大平正芳のソースを表示

{{政治家
|人名 = 大平 正芳
|各国語表記 = おおひら まさよし
|画像 = Masayoshi Ohira at Andrews AFB 1 Jan 1980 walking cropped 2.jpg
|画像サイズ = 250px
|画像説明 = 1980年4月30日<!--下に詳述-->
|国略称 = {{JPN}}
|生年月日 = [[1910年]][[3月12日]]
|出生地 = {{JPN}} [[香川県]][[三豊郡]][[和田村 (香川県)|和田村]]
|没年月日 = {{死亡年月日と没年齢|1910|3|12|1980|6|12}}
|死没地 = {{JPN}} [[東京都]][[港区 (東京都)|港区]]
|出身校 = [[東京商科大学]]（現・[[一橋大学]]）
|前職 = [[大蔵省]]官僚・大臣秘書官
|現職 = 
|所属政党 = （[[自由党 (日本 1950-1955)|自由党]]→）<br />[[自由民主党]]
|称号・勲章 = [[正二位]]<br />[[大勲位菊花大綬章]]<br />衆議院永年在職議員<br />商学士
|親族（政治家） = 兄：大平数光（豊浜町長）<br />女婿：[[森田一]]（衆議院議員）
|配偶者 = 
|サイン = OhiraM kao.png
|ウェブサイト = 
|サイトタイトル = 
|国旗 = JPN
|職名 = 第68-69代 [[内閣総理大臣]]
|内閣 = [[第1次大平内閣]]<br />[[第2次大平内閣]]
|選挙区 = 
|当選回数 = 
|就任日 = [[1978年]][[12月7日]]
|退任日 = 1980年6月12日
|退任理由 = 在職のまま死去
|所属委員会 = 
|議員会館 = 
|元首職 = 天皇
|元首 = [[昭和天皇]]
|国旗2 = JPN
|職名2 = 第79-80代 [[大蔵大臣]]
|内閣2 = [[第2次田中角栄内閣 (第1次改造)|第2次田中角栄第1次改造内閣]]<br />[[第2次田中角栄内閣 (第2次改造)|第2次田中角栄第2次改造内閣]]<br />[[三木内閣]]<br />[[三木内閣 (改造)|三木改造内閣]]
|選挙区2 = 
|当選回数2 = 
|就任日2 = 1974年7月16日
|退任日2 = 1976年12月24日
|元首職2 = 
|元首2 = 
|国旗3 = JPN
|職名3 = 第100-101代 [[外務大臣_(日本)|外務大臣]]
|内閣3 = [[第1次田中角栄内閣]]<br />[[第2次田中角栄内閣]]<br />第2次田中角栄第1次改造内閣
|選挙区3 = 
|当選回数3 = 
|就任日3 = 1972年7月7日
|退任日3 = 1974年7月16日
|元首職3 = 
|元首3 = 
|国旗4 = JPN
|職名4 = 第31代 [[通商産業大臣]]
|内閣4 = [[第2次佐藤内閣 (第2次改造)|第2次佐藤第2次改造内閣]]
|選挙区4 = 
|当選回数4 = 
|就任日4 = 1968年11月30日
|退任日4 = 1970年1月14日
|元首職4 = 
|元首4 = 
|国旗5 = JPN
|職名5 = [[衆議院|衆議院議員]]
|内閣5 = 
|選挙区5 = [[香川県第2区_(中選挙区)|香川県第2区]]
|当選回数5 = 11回
|就任日5 = 1952年10月2日
|退任日5 = 1980年6月12日
|退任理由5 = 在職のまま死去
|元首職5 = 
|元首5 = 
|国旗6 = JPN
|その他職歴1 = 第92-93代 外務大臣
|就任日6 = 1962年7月18日
|退任日6 = 1964年7月18日
|国旗7 = JPN
|その他職歴2 = 第21-22代 [[内閣官房長官]]
|就任日7 = 1960年[[7月19日]]
|退任日7 = 1962年7月18日
}}
'''大平 正芳'''（おおひら まさよし、[[1910年]]（[[明治]]43年）[[3月12日]] - [[1980年]]（[[昭和]]55年）[[6月12日]]）は、[[日本]]の[[大蔵省|大蔵]][[官僚]]､[[政治家]]。[[位階]]は[[正二位]]。[[勲等]]は[[大勲位菊花大綬章|大勲位]]。

[[衆議院議員]]（11期）、[[内閣官房長官]]（第[[第1次池田内閣|21]]・[[第2次池田内閣|22]]代）、[[外務大臣 (日本)|外務大臣]]（第[[第2次池田第2次改造内閣|92]]・[[第3次池田内閣|93]]・[[第1次田中角栄内閣|100]]・[[第2次田中角栄内閣|101]]代）、[[通商産業大臣]]（[[第2次佐藤第2次改造内閣|第31代]]）、[[大蔵大臣]]（第[[第2次田中角栄第1次改造内閣|79]]・[[三木内閣|80]]代）、[[内閣総理大臣]]（第[[第1次大平内閣|68]]・[[第2次大平内閣|69]]代）などを歴任した。

==来歴・人物==
===生い立ち===
[[香川県]][[三豊郡]][[和田村 (香川県)|和田村]]（現[[観音寺市]]）の農家・大平利吉と妻・サクの三男として生まれる。兄2人、姉3人、弟妹がそれぞれ1人ずつの8人兄弟だったが、正芳が生まれた時長女は満1歳で、兄の1人も2歳半で既に亡くなっていた<ref>福永文夫『大平正芳』（中央公論新社、2001年）15頁。</ref>。父利吉は学歴こそ無かったものの村会議員や水利組合の総代を務めていた。また利吉は書をたしなみ，和漢の古典にもよく通じた読書家で、正芳の読書好きや漢籍への造詣も父の影響を強く受けている。大平は「讃岐の貧農の倅」と称したが生家は中流に属していた。それでも子供6人を抱えた大平家の生活は苦しいもので、正芳も幼い頃から内職を手伝ってして家計を支えていた<ref>『大平正芳』 16-17頁。</ref>。

===学生時代===
和田村立大正尋常高等小学校（現[[観音寺市立豊浜小学校]]）、旧制三豊中学校（現[[香川県立観音寺第一高等学校]]）に進んだ。当時、中学校に進学する者は学級で2〜3人程度で、次男・三男には分けてやるものはないからせめて学業くらいは修めさせてやろうという利吉の気遣いからだった。兄の大平数光は高等小学校を卒業して家業を継ぎ、後に豊浜町長となって大平の地元での選挙活動を支援した。中学時代の大平は温厚で目立たない少年で、級友たちは後に政治家になった大平に当惑したという<ref>『大平正芳』 19-20頁。</ref>。

