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呪術医
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{{出典の明記|date=2010年4月}} [[ファイル:Shona witch doctor (Zimbabwe).jpg|thumb|[[ジンバブエ]]・ショナ人の呪術医]] '''呪術医'''(じゅじゅつい)または'''呪医'''(じゅい)<!-- '''魔法医'''(まほうい)-->とは、医療専従者のうち医療効果の根拠を超自然的なものに求めるもの、もしくは周囲の人間によって超自然的な根拠によって治療する能力があるとされるもののことである。呪術医は病名の診断に[[トランス (意識)|トランス]]や[[占い]]を行ったり、治療に際して[[治療儀礼]]を施すことがある。[[民俗学]]や[[文化人類学]]では[[シャーマニズム]]による'''シャーマンドクター'''(shaman doctor)や'''ウィッチドクター'''([[:en:witch doctor|witch doctor]])とも呼ばれる。必ずしも伝統的な徒弟制度や秘密結社に所属している必要はなく、つまり呪術医であることは伝統医であることは意味せず、現代社会において広く、同種業態の活動が見られる。 == 概要 == 医療は必ずしもいわゆる[[医学]]<ref>[[中国医学]]、[[イスラーム医学]]、[[アーユルヴェーダ|インド医学]]、[[チベット医学]]、[[漢方]]といったものから当然[[生物医学]]まで含む。</ref>に基づいた制度医療の専門家の判断で行われるだけではなく、家庭内の敢行、信仰、薬局や薬売り、そして様々な伝統医療や非伝統的な医療との関係の中で多元的に行われる(医療的多元論)<ref>{{cite book|author=Leslie, C.|title=Asian Medical Systems|location=Berkeley|publisher= University of California|year=1976}}</ref>。社会分化や社会の複雑化によって誕生した制度医療は人類一般に有効な医療を指向し、脱宗教的な傾向を持っているが、他の医療従事者の中には、自分の医療の原理を超自然的な世界観や身体の超自然的な性質といった宗教的なものに求めるものもいる。そうしたものは診断において、[[トランス (意識)|トランス]]や[[託宣]]、[[占い]]を用い、治療において[[治療儀礼]]などを用いることがある。こうした医療従事者が呪術医と称される。しかし、呪術医の治療は必ずしも治療儀礼が行われる分けではないし、制度医療に対して必ずしも排他的なわけではなく、いわゆる呪術医が調合師していた薬や物理療法が[[薬理学]]や[[生理学]]的に効果があることも珍しくない。 また呪術医は一般に病気や怪我とされる問題の解決だけでなく、さまざまな不幸や恨み、妬みを制御、解消する役割を担うこともある。そもそもどのような状態が医者の手に委ねられるべきなのかについては社会的に決まる側面が大きく、また呪術によって恨みや妬みの解消されたことが結果的に疾病disease<ref>医療人類学者ヤングは人間が経験する〈病気sickness〉を、病者が経験する〈病いillness〉、生物学的実体としての〈疾病disease〉、に分類することを提唱した。<br />{{cite journal|journal=Annual Review of Anthropology|year=1982|vol= 11|pages= 257-285|title=The Anthropologies of Illness and Sickness|author=Young,Allan|doi=10.1146/annurev.an.11.100182.001353 }}</ref>の解消に寄与する場合もあり<ref>逆の例がヴードゥー・デスと名づけられた事例で、呪術をかけられたという思いが疾病、さらには死因になることもある</ref>、そのような社会的な役割も広い意味で呪術医の仕事として扱われることがある。 また、治療者が薬草や身体についての[[民族科学]]([[民族植物学]]や[[民族薬理学]]など)に基づいた治療を行っているだけにもかかわらず、他の文化圏の人間からすると呪術的な医療と見なされることがある(ヨーロッパの[[魔女裁判]]における[[産婆]]など)。 == 社会と呪術医 == 現代の医療技術の発達は、この呪術医の経験や知識から、[[科学]]的に裏付けされた物へと置き換わる事で発展してきた。しかし現代医療でも治せない病は多く、平均寿命は延びたものの、死はやはり人類にとって不可避なものである。そのため、現代社会にあっても心理的な不安からこれら呪術医を頼る人は少なくない。 その一方で、民間療法は[[高齢者]]の生活の知恵として長らく伝えられており、医者の少ない地域社会においては高齢者がこの呪術医的な存在となるケースも見られる。[[近代]]社会においてさえも、高齢者による民間療法は病や傷を癒したり害悪を退ける霊力があると見なされる風潮もあった。([[高齢者]]の項を参照) === 原始社会と医療 === [[社会]]の形成されてゆく中で、個人の[[死]]は避けがたい運命として認識されるようになってきたが、その一方で不可避である死を少しでも遠ざけようと、目に見えない(仮想上の)霊的な力を呼び寄せたり遠ざける事で、[[生命]]を少しでも永らえさせようと考える人が現れた。 [[死]]という現象は、[[科学]]的な視点から捉えれば、様々な原因によって死に至っている訳である。しかし、呪術的思考から捉えれば、いわゆる[[死神]]等に代表される寿命を司る[[神]]や様々な症状を起こさせる霊、または健康な状態に人を保っている[[精霊]]などの存在によって影響を受けるとされる。 現在の[[症候学]]の萌芽とも言えるこれらの知識体系では、長い年月を掛けて様々な症例に対する知識が収集されると共に、それらを改善する薬草などの情報も、神秘主義というフィルターを掛けられながらではあるものの、丹念に伝承されていった。現代でも未開な民族の間では、これら呪術医の治療行為は、[[自然崇拝]]の一端として、それら社会の中で深く信頼されており、また伝承により何世代にも渡って蓄積された医療知識は、特に[[風土病]]などに対して治療効果が認められるケースも少なからず見られる。 また呪術医はその[[霊能力]]により、原始社会の[[シャーマニズム|シャーマン]]([[巫女]]・祈祷師・占い師といった役職)が兼任しているケースも見られる。災害は「環境が病に冒されている」ために発生すると考えられたため、強力な呪術医は[[天候]]や[[災害]]といった「'''自然環境の健康'''」をも治療できると信じられた地域もあるとされる。 なお近年では[[環境保護団体|環境保護]]の観点から、環境を[[擬人化]]して理解しやすくした上で守ろうという運動も見られる。これらの思想は、前出の「自然環境すら癒す呪術医」の発想に通じる物があるといえよう。 ===中世の社会と呪術医=== 社会が[[自己組織化]]され、権力や地位がより明確な象徴を得る過程で、個人の神秘主義家は急速に社会の[[ヒエラルヒー]]から外れていった。これは個人の神秘主義者が客観的にも明確な基盤に拠らず、自身の信じている知識体系に基いて存在していたためであるが、この段階に於いて呪術医も次第に社会の支持基盤を失っていった。 民間医療を伝えているため、民衆の中にあってこそ、その存在が珍重されたが、他方勢力をもった神秘主義者である宗教者が中世の社会で地位を築くと、それら宗教者が信奉する神秘主義と相容れない個人の神秘主義者は迫害され、その中にあって呪術医は自身の神秘主義を捨てて医療に専念するか、自身の神秘主義を貫いて迫害されるかのどちらかを選んだと思われる。 この段階に於いては呪術医は自己の知識体系を科学的に再構築して医者となるか、迫害されて権力から遠ざかるかのいずれかであったと思われるが、その一方で主力と成った神秘主義者である宗教家が、従来は呪術医が担っていた地位を獲得している。この時代に於いて宗教家=僧侶が呪術医のように振る舞い、また医療行為を行う事は多く、かつての独自の論理体系に基いていた呪術医の中に、迫害されないために勢力のある宗教に改宗した者もいたのかもしれない。 [[中世]][[ヨーロッパ]]では、[[魔女狩り]]など勢力のある宗教が他の神秘主義者を弾圧する社会現象が多発したが、これによってヨーロッパ地域に居た呪術医は一掃された。その一方で勢力を持っている宗教家である僧侶が呪術医の立場を確立する事により、高貴な存在とされた[[王|王族]]による接触([[手#手当て|ロイヤルタッチ]])が治療効果があると流布されたり、必ずしも適切ではない[[瀉血]]の乱用に代表される(奇妙な)治療行為が流行した。