剣道のソースを表示

{{Infobox 武道・武術
|読み=けんどう
|画像名=Kendo EM 2005 - taiatari 2.jpg
|画像説明=剣道の試合中の[[鍔迫り合い]]
|発生国={{JPN}}
|発生年=[[明治]]〜[[大正]]
|源流=[[剣術]]
|公式ウェブサイト=[http://www.kendo.or.jp/ 全日本剣道連盟]<br />[http://www.kendo-fik.org/ 国際剣道連盟 (FIK)]<br />[http://members3.jcom.home.ne.jp/nihonnkenndoukyoukai/ 日本剣道協会]
}}

'''剣道'''（けんどう）は、[[日本]]の[[剣術]]を[[競技]]化した[[武道]]。

== 概要 ==
[[古武道]]の[[剣術]]のうち[[江戸時代]]後期に発達した[[防具 (剣道)|防具]]着用の[[竹刀稽古]]（撃剣）を直接の起源とする。江戸時代末期（[[幕末]]）には[[流派]]を超えて広く試合が行われるようになった。[[明治時代]]以降、[[大日本武徳会]]が試合規則を定め[[競技]]として成立した。複数の流派が集まって成立したため、[[柔道]]の[[嘉納治五郎]]のような特定の創始者は存在しない。[[太平洋戦争]]後に大日本武徳会は解散し、その後発足した[[全日本剣道連盟]]が事業を継承している。

[[現代 (時代区分)|現代]]の剣道は事実上[[スポーツ]]にも分類されるが、全日本剣道連盟は「剣道は剣道具を着用し竹刀を用いて一対一で打突しあう運動競技種目とみられますが、[[稽古]]を続けることによって心身を鍛錬し人間形成を目指す「[[武道]]」です。」としている<ref>[http://www.kendo.or.jp/kendo/ 全日本剣道連盟 | 剣道を知る | 剣道とは]</ref>。

== 歴史 ==
{{see_also|剣術#歴史}}

=== 江戸時代 ===
[[ファイル:幕末 剣道.jpg|thumb|200px|[[幕末]]に外国人カメラマン[[フェリーチェ・ベアト|F・ベアト]]が撮影]]
[[江戸時代]]中期の[[正徳 (日本)|正徳]]年間（[[1711年]] - [[1715年]]）に[[直心影流剣術|直心影流]]の[[長沼国郷]]が[[防具 (剣道)|面・小手]]を製作し、[[竹刀稽古|竹刀打ち込み稽古]]法を確立した。[[宝暦]]年間（[[1751年]] - [[1763年]]）に[[中西派一刀流]]の[[一刀流中西道場|中西子武]]が防具を鉄面・[[当世具足|具足]]式に改良した。防具の発達にともない[[袋竹刀]]より強固な[[竹刀|四つ割り竹刀]]が作られるようになった。

江戸時代後期から[[幕末|末期]]には、竹刀打ち中心の[[道場]]が興隆し、[[流派]]を超えて試合が行われた。幕末の[[幕末江戸三大道場|江戸三大道場]]といわれる[[鏡新明智流]][[士学館]]、[[北辰一刀流]][[玄武館]]、[[神道無念流]][[練兵館]]や、[[江戸幕府|幕府]]の設立した[[講武所]]が有名である。北辰一刀流の創始者[[千葉周作]]は剣術の技を六十八手に分類し、講武所頭取並の[[男谷信友]]は竹刀の全長を3[[尺]]8[[寸]]と定めた。

当時の竹刀試合はあくまで[[日本刀|真剣]]を使った戦いに勝つための訓練の手段として行なわれ、競技を目的にはしていなかった。審判規則や競技大会はなく、10[[一本|本]]勝負が通例とされていた<ref>[[戸部新十郎]]『明治剣客伝 日本剣豪譚』120頁、[[光文社文庫|光文社]]</ref>。

=== 明治・大正時代 ===
==== 撃剣興行 ====
[[ファイル:榊原撃剣会絵図.jpg|thumb|250px|[[撃剣興行|榊原撃剣会]]絵図。[[月岡芳年|魁斎芳年]]筆]]
[[明治維新]]によって[[武士]]の身分が廃止され、[[廃刀令]]により帯刀も禁じられ、剣術家は失業した。これらの困窮した剣術家を救済するため、[[直心影流剣術|直心影流]]の[[榊原鍵吉]]は[[明治]]6年（[[1873年]]）、[[撃剣興行]]という剣術[[見世物小屋|見世物]]を催した。

撃剣興行は物珍しさから[[満員御礼]]となり、これに刺激された2代目斎藤弥九郎（[[斎藤新太郎]]）や、千葉東一郎、千葉之胤、島村勇雄、渡辺楽之助など他の剣術家も争って撃剣興行を催した。その数は[[東京府]]内で37か所に上り、[[名古屋市|名古屋]]、[[久留米市|久留米]]、[[大阪]]など全国各地に広まった。しかし、この人気は庶民の一時的な好奇心にすぎず、やがて人気は下火になっていった。

撃剣興行によって剣術の命脈は保たれたが、客寄せのための派手な動作や異様な掛声などが後の剣道に悪影響を及ぼした<ref>[[庄子宗光]]『剣道百年』9頁、[[時事通信社]]</ref>という意見もある。

==== 警視庁剣術 ====
[[ファイル:警視庁武術世話掛.jpg|thumb|250px|[[明治]]21年（[[1888年]]）頃の[[警視庁武術世話掛]]]]
明治10年（[[1877年]]）、[[士族反乱]][[西南戦争]]に従軍した[[警視庁 (内務省)|警視庁]]の[[抜刀隊]]が活躍し、剣術の価値が見直された。[[警視総監|大警視]][[川路利良]]は『撃剣再興論』を著し、警察で剣術を奨励する意向を明らかにした。

明治12年（[[1879年]]）、[[巡査教習所]]に道場が設けられ、[[上田馬之助]]、[[梶川義正]]、[[逸見宗助]]が[[警視庁武術世話掛|撃剣世話掛]]として最初に採用された。その後も[[真貝忠篤]]、[[下江秀太郎]]、[[得能関四郎]]、[[三橋鑑一郎]]、[[坂部大作]]、[[柴田衛守]]などが採用された。撃剣興行や地方の剣術家も続々と就職し、明治16年（[[1883年]]）には、一道場の[[師範]]として通用する警察官の数が二百数十名に達した。

警視庁は[[警視流|警視流木太刀形]]や[[剣道の段級位制|撃剣級位]]を定め、[[弥生慰霊祭記念柔道剣道試合|弥生神社で全国的規模の撃剣大会]]を開くなどして、明治前期の剣術の最大の拠点となった。[[府県警察部|地方の警察]]もこれに倣って剣術を奨励し、一般社会の剣術の復興を促した。

