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'''仮想水'''(かそうすい、virtual water)とは、[[農産物]]・[[畜産物]]の[[生産]]に要した[[水]]の量を、農産物・畜産物の輸出入に伴って売買されていると捉えたものである([[工業製品]]についても論じられるが、少量である)。'''ヴァーチャル・ウォーター'''ともいう。 世界的に水不足が深刻な問題となる中で、潜在的な問題をはらんでいるものとして'''仮想水の移動の不均衡'''が指摘されるようになってきた。 == 概要 == {| class="wikitable" style="float:right;font-size:88%;margin:5pt;" |+ 出荷額1億円の日本の工業製品を生産するのに必要な仮想水(推計値1998年)-<ref name="Miyake">[http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/Doc/MiyakeMizuFinal.doc 日本を中心とした仮想水の輸出入](三宅基文・[[沖大幹]]・[[虫明功臣]])</ref>- |- !工業製品名!!水量 |- |パルプ・紙・紙加工品||style="text-align:right" |45.3トン |- |繊維工業||style="text-align:right" |24.8トン |- |化学工業||style="text-align:right" |14.4トン |- |鉄鋼業||style="text-align:right" |11.8トン |- |食料品・たばこ・飼料||style="text-align:right" |4.3トン |- |機械器具||style="text-align:right" |0.9トン |- |平均||style="text-align:right" |4.7トン |} {| class="wikitable" style="float:right;font-size:88%;margin:5pt;" |+ 農畜産物1kgを生産するのに必要な仮想水-<ref>「日本水資源も海外依存 食糧輸入でひずみ他国へ」(読売新聞、2007年4月13日・大阪夕刊)</ref><ref>[http://www.env.go.jp/water/virtual_water/index.html virtual water 環境省]</ref>- |- !農産物名!!水量 |- |米||style="text-align:right" |3.6トン |- |大麦||style="text-align:right" |2.6トン |- |小麦||style="text-align:right" |2.0トン |- |トウモロコシ||style="text-align:right" |1.9トン |- |大豆||style="text-align:right" |2.5トン |- |牛肉||style="text-align:right" |20.6トン |- |豚肉||style="text-align:right" |5.9トン |- |鶏肉||style="text-align:right" |4.5トン |- |卵||style="text-align:right" |3.2トン |- |} 仮想水は、乾燥地帯に位置する[[中東]]の[[産油国]]諸国で[[水利権]]を巡る[[紛争]]が起きない理由に関する考察から提唱された。これは、[[石油]]の輸出で得られる[[外貨]]で[[食料]]を輸入することで、その生産に投入された[[水]]をも間接的に購入したものと解釈できるからである。水自体の輸送は多大なコストを要するため現実的ではないものの、その最終産物を輸入することで同様なことが現実的なコストで実現できているという効果である。この理論を打ち出したのが[[ロンドン大学]]の[[アンソニー・アラン]](Anthony Allan)である。 [[東京大学]]の[[沖大幹]]はこれに対し、同じ産品を輸入国側で生産したときに必要となる水の量を'''間接水'''(かんせつすい)、輸出国側で実際に投入された水の量を'''直接水'''(ちょくせつすい)と呼んで区別した。これらは、特に農産物の場合[[気候]]等の条件によって水の所要量は異なるため、一致するとは限らない。全体として直接水の方が少なく、結果として貿易は世界的な水の使用量を節約している形になっている。 世界の水の使用量の内訳は、[[工業]]に2割、[[生活]]に1割、残り7割は[[農業]]であり、農産物を生産するのに必要な水が多い<ref name="030812mai">「2025年に50億人超が水不足に [[国際連合|国連]]が予測」([[毎日新聞]]、[[2003年]][[8月12日]]・大阪朝刊)</ref>。 ==仮想水の産出== 農畜産物の1kgあたり仮想水の量は、[[灌漑]]法や、製造工程での[[廃棄]]率によって変わるため、正確な算出は難しく、試算によって大きく違うこともある。 農作物の仮想水は、主に灌漑で使った水である。天水([[雨水]])は、同じ量を使っても水資源としてはほとんど消費しておらず仮想水に対する影響はほとんどないため、降雨の豊富な地方で生産すれば仮想水は少なくなる。概して、[[水田]]で灌漑する[[米]]は1kgあたり仮想水が多い。[[C4植物]]である[[トウモロコシ]]は仮想水が少ない。 畜産物はとりわけ、使用する飼料により仮想水の量が大きく変わる。