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冪級数
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'''冪級数''' (べききゅうすう、{{lang-en-short|''power series''}}) は[[多項式]]に似た[[級数]]の一種である。具体的には可換[[環論|環]] ''R'' に対し、''R'' の無限列 (''a''<sub>''n''</sub>)<sub>''n''∈'''N'''</sub> と[[不定元]] ''x'' から作られる形式的な級数 :<math>\begin{align} f(x) & = \sum_{n=0}^{\infty} a_n x^n \\ & = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + \cdots + a_n x^n + \cdots \end{align}</math> を冪級数、あるいは ''R'' 上の'''形式冪級数''' ({{lang-en-short|''formal power series''}}) とよぶ。各 ''a''<sub>''n''</sub>''x''<sup>''n''</sup> を冪級数の'''項'''と呼び、各 ''a''<sub>''n''</sub> を'''係数'''と呼ぶ。係数列 (''a''<sub>''n''</sub>)<sub>''n''∈'''N'''</sub> に対して得られる冪級数はこの係数列の[[母関数]]とも呼ばれる。また、''c'' ∈ ''R'' に対して、 :<math>\sum_{n=0}^\infty a_n(x - c)^n</math> の形に表される級数を ''c'' を'''中心''' ({{lang-en-short|''center''}}) とする冪級数などと呼ぶ。 == 概要 == 冪級数の取り扱いには大きく分けて二つある。四則演算などの代数的性質のみに着目する形式冪級数と、関数などの解析的性質に着目する収束冪級数である。 数列 (''a''<sub>''n''</sub>)<sub>''n''∈'''N'''</sub> が(実質的)有限列つまり、適当な自然数 ''m'' があって、''n''>''m''なら必ず ''a''<sub>''n''</sub> = 0 が成り立つような列であるとき、これを係数列とすることによって得られる形式冪級数 :<math>f(x) = a_0 + a_1 x + a_2 x^2 + \cdots</math> は実質的に有限個の項からなり、[[多項式]]である。多項式に対してはその係数列の有限性から係数が 0 にならない添字の最大値 max{''n''∈'''N''' | ''a''<sub>''n''</sub> ≠ 0} として次数 deg(''f'') を考えることができたが、冪級数に対して同じことを考えるとほとんど全部の冪級数の次数は無限大であり、したがって、形式冪級数は形の上では[[多項式]]の次数を無限大に飛ばした類似物であると見ることができる一方で、形式冪級数に対して次数を考えてもほとんど何の役にも立たないということになる。形式冪級数に対して“多項式における次数”のような役回りを演じるのは、係数が 0 にならない添字の最小値 min{''n''∈'''N'''| ''a''<sub>''n''</sub> ≠ 0} である。多項式と形式冪級数との関係は[[有理数]]と実数(の無限小数展開)および[[p進数| ''p''-進数]](の ''p''-進展開)との関係の類似であり、実際に冪級数を有限体上で考えれば、これら類似性は[[大域体]]とその局所化である[[局所体]]との関係として一般的に取り扱われる。 収束冪級数は形式冪級数にその'''収束域'''を考え合わせたもので、収束冪級数はその収束域上で関数を定める。特に[[複素解析]]において[[解析関数]]を取り扱う際に重要な役割を演じる。 数列の持つ性質を母関数によって調べる組合せ論的な手法では、得られる冪級数が収束することが、冪級数に操作を施して得られた数列の性質をすべて肯定することになるため、収束性の確認は重要である。にもかかわらず、数列にとっては母関数が“何らかの意味で”収束する点を(中心以外に)持ちさえすればよいので、母関数の収束性にそれほど注意が払われることもない。 == 代数的性質 == このセクションでは ''R'' をある可換環とし、''R'' に係数を持つ冪級数を扱う。 === 代数的演算 === 同じ中心を持つ 2 つの冪級数が与えられたとき、それらの[[加法|和]]・[[減法|差]]・[[乗法|積]]が定義され、再び冪級数となる。すなわち、 :<math>f(x) = \sum_{n=0}^\infty a_n x^n,</math> :<math>g(x) = \sum_{n=0}^\infty b_n x^n</math> に対し、和 ''f'' + ''g'' と差 ''f'' - ''g'' が各項の係数の和・差をとることにより :<math>(f\pm g)(x) := \sum_{n=0}^\infty (a_n\pm b_n)x^n</math> のように定まる。また、積 ''fg'' とは :<math>(fg)(x) = \sum_{n=0}^\infty m_n x^n</math> とおくとき、係数 ''m''<sub>''n''</sub> を[[畳み込み]] :<math>m_n = \sum_{k=0}^n a_k b_{n-k}</math> で定めることによって得られる冪級数のことを言う。 また、''c'' ∈ ''R'' に対し、 :<math>(cf)(x) = \sum_{n=0}^\infty c\cdot a_n x^n</math> によって定まる冪級数 ''cf'' を、冪級数 ''f'' のスカラー ''c'' 倍という。 === 冪級数環 === ''R'' 上の形式冪級数の全体を ''R''<nowiki>[[</nowiki>''x''<nowiki>]]</nowiki> で表すと、上記の演算により ''R''<nowiki>[[</nowiki>''x''<nowiki>]]</nowiki> は ''R'' 上の結合的[[多元環]]となる。これを ''R'' を'''係数環'''とする 1 変数の'''形式冪級数環'''と呼ぶ。 体 ''K'' 上の形式冪級数環 ''K''<nowiki>[[</nowiki>''x''<nowiki>]]</nowiki> は完備な離散[[付値]]環である。