なお瀉血に関しては一部の症状に有効である事が近年になって判ってきており、これも呪術医の伝統的な治療が見直されている一例に上げる事もできよう。 : なお瀉血に関しては、近代や現代においてもきちんとした医学的根拠に基いて利用されている治療法の一つではあるが、中世においては落馬による[[骨折]]や伝染病にまで乱用され、あるいは適切な療養で回復したかも知れない人の[[血液]]を出させ、体力を徒に損耗させる・瀉血後の傷跡が[[感染症]]を招く事によって、多数の死者を出している。([[瀉血]]の項を参照) === 近代社会と呪術医 === 近代に於いて、[[西欧医学]]の[[外科学|外科医療]]や[[薬物学]]が急速に発展した。しかしその一方で即物的な[[対症療法]]はしばしば、患者の容態の(良い意味でも、悪い意味でも)激変を招くケースもあり、これら外科医療や薬剤に対する不信感も少なからず見られた。この事から、患者の中には古くから伝わる呪い(まじない)等に執着するケースも少なからず発生した。 西洋医学は、より精密な[[研究]]と正確で詳細な知識を糧に改良・改善され、次第に社会的地位を獲得するに至ったが、当初はそれら医療技術に要求される対価は一般労働者の生活を非常に圧迫し得るものであったため、これら近代医療は権力者や富豪だけのものとされた。このため労働者階級の大半は、その貧しさのために呪術的な民間療法に気休めを求める他はなかった。 この現象は近年の[[開発途上国|発展途上国]]にも見られ、特に原始的な生活を営む[[少数民族]]では、それら民族内に存在する西洋文明全体に対しての否定的な風潮から、従来その地域に無かった[[伝染病]]が発生した場合に西洋医学的な医療行為が拒絶されるケースも発生、結果として少数民族の村落に甚大な被害が発生・拡大した事例も報告されている。[[南アメリカ|南米]][[ペルー]]では[[2004年]]9月より、土着動物の[[チスイコウモリ]]の中に[[狂犬病]]ウイルスに汚染されたものが増加、地域住民が噛まれて感染する被害が続出し、2005年2月までに先住民族の子供ら11名が死亡する事態となっている。衛生当局が医師を派遣するも、[[ワクチン]]投与が拒まれるケースもあるという。 他方、西欧は近代以降において他国にその版図を伸ばしたが、その過程で先住民族の間や呪術医に伝わる民間療法を調査、薬効が認められる薬草などを精力的に収集して近代薬物学の発展を促した。しかしその一方で、[[植民地|植民地政策]]の一環で先住民族の文化を全否定し、この呪術医のもつ知識や経験をも否定して放逐してしまったケースも見られ、近年になって僻地に逃れたこれら先住民族の呪術医の持つ知識や経験が[[代替医療]]として、または彼等の使用する薬草・薬剤に新しい有効成分を含む事が発見される等して、その医療行為の有効性が再評価されるケースも散見される。 === 現代社会と呪術医 === 近代にてこれら呪術医の類型と見なされていた[[東洋医学]]の[[鍼|鍼治療(針治療とも)]]も、欧米の現代医学上で一定の治療効果が認められ、[[1970年代]]以降より徐々にその利用者が増えている。[[リチャード・ニクソン|ニクソン]]大統領[[1971年]]訪中の際に同行した記者が、鍼麻酔により[[虫垂炎]]の治療された体験談が[[アメリカ合衆国|米国]]メディアで伝えられた事が、[[欧米]]でも一般に広く利用・または真面目に研究されるきっかけとなったとされている。([[鍼]]の項を参照) 他方、古くから各地に伝わる呪術・古代医療に加え、全く根拠の無い(それどころか[[経験則]]にも拠っていない)[[心霊医療]]までもが[[先進国]]等でも流行し、こちらは西洋医学では治療法の確立されていない珍しい病気や難病、または劇的な治療効果の得難い慢性病や、精神的な不安から来る身体の不快感を解消しようとする人に利用されている。しかし<!--(言いたいことはわかりますが、日本語としてつながらないです)その一端に[[理科離れ]]に代表される-->[[疑似科学]]に騙されやすい人々が、治療効果の認められないようなサービスにまで、その労働力によって得た富を注ぎ込むケースも見られ、こちらは社会問題となっている。 