==== 大日本武徳会 ====
[[ファイル:大日本武徳会本部正門.jpg|thumb|250px|[[大日本武徳会]]本部正門（京都[[旧武徳殿]]）]]
明治28年（[[1895年]]）、[[平安京|平安遷都]]1100年記念や[[日清戦争]]の勝利によって[[日本武術]]奨励の気運が高まり、[[大日本武徳会]]が結成された。[[総裁]]に[[小松宮彰仁親王]]（[[皇族]]、[[大日本帝国陸軍|陸軍]][[大将]]）、会長に[[渡辺千秋]]（[[京都府]][[都道府県知事|知事]]）、副会長に[[壬生基修]]（[[平安神宮]][[宮司]]）が就任した。同年に第1回の武徳祭大演武会（現在の[[全日本剣道演武大会]]）が開かれ、優秀な剣術家に[[精錬証]]が授与された。

大日本武徳会は、[[流派]]を超越した統合組織として毎年の大演武会の開催、各[[府県]]支部の設立、[[旧武徳殿|武徳殿]]の造営、武術教員養成所（後の[[大日本武徳会武道専門学校 (旧制)|武道専門学校]]）の設立、[[剣道の段級位制|段位称号]]（[[範士]]・[[教士]]・[[錬士]]）の授与、[[審判員|試合審判]]規則の制定など、現在まで続く剣道の制度を確立し、[[太平洋戦争]][[日本の降伏|敗戦]]まで剣道の[[総本山]]の役割を果たした。

==== 学校剣道 ====
[[ファイル:FENCING AT AN AGRICULTURAL SCHOOL.jpg|thumb|250px|[[大正]]9年（[[1920年]]）、学校で稽古をしている様子]]
[[学校]]教育に剣道を採用する議論はすでに明治16年（[[1883年]]）から行われていたが、指導が難しく有害であるとして見送られていた{{refnest|group=注釈|「実習の際に多少の危険がある」、「ややもすれば粗暴の気風を養う」、「道具を要し、かつ清潔に保つことが容易ではない」、「各人に監督を要し、一斉に授けがたい」、「武技と体操は似て非なるものである」などの理由による。}}。剣道家の[[衆議院]]議員[[星野仙蔵]]、[[小沢愛次郎]]らの請願運動により、明治40年（[[1907年]]）に衆議院で可決され、明治44年（[[1911年]]）に剣道が[[中等学校]]正科の[[体育|体操]]の一部として実施されるようになった。

剣道[[教員]]の養成機関となったのが、[[大日本武徳会武道専門学校 (旧制)|武道専門学校]]（武専）と[[東京高等師範学校]]（高師）である。武専教授[[内藤高治]]と高師教授[[高野佐三郎]]は当時の剣道界に大きな影響力を持ち、「西の内藤、東の高野」といわれた。従来の個人教授法では多人数の生徒を教えることはできないため、高野佐三郎は集団に一斉に教えるための団体教授法（号令に合わせて集団で動く練習方法）を考案した。また、大日本武徳会は全国から25名の剣道家を選抜し、中等学校剣道教育のための[[日本剣道形#大日本帝国剣道形|大日本帝国剣道形]]（現在の日本剣道形）を制定した。

==== 剣道という名称について ====
「剣道」という語は[[江戸時代]]や[[明治|明治時代]]にも使用例はある{{refnest|group=注釈|[[寛文]]7年（[[1667年]]）の[[安倍立]][[伝書]]に「剣術は日用の術なので剣道という号にする」という記述、[[弘化]]5年（[[1848年]]）の[[大石神影流]]門人渡部直八の『諸国剣道芳名録』、明治時代の[[一刀正伝無刀流]]開祖[[山岡鉄舟]]の書物に「剣道」という表現がある。}}が、多くは「[[剣術]]」、「撃剣」とよばれていた。「剣道」の名称が法規上正式に使用されたのは明治44年（[[1911年]]）に剣道が中等学校正科の一部として採用されたときで<ref>庄子宗光『剣道百年』58頁、時事通信社</ref>、明治末から[[大正]]にかけて「剣道」という名称が定着した。大正8年（[[1919年]]）、大日本武徳会副会長に就任した[[西久保弘道]]は「武術」から「[[武道]]」への名称変更を主唱し<ref>[http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/932717 西久保氏武道訓]</ref>、大日本武徳会においても剣術は剣道と呼ばれるようになった。なお、当時は古流剣術と近代剣道の違いはあまり意識されておらず、流派名を名乗る剣道家も多かった。

=== 昭和前期 ===
==== 剣道の競技化 ====
従来の剣道大会は個人ごとの試合のみで、順位を競うものではなかったが、[[大正]]13年（[[1924年]]）から開催された[[明治神宮競技大会剣道競技|明治神宮体育大会]]や[[昭和天覧試合|昭和初期の天覧試合]]では、[[リーグ戦]]や[[トーナメント方式]]で[[優勝|優勝者]]が決められた。これは当時としては画期的な試みであり、剣道が競技（[[選手権|選手権大会]]）として確立するきっかけとなった。しかし、これに反対した剣道家もおり、明治神宮体育大会は[[大日本武徳会]]が当初不参加を表明、昭和天覧試合は[[内藤高治]]が強硬に反対したが、国家的行事であったことからやむなく従っている{{refnest|group=注釈|内藤高治は「これで日本剣道は滅びた」と嘆じた。}}。

==== 戦時中の剣道 ====
[[第二次世界大戦]]開戦により、日本は[[戦時体制]]に入った。[[太平洋戦争]]中の昭和17年（[[1942年]]）、[[日本政府|政府]]は大日本武徳会を[[厚生省]]、[[文部省]]、[[陸軍省]]、[[海軍省]]、[[内務省 (日本)|内務省]]の共管とする[[外郭団体]]に改組し、国民の戦意高揚と[[戦闘技術|戦技]]訓練のための機関とした。

戦時中の剣道は、戦場での[[白兵戦]]を想定して行われ、競技としての剣道とは一線を画したものとなった<ref>大塚忠義『日本剣道の歴史』、[[牧秀彦]]『図説 剣技・剣術二』</ref>。[[打突]]を「斬突」という表現で呼称し、攻撃的な先の技を重視して、軽い打ちや片手技は認めないものとされた。試合は[[一本]]勝負が奨励された。

==== 剣道禁止と撓競技の誕生 ====
[[ファイル:第9回国民体育大会 撓競技.jpg|thumb|250px|[[撓競技]]]]
[[ファイル:警視庁 警棒術試合.jpg|thumb|250px|[[警棒]]術]]
昭和20年（[[1945年]]）、[[日本の降伏|日本が敗戦]]し、[[連合国軍最高司令官総司令部|連合国軍（GHQ）]]に占領された。連合国軍は、大日本武徳会が国家と結びついて戦争遂行に加担したとして、大日本武徳会を[[解散]]させ、関係者1300余名を[[公職追放]]した。剣道の[[組織 (社会科学)|組織]]的活動は禁止され、[[明治維新]]についで二度目の危機を迎えた。