1926年（[[大正]]15年）、三豊中4年の時大平は[[腸チフス]]に罹り4か月間生死の境をさまよった。家計に負担をかけないため[[海軍兵学校 (日本)|海軍兵学校]]を受験したが、受験前に急性[[中耳炎]]を患い身体検査で不合格となった。1927年（[[昭和]]2年）夏、父利吉が急死する。翌1928年（昭和3年）4月、経済的に恵まれなかったものの親戚からの援助や奨学金を得て[[高松高等商業学校]]（現[[香川大学]]経済学部）に進学<ref>『大平正芳』 24頁。</ref>。

高商に入学した春、元[[東北大学|東北帝国大学]]教授で宗教家の[[佐藤定吉]]が講演に訪れた際[[キリスト教]]に出会った。自身の病や父の死を立て続けに経験した大平はキリスト教に傾倒し、1929年暮れに観音寺教会で洗礼を受けた<ref>『大平正芳』 25-26頁。</ref>。

卒業後の進路について大平は大学への進学を希望したものの経済的に厳しく断念せざるを得なかった。母は四国水力（現[[四国電力]]）への就職を望んでいたようだが[[昭和恐慌]]の煽りを受け採用自体が無かったため進学も就職も決まらない状態にあったところ、[[桃谷勘三郎]]の[[食客]]となり[[桃谷順天館]]で化粧品業に携わった。大平は信仰の師である佐藤の発明した薬品を商品化するとのことで桃谷の誘いを受け大阪に出てきたものの、一向に商品化される様子はなく、自身の生き方について葛藤する日々を過ごした<ref>『大平正芳』 27-28頁。</ref>。

1933年（昭和8年）、再び学業に戻ることを決意した大平は[[綾歌郡]]坂出町（現[[坂出市]]）の鎌田共済会と香川県育英会の2つの奨学金を得て[[東京商科大学]]（現[[一橋大学]]）に進学した<ref>『大平正芳』 27頁。</ref>。大平23歳の時のことである。[[文京区]][[千駄木]]に居を構え、在学中大平は経済哲学の[[杉村広蔵]]助教授、法律思想史の[[牧野英一]]教授らの講義を手当たり次第に履修した<ref>『大平正芳』 28頁。</ref>。なかでも経済思想史に強い関心をもった大平は2年に進級すると[[上田辰之助]][[ゼミナール]]に参加した。恩師上田について大平は「経済学者というよりも、むしろ社会学者であり、社会学者である前に実のところ言語学者であられた」と評している<ref>『大平正芳』 29頁。</ref>。卒業論文は「職分社会と同業組合」<ref>『大平正芳』 30頁。</ref>。また、大平は「わたしの思想というものが仮にあるとすれば（杉村先生の思想が）それをつくるものの考え方の素材となっている」と述べ<ref>『大平正芳』 29頁、『在素知贅・大平正芳発言集』（大平正芳記念財団,1996年）</ref>、杉村の著書『経済倫理の構造』（[[岩波書店]]、1938年）は死の直前まで大平の傍らに置かれていた<ref>『大平正芳』 29頁。</ref>。大学在学中も引き続きキリスト教の活動にも精力的に参加し、[[キリスト教青年会|YMCA]]活動に従事した<ref>『大平正芳』 28頁。</ref>。

===大蔵省時代===
1935年（昭和10年）、[[高等文官試験|高等試験]]行政科試験合格。特に官吏志望だったわけではなく、学校時代から[[別子銅山]]の煙を見て育ち、また[[川田順]]を愛読していた大平は[[住友財閥|住友]]系の企業への憧れを持っていた。ところが当時[[大蔵次官]]だった同郷の[[津島壽一]]に挨拶に行った折、「ここで採用してやる」という型破りな方法で大蔵省への採用が決まった<ref>『大平正芳』 32頁。</ref>。1936年入省、預金部に配属。以後、税務畑を中心に以下の役職を歴任した。

*1937年（昭和12年） - 横浜税務署長<ref>『大平正芳』 34頁。</ref>。当時東京税務監督局直税部長だったのが池田勇人で、以後しばしば部下として会う。
*1938年（昭和13年） - 仙台税務監督局間税部長。どぶろく退治に尽力。
*1939年（昭和14年） - [[興亜院]]にて大陸経営にかかわり、1939～40年に[[張家口]]の[[蒙古聯合自治政府|蒙疆連絡部]]で勤務した他<ref>倪志敏「大平正芳と阿片問題」101–103頁。</ref>、帰国後も頻繁に大陸に出張<ref>『大平正芳』 38-42頁。</ref>。
*1942年（昭和17年） - 本省主計局主査(文部省・南洋庁担当)。大日本育英会（後の日本育英会、現独立行政法人[[日本学生支援機構]]）の設立に尽力した<ref>『大平正芳』 43-44頁。</ref>。
*1943年（昭和18年） - 東京財務局関税部長。なお、この時の仕事として幾分誇らしげに挙げていたのが[[国民酒場]]の創設である。戦時下の耐乏生活による国民の疲れを癒すことが目的だった<ref>『大平正芳』 43-45頁。</ref>。
*1945年（昭和20年） - 津島壽一大蔵大臣の秘書官<ref>『大平正芳』 45頁。</ref>
*1946年（昭和21年） - 初代給与局第三課長<ref>『大平正芳』 54頁。</ref>
*1948年（昭和23年） - [[経済安定本部]]建設局公共事業課長<ref>『大平正芳』 55頁。</ref>
*1949年（昭和24年） - [[池田勇人]]蔵相秘書官。以後[[1952年]]まで務める<ref>『大平正芳』 56頁。</ref>。秘書官時代、大平は[[安岡正篤]]に歴史上一番偉い秘書官は誰かと質問したところ、安岡は[[織田信長]]の草履取りで信長の欠点を知り尽くした[[豊臣秀吉]]だと答えた。大平は「貧乏人は麦を食え」に代表される欠点だらけの池田に仕えることで政治家になるための経験を積んだという<ref>『大平正芳』 59-60頁。</ref>。
*1950年（昭和25年） - [[国税庁]]関税部消費税課長兼任

=== 政治家としての活動 ===
====池田側近として====
1952年（昭和27年）、大蔵省時代の上司だった池田勇人の誘いを受け、大蔵省を退官し[[自由党 (日本 1950-1955)|自由党]]公認で[[衆議院議員]]に立候補し当選<ref>『大平正芳』 62-65頁。</ref>。以後、連続当選11回。

