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[[量子化学]]において'''原子価結合法'''(げんしかけつごうほう、'''VB'''('''Valence Bond theory''')'''法''')とは[[化学結合]]を各[[原子]]の[[原子価軌道]]に属する[[電子]]の[[相互作用]]によって説明する手法である。 ==歴史== [[ヴァルター・ハイトラー]](Walter Heinrich Heitler)と[[フリッツ・ロンドン]](Fritz London)によって[[1927年]]に[[水素]]分子のエネルギー計算の方法として提案された方法を基として、[[ジョン・スレーター]](John Clarke Slater)と[[ライナス・ポーリング]] (Linus Carl Pauling)によって多原子系に拡張された方法である。そのため、ハイトラー・ロンドン・スレーター・ポーリング法、略してHLSP法と呼ばれることもある。 ==原子価結合法 vs 分子軌道法== [[分子軌道法]]では「電子は[[分子]]全体に非局在化した軌道に属する」と考えるのに対し、原子価結合法では「電子はある1つの原子の[[原子軌道]]に局在化している」と考える。 === 水素分子の例 === 原子価結合法では水素分子の全電子の[[波動関数]]は :<math>\Psi(1,2) = c_1 \phi_{Ha}(1) \phi_{Hb}(2) + c_2 \phi_{Ha}(2)\phi_{Hb}(1)</math> という形になる。ここで<math>\phi_{Ha}(1)</math>は'''水素原子Haの1s軌道に電子1が属している状態'''を表す。 一方で分子軌道法では :<math>\Psi(1,2) = c_1 \psi_1(1) \psi_2(2) + c_2 \psi_1(2)\psi_2(1)</math> という形になる。ここで<math>\psi_1(1)</math>は'''分子全体に広がる軌道でそこに電子1が属している状態'''を表す。 ===原子価結合法の問題点=== しかしこの方法を[[第2周期元素|第2周期]]以降の元素を含む分子に応用すると問題が生じる。例えば[[メタン]]の4本のC-H結合が等価であることを説明できない。なぜなら、電子が原子軌道に局在化しているならば、[[炭素]]の4つの[[価電子]]のうち1つの電子は2s軌道に、残り3つは2p軌道に属することになり等価でないからである。そこで分子を形成する際には2s軌道と2p軌道が混じり合って再分配され新しい4つの等価な軌道を生じると考える。この新しく生じた軌道が'''[[混成軌道]]'''と呼ばれるものである。メタンの場合s軌道1つとp軌道3つが混成軌道をつくるのでsp<sup>3</sup>混成軌道という。[[エチレン]]の炭素原子のように[[二重結合]]を持つ原子ではsp<sup>2</sup>混成軌道、[[アセチレン]]の炭素原子のように[[三重結合]]を持つ原子ではsp混成軌道を考える。 また、1,3-[[ブタジエン]]や[[ベンゼン]]のような[[共役系]]を持つ分子についても問題があった。これらの分子では[[π電子]]の非局在化が安定化に寄与している。これは各原子に電子が局在化していると考える原子価結合法と本質的に矛盾している。これに対しては複数の[[極限構造]]間の[[共鳴]]という形で説明することになった。 原子価結合法の概念はそれまでの[[化学結合論]]の延長上にあるため当時の化学者に受け入れやすかった。しかし[[量子化学]]計算に応用するには複雑な理論となってしまった。そのため量子化学計算が盛んになってくると[[分子軌道法]]が主流となっていった。 {{DEFAULTSORT:けんしかけつこうほう}} [[Category:原子]] [[Category:電子]] [[Category:化学結合]] [[Category:量子化学]]
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