穀物飼料を用いる場合は、非常に多くなる。[[牛肉]]は、[[ウシ]]の成育期間が長いこと、飼料に穀物を多く使うことから、1kgあたり仮想水が多い。 [[牛丼]]1杯に水が風呂桶10杯分の2トンほど必要になると形容される<ref name="060702asa">「日本の水輸入 低きに流れない水」(朝日新聞、2006年7月2日朝刊)</ref><ref>「水危機(2)牛丼1杯風呂10杯分」(読売新聞、2008年1月22日・東京朝刊)</ref>。あるいは、安価な[[ジーンズ]]を1本作るのに最大1万1000リットルの水が使われ、1ドル未満の[[ハンバーガー]]に2400リットル以上の水が必要だという[[イギリス]]の[[非営利団体]][[ウオーターワイズ]]による試算もある。 工業製品に使う水は、農畜産物に比べれば少量だが、無視できるほどではない。 == 日本の直面する問題 == {| class="wikitable" style="float:right;font-size:88%;margin:5pt;" |+ 日本の仮想水輸入国と<br>その内訳-<ref name="060702asa" />- |- !国名!!水量 |- |アメリカ||style="text-align:right" |389億トン |- |オーストラリア||style="text-align:right" |89億トン |- |カナダ||style="text-align:right" |49億トン |- |ブラジルおよび<br />アルゼンチン||style="text-align:right" |25億トン |- |中国||style="text-align:right" |22億トン |- |デンマーク||style="text-align:right" |14億トン |- |タイ||style="text-align:right" |13億トン |- |南アフリカ||style="text-align:right" |3億トン |- |その他||style="text-align:right" |36億トン |- |} {| class="wikitable" style="float:right;font-size:88%;margin:5pt;" |+ 日本の仮想水輸入の主要品目別内訳-<ref name="Miyake" />- |- !製品!!割合 |- |牛肉||style="text-align:right" |45.3% |- |小麦||style="text-align:right" |18.6% |- |大豆||style="text-align:right" |16.0% |- |とうもろこし||style="text-align:right" |12.4% |- |豚肉||style="text-align:right" |4.3% |- |その他||style="text-align:right" |3.4% |} 日本は[[食料自給率]]が低く、世界最大の農産物輸入国である。このため、食料輸入という形で大量の仮想水を輸入している。 食料輸出の形で仮想水を輸出する側の国は必ずしも水資源に余裕があるとは限らない。工業化の遅れた国では主要な[[産業]]は[[第一次産業]]となり、必ずしも豊富とは言えない水資源の元で生産された農産物を外貨獲得のため輸出せざるを得ない状況となっているケースが見られる。これは、人口増加とともに深刻化する水問題のなかで、豊かな国へ仮想水が集中する方向に作用する。そして、[[日本]]は大量の仮想水を輸入しており、その量は年間で数百億から千数百億トンと見積もられている。日本で使用される工業用水は年間130億トン程度であり、工業品輸出はこれを相殺するに至っていない。 日本が輸入する仮想水のうち6.8%は、枯渇が懸念される地下水であり、仮想水の最大輸入国のアメリカの地下水が多い<ref>「[http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20080301-OYT1T00216.htm 日本の輸入食料、海外産地は水427億トンで生産]」(読売新聞、2008年3月1日)</ref>。 ==脚注== <div class="references-small"><references /></div> ==関連項目== *[[水の危機]] *[[地球環境問題]] *[[フードマイレージ]] *[[ウッドマイレージ]] *[[食料自給率]] *[[カーボンフットプリント]] ==外部リンク== *[http://www.env.go.jp/water/virtual_water/ バーチャルウォーター(実は身近な世界の水問題)](環境省) *[http://cals.arizona.edu/OALS/ALN/aln45/allan.html Water Stress and Global Mitigation: Water, Food and Trade](アンソニー・アランが仮想水の概念を提案した原論文) *[http://hydro.iis.u-tokyo.ac.jp/Info/Press200207/ 世界の水危機、日本の水問題-沖大幹] (東京大学生産技術研究所、沖・鼎研究所) {{DEFAULTSORT:かそうすい}} [[Category:水]] [[Category:貿易]] [[Category:環境用語]]
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