[[宮澤喜一]]や[[黒金泰美]]らと池田勇人側近の秘書官グループと呼ばれる<ref>『大平正芳』 79頁。</ref>。[[1960年]]（昭和35年）に[[第1次池田内閣]]で[[内閣官房長官]]に就任<ref>『大平正芳』 89頁。</ref>。「低姿勢」をアピールする同内閣の名官房長官と評された<ref>『大平正芳』 93頁。</ref>。[[第2次池田内閣]]・[[第2次池田内閣第1次改造内閣]]でも官房長官を務め、続く[[第2次池田内閣第2次改造内閣]]で[[外務大臣 (日本)|外務大臣]]<ref>『大平正芳』 100頁。</ref>に就任した。外相時代は[[大韓民国|韓国]]との国交正常化交渉を巡って、[[金鍾泌]]中央情報部長との間で最大の懸案だった請求権問題で合意（いわゆる「金・大平メモ」62年11月12日）、日韓交渉で最も大きな役割を果たした政治家である<ref>倪志敏「大平正芳と日韓交渉一『大平・金メモ』の議論を中心に一」 159頁。</ref>。中国大陸との関係に関しては、経済的、地政学的、また極東の政治的現実の観点から、「長崎国旗事件」によって途絶えた日中関係を現実的な重大な課題として受け止め、前向きな姿勢で対中関係の改善に取り込んだ。アメリカが主導する「中国封じ込め」政策に苦しみつつも、日中経済貿易関係の拡大を執拗に追求した。LT貿易の成立、貿易連絡事務所の相互設置と新聞記者交換の実現等、日中関係はこれまでに見られないほど進展した<ref>倪志敏「池田内閣における中日関係と大平正芳（その3）」59－60頁。</ref>。

==== 原子力・核問題への対応 ====
また、主として外相時代に[[日米核持ち込み問題]]において、当事者としてアメリカとの核密約の取り交わしに関わる。外相時代には[[キューバ危機]]の煽りで在日米軍・自衛隊が臨戦態勢を取っており、核・原子力関連の問題が多かった。1963年（昭和38年）1月には[[エドウィン・ライシャワー]]駐日大使を通じて[[原子力潜水艦]]の寄港申し出でがあり、世間でも議論の的となった。この件については1年8か月かけて日米で技術的な照会や、[[原子力委員会]]での審議を重ねた後閣議で承認されたが、大平の秘書官を務めた[[森田一]]によれば、実際には1963年（昭和38年）4月にライシャワーから密約の存在を伝えられ苦悩していたと言う<ref>[http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121801000628.html 核密約認める回顧録出版へ　大平首相元秘書官の森田氏] 『共同通信』2009年12月18日 16時56分配信</ref>。

なお、核密約の方は大平もまた、公にその存在を公表することは無かったのだが、自民党の機関誌『政策月報』にて核・原子力関係の問題について語っている。その中で社会党が取っていた原子力技術全般への反対姿勢を核アレルギーを感情的に煽っている旨批判している他、原子力に対しての認識として次のように述べている。

{{quotation|'''大平'''　（注：寄港申し出が）非常にショッキングなできごとのように取り上げられたので、わたし自身も多少驚いたのでございます。しかし、民主主義の政治においては、われわれ政治をやる者がこう思うからというだけではいけないので、やはり国民全体が理解し、それに協力するという雰囲気ができ、それで政策が実行に移されることが望ましいし、またそうすべきでございます。（中略）その論議は事実を踏まえた上で公正に行われるべきだと思います。<br />'''大平'''　核兵器とか言いますと、一般の受ける印象は非常に悪魔のようにつよい。（中略）核兵器と言う、みんなが悪魔みたいにみているものの持っている戦争抑止力というものに依存しておるということだから、これを一がいに平和の敵であるというような考え方は、非常に危険な考え方になるのではないだろうか。<br />'''大平'''　日本は一番、パブリックリレーション（広報・相互理解<!--括弧原文ママ-->）の面で弱いですね。<br />'''大平'''　今日、原子力潜水艦の安全性というようなことから、今度は議論の焦点が最近は[[サブロック (ミサイル)|サブロック]]に移ってきたようだけれども<ref>サブロックは潜水艦用の核弾頭付ミサイルである。対談でも触れられているが、当時サブロックはまだ開発中であった。</ref>（中略）事態が進みまして、こういったものの寄港問題が新しく出てくれば、それは事前協議の新しい問題として出てくるわけでございまして、いまの問題に関する限りは全然関係のない論議じゃないか。こういう論議に反対論の論調が集中してきたということは、逆に見れば本体のほうにあまり問題がなくなっているのではないかという感じがするのですね<ref>なお、サブロックに関する発言での小見出しは「核兵器と潜水艦とは別の問題」である。</ref>。|大平正芳 [[西脇安]]<ref>当時[[東京工業大学]][[理学博士]] 専門は[[放射線]]防御工学</ref>「原子力潜水艦寄港問題を語る 対談」『政策月報』1964年9月}}

なお寄港承認直後にもサブロック問題に絡んで当時取り交わし済みだった核密約の再確認を行ったことが、21世紀に入ってから報じられている。[[小泉純也]]防衛庁長官ら新任閣僚が、同ミサイルの配備を事前協議の対象となると指摘したため、米側が危機感を募らせていたからだった<ref>[http://www.47news.jp/CN/200911/CN2009110101000228.html 64年に大平氏と核密約を再確認　米、外相交代で危機感] 『[[共同通信]]』2009年11月01日 16時05分配信</ref>。

====宏池会会長====
次の[[佐藤栄作|佐藤]]政権では[[政調会長]]を務めた後<ref>『大平正芳』 134頁。</ref>、[[第2次佐藤内閣第2次改造内閣|第2次佐藤内閣の2度目の改造内閣]]で[[通商産業大臣]]<ref>『大平正芳』 138頁。</ref>、[[第1次田中角栄内閣|第1次]]・[[第2次田中内閣]]で再び外務大臣<ref>『大平正芳』 166頁。</ref>、第2次田中改造内閣・[[三木内閣]]で[[大蔵大臣]]を務め<ref>『大平正芳』 186・192頁。</ref>、内政外政にかかわる要職を歴任した。

佐藤内閣では通産相として[[日米繊維交渉]]の解決を託され、大平自身も意欲的に取り組んだというが、交渉の進展が芳しくないと感じた佐藤は大平を事実上更迭し、ライバルの[[宮澤喜一]]を後任に据えた（結局宮澤も繊維交渉は解決できず、田中角栄通産相の裁量によって妥結を見る）。

1971年（昭和46年）、「大平クーデター」で[[前尾繁三郎]]にかわって[[宏池会]]会長に就任<ref>『大平正芳』 148-153頁。</ref>、名実ともにポスト佐藤時代のリーダー候補として名乗りをあげた。以後1980年（昭和55年）の死去まで[[派閥]]の領袖の座にあった。

[[三角大福|三角大福]]の争いとなった1972年（昭和47年）総裁選では3位につけ<ref>『大平正芳』 163-165頁。</ref>、その後も田中角栄と盟友関係を続ける<ref>『大平正芳』 186頁。</ref>。田中内閣で外務大臣だったときに[[中華人民共和国|中国]]を訪問、それまでの[[中華民国|台湾]]との[[日華平和条約]]を廃し、新たに[[日中国交正常化|日中の国交正常化]]を実現させた。日中国交正常化における大平の役割について、倪志敏著「田中内閣における中日国交正常化と大平正芳（その１－その４）」が最も詳しい。
その後、1974年（昭和49年）12月の[[田中金脈問題]]で田中が総理を辞任すると、蔵相だった大平はポスト田中の最有力候補となり田中派の後押しを背景に総裁公選での決着を主張。しかし、[[椎名裁定]]により総理総裁は[[三木武夫]]に転がり込んだ<ref>『大平正芳』 188-191頁。</ref>。その裁定には、田中から「うまく負けたな。五十一対四十九で君の負けだ」と述べられた。三木内閣では引き続き蔵相を務めるが<ref>『大平正芳』 192頁。</ref>、この時に値上げ三法案（酒・たばこ・郵便値上げ法案）が廃案になったことによる歳入欠陥に対処するために10年ぶりの[[赤字国債]]発行に踏み切り、以後、日本財政の赤字体質が強まったことが後年の消費税導入による財政健全化への強い思いへとつながっていく<ref>『大平正芳』 214-215頁。</ref>。