昭和25年（[[1950年]]）、全日本剣道競技連盟が結成されたが、剣道という名称が問題視され、全日本撓競技連盟と改称。武道的性格を払拭した「'''[[撓競技]]'''」という[[スポーツ]]が生み出され、[[フェンシング]]のように[[シャツ]]、[[ズボン]]、[[運動靴]]、軽量の防具を着用して、[[袋竹刀|袋撓]]で打ち合いポイントを競った。[[審判員]]も洋服姿で[[手旗|旗]]を持つようになった。撓競技は順調に発展し、昭和27年（[[1952年]]）に[[中学校]]以上の[[体育|学校体育]]に採用され、さらに同年[[国民体育大会]]にオープン競技として参加した。同じころ、警察では「[[警棒]]術」（警棒操法）と称する竹刀の短い剣道のような練習が考案されている。

==== 剣道の復興 ====
昭和27年（[[1952年]]）、[[サンフランシスコ講和条約]]発効にともない連合国軍の占領が解かれると、同年に[[全日本剣道連盟]]が結成され、剣道の復興が始まった{{refnest|group=注釈|なお、[[柔道]]は昭和23年（[[1948年]]）に解禁されている。}}。剣道と撓競技はしばらくの間、共存していたが、昭和29年（[[1954年]]）に全日本剣道連盟と全日本撓競技連盟が合併し、撓競技は廃止された。ただし一部のルールは剣道に引き継がれた。

全日本剣道連盟は、戦後の剣道を[[民主]]的[[スポーツ]]として実施する方針を示した{{refnest|group=注釈|当時の全日本剣道連盟兼全日本撓競技連盟の幹部（[[庄子宗光]]、[[中野八十二]]、[[大島功]]、[[渡辺敏雄]]）の座談会において中野八十二は、「今度、剣道連盟が、剣道はスポーツとして行くんだと宣言されたことは、非常に意味があると思う。剣道というものは、御承知のように[[武士]]階級の盛んな[[封建時代]]に育ったもので、それがだんだんと発展してきて民主的になったといっても、まだそのような気分の抜けきれぬところが多くある。『俺は剣道をやっているのだ、俺はほかの者よりいいものをやっているのだ』という貴族的な、あるいは武士的な気持が多分に残っていたと思うのです。ところが御承知のようにスポーツというものは、本当をいえば[[民主主義]]に根ざしたものですから、相手を征服するとか何とかいうことでなしに、本当に相手と共に楽しみながら、剣道を通してお互を磨いていくということが、本当の姿と思うのです。私はスポーツというものはそういうものだと思う。そうした点を剣道連盟がはっきりと明確に打ち出されたということは、結局、剣道というものをある特権階級的雰囲気から大衆的雰囲気にしたともいい得るので、一大躍進と称しても過言でないと思います。」と述べている<ref>庄子宗光『剣道百年』646頁、時事通信社</ref>。}}が、純粋なスポーツにはなりきれず{{refnest|group=注釈|全日本剣道連盟第2代会長の[[石田和外 (裁判官)|石田和外]]は、昭和52年（[[1977年]]）に『通産ジャーナル』誌上で、「剣道はいまスポーツとして評価されているし、スポーツであることは間違いないことです。スポーツとしても立派に成り立つと思いますが、やはり剣の道ということになると、昔の人の心構えということになりますね。（中略）剣道をスポーツだと考える人からいうと、少しややこしくなりますが、剣道はつきつめていくと、魂のこもった[[日本刀]]で、場合によっては、命のやりとりもしなければいけないんだという、一つの奥があるんです。」と述べている<ref>『通産ジャーナル』1977年9月号、[[通商産業省]]</ref>。}}、「剣道は武道かスポーツか」という論争は現在に至るまで剣道界が抱える[[ジレンマ]]となっている{{refnest|group=注釈|現在の全日本剣道連盟は、「剣道は剣道具を着用し竹刀を用いて一対一で打突しあう運動競技種目とみられますが、稽古を続けることによって心身を鍛錬し人間形成を目指す『武道』です。」と表明している<ref>[http://www.kendo.or.jp/kendo/ 全日本剣道連盟 | 剣道を知る | 剣道とは]</ref>。}}。

=== 昭和後期・平成 ===
==== 警察剣道 ====
[[明治|明治時代]]からの歴史的経緯により、現在も剣道は[[柔道]]と並び[[日本の警察官|警察官]]必須の術科（武道）とされている。各[[警察署]]には[[道場]]が設けられ、署員が稽古に使用しているほか、道場を開放して[[少年]]剣道教室を開いている。警察官の中でも特に選抜された[[術科特別訓練|術科特別訓練員]]（特練員）は主に[[機動隊]]に所属し、豊富な稽古量を保っている。[[全日本剣道選手権大会]]や[[世界剣道選手権大会]]日本代表の大多数は特練員の警察官で占められている。

==== 学校剣道 ====
昭和28年（[[1958年]]）の中学[[学習指導要領]]で、剣道、[[柔道]]、[[アマチュア相撲|相撲]]が正科[[体育]]とされ、今日に至っている。平成24年（[[2012年]]）4月から中学校の第1、第2学年の体育で男女共に武道が必修になった（中学校武道必修化）。授業のほかに[[部活動]]があり、日本全国の[[中学校]]、[[高等学校]]、[[大学]]等で剣道が稽古されている。一方で、[[宗教]]上の理由により剣道の履修を拒否して[[最高裁判所 (日本)|最高裁判所]]まで争われた事例がある（[[神戸高専剣道実技拒否事件]]）。

==== 実業団剣道 ====
[[民間企業]]の[[実業団]]による剣道部活動も行われているが、職務として剣道を稽古している警察官、[[教員]]、[[刑務官]]に比べると勢力は弱い。[[柔道]]が[[オリンピック競技]]となり民間企業が大々的に参入しているのとは対照的である。

==== 女性剣道 ====
女性の剣道は、戦後の[[男女共学]]や女性の社会進出にともない[[1960年代]]から[[1970年代|70年代]]に始まったもので、男性の剣道に比べ歴史は浅い。かつて女性の武道は、[[なぎなた]]とされていた。第4代全日本剣道連盟会長の庄子宗光は、「女性が剣道界に進出し、女性の間に剣道愛好者が目立って増加したことは、戦後の剣道界の著しい特徴の一つである。このことは[[男女同権]]時代当然のことと言えばそれまでであるが、明治、大正の時代はもちろんのこと、昭和の戦前時代には想像もできなかった現象である」と述べている<ref>庄子宗光『剣道百年』620頁、時事通信社</ref>。ただし男女は体力差があり危険なため、試合は男女別に実施される。

当初の女性剣道人口は極めて少なかったが、現在では女性有段者は全有段者の4分の1を占め、平成9年（[[1997年]]）には[[全日本女子剣道選手権大会]]に[[皇后盃]]が下賜された。