またこのとき、冪級数の[[除法|商]]は必ずしも冪級数とはならないが、それはある負の数を冪にもつような項からはじまる冪級数と似た形の級数([[ローラン展開|ローラン級数]])として定まる。''K'' 上の 1 変数ローラン級数の全体 ''K''((''x'')) は ''K''<nowiki>[[</nowiki>''x''<nowiki>]]</nowiki> の商体になるので、''K''((''x'')) を'''ローラン級数体'''という。 == 解析学的性質 == === 冪級数の収束 === ''R'' を係数環とし、''X'' = ''c'' を中心に持つ冪級数 ''f''(''X'') ∈ ''R''<nowiki>[[</nowiki>''X'' − ''c''<nowiki>]]</nowiki> に対して、不定元 ''X'' への ''R'' の元 ''r'' の代入 :<math>f(r) = a_0 + a_1 (r-c) + a_2 (r-c)^2 + \cdots</math> は右辺が実質有限和である場合などを除き必ずしも意味を成さないが、係数環 ''R'' が[[位相環]]であるときには収束性を考えることによって意味を持たせることができて、[[部分関数]] :<math>f\colon R \to R;\ r \mapsto f(r) = a_0 + a_1 (r-c) + a_2 (r-c)^2 + \cdots</math> が定まる。この部分関数 ''f'' の定義域は、代入によって得られる級数 ''f''(''r'') が収束して ''R'' の中に値を持つような ''r'' の全体であり、冪級数 ''f''(''X'') の'''収束域'''と呼ばれる。冪級数 ''f''(''X'') の収束域は ''f''(''X'') の中心 ''X'' = ''c'' を必ず含む。また、収束域が中心 ''X'' = ''c'' 以外の点を含む領域 ''D'' である冪級数を、''D'' 上の'''収束冪級数'''と呼ぶ。収束冪級数は、形式冪級数 ''f''(''X'') とその収束域 ''D'' の組 (''f''(''X''), ''D'') として定まる。 === 冪級数の微分積分 === [[実数]]全体のなす[[体 (数学)|体]] '''R''' や[[複素数]]全体のなす体 '''C''' などは[[完備]]な距離を持つ[[位相体]]であり、これらの体上の冪級数の収束が一様であることを確かめることは難しくない。とくに冪級数の収束域は'''収束円'''と呼ばれる[[円板]]であり、収束円の半径を'''収束半径'''と呼ぶ。収束冪級数の中心は収束円の中心である。 収束の一様性により、収束冪級数は収束円内で項別微分・項別積分ともに可能である。つまり冪級数 :<math>f(x) := \sum_{n=1}^\infty a_n(x-c)^n</math> に対して、 :<math>f'(x) = \sum_{n=1}^\infty n a_n(x-c)^{n-1} = \sum_{n=0}^\infty (n+1)a_{n+1}(x-c)^n, </math> :<math> \int f(x)dx = \sum_{n=0}^\infty \frac{a_n(x-c)^{n+1}}{n+1} + C = \sum_{n=1}^\infty \frac{a_{n-1}(x-c)^{n}}{n} + C </math> が成立する。 === 収束半径の計算 === == 解析関数 == :{{main|解析関数}} [[複素平面|複素数平面]]上の[[領域 (数学)|領域]] ''D'' 上の収束冪級数 ''f''(''z'') が定義する複素関数 ''f'': ''D'' → '''C''' は ''D'' 上正則であり、''D'' 上[[滑らかな関数|解析的な関数]]のクラス ''C''<sup>ω</sup>(''D'') に属する。収束冪級数の集まり (''f''<sub>λ</sub>(''z''), ''D''<sub>λ</sub>)<sub>λ∈Λ</sub> は張り合わせ条件 :<math>D_\lambda \cap D_\mu \ne \empty \Rightarrow f_\lambda(z)=f_\mu(z) \mbox{ for any } z\in D_\lambda \cap D_\mu</math> を満たすとき(<span style="font-size:larger">'''∪'''</span><sub>λ</sub> ''D''<sub>λ</sub> 上の)[[解析関数]]と呼ばれる。 == 多変数冪級数 == 多変数の形式冪級数環も '''x''' = (''x''<sub>1</sub>, ..., ''x''<sub>''n''</sub>) を不定元として帰納的に : <math>R[[x_1,\ldots,x_n]] = R[[x_1,\ldots,x_{n-1}]]\,[[x_n]]</math> として定義することができる。また多重円板の中心を '''c''' = (''c''<sub>1</sub>, ..., ''c''<sub>''n''</sub>) とするとき、''R''<nowiki>[[</nowiki>''x''<sub>1</sub> − ''c''<sub>1</sub>, ..., ''x''<sub>''n''</sub> − ''c''<sub>''n''</sub><nowiki>]]</nowiki> に属するおのおのの冪級数は :<math>f(x_1,\dots,x_n) = \sum_{(j_1,\dots,j_n) = (0,\dots,0)}^{\infty}a_{j_1,\dots,j_n} \prod_{k=1}^n \left(x_k - c_k \right)^{j_k}</math> あるいは[[多重指数]]の記法を使って :<math>f(\mathbf{x}) = \sum_{\alpha\in\mathbb{N}^n} a_{\alpha}(\mathbf{x} - \mathbf{c})^{\alpha}</math> という形に書き表される。 == 関連項目 == * [[多項式]] * [[総和]] * [[解析関数]] * [[ローラン級数]] * [[テイラー展開]] {{DEFAULTSORT:へききゆうすう}} [[Category:多元環論]] [[Category:複素解析]] [[Category:数学に関する記事]]
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