1976年（昭和51年）の[[三木おろし]]では再び総裁を狙うが、最終的に[[福田赳夫]]と「2年で大平へ政権を禅譲する」としたいわゆる「[[大福密約]]」の元で大福連合を樹立<ref>『大平正芳』 207-210頁。</ref>。福田内閣樹立に協力し、[[自由民主党幹事長|幹事長]]ポストを得て、福田首相・大平幹事長体制が確立した<ref>『大平正芳』 211頁。</ref><ref>ただし、福田は著書『[[私の履歴書]]』で「大福密約」は存在しなかったとしている。</ref>。[[伯仲国会|保革伯仲国会]]では大平幹事長は「[[部分連合]]（パーシャルれんごう）」を唱えて野党に協調的対応を求め、国会運営を円滑化に努める<ref>『大平正芳』 216-217頁。</ref>。

====総理大臣就任====
1978年（昭和53年）の自民党総裁選挙に福田は「大福密約」を反故にして再選出馬を表明、大平は福田に挑戦する形で総裁選に出馬する<ref>『大平正芳』 221-223頁。</ref>。
事前の世論調査では福田が有利だったが<ref>『大平正芳』 226頁。</ref>、田中派の全面支援の下、総裁予備選挙で福田を上回る票<ref>福田47万2499票に対し大平55万0889票。</ref>を獲得<ref>『大平正芳』 226-227頁。</ref>。この直後の記者会見で、「一瞬が意味のある時もあるが、十年が何の意味も持たないことがある。歴史とは誠に奇妙なものだ」と発言し<ref name="oohira">『大平正芳』 229頁。</ref>、「大福密約」の無意味さについて触れている。この結果を受けて福田は本選を辞退、大平総裁が誕生し<ref>『大平正芳』 227頁。</ref>、1978年[[12月7日]]に第68代内閣総理大臣に就任した<ref name="oohira"/>。

====総理在任中の政策====
[[ファイル:Masayoshi Ohira at Andrews AFB 1 Jan 1980 walking.jpg|thumb|200px|[[1980年]][[4月30日]]、[[アンドルーズ空軍基地]]にて]]
大平は直属の民間人有識者による長期政策に関する研究会を9つ設置し、内政については[[田園都市構想]]、外交においては[[環太平洋連帯構想]]や[[総合安全保障|総合安全保障構想]]などを提唱した<ref>倪志敏「大平正芳内閣と中日関係ー中日緊密化へのプロセス（その2）」58－62頁</ref>。大平政権期の世界は、1978年（昭和53年）に発生した[[イラン革命]]と[[オイルショック|第二次石油危機]]の余波、[[1979年]]（昭和54年）のソ連の[[ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻|アフガニスタン侵攻]]などといった事件によって、「新冷戦時代」と呼ばれる環境にあった。このような情勢への対応として、大平は日米の安全保障関係を日本側から公の場では初めて「同盟国」という言葉で表現し<ref>『大平正芳』 243頁。</ref><ref>[http://avatoli.ioc.u-tokyo.ac.jp/~worldjpn/documents/texts/JPUS/19790502.S1J.html ホワイト・ハウスにおける歓迎式の際の大平内閣総理大臣答辞]</ref>、米国の要望する防衛予算増額を閣議決定した。また「西側陣営の一員」として1980年（昭和55年）の[[モスクワオリンピック]]出場ボイコットを決定、福田前政権の「全方位外交」から転換し、後の[[中曽根康弘]]政権へと継承される対米協力路線を鮮明にした政権だった<ref>『大平正芳』 258・261頁。</ref><ref>[[五百旗頭真]]編『戦後日本外交史』。</ref>。

また、環[[太平洋]]構想によってアジア太平洋地域の経済的な地域協力を模索したり、総合安保構想によって地域経済やエネルギー供給などを含む包括的かつ地球規模での秩序の安定化を図る安全保障戦略を模索したりし<ref>倪志敏「大平正芳内閣と中日関係（その二）－中日緊密化へのプロセス－」　58－60頁。</ref>、「国際社会の一員」としての日本の役割を意識した政策を打ち出した。また、歴史的、地政学の観点から、中国を重視する姿勢を打ち出し、中国の近代化に積極的協力する国策を打ち出した。同年12月に中国を訪問し、政府借款の供与、「日中文化交流協定」に調印等、後の1980年代における日中緊密化の道へと導いた<ref>「大平正芳内閣と中日関係（その三）－中日緊密化へのプロセス－」35－38頁。</ref>。

====四十日抗争と衆参同日選挙====
政権基盤が強固ではなく[[田中角栄]]の影響が強かったことから、大平内閣は「'''角影内閣'''」と呼ばれた。大平を支える[[田中派]]など自民党主流派と福田を支持する[[三木派]]らの反主流派との軋轢は大平の総理就任後も続いた。[[第35回衆議院議員総選挙|1979年衆院選]]では大平の増税発言も響いて自民党が過半数を割り込む結果を招くと<ref>『大平正芳』 247-249頁。</ref>、大平の選挙責任を問う反主流派は大平退陣を要求するが、大平は「辞めろということは死ねということか」として拒否。ここに[[四十日抗争]]と呼ばれる党内抗争が発生し<ref>『大平正芳』 251頁。</ref>、自民党は分裂状態になった。大平は、両派の妥協案として浮上した「総総分離」案<ref>内閣総理大臣と自民党総裁に別人が就くこと。ここでは大平総理、福田総裁の案が示された。それに対して大平は「福田総裁代行」案を提示したが、反主流派の容れるところとはならなかった。</ref>も拒否し、強気の姿勢をとり続ける。

[[特別国会|選挙後国会]]の[[首班指名選挙]]では反主流派が福田に投票した結果、過半数を得る者がなく、決選投票では、[[大平派]]・[[田中派]]・中曽根派渡辺系・新自由クラブの推す大平と、[[福田派]]・[[三木派]]・[[中曽根派]]・中川グループが推す福田の一騎打ちとなった結果、138票対121票<ref>新自由クラブを除く野党<!--（社会党、公明党、共産党、民社党など）--><!--諄々-->は欠席した。</ref>で大平が福田を下して<ref>『大平正芳』 254-255頁。</ref><ref>この138票というのが首班に指名された者が獲得した最も少ない票の記録となっている。</ref>、第2次大平内閣が発足した<ref>『大平正芳』 256頁。</ref>。