==== 国際化 ====
戦前には、[[日系人|日本人が移民]]した[[アメリカ合衆国|アメリカ]]、[[ブラジル]]や、[[日本統治時代|日本が統治]]した[[日本統治時代の朝鮮|朝鮮]]、[[日本統治時代 (台湾)|台湾]]等で剣道が稽古されていたが、国際的なものではなかった。昭和45年（[[1970年]]）、剣道の国際競技団体として[[国際剣道連盟]]が発足し、同年に第1回[[世界剣道選手権大会]]が開催された。以来3年に1度開催されている。第1回の参加国は17国であったが、近年は40国前後まで増えている。ただし多くの国では[[防具 (剣道)|剣道具]]や指導者が行き渡っておらず、世界剣道選手権大会も国により実力の格差が大きい。

剣道の国際化にともない、剣道を[[オリンピック競技|オリンピック種目]]にしようという意見が唱えられるようになった。これに対し[[全日本剣道連盟]]は、剣道がオリンピック種目になれば勝利至上主義や商業主義に陥り、剣道の持つ[[武道]]的特性が失われるとして、現在まで反対の立場をとっている。また、剣道は[[#有効打突|有効打突]]の判定基準が曖昧で、国際競技の場では特に[[審判員|審判]]が難しい問題もある。

近年問題となっているのが、[[大韓民国|韓国]]の[[コムド]]関係者による剣道の起源剽窃問題（[[韓国起源説]]）である。「剣道の起源は日本ではなく韓国である」との、歴史を[[捏造]]した主張がインターネット等で繰り返され、全日本剣道連盟は公式ウェブサイトにおいて、剣道の起源は日本であるとの声明を発表し<ref>[http://www.kendo.or.jp/kendo/origin/ 剣道に関する全剣連の見解]</ref>、遺憾の意を示している。[[2001年]]に韓国で結成された[[世界剣道連盟]]は、役員に[[テコンドー]]関係者が多く、剣道（コムド）をテコンドーにならいオリンピック種目にすることを目指している<ref>『[[月刊剣道日本]]』2002年4月号88頁、スキージャーナル。</ref><ref>『[[月刊剣道日本]]』2003年11月号46-47頁、スキージャーナル。</ref>。このような状況から、近年の日本では剣道のオリンピック参入の是非とコムド問題が合わせて論じられることもある。国際剣道連盟が[[国際オリンピック委員会]]（IOC）傘下のGAISF（現[[スポーツアコード (スポーツ組織)|スポーツアコード]]）に加盟したのは、世界剣道連盟がGAISFに加盟する手続きを取ったため、国際剣道連盟が本当の剣道の国際競技団体であることを公式に認めてもらうために加盟したともいわれている。

