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'''放射光'''(ほうしゃこう、Synchrotron Radiation )は、'''シンクロトロン放射'''による[[電磁波]]である。「[[光]]」とあるが、実際は、人工のものでは[[赤外線]]から[[X線]]、天然のものでは[[電波]]から[[γ線]]の範囲のものがあり、特に可視光に限定して呼ぶことは少ない。また、電磁波が[[放射]]される現象は他にも多くあるが、シンクロトロン放射による電磁波に限り放射光と呼ぶ。 シンクロトロン放射は、高[[エネルギー]]の電子等の[[荷電粒子]]が[[磁場]]中で[[ローレンツ力]]により曲がるとき、電磁波を放射する現象である。「[[シンクロトロン]](同期式円形[[粒子加速器|加速器]])」と名が付いているが成因を問わずこう呼ぶ。放射光と呼ぶのは人工のものであることが多い。 ==特徴== 放射光の特徴としてはまず、著しい[[指向性]]にある。荷電粒子の速度が光速に近くなると、[[特殊相対性理論|相対論]]的効果によって軌道の接線方向に光が集中し、指向性の高い強力な光となる。普通の[[光源]]が全方位に対して[[光]]を放出するのとは対照的である。また、極めて光度が強い白色光である事が挙げられる。他にもパルス光である、光源から[[光子|フォトン]]以外を放出しない、等の特徴がある。この放射は理論からの予想と実験が良く一致するので、放射の標準とされる事もある。 このような特性を[[赤外線]]から硬[[X線]]にいたる光源として利用しているのが、放射光施設 (synchrotron radiation facility) と呼ばれる施設である。日本では、[[和歌山毒入りカレー事件]]で亜ヒ酸の分析に用いられ世間で知られることになった。 放射光はシンクロトロン以外にも、磁場の向きが互い違いになるように並べた磁石列によって電子軌道を蛇行させ、放射光を発生させる装置「[[アンジュレータ]]」によっても得ることができる。アンジュレータでは干渉効果によって極めて高い輝度を得ることができる。[[アンジュレータ]]は、通常の[[レーザー]]では発生させることができない[[真空紫外]]、[[軟X線]]、[[X線]]領域のレーザーとして開発されている[[自由電子レーザー]]の光源部分としても用いられている。 ==歴史== 放射光そのものが理論的に予測されたのは[[1946年]]。翌[[1947年]]に電子シンクロトロンで実際に放射光が観察された。当時、放射光は素粒子実験用の加速器にとって、エネルギー損失に過ぎないとみなされていた。 この欠点を逆手にとって、積極的に物性研究に利用しようというのが、放射光研究のスタートだった。最初の本格的な研究は[[1963年]]、アメリカNBSで行われた真空紫外光による分光実験である。日本でも[[1965年]]に[[東京大学|東大]]原子核研究所([[田無市]])の電子シンクロトロン(INS-ES)で一連の実験がなされている。ただし、これらの実験はいずれも、加速器から捨てられる光を一時的に使用するという“寄生的”な実験に過ぎなかった。 初期の放射光は真空紫外の波長領域に留まっていたが、その後、電子-陽電子衝突実験用の加速器の電子エネルギーが増大していくことに伴い、より短波長のX線領域の放射光が得られるようになった。また、高エネルギー加速器に素粒子を供給する「蓄積リング」を共用することで、より安定した放射光が供給されるようになった。こうした実験環境の整備に伴い、放射光実験の有用性が広く認識されるようになった。 1970年代からは、放射光専用に設計された「第2世代」が造られるようになった。日本では[[1975年]]に世界初の放射光専用リングSOR-RINGが立ち上がっている。[[1982年]]には筑波の[[高エネルギー加速器研究機構|高エネルギー物理学研究所]](当時)に「[[PFリング|フォトンファクトリー]]」が完成した。この加速器はその後も改良を続け、現在でも第一線級の放射光施設として運用されている。 1990年代以降、「アンジュレータ」を組み込んだ「第3世代」の建設が世界各国で始まっている。アンジュレータによって、極めて高い輝度を得ることができる。このような技術が可能になった背景の一つは、[[ネオジム]][[磁石]]のような強力な磁石が開発され、強い磁場を安定して加えることができるようになったことである。<!--[[大阪大学]]、[[広島大学]]、[[立命館大学]]で[[リングサイクロトロン]]が運用されている。-->[[2009年]]現在、稼動している第3世代放射光施設としては、[[SPring-8]](1997年、理研・原研、日本)、APS([[1996年]]、米国エネルギー省)、ESRF([[1994年]]、ヨーロッパ18カ国共同開発、フランス)などがある。 == 用途 == * [[エックス線吸収微細構造|XAFS(X線吸収微細構造)]] - [[原子]]([[元素]])のまわりの構造がわかる。