これによって自民党内にはかつてない「怨念」が残り、事実上の分裂状態が続いた結果、[[第2次大平内閣]]は事実上の少数与党内閣の様相を呈した。翌年の1980年（昭和55年）5月16日に[[日本社会党|社会党]]が[[内閣不信任決議案]]を提出すると、反主流派はその採決に公然と欠席してこれを可決に追い込んだ。不信任決議案の提出は野党のパフォーマンスの意味合いが強かったため、可決には当の野党も驚き、[[民社党]]の[[春日一幸]]委員長は[[不信任決議案]]が可決された後、「切れないノコギリを自分の腹に当てやがって」と野党の未熟ぶりを嘆いたという。大平は不信任決議案の可決を受けて衆議院を解散（[[ハプニング解散]]）、総選挙を参議院選挙の日に合せて行うという秘策・[[衆参同日選挙]]で政局を乗り切ろうとした<ref>『大平正芳』 263-264頁。</ref>。こうして[[第36回衆議院議員総選挙|第36回衆院選]]と[[第12回参議院議員通常選挙|第12回参院選]]が公示され、投票日は6月22日と決まった。

====急死====
総選挙が公示された5月30日、大平は第一声を挙げた[[新宿]]での街頭演説の直後から気分が悪くなり、翌日[[過労]]と[[不整脈]]により[[虎の門病院]]に緊急入院した。大平は年明け以降、休日が3月22日と翌23日の私邸での休養だけで、国内政局からくる心労に加え、多くの外遊をこなす激務に、70歳という高齢と、心臓の不安が重なり、肉体は限界に来ていた<ref>『大平正芳』 265頁。</ref>。以前にも[[ニトログリセリン]]を服用することがあったが、公表はされていなかった。

大平入院により、反主流派の[[中川一郎]]は健康問題をかかえた大平では6月22日から予定されている[[第6回先進国首脳会議|ヴェネツィアサミット]]出席が難しいことを理由に進退を決すべきと発言し、[[河本敏夫]]は大平の全快を祈ると前置きしつつも国際信義上サミットの出席は早めに決すべきと記者会見で語って暗に大平退陣を要求、反主流派の一部から大平退陣の声があがりはじめた<ref>『大平正芳』 266頁。</ref>。

また6月9日には大平派の[[鈴木善幸]]が大平の後は話合いによる暫定政権が好ましいと記者団に語り、大平派からも大平退陣について発言する動きがあがった。この鈴木発言を新聞でみた大平は「浅薄な腹黒者、不謹慎極まりない」と怒りをあらわにしたという。大平本人は近日中に退院してサミットに出席するつもりで、[[興亜院]]時代からの盟友で[[官房長官]]をつとめていた[[伊東正義]]ほかにもそれを明言している。

一時は記者団の代表3人と数分間の会見を行えるほどに回復したものの、6月12日午前5時過ぎ容態が急変。志げ子夫人以下家族たち、伊東正義、[[田中六助]]自民党副幹事長に看取られながら、5時54分死去した<ref>『大平正芳』 266-267頁。</ref>。70歳3か月、突然の死だった。死因は[[心筋梗塞]]による[[心不全]]と発表された。

死去前夜、7時半頃[[桜内義雄]]幹事長が選挙情勢について報告に訪れ、その後伊東官房長官とも30分程話し、そして午後9時ごろ娘婿で秘書官の[[森田一]]がヴェネツィアサミットの準備に当らせるため佐藤秘書官をヴェネツィアに派遣することを報告した際に返した「そうか、わかった」が最後の言葉となった。

この突然の大平の死により、[[総理大臣官邸|官邸]]の方は伊東正義官房長官が[[内閣総理大臣臨時代理|総理臨時代理]]として内政を監督し、党の方は[[西村英一]]副総裁が総裁代行として選挙戦の采配にあたり、サミットの方は[[大来佐武郎]]外務大臣が大平の代理として首脳会議に出席する<ref>外相会議と全体会議には急遽同行させた[[佐々木義武]]通商産業大臣を大来の代理として出席させた。</ref>という、異例の総理総裁権限の分散によりこの危機を乗り切ることになった。

48年ぶりの現職総理の死去<ref>1932年5月15日に[[五・一五事件]]で[[犬養毅]]が官邸で青年将校に暗殺されて以来、また病死としては1926年1月22日に[[加藤高明]]が心臓麻痺で急死して以来。</ref>という想定外の事態は状況を一変させた。自民党の主流派と反主流派は[[弔い選挙]]となって挙党態勢に向かった。有権者の多くも自民党候補に票を投じた。「香典票」と呼ばれた同情票が選挙結果に大きな影響を与えたことは否めなかった<ref name = "shaminren10">大平を伝記で好意的に評価している福永文夫などもこの観点で記述し、野党の一つ、社民連もその党史にて自民党が弔い合戦に努めたことを敗因に挙げている。[http://www.eda-jp.com/books/usdp/3-6-3.html ’８０参議院選挙～ダブル選挙] 『社民連十年史』</ref>。結局自民党は衆参両院で[[安定多数]]を大きく上回る議席を得て大勝した<ref>『大平正芳』 267-268頁。</ref>。大平の選挙区だった香川2区へは娘婿の森田一が[[補充立候補]]で急遽出馬し当選を果たした。<!--

なお、この選挙については上記のような「同情票」といった見方が少なくないが、今日の政治学では77年参院選から始まった自民党の党勢回復の一環であったと位置づけるものが多い<ref>[[北岡伸一]]『自民党』、[[田中善一郎]]『日本の総選挙1946-2003』</ref>。また、選挙当時から既にそのような見方をするものも少なくなかった。例えば、[[ポール・ボネ]]の名で[[週刊ダイヤモンド]]に時評を連載していた[[藤島泰輔]]は、マスコミが「自民党単独過半数割るか？」「連合政権時代来るか？」との見出しをつけた結果、保守系の浮動層が[[社公連合政権構想]]などの野党連合政権の成立に危機感を覚えたからであり、「ムッシュ・大平の急逝によるものではなく、LDP<ref>Liberal Democratic Party、自民党の英称</ref>が国民の信任を得たということに他ならない」と結論している<ref>ポール・ボネ「おいそがしいですか」『不思議の国ニッポン Vol.9』1984年10月（単行本1981年） に所収<br />なお、このエッセイでは「もしも、将来、政権が交代する可能性を追求するならば、保守党が2党に分裂してそれぞれ200議席位まで伸ばし、残る議席を持つ穏健野党と連携するしかないだろう」と書かれている。自民党の大規模な分裂や政権党が少数野党と連立を常態化する時代は冷戦崩壊後に到来した。</ref>。後年この観点で書かれた政治史もある<ref>例：[[石川真澄]]『戦後政治史』岩波新書</ref>。実際、前田和男は、一例として毎日新聞が1980年1月12日の社説で「民主連合政権」期待感を滲ませる社説が出たことを紹介している<ref>[http://www.toshoshimbun.jp/books_newspaper/week_description.php?shinbunno=2908&syosekino=1460 成田委員長の知られざる対自民工作] 『[[図書新聞]]』No.2908 ･ 2009年03月07日<br />毎日の社説はこう述べている。「（国民が）自民党の長期政権に代わる、信頼できる政治勢力の出現を期待していることは間違いあるまい。そうはいっても、政治の現状を直視すれば、全く新しい政治勢力の出現は望み薄である。既成の対抗勢力である野党が数の不足を「連合」で補い、統治能力、政策能力を養い、国民に応えていくというのは現実的であろう。その意味で、八〇年代はやはり「連合の時代」でなければならず、社公、公民間で「連合政権」への基盤づくりに踏み出したことは評価されてよい。」</ref>。また、社民連も野党連合の内実は脆弱なものであり、協力関係が「三年後に備えた話し合いのスタートにすぎ」なかったことも敗因に挙げている<ref name = "shaminren10" />。--><!--場違いな記述 →「[[第36回衆議院議員総選挙]]」「[[ハプニング解散]]」の記事内容 -->