=== 年表 ===
* [[1895年]]（[[明治]]28年）4月17日：[[大日本武徳会]]が創立され、[[剣術]]を中心に[[日本武術]]の振興がなされる。
* 1895年（明治28年）10月26-28日：第1回[[全日本剣道演武大会|武徳祭大演武会]]が開催され、15名に[[精錬証]]を授与。
* [[1902年]]（明治35年）6月：[[範士]]、[[教士]]の称号を制定。
* [[1903年]]（明治36年）5月：7名に第1回の範士号を授与。
* [[1905年]]（明治38年）10月1日：大日本武徳会が[[京都府|京都]]に[[大日本武徳会武道専門学校 (旧制)|武術教員養成所]]を開設。
* [[1906年]]（明治39年）：7名の範士によって[[日本剣道形#大日本武徳会剣術形|大日本武徳会剣術形]]が制定。
* [[1911年]]（明治44年）：武術教員養成所を武術専門学校と改称。[[中等学校]]で撃剣を正科として採用可能となった。
* [[1912年]]（[[大正]]元年）10月：25名の剣道家によって[[日本剣道形#大日本帝国剣道形|大日本帝国剣道形]]が制定。
* [[1917年]]（大正6年）：大日本武徳会が剣道に[[段位]]制を採用。
* [[1919年]]（大正8年）：武術専門学校を[[大日本武徳会武道専門学校 (旧制)|武道専門学校]]と改称。
* [[1924年]]（大正13年）11月：第1回[[明治神宮競技大会剣道競技]]開催。
* [[1926年]]（大正15年）5月15日：[[昭和天皇|摂政宮]][[台覧試合|台覧]]の全国府県代表選士優勝試合開催。
* [[1929年]]（[[昭和]]4年）5月4 -5日：[[昭和天覧試合#御大礼記念天覧武道大会|御大礼記念天覧武道大会]]開催。
* [[1930年]]（昭和5年）5月18日：宮中[[済寧館]]台覧武道大会開催。
* 1930年（昭和5年）12月：第1回全日本[[中等学校]]剣道大会開催。
* [[1931年]]（昭和6年）1月：[[師範学校]]、[[中等学校]]で剣道が必修科目となる。
* [[1934年]]（昭和9年）3月：精錬証を廃止し、[[錬士]]を制定。
* 1934年（昭和9年）5月4-5日：[[昭和天覧試合#皇太子殿下御誕生奉祝天覧武道大会|皇太子殿下御誕生奉祝天覧武道大会]]開催。
* [[1938年]]（昭和13年）2月：[[国民精神総動員]]剣道大会開催。
* 1938年（昭和13年）12月：[[外務省]]が[[日独伊三国同盟|日独伊親善]]のため学生武道使節団を派遣。
* [[1940年]]（昭和15年）6月20日：[[昭和天覧試合#紀元二千六百年奉祝天覧武道大会|紀元二千六百年奉祝天覧武道大会]]開催。
* [[1941年]]（昭和16年）12月8日：[[太平洋戦争]]開戦。
* [[1942年]]（昭和17年）4月1日：大日本武徳会が[[厚生省]]、[[文部省]]、[[陸軍省]]、[[海軍省]]、[[内務省 (日本)|内務省]]の[[外郭団体]]に改組され、剣道の[[戦闘技術|戦技]]化が進む。
* [[1943年]]（昭和18年）3月：段位制を等位制（五等〜一等）に、教士を達士に改正。
* [[1945年]]（昭和20年）8月15日：[[日本の降伏|日本が敗戦]]し、[[連合国軍最高司令官総司令部|連合国軍（GHQ）]]に占領される。
* 1945年（昭和20年）11月6日：[[学校]]における剣道が禁止される。
* 1945年（昭和20年）12月26日：学校または付属施設における剣道が、[[在籍者 (学習者)|学生]]・[[社会人|一般人]]を問わず禁止。
* [[1946年]]（昭和21年）1月：[[体錬科]]武道の[[教育職員免許状|教員免許状]]が無効となる。
* 1946年（昭和21年）2月：大日本武徳会が民間団体となる。
* 1946年（昭和21年）8月25日：社会体育としての剣道が制限される。
* 1946年（昭和21年）10月31日：大日本武徳会が[[解散]]する。関係者の[[公職追放]]1,300余名。
* [[1949年]]（昭和24年）5月21日：警察における剣道が禁止。
* [[1950年]]（昭和25年）3月5日：全日本剣道競技連盟結成。剣道の名称が認められず全日本撓競技連盟と改称し、[[撓競技]]が誕生する。
* 1950年（昭和25年）10月：第1回全日本撓競技大会が[[名古屋市]]で開催。
* [[1951年]]（昭和26年）5月4日：第1回全国撓競技大会が東京[[日比谷公園]]で開催。
* [[1952年]]（昭和27年）4月10日：[[中学校]]以上の学校で撓競技が正科となる。
* 1952年（昭和27年）7月：関東学生撓競技連盟結成。間もなく[[関東学生剣道連盟]]と改称。
* 1952年（昭和27年）10月：第7回[[国民体育大会]]に撓競技がオープン競技として参加。
* 1952年（昭和27年）10月14日：[[全日本剣道連盟]]（全剣連）発足。
* [[1953年]]（昭和28年）1月23日：[[毎日新聞]]に学校の新[[学期]]から撓競技を実施との記事。
* 1953年（昭和28年）5月4-5日：第1回[[全日本剣道演武大会|京都大会]]、第1回[[全日本都道府県対抗剣道優勝大会]]が京都[[旧武徳殿]]で開催。
* 1953年（昭和28年）5月19日：社会体育としての剣道の制限を解除。
* 1953年（昭和28年）7月7日：高校・大学で剣道を[[体育]]に採用することを認可。
* 1953年（昭和28年）11月6日：第1回[[全国警察剣道選手権大会|全国警察官剣道大会]]が[[警視庁]]体育館で開催。
* 1953年（昭和28年）11月8日：第1回[[全日本剣道選手権大会]]が[[蔵前国技館]]で開催。
* 1953年（昭和28年）12月13日：第1回[[全日本学生剣道選手権大会]]が[[神田 (千代田区)|神田]][[国民体育館]]で開催。
* [[1954年]]（昭和29年）3月14日：全日本剣道連盟と全日本撓競技連盟が合併し、全日本剣道連盟に統一。
* 1954年（昭和29年）8月：第9回国民体育大会に剣道がオープン競技として参加。
* 1954年（昭和29年）11月28日：第1回[[全日本東西対抗剣道大会]]が[[宮崎市]]で開催。
* [[1955年]]（昭和30年）3月：全日本剣道連盟の[[日本体育協会]]加盟が承認される。
* 1955年（昭和30年）11月：第10回国民体育大会に剣道が初めて正式種目として参加。
* [[1956年]]（昭和31年）11月：[[アメリカ合衆国|米国]]剣道使節団17名が来日。東京[[日比谷公会堂]]で日本人と試合。
* [[1957年]]（昭和32年）：全日本剣道連盟が最高段位を[[五人の剣道十段|十段]]とする。
* 1957年（昭和32年）5月20日：剣道と撓競技が整理統合され、学校剣道として中学・高校の正科体育に。
* [[1958年]]（昭和33年）7月：[[宮内庁]]が全日本剣道連盟に[[天皇杯|天皇盃]]を下賜。
* 1958年（昭和33年）9月21日：第1回[[全日本実業団剣道大会]]開催。
* [[1961年]]（昭和36年）5月：[[全日本学校剣道連盟]]結成。
* [[1962年]]（昭和37年）4月：剣道が中学校で必須正科として実施。
* [[1963年]]（昭和38年）4月：[[学習指導要領]]の改正により、剣道が高校で必須正科として実施。
* [[1964年]]（昭和39年）10月3日：[[日本武道館]]開館。
* 1964年（昭和39年）10月15日：[[前東京オリンピック|東京オリンピック]]に[[東京オリンピックデモンストレーション武道|デモンストレーション]]として剣道が参加。
* [[1970年]]（昭和45年）4月4日：[[国際剣道連盟]]創立。翌5日、第1回[[世界剣道選手権大会]]が日本武道館で開催。
* [[1975年]]（昭和50年）3月20日：全日本剣道連盟が「[[#剣道の理念|剣道の理念]]」を発表。
* [[1997年]]（[[平成]]9年）：宮内庁が全日本剣道連盟に皇后盃を下賜。
* [[2000年]]（平成12年）4月1日：全日本剣道連盟が九段・十段を廃止し、範士八段を最高位に。

== 統括組織 ==
現在、日本には2団体、世界には1団体ある。
*日本
; [[全日本剣道連盟]]
: 日本最大の剣道団体。日本の剣道界のほぼ全体を統括している。[[日本武道協議会]]、[[日本体育協会]]、[[日本オリンピック委員会]]（JOC）、[[国際剣道連盟]]（FIK）に加盟している。
; [[日本剣道協会]]
: [[神道無念流]]系剣道団体。「真の剣道復活」を唱えて設立された。[[竹刀]]による[[打突]]だけではなく、[[体当たり]]、[[足技|足払い]]、組討ち等も認めている。
*世界
; [[国際剣道連盟]]（International Kendo Federation, FIK）
: 全日本剣道連盟の国際競技団体として[[1970年]]（昭和45年）に設立。以来、3年ごとに[[世界剣道選手権大会]]を開催している。[[2003年]]7月時点で44ヶ国の剣道団体が加盟している。[[国際オリンピック委員会]]（IOC）公認団体[[スポーツアコード (スポーツ組織)|スポーツアコード]]（旧称GAISF）に加盟。IOC承認国際競技団体になることを目指している。

== 剣道の理念 ==
全日本剣道連盟は、昭和50年（[[1975年]]）3月20日に『剣道の理念』、『剣道修錬の心構え』を制定した。制定委員長は[[松本敏夫]]、委員は[[堀口清]]、[[小川忠太郎]]、[[玉利嘉章]]、[[中野八十二]]、[[湯野正憲]]、[[大島功]]、[[井上正孝]]、[[小川政之]]、[[広光秀国]]、[[笠原利章]]。

;剣道の理念
:「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」

;剣道修錬の心構え
:「剣道を正しく真剣に学び
:心身を錬磨して旺盛なる気力を養い
:剣道の特性を通じて礼節をとうとび
:信義を重んじ誠を尽して
:常に自己の修養に努め
:以って国家社会を愛して
:広く人類の平和繁栄に
:寄与せんとするものである」

