscat de Rivesaltes]]）などがある。ヴァン・ドゥー・ナチュレルの製法は[[13世紀]]に[[モンペリエ大学]]のアルノー・ド・ヴィルヌーヴ（[[:en:Arnaldus de Villa Nova|Arnaldus de Villa Nova]]）によって確立され、現代では[[ラングドック＝ルシヨン地域圏]]や[[コート・デュ・ローヌ]]において一般的なものとなった（[[ラングドック＝ルシヨンのワイン]]も参照のこと）。このタイプの白ワインは、ミュスカ・ド・リヴザルトをはじめとして[[ミュスカ・ドゥ・ボーム・ドゥ・ヴニーズ]]（[[:en:Muscat de Beaumes-de-Venise AOC|Muscat de Beaumes-de-Venise]]）、ミュスカ・ド・フロティニアン（[[:en:Muscat de Frontignan|Muscat de Frontignan]]）、ミュスカ・ド・リュネル（[[:en:Muscat de Lunel|Muscat de Lunel]]）、ミュスカ・ド・ミルヴァル（[[:en:Muscat de Mireval|Muscat de Mireval]]）、ミュスカ・ド・サン・ジャン・ド・ミネルヴォワ（[[:en:Muscat de St-Jean Minervois|Muscat de St-Jean Minervois]]）などの名前が示すように、すべて[[マスカット (ブドウ)|マスカット]]から造られている。一方赤ワインであるバニュルスやモーリー（[[:en:Maury AOC|Maury]]）には[[グルナッシュ]]が使われている。<!-- これは vins de dessert、つまりデザートワイン全般ではないでしょうか。
=== その他 ===
; [[ヴァン・ド・デセール]]
: イタリア、[[キプロス]]、オーストラリアなどで作られる甘口のデザートワイン。
-->

== 参考図書 ==
* {{Cite book|和書
|author=
|editor=講談社
|year=1996
|title=世界の名酒事典
|publisher=講談社
|id=ISBN 4-06-207815-5
}}
* {{Cite book|和書
|author=辻静雄
|editor=
|year=2000
|title=ワインの本
|publisher=新潮文庫
|id=ISBN 4-10-127502-5
}}
* {{Cite book|和書
|author=木村克己
|editor=
|year=2006
|title=ワインの教科書
|publisher=新星出版社
|id=ISBN 978-4405091412
}}
* {{Cite book|和書
|author=野田宏子
|editor=
|year=2006
|title=ベスト・ワイン
|publisher=ナツメ社
|id=ISBN 978-4-8163-4108-3
}}
* {{Cite book|和書
|author=辻調理師専門学校・山田健 監修
|editor=
|year=2007
|title=ワインを愉しむ基本大図鑑
|publisher=講談社
|id=ISBN 978-4062136945
}}

== 関連項目 ==
{{Commonscat|Fortified wine}}
* [[フレーバードワイン]]
* [[リキュール]]
* [[強化ワイン]]
* [[味醂]]　製法が類似している

{{ワイン}}
{{DEFAULTSORT:しゆせいきようかわいん}}
[[Category:ワイン]]
<!--仏語版は [[fr:Vin doux naturel]] が酒精強化の主記事-->