墓所は、東京の[[多磨霊園]]と郷里豊浜の豊浜町墓地公園にある。豊浜の墓碑銘には正面に「大平正芳之墓」、左面に盟友の筆による「君は永遠の今に生き　現職総理として死す 理想を求めて倦まず　斃れて後已ざりき　伊東正義  謹書」、右面に[[戒名]]「興國院殿寛道浄基正芳大居士位」が刻まれている。「永遠の今」は大平が生前よく揮毫した一句である。

== 評価 ==
大蔵省の出身で、蔵相時代の赤字国債発行や財政再建への強いこだわりがあり、財政家としての側面は広く知られている。大平自身は[[三木内閣]]の蔵相時代に赤字国債の大量発行に踏み切った責任を強く感じ、「子孫に赤字国債のツケを回すようなことがあってはならない」との思いから、内閣総理大臣に就任した際に税制改革を断行しようと考えて[[消費税#日本の消費税|一般消費税]]導入を提唱した。しかし自由民主党内からの反発や野党・世論の反対を受け、また[[第35回衆議院議員総選挙|1979年衆院選]]での自由民主党大敗もあって挫折に追い込まれた<ref>[http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/3871 正々堂々と消費税導入を掲げて選挙に負けた男] JBpress 2010年7月5日付</ref>。

大平自身の取り組みで後世への遺産となったものには、むしろ外交など対外関係にまつわるものが多く、戦後日本を代表する外政家といえる。

外務大臣としては、池田内閣時代における日韓交渉、田中内閣における日中国交正常化交渉で、いずれも重要な役割を果たした。総理大臣時代に提案した「環太平洋連帯構想」は今日の[[アジア太平洋経済協力|APEC]]を始めとするアジア太平洋における様々な地域協力へと受け継がれている。また、特筆すべきものとして、[[鄧小平]]との交流とその影響がある。2人は1978年以降の短期間に合計4度も会談しているが、この中で大平は、占領期の[[傾斜生産方式]]や自身が深く携わった「[[所得倍増計画]]」を始めとした戦後日本の経済発展について詳細に説明、それがGNP「四倍増計画」その他、鄧小平による[[改革開放]]の着想と策定に大きな影響を与えたという<ref>倪志敏「大平正芳内閣と中日関係（その３）－中日緊密化へのプロセス－」20－22頁。</ref><ref>[http://www.peoplechina.com.cn/zhongrijiaoliu/2008-11/19/content_165464.htm こうして改革開放は始まった]国務院発展研究センター　張雲方（人民中国2008年11月19日</ref><ref>[http://j.people.com.cn/2004/08/20/jp20040820_42595.html 鄧小平氏と大平正芳氏の対話] 「人民網日本語版」2004年8月20日 </ref><ref>[http://www25.big.jp/~yabuki/koen/ga870410.htm 中国経済について][[矢吹晋]]、於学士会1987年4月10日夕食会</ref><ref>[http://j.people.com.cn/weekly/20081105/jnew1-2.html 鄧小平と中日経済交流]張雲方、中日経済情報週刊</ref>。なお、専任の外務大臣としての在職日数は戦後最長である<ref>総理大臣との兼任を含めると吉田茂が1位。</ref>。

[[ファイル:Masayoshi Ohira at Andrews AFB 1 Jan 1980.jpg|thumb|200px|1980年4月30日、[[アンドルーズ空軍基地]]にて妻の大平志げ子（後方）と]]
演説や答弁の際に「あー」、「うー」と前置きをすることから'''アーウー宰相'''の異名を取った。また、その風貌から'''讃岐の鈍牛'''とも呼ばれた。このため鈍重な印象が強かったが、実際は頭の回転が早く、ユーモアのセンスもあった。発言も論理的で、早口であり、「あーうー」を除けば全く乱れがなかった。自身は「戦後で一番長い間外務大臣をやらせていただきましたが、外務大臣の答弁は下手に言えないので、あーといいながら考えて、うーと言いながら文章は考えてその癖がついてしまったが、悔いはございません (笑)」と発言している。この「あーうー」は当時流行語にもなり、<!--アニメ『[[タイムパトロール隊オタスケマン]]』主題歌の歌詞に引用されたり、-->物まねする子供も多かった。<!--また、[[漫画]]『[[ゲームセンターあらし]]』の中には、ゲームの好きな「日本で一番えらい人」として登場し、顔は出ていないが、「あーうー」と言いながら、実はゲームが好きなことを弁解する場面がある。--><!--脱線トリビア-->

このような朴訥で謙虚な人柄だったが、「戦後政界指折りの知性派」<ref>[[北岡伸一]]『自民党』[[中公文庫]]ほか</ref>との評が一般的で、学問や人間の知的活動への畏敬の念を、政治の場にあっても終生失わなかったという<ref>[[飯田経夫]]「知的活動への畏敬の念」『大平正芳回想録 — 追想編』</ref>。財政問題への取り組みや、「総合安全保障」の提唱、1960年代の外相時代から、自衛隊も含めた積極的な国際貢献を唱えたことなど、その政治思想や経済観の先見性は今日顧みられることが少なくない。