== 服装・用具 ==
[[道着|剣道着]]、[[袴]]の上から、垂・胴・面・小手の[[防具 (剣道)|防具（剣道具）]]を装着する。面を着用する際には、頭に[[手拭|手拭い]]（面手拭い、面タオル）を巻き付ける。垂には通常、[[人名|名前]]や所属する[[道場]]名などの記された[[ゼッケン]]（垂ネーム）を付ける。基本的に[[裸足]]であるが、怪我等の理由で[[足袋]]や[[スポーツ用サポーター|サポーター]]を着用する者もいる。足袋・サポーターは試合のときも許可を得れば使用可能であることが一般的である。また、試合時には識別用として背中（胴紐の交差部）に[[紅白]]それぞれの目印（[[たすき]]）を付ける（全長70cm、幅5cm）。近年では垂にチョークなどで目印をつける大会もある。
<gallery>
ファイル:Kendo uniform parts.png|全体図
ファイル:Shinai.jpg|竹刀
ファイル:Men (kendo).jpg|面
ファイル:Kote.jpg|小手
ファイル:Do_kendo.jpg|胴
ファイル:Tare.jpg|垂
</gallery>

== 稽古内容 ==
[[稽古]]とは「古（いにしえ）を稽（かんが）える」という意味である。剣道の稽古は[[竹刀稽古]]と[[形稽古]]に大別される。

稽古を行う施設を「[[道場]]」という。近年では[[体育館]]で行う場合もある。

冬季・夏季に行う稽古を[[寒稽古]]・[[暑中稽古]]という。

=== 竹刀稽古 ===
[[ファイル:Noma Dojo, 2006.JPG|thumb|250px|竹刀打ち込み稽古]]
[[竹刀]]、[[防具 (剣道)|防具]]を使用する稽古。

*[[素振り]]（[[木刀]]や[[打刀|刀]]で行う場合もある）
*[[切り返し]]
*[[打ち込み稽古]]（[[打突]]）
*[[追込み稽古]]
*[[掛かり稽古]]
*[[互角稽古]]（地稽古）
*[[試合]]稽古
*[[立ち切り]]

=== 形稽古 ===
[[ファイル:Kendokata Yohonme.jpg|thumb|250px|[[日本剣道形]]の稽古]]
[[木刀]]、[[模擬刀]]、刃引で行なう形の稽古。

*[[日本剣道形]]
*[[木刀による剣道基本技稽古法]]

道場によっては[[法定|直心影流法定]]、[[一刀流#一刀流から派生した主な流儀|一刀流各派]]、[[神道無念流]]など[[古武道|古流]]の形も稽古している。[[警視庁]]の[[警視流|警視流木太刀形]]、[[筑波大学]]の[[東京高師五行之形]]、[[小西酒造]]の[[修武館奥之形]]など、[[明治|明治時代]]に制定された比較的現代剣道に近い古流形も存在する。また、[[全日本剣道連盟]]は、剣道人が[[日本刀]]の操法を学ぶための[[全日本剣道連盟居合]]を推奨している。

形稽古と竹刀稽古は「[[車輪|車の両輪]]」と喩えられ、いずれも体得が必須とされているが、形稽古は軽視されている。

== 安全性 ==
竹刀を当てる部分が防具を装着しているという理由で、他の武術と違って比較的安全な武道である。

2003年～2007年度の5年間における高校剣道部での死亡事例は4人。10万人あたり1.406人/年という発生率となっている<ref>[http://repository.aichi-edu.ac.jp/dspace/bitstream/10424/2931/1/kenkyo59131141.pdf 内田良「柔道事故ー武道の必修化は何をもたらすのかー学校安全の死角4（pdf）]</ref>。

2009（平成21）年8月22日、[[大分県立竹田高等学校]]剣道部での練習中、同部男子部員（17歳）が[[熱射病]]による意識混濁後に錯乱と痙攣起こし、搬送先病院にて[[多臓器不全]]で死亡。死亡した部員の両親は学校や病院が適切な対応を怠った結果、死亡に繋がったとして提訴。[[大分地方裁判所]]は学校や病院の過失を認め、大分県などに合わせて4600万円余りの賠償を命じた<ref>[http://mainichi.jp/area/oita/news/20130504ddlk44040280000c.html 竹田高剣道部の熱射病死:「同様の事故防ぎたい」　大分で両親ら街頭署名　／大分 毎日新聞　2013年05月04日　地方版]</ref> <ref>朝日新聞2013年10月26日付１５面（私の視点）「スポーツと暴力　生徒は何も言えない」（※死亡した兄の事故当時、同部に兄弟で所属していた1学年下の実弟による手記）</ref>。

専用施設ではなく空調設備も無い学校の部室や稽古場等では、夏場になると室温が高くなり練習量の多寡とは関係無く熱射病が発生しやすくなる。屋内競技における熱中症の発生頻度が最も高いのが同競技であり、死亡に至る前に医療機関を受診している例は年間数百件と推定されている<ref>[http://old.kendo.or.jp/news/2005-neccyusho.html 剣道における暑熱環境下の水分摂取 ''事故を防ぐ・稽古量を増やす'' (財)全日本剣道連盟　医・科学委員会 2005年]</ref>。

== 試合形式 ==
以下は[[全日本剣道連盟]]の場合である。

[[試合]]は常に1対1で戦う。これは[[団体戦]]の場合も同じである。選手は試合場に入り二歩進んでお互いに[[お辞儀|礼]]をし、三歩進んで[[蹲踞]]したあと[[審判員]]の「始め」の声がかかってから立ち上がり、勝敗が決するか規定の試合時間が経つまでお互いに技を出し合う。原則として三[[一本|本]]勝負であるが、一本勝負も認められている。

=== 試合場 ===
[[木材|板]]張りの[[床]]に境界を含め1[[辺]]9[[メートル|m]]ないし11mの[[正方形]]または[[長方形]]の[[コート (スポーツ)|試合場]]を作り、試合をする。境界は普通、白の[[粘着テープ|ラインテープ]]を貼って分ける。また、試合開始時の立ち位置は試合場中心付近に白のラインテープで示される。

=== 試合時間 ===
試合時間は[[小学校|小学生]]2[[分]]、[[中学校|中学生]]3分、[[高等学校|高校生]]以上4分、[[延長戦]]の場合には3分が基準である。しかし、運営上の理由などからこれ以外の試合時間を採用することも認められており、公式大会の[[決勝戦]]では、[[2007年]]（平成19年）から試合時間が10分に変更された。

=== 技 ===
全ての技は、[[竹刀]]で[[防具 (剣道)|防具]]の決められた箇所を[[打突]]するものである。

{| class="wikitable"
|+ 技一覧表
! 技の詳細 !! 技名 !! 特記事項
|-
! 小手を打つ技
| 小手打ち、引き小手打ち、出小手
|-
! 面を打つ技
| 面打ち、引き面打ち、小手面打ち
|-
! 面の[[咽喉|喉]]当てを突く技
| 突き || [[小学校|小]][[中学校|中学生]]は原則禁止。[[高等学校|高校生]]以上でも、この技を禁止とする大会もある。
|-
! 胴の[[胸]]当てを突く技
| 胸突き || 以前は相手が[[上段の構え]]を取っている時のみ[[一本]]になった。後、相手が[[二刀流]]の場合のみ認められていた。
|-
! 胴の右側を打つ技
| 胴打ち、引き胴打ち、抜き胴
|-
! 胴の左側を打つ技
| 逆胴打ち
|}

