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不敬罪
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'''不敬罪'''(ふけいざい)とは、[[国王]]や[[皇帝]]など[[君主]]や、[[王族]]や[[皇族]]など君主の一族に対し、その[[名誉]]や尊厳を害するなど、[[不敬]]とされた[[行為]]の実行により成立する[[犯罪]]。故意犯のみ処罰する国家と、故意か過失かを問わず結果不敬ならば(=恣意的に)処罰する国家が存在する。 [[絶対君主制]]など、[