2008年頃から評伝、回想録や研究所、大平自身の著作集などが相次いで刊行されている（2010年5月1日朝日新聞、5月2日読売新聞）。

==エピソード==
* 読書家として知られ、郷里の記念館には1万数千に及ぶ蔵書が収められている。また、文章を能くし、『財政つれづれ草』、『春風秋雨』、『旦暮芥考』、『風塵雑租』などといった政治経済論と随想を合わせた本を折に触れて出版した。なお、大平の著作のすべてと、研究者・政界関係者による大平についての論稿『大平正芳  人と思想』、『大平正芳  政治的遺産』、『在素知贅  大平正芳発言集』、『去華就實 　聞き書き大平正芳』などが大平正芳記念財団でまとめられたが、下記外部リンクの大平財団ホームページにてPDFファイルの形で読むことができる。
* 池田、前尾、宮澤と酒豪の多い宏池会にあって、大平だけはまったく酒が飲めなかった。猪口1杯で気分を悪くしてしまうほどで、酒の席ではキリンレモンと饅頭をつまむのが恒例だったという。
* 盟友田中角栄は「オヤジ」と呼ばれたが大平は「おとうちゃん」と呼ばれていた。
* 敬虔な[[クリスチャン]]（[[聖公会]]）で、しばしば[[聖書]]を好んで引用した。葬儀も[[立教学院]]諸聖徒礼拝堂で行われている。
* 1979年（昭和54年）の[[四十日抗争]]で大平続投か福田返り咲きかで自民党分裂直前までいった党内抗争が起こったが、四十日抗争中に首相官邸での食事中に側近だった内閣官房副長官の[[加藤紘一]]には「福田は俺にやめろと言った。しかし、後を誰にやらせるか考えると、俺にはやめる自由がない。しかし、万が一俺が今ここで死んだら、誰を日本の総理にすべきか」と話しかけ、少し沈黙が続いた後、大平が口を開き「いいか、（もし俺が死んだら）日本のために総理をさせなきゃならぬのは福田赳夫だ」と続けた<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/syugiin/173/0018/17311020018002a.html 第173回国会衆議院予算委員会 2009年11月2日議事録]</ref>。1978年自民党総裁選や1979年の四十日抗争などで感情も混じって福田赳夫と対立していたが、自分にとってかわる首相にふさわしい政治家としては福田赳夫を認めていたエピソードである。

== 発言 ==
*「東京の人間は[[郵便番号]]も書かない馬鹿だ」や「東京に三代住むと[[白痴 (障害)|白痴]]になる」などと発言し物議を醸した。
* 訪米の折、当時日米間の懸案となっていた[[捕鯨問題]]に関して記者から質問された際、「鯨は大きすぎて、私の手には負えません」と答えて記者たちを大笑いさせ、その質問は立ち消えとなり、また国会での野党の質問に答える際、「私はあーうーですから」といってその場を和ませてから答弁をすることもあり、ユーモアを交えながら場の雰囲気を掴んで和らげる手腕に長けていた。
* 長女（[[森田一]]代議士夫人）に対して口癖のように「女子（おなご）は勉強せんでいい。可愛い女になれ。そして早くお嫁に行きなさい」と語っていたといい、こうした言動が『[[婦人公論]]』誌で長女により明かされたところ、国会で[[市川房枝]]により女性蔑視として厳しく追及された<ref>[http://kokkai.ndl.go.jp/cgi-bin/KENSAKU/swk_dispdoc.cgi?SESSION=1475&SAVED_RID=2&PAGE=0&POS=0&TOTAL=0&SRV_ID=5&DOC_ID=8066&DPAGE=1&DTOTAL=3&DPOS=1&SORT_DIR=1&SORT_TYPE=0&MODE=1&DMY=3133 第87回国会参議院本会議 1979年1月31日議事録] </ref>。議題には直接関係のない話題での追及に、大平は顔をくしゃくしゃにしながら苦笑しつつユーモアたっぷりに答弁し、議場は大爆笑に包まれた。
* [[靖国神社]]には[[A級戦犯]]が合祀される前に参拝したことがある。靖国神社参拝に関して野党から国会で質問されると「[[大東亜戦争]]に関する審判は、歴史が下すであろうと考えています」と答弁した。
* 「政治とは?」との問いに対して「明日枯れる花にも水をやることだ」と答えたという。

== 栄典 ==
*1980年（昭和55年）6月12日 - 贈[[大勲位菊花大綬章]]

== 家族・親族 ==
* 妻・'''志げ子'''（[[三木証券]]創設者[[鈴木三樹之助]]の二女<ref name="Zinp161">[[神一行]]著『閨閥 <small>改訂新版</small> <small>特権階級の盛衰の系譜</small>』161頁</ref>）
* 長男・'''正樹'''（[[神崎製紙]]社員）
:大平は自身の後継者として長男正樹を考えていた<ref name="Zinp162">神一行著『閨閥 <small>改訂新版</small> <small>特権階級の盛衰の系譜</small>』162頁</ref>。[[慶應義塾大学]]卒業後3年ばかり神崎製紙に勤めた<ref name="Zinp162"/>。これは大平が敬愛していた郷土の先輩の[[加藤藤太郎]]が[[相談役]]を務めていた関係からである<ref name="Zinp162"/>。正樹はその後ヨーロッパ遊学で見聞を拡げている最中に[[ベーチェット病]]という[[難病]]にかかり、昭和39年（1964年）に26歳の若さで他界した<ref name="Zinp162"/>。大平は長男について『[[私の履歴書]]』で「私にとっては全部に近い存在であった」と語っている。<!--長男は未成年の頃から大平の選挙演説を起草するなど頭がよく、慶應大学学生時代には[[全日本学生合気道連盟]]を結成に当たって東大生だった[[亀井静香]]委員長を副委員長として補佐していた。--><!--出典書いて下さい-->
* 二男・'''裕'''（大平正芳記念財団常務理事、社団法人[[日中協会]]理事）
* 三男・'''明'''（[[大正富山医薬品]]（株）代表取締役社長）
* 長女・'''芳子'''（[[大蔵省|大蔵]][[官僚]]・政治家[[森田一]]の妻）
*孫・大平知範（大平正芳記念財団評議員）
*孫・渡辺満子（フリープロデューサー、元[[日本テレビ]][[チーフプロデューサー]]、[[玉木雄一郎]][[衆議院議員]][[公設秘書]]、日本テレビ専務[[渡辺弘 (プロデューサー)|渡辺弘]]の妻）

==大平を師と仰ぐ政治家==
*[[加藤紘一]]（政界入り前に大平派に入り、後に大平内閣で官房副長官）
*[[衛藤征士郎]]（政界入り当時、大平に師事）
*[[白川勝彦]]（政界入り前に大平派に入り、大平と師弟関係を結ぶ）

==脚注==
{{脚注ヘルプ}}
{{reflist|3}}

==参考文献==
*[[福永文夫]]　『大平正芳　「戦後保守」とは何か』　中央公論新社〈中公新書〉、2008年12月 ISBN 9784121019769
*[[五百旗頭真]]編 『戦後日本外交史』　[[有斐閣]]　新版2006年3月
*[[北岡伸一]]『自民党』 中公文庫、2008年7月
*神一行『閨閥 改訂新版 特権階級の盛衰の系譜』 角川文庫、2002年
*下掲の倪志敏による「大平正芳」と日中関係に関する論考。