これに、技を出す直前までの流れから「相（あい）〜」「抜き〜」「返し〜」「払い〜」「すり上げ〜」「引き〜」などの[[接頭辞]]が付く場合もある。

=== 有効打突 ===
有効打突（[[一本]]）とは、
{{Quote|'''充実した気勢、適正な[[姿勢]]をもって、[[竹刀]]の打突部（弦の反対側の[[日本刀#各部名称|物打ち]]を中心とした[[刃]]部）で打突部位を刃筋正しく[[打突]]し、[[残心]]あるもの'''}}
である。[[審判員]]はこれに該当しているかどうかを判断して[[手旗|旗]]を挙げる。

=== 反則 ===
[[反則]]を一試合中に2回犯した場合は、相手に一本を与える。
* 相手に足を掛けまたは払う。
* 相手を不当に場外に出す。
* 試合中に場外に出る。
* 自己の竹刀を落とす。
* 不当な中止要請をする。
* 相手に手をかけまたは抱え込む。
* 相手の竹刀を握るまたは自分の竹刀の刃部を握る。
* 相手の竹刀を抱える。
* 相手の肩に故意に竹刀をかける。
* 倒れたとき、相手の攻撃に対応することなく、うつ伏せなどになる。
* 故意に時間の空費をする。
* 不当な[[鍔迫り合い|鍔（つば）迫り合い]]および打突をする。

=== 審判員 ===
3名の[[審判員]]（1名の[[主審]]、2名の[[副審]]からなる）が[[紅白]]の[[手旗|旗]]を持ち、旗を挙げることで有効打突の意思表示とする。2名以上が有効打突の表示をした場合、もしくは1名の審判員が有効打突を表示し2名が判定の[[棄権]]を表示した場合、一本となる。また、主審は次のいずれかの場合、「止め」の宣告と同時に紅白両方の旗を平行に挙げ、試合を中断させることができる。
* 反則の事実
* 負傷や事故
* 危険防止
* 竹刀操作不能の状態
* 異議の申し立て
* [[合議]]
* 試合者から中断の要請があった場合（この場合、主審は要請の理由を質し、不当な要請の場合は審判の合議の上、反則となることもある）

なお、試合中断は副審から申し出ることもできる。その際に副審が「止め」の宣告後、直ちに主審が「止め」の宣告をして試合を中断する。

[[鍔迫り合い|鍔（つば）迫り合い]]がこうちゃく（膠着）した場合、主審は 「分かれ」の宣告と同時に両旗を前方に出し、両者を分け、その場で「始め」の宣告と同時に両旗を下ろし、試合を継続する。「分かれ」の場合の試合時間は中断しない。

=== 勝敗 ===
勝敗は、試合時間のうちに三本勝負の場合二本、一本勝負の場合一本先取した選手を勝ちとする。また三本勝負において一方が一本を取り、そのままで試合時間が終了した場合にはその選手を勝ちとする。試合時間内に勝敗が決しない場合には、[[延長戦]]を行い先に一本取った選手を勝ちとする。延長の代わりに[[判定]]あるいは[[抽選]]によって勝敗を決する場合、または[[引き分け]]とする場合もある。判定および抽選の場合には勝者に一本が与えられる。[[団体戦]]における代表戦も原則一本勝負である。

=== 二刀流 ===
[[ファイル:Kendo EM 2005 - nito.jpg|thumb|250px|[[二刀流]]の選手（左）]]
[[成年]]者は原則として[[二刀流]]は禁止されていないが、使用者の数は少ない。[[昭和]]初期に[[学生]]の間で試合に勝つためだけに、団体戦において二刀流の選手を防御一辺倒の[[引き分け]]要員とする手段が横行したため、一部の学生大会では二刀を禁止するようになった。[[太平洋戦争]]後、剣道が全日本剣道連盟の下に復活した際も、学生剣道界では戦前に倣って二刀を禁止したために、二刀を学ぶ者が非常に少なくなってしまった。

ただし、伝統が断絶するのを危惧する声もあり、[[1992年]]（平成3年）に[[大学]]剣道（公式試合・昇段審査）では解禁された。しかし、[[全国高等学校体育連盟|高体連]]・[[日本中学校体育連盟|中体連]]の公式試合・昇段審査においては未だに禁止されており、また小学生・中学生は申し合わせ事項で片手技は有効としないとされているため、高校生以下では事実上禁止されている状況である。

二刀流の竹刀は[[打刀|大刀]]と[[脇差|小刀]]を用いる。それぞれ長さと重さが決められており、男性の場合、大刀は3[[尺]]7[[寸]]以下（一刀の場合は3尺9寸以下）、小刀は2尺以下となっている。長らく二刀流が否定されていたため、また上記の通り竹刀も短く、かつては二刀流の相手に対しては胸突きも認められていたという[[ハンデキャップ]]があるため、指導者・使用者とも少ないのが現状である。

=== 異種試合 ===
[[異種試合]]とは、異なる武道との試合のことである。[[高野佐三郎]]が[[1920年]]（[[大正]]9年）に著した『[http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/964519 日本剣道教範]』（P119-P120）には[[銃剣道|銃剣]]、[[槍術|槍]]、[[鎖鎌術|鎖鎌]]との戦い方が解説されている。[[昭和天覧試合]]では[[銃剣道|銃剣術]]との試合が行われた。現在は[[全日本剣道演武大会]]など特別な大会で、[[なぎなた]]との試合が[[エキシビション]]的に行われる程度である。

=== 主な大会 ===
* [[全日本剣道選手権大会]]（女子の部は全日本女子剣道選手権大会）
* [[世界剣道選手権大会]]
* [[全国警察剣道選手権大会]]
* [[全国警察剣道大会]]
* [[全国教職員剣道大会]]
* [[全日本選抜剣道八段優勝大会]]（旧 明治村剣道大会）
* [[全日本都道府県対抗剣道優勝大会]]
* [[全日本東西対抗剣道大会]]
* [[全日本剣道演武大会]]（京都大会）
* [[国民体育大会剣道競技]]（国体）
* [[全国家庭婦人剣道大会]]
* [[全日本高齢者武道大会]]
* [[全国健康福祉祭]]（ねんりんピック）
* [[全国青年大会]]
* [[全日本学生剣道選手権大会]]
* [[全国高等学校総合体育大会剣道競技大会]]（インターハイ）
* [[玉竜旗全国高等学校剣道大会]]
* [[全国中学校剣道大会]]
* [[全日本少年少女武道錬成大会 (剣道)|全日本少年少女武道（剣道）錬成大会]]