近年では[[肉体]]と[[精神]]の[[健康]]は不可分であるという(民間に於いて・または医療機関に於いても)風潮もあり、神秘主義的な呪術医の持つ一種の[[催眠術|暗示]]効果から「本当に治った」(若しくは「治ったような気がする」)というケース([[プラシーボ]]効果など)も吹聴されるに至り、この問題が通信環境の拡充も手伝って「'''伝染'''」しやすい傾向も見られる。 === 幻覚と呪術医 === 古くは[[メキシコ]]の呪術医などが[[サボテン]]の一種[[ペヨーテ]]のような[[幻覚]]をもたらす物質を用いてシャーマニズム行為を行っていた。それがよく知られるようになったのは1938年に[[アルバート・ホフマン (化学者)|アルバート・ホフマン]]が[[リゼルグ酸ジエチルアミド]](LSD)の合成に成功し、[[オルダス・ハクスレー]]などの影響もあり1960年代に[[幻覚剤]]に対する注目度が高まってからであった。幻覚剤は目眩く様な視覚刺激をもたらし「[[サイケデリック]]」と表現された(後この名を冠する芸術が次々生まれる)。これは当時[[ベトナム戦争]]に伴って[[アメリカ合衆国|アメリカ]]で興りつつあった[[反戦運動]]の形態[[カウンターカルチャー]]・[[ヒッピー]]文化の原動力ともなり[[心理学者]][[ティモシー・リアリー]]などが理論的支柱になった。ヒッピー・ムーブメントはのちに精神面を重視する[[ニューエイジ]]・ブームをもたらす一因になった。日本では[[文化人類学者]]の[[中沢新一]]などが『[[チベット死者の書|チベットの死者の書]]』関係で大きな影響を与えている。 === コンピュータゲームと呪術医 === [[1980年代]]以降、[[コンピュータゲーム]]では[[ファンタジー]]RPGの流行に伴い、これら呪術医や魔法医等が頻繁に登場する。 ゲームによっては死者復活までもが(僧侶などの役職として描かれるが、その実体は近代西欧における宗教関係者による呪術医行為に起因する)呪術医によってなされてしまう物もある。 == 関連する社会事象・事件 == ===ライフスペース・ミイラ事件=== {{main|成田ミイラ化遺体事件}} 日本では[[1999年]]に[[千葉県]]にて、4ヶ月前からホテルに宿泊していたとされる男性の半ば[[ミイラ]]化した遺体が発見され、大きな話題となった。 この事件において、自称「自己啓発セミナー主催団体」の[[ライフスペース]]主催者と男性の家族等は、男性はミイラ化しているが生きていると主張、警察側が遺体を[[司法解剖]]したために死亡したと訴えた。しかし警察側は男性が重度の[[脳内出血]]によって病院に運ばれ、入院治療を受けていた最中に男性の家族によって連れ出され、適切と思われる治療も受けられないまま、喉に痰が絡んで窒息を起こして死亡したとして、病院から連れ出した男性の家族を[[保護責任者遺棄致死罪]]で起訴、千葉地方裁判所は懲役2年6ヶ月・執行猶予3年を言い渡した。 この文章とシャーマンドクターの関連性は疑問視されている。 ==脚注== {{Reflist|2}} ==参考文献== *『エピソード魔法の歴史-黒魔術と白魔術』(著:ゲリー・ジェニングズ・訳:市場泰男)ISBN 4390110101 == 関連項目 == * [[カリャワヤ]] - 南米[[ボリビア]]に生活する少数民族。彼らの持つ世界観・[[癒し|ヒーリング]]の伝統様式は、2008年に[[国際連合教育科学文化機関|ユネスコ]]の[[無形文化遺産]]に登録されている。 * [[ポーション]] * [[民間薬]] * [[呪禁]] * [[伝統医学]] * [[呪術的思考]] * [[根拠に基づいた医療]] * [[民間医療]] * [[ブードゥー]]司祭の医療 * [[クラーレ]] == 外部リンク == *[http://www.icis.kansai-u.ac.jp/data/journal01-v1/journal01-22-kimura.pdf 雲南回族における呪術的治療行為について] {{DEFAULTSORT:しゆしゆつい}} [[Category:民俗学]] [[Category:文化人類学]] [[Category:民間信仰]] [[Category:シャーマニズム]] <!--[[Category:環境保護運動]]--> [[Category:伝統医学]] [[Category:聖職者]]
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