自動車用排ガス浄化[[触媒]]などの触媒材料の開発や生体中の[[微量元素]]の構造分析などに応用 * [[蛍光X線]]分析 - 試料の元素[[分析]]。材料科学、[[環境科学]]、[[医学]]、[[生物学]]、[[考古学]]、科学[[鑑定]]などへ応用 * [[光電子分光]] - 光照射によって放出される[[光電子]]をエネルギー分析することで、物質の表面や内部の[[電子状態]]を調べる手法。先端材料やデバイス開発などに応用 * [[光電子顕微鏡]] - 光電子顕微鏡法は、光電子分光法と顕微観察手法を融合させた空間分解能を有する分光手法 * [[X線吸収分光法]] - X線の吸収を観測することによって、物質の[[電子状態]]、特に非占有軌道の情報を得る手法。 * [[X線発光分光法]] - X線の照射によって引き起こされるX線領域の発光を分光することで物質の[[電子状態]]を調べる手法。光を観測する手法であるため、測定試料の制約がなく、帯電してしまう試料や液体などの測定も可能。 * [[X線回折]] - [[結晶構造]]の情報から、地球内部の[[マグマ]]や[[タンパク質]]の構造などがわかる。新薬開発に応用 * [[X線小角散乱]] - 数ナノメートルレベルでの規則構造の分析などに用いられている。蛋白質の溶液内の構造、液体構造、微粒子、液晶、合金の構造などの研究に利用されている。 * [[イメージング]] - 放射光を用いてX線撮影([[X線写真]]を参照)すると通常のX線より格段に[[解像度]]の高い映像が得られるので、微小な[[隕石]]の構成物質の分析や初期ガンの発見に利用できる * [[LIGA]]プロセス - 放射光の高い指向性・透過力が[[ナノ]]レベルでの材料の加工に応用できることから、[[MEMS]]での微細構造の作成に利用 == 関連項目 == * [[自由電子レーザー]] * [[材料工学]](材料科学) * [[物質科学]] - [[物性物理学]] * [[分析化学]] * [[地球科学]] * [[生命科学]] - [[構造生物学]] * [[医学]] - [[腫瘍学]] * [[原子核物理学]] * [[日本放射光学会]] ==外部リンク== ===放射光の解説=== * [http://prwww.spring8.or.jp/intro_sr/ 放射光入門] ===放射光施設=== *日本, 兵庫県西播磨, [[SPring-8]] **http://www.spring8.or.jp/ *日本, 茨城県つくば市, [[PFリング|KEK放射光研究施設]] (PF) **http://pfwww.kek.jp/ *日本, 愛知県岡崎市, [[自然科学研究機構]][[分子科学研究所]]極端紫外光研究施設 (UVSOR-II) **http://www.uvsor.ims.ac.jp/ *日本, 兵庫県西播磨, [[兵庫県立大学#附属機関|兵庫県立大学高度産業科学技術研究所]][[ニュースバル]] (NewSUBARU) **http://www.lasti.u-hyogo.ac.jp/NS/Index-J.html *日本, 広島県東広島市, [[広島大学放射光科学研究センター]] (HiSOR) **http://www.hsrc.hiroshima-u.ac.jp/index.html *日本, 佐賀県鳥栖市, [[佐賀県立九州シンクロトロン光研究センター]] (SAGA-LS) **http://www.saga-ls.jp/ *日本, 滋賀県草津市, [[立命館大学SRセンター]] **http://www.ritsumei.ac.jp/acd/re/src/index.htm *フランス, Grenoble, European Synchrotron Radiation Facility (ESRF) **http://www.esrf.fr/ *米国, Argonne, Advanced Photon Source (APS) **http://www.aps.anl.gov/ *米国, Berkeley, Advanced Light Source (ALS) **http://www-als.lbl.gov/ *台湾, Hsinchu, Taiwan Light Source (TLS) **http://www.srrc.gov.tw/ *韓国, Pohang, Pohang Light Source (PLS) **http://pal.postech.ac.kr/ ===学会=== * [http://www.jssrr.jp/ 日本放射光学会] [[Category:素粒子物理学|ほうしやこう]] [[Category:電磁波|ほうしやこう]] [[Category:加速器|ほうしやこう]] [[Category:分析化学|ほうしやこう]]
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