==著作集==
*『大平正芳全著作集』　[[講談社]] 全7巻－生誕100周年を期に2010年3月～2012年6月刊。福永文夫監修

==大平政権に関連する文献==
:;大平個人・大平政権に集中した一部を掲載する。
*[[森田一]]、新井俊三　『文人宰相　大平正芳』（[[春秋社]]、1982年）
*森田一　『心の一灯　回想の大平正芳その人と外交』（[[服部龍二]]・昇亜美子・中島琢磨編、第一法規、2010年）
*[[田中六助]]　『大平正芳の人と政治』（[[朝日ソノラマ]]、1981年）
*田中六助　『再び大平正芳の人と政治』（朝日ソノラマ、1981年）
*[[栗原祐幸]]　『大平元総理と私』（[[廣済堂]]出版、1990年） 
:以上は、大平側近（大平派幹部）の政治家たちによる回想・人物評。

*国正武重　『権力の病室―大平総理最期の14日間』（[[文藝春秋]]、2007年）　<br /> 　大平政権時の官邸記者クラブ付[[朝日新聞]]記者による病床の大平についてのドキュメント。
*杉田望　『総理殉職―四十日抗争で急逝した大平正芳』（[[大和書房]]、2008年）－新取材による書下ろし
*[[伊藤昌哉]]　『自民党戦国史』（[[朝日ソノラマ]]（正続）、1982-83年／[[朝日新聞出版|朝日文庫]]全3巻、1985年／[[ちくま文庫]]全2巻、2009年）　<br />　大平のブレーン（[[池田勇人]]の政務秘書）で、当時の政局の回想とドキュメント。
*[[辻井喬]]　『茜色の空』（文藝春秋、2010年／文春文庫、2013年）－交流のあった経済人作家による伝記小説。

*奥島貞雄 『自民党幹事長室の30年』（[[中央公論新社]]、2002年／[[中公文庫]]、2005年）<br />「自民党幹事長室の30年(3)　寡黙な哲学者 大平正芳」－初出＜『[[中央公論]]』2001年9月号＞　<br />　自民党幹事長室長による回想記の一章。
**続編に『自民党抗争史』　（中央公論新社、2006年／中公文庫、2009年）
*川内一誠　『大平政権・554日　自らの生命を賭けて保守政治を守った』（行政問題研究所、1982年） 
:大平派の番記者による大平政権の公的な概説。
*[[服部龍二]] 『日中国交正常化―田中角栄、大平正芳、官僚たちの挑戦』（中公新書、2011年）、日中国交正常化を巡る研究書。
*服部龍二 『大平正芳　理念と外交』（岩波現代全書、2014年）
*『大平正芳からいま学ぶこと』（桜美林大学北東アジア総合研究所、2010年）
:大平とゆかりのある人物による追想録。
*[[さいとうたかを]]劇画　『大平正芳の決断　歴史劇画大宰相第8巻』（[[講談社]]＋α文庫、1999年）
**『劇画自民党総裁　暗闘・大平正芳』（[[コンビニコミック]]版、[[リイド社]]、2003年）で再刊。初版は[[読売新聞社]]、1991年
**※原作[[戸川猪佐武]]　『[[小説吉田学校]]　[[四十日戦争]]』　（新版は人物文庫：[[学陽書房]]）

*[[渡辺昭夫]]編　『戦後日本の宰相たち』（中央公論社、1995年／[[中公文庫]]、2001年）、※以下は、研究論文論考
:※[[村松岐夫]]　「第14章 大平正芳―歳入歳出政治の問題提起者」　
*吉田雅信　『大平正芳の政治的人格』（[[学校法人東海大学出版会|東海大学出版会]]、1986年）
*[[内田健三]]「第一次大平内閣」「第二次大平内閣」[[林茂]]・[[辻清明 (政治学者)|辻清明]]編『日本内閣史録6』（第一法規、1981年）
*金斗昇「大平正芳と日韓会談―請求権問題合意の論理を中心に」『法学政治学論究』44号（2000年3月）

===倪志敏の論考（外部リンク参照）===
*倪志敏「大平正芳内閣と中日関係（その1・その2・その3）－中日緊密化へのプロセス－」『龍谷大学経済学論集』第49巻第2号　2009年10月／第49巻第3号 2009年12月／第49巻第4号 2010年3月
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/457/1/r-kz-rn_049_02_004.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/623/1/r-kz-rn_049_03_005.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/628/1/r-kz-rn_049_04_003.pdf
*倪志敏「大平正芳と阿片問題」『龍谷大学経済学論集』第49巻第1号　2009年9月
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/477/1/r-kz-rn_049_01_007.pdf
*倪志敏「田中内閣における中日国交正常化と大平正芳（その1・その2・その3・その4）」『龍谷大学経済学論集』第45巻第5号／第46巻第5号／第47巻第3号／第48巻第3・4号（2006年3月・2007年3月・2007年12月・2009年3月）
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4246/1/KJ00004466081.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4288/1/KJ00004859202.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4334/1/KJ00005241885.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/454/1/r-kz-rn_048_03_005.pdf
*倪志敏「池田内閣における中日関係と大平正芳（その1・その2・その3）」『龍谷大学経済学論集』 第44巻第5号／第45巻第2号・第45巻第3号（2005年3-12月）
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4169/1/KJ00004177968.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4208/1/KJ00004466039.pdf
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4220/1/KJ00004466058.pdf
*倪志敏「大平正芳と日韓交渉――「大平・金メモ」の議論を中心に」『龍谷大学経済学論集』第43巻第5号（2004年3月）
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4094/1/KJ00003971582.pdf
*倪志敏「大平内閣における第一次対中政府借款」『龍谷大学経済学論集』 第42巻第5号（2003年3月）
**http://repo.lib.ryukoku.ac.jp/jspui/bitstream/10519/4016/1/KJ00000736638.pdf

==演じた俳優==
*[[柄本明]]（『[[運命の人 (小説)|運命の人]]』、2012年）※役名は小平正良。

==関連項目==
*[[香川県出身の人物一覧]]
*[[一橋大学の人物一覧]]<!--
*[[日本の総理大臣一覧]]--><!--諄々-->
*[[第5回先進国首脳会議|第5回先進国首脳会議（1979年東京サミット）]]
*[[自由民主党総裁選挙]]
*[[衆参同日選挙]]
*[[アジア太平洋経済協力|アジア太平洋経済協力 (APEC)]] - 大平が提唱した「環太平洋構想」を土台とする機構
*[[省エネルック]]
*[[中央学院大学]]
*『[[茜色の空]]』- 大平を描いた[[堤清二]]の小説
<!--*[[運命の人 (小説)]]
*[[官僚たちの夏]]
*[[小説吉田学校]]
*[[ゴルゴ13の登場人物]]
*[[英雄時代 (テレビドラマ)]]--><!--無関連（本人または本人をモデルとした人物が単なる端役として登場するだけです）-->

==外部リンク==
*[http://www.ohira.org/ 財団法人　大平正芳記念財団]
*[http://www6.plala.or.jp/guti/cemetery/PERSON/A/oohira_m.html 大平正芳の墓]

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| title  = {{Flagicon|日本}} 衆議院文教委員長
| before = [[臼井荘一]]
| years  = 1959年 - 1960年
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