== 段級位制・称号 ==
{{Main|剣道の段級位制}}

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
=== 注釈 ===
{{reflist|group="注釈"}}
=== 出典 ===
{{reflist}}

== 参考文献 ==
*[[山田次朗吉]]『日本剣道史』、一橋剣友会
*[[堀正平]]『大日本剣道史』、体育とスポーツ出版社
*[[庄子宗光]]『剣道百年』、[[時事通信社]]
*[[中村民雄 (体育学者)|中村民雄]]『史料近代剣道史』、島津書房
*中村民雄『剣道事典 技術と文化の歴史』、島津書房
*[[戸部新十郎]]『明治剣客伝 日本剣豪譚』、[[光文社文庫|光文社]]
*[[日本武道学会]]剣道専門分科会編『剣道を知る事典』、[[東京堂出版]]
*大塚忠義『日本剣道の歴史』、窓社
*[[酒井利信]]『日本剣道の歴史 英訳付き』、スキージャーナル
*[[松延市次]]『剣道段級審査 申し込みから免状まで』、成美堂出版

== 関連項目 ==
{{Commons&cat|Kendo|Kendo}}
{{Wikibooks|剣道}}
* [[居合道]] - [[杖道]] （剣道と合わせて「三道」といわれる）
* [[剣道家一覧]] - [[剣豪人物一覧]]
* [[スポーツ漫画#剣道|剣道漫画]]
* [[コムド]] - [[韓国起源説]]
* [[尺貫法]] - [[袴]]や[[竹刀]]の長さ、手刺[[防具 (剣道)|防具]]の刺し目の寸法等を表す際に用いられている。同項目の[[尺貫法#その他|その他]]を参照。
* [[講談社]] - 創業者の[[野間清治]]は[[社員教育]]に剣道を奨励しており、社有の剣道場「[[野間道場]]」を設立した。

== 外部リンク ==
=== 団体 ===
* [http://www.kendo.or.jp/ 全日本剣道連盟 (AJKF)] {{ja icon}}
* [http://www.kendo-fik.org/index.html 国際剣道連盟 (FIK)] {{en icon}}
* [http://members3.jcom.home.ne.jp/nihonnkenndoukyoukai/ 日本剣道協会] {{ja icon}}
* [http://www.budo.ac/kendo/ 日本武道学会剣道専門分科会] {{ja icon}}
* [http://www.cnkendo.com/ 北京五轮馆国际文化交流中心 (GRK)] {{zh icon}}
* [http://www.hangzhoukendo.com/ 中國-杭州剣道愛好會] {{zh icon}}
* [http://www.songshankendojo.com.tw/ 台湾-北市松山劍道館] {{ja icon}}

=== 資料 ===
* [http://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/dspace/bitstream/10270/539/1/6-236.pdf 幕末関東剣術流派伝播形態の研究 (1)]
* [http://ir.lib.fukushima-u.ac.jp/dspace/bitstream/10270/540/1/6-255.pdf 幕末関東剣術流派伝播形態の研究 (2)]
* [https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/4088/1/jinbunkagakukiyo_45_121.pdf 18世紀における剣術の変質過程に関する研究 -『撃剣叢談』の分析を中心に-]
* [https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/5104/1/kyouyoronshu_305_121.pdf 近世後期における剣術修行論に関する一考察 -弘前藩士山鹿高厚著『たより草』の分析を中心に-]
* [https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/4063/1/jinbunkagakukiyo_40_251.pdf 近世･近代における剣術･剣道の変質過程に関する研究 -面技の重視と技術の変容-]
* [https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/5087/1/kyouyoronshu_289_1.pdf 水戸藩における試合剣術に関する一考察 -『公覧始末撃剣』の分析を通して-]
* [http://www.h6.dion.ne.jp/~bokuden/theme_16.html 身体技術伝承の近代化 －旧弘前藩領における近世流派剣術から近・現代剣道への変容について]
* [http://www.lib.nifs-k.ac.jp/HPBU/annals/an11/11-15/11-15_1.html 剣道の技術の変遷 -近代剣道の竹刀打突技術の変遷について]
* [http://ci.nii.ac.jp/naid/110001919112 近代後期における剣術のスポーツ的展開 : 武田家の関口流における野稽古を中心に]
* [http://ci.nii.ac.jp/naid/110004026947 「撃剣」「剣術」から「剣道」への移行に関する史的考察]
* [http://ci.nii.ac.jp/naid/110004705436 「撃剣」「剣術」から「剣道」への移行過程に関する検討 : 永井道明の場合]
* [http://ci.nii.ac.jp/naid/110001918349 「撃剣」「剣術」から「剣道」への移行過程に関する検討 : 『文部省第一回撃剣講習録』の分析]
* [http://kindai.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/964519 日本剣道教範] [[高野佐三郎]]著、1920年（大正9年）
* [http://repository.tufs.ac.jp/bitstream/10108/23416/1/acs034016.pdf 剣道の技の変遷]
* [http://s-ir.sap.hokkyodai.ac.jp/dspace/bitstream/123456789/1293/1/kusiroron-35-07.pdf 剣道における打突時の発声に関する一考察]
* [http://ir.iwate-u.ac.jp/dspace/bitstream/10140/1142/1/erar-v32n4i2p121-134.pdf 剣道における有効打突に関する一考察]
* [http://www.lib.nifs-k.ac.jp/HPBU/annals/an11/11-15/11-15_1.html 剣道の技術の変遷]
* [http://www.lib.nifs-k.ac.jp/HPBU/annals/an2/2-93/2-93_1.html 剣道の有効打突について]
* [http://www.lib.nifs-k.ac.jp/HPBU/annals/an20/20-1/20-1_1.html 剣道における勝負の構造について]
* [http://www.lib.nifs-k.ac.jp/HPBU/annals/an8/8-91/8-91_1.html 剣道の研究と修錬]
* [http://www.namiashi.com/kenshido/ronbun/kihon.htm 剣道における「基本」という用語に関する研究]
* [http://www2.educ.fukushima-u.ac.jp/~kuro/nakamura/kendo-index.html 防具（剣道具）の歴史]
* [http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20130905_htc.pdf#search='%E5%89%A3%E9%81%93+%E9%96%93%E5%90%88%E3%81%84+%E7%A0%94%E7%A9%B6'　　剣道の間合いの規則性についての研究]
* [https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpehss/51/1/51_1_33/_pdf　「撃剣」「剣術」から「剣道」への移行に関する史的考察]木下秀明、体育学研究51号、2006

=== 専門雑誌 ===
*[http://www.skijournal.co.jp/kendo/ 剣道日本]
*[http://www.taiiku-sports.co.jp/kendo/ 剣道時代]

{{武道・武術}}
{{剣道殿堂}}

{{DEFAULTSORT:けんとう}}
[[Category:剣道|*]]
[[Category:武道]]
{{Link FA|uk}}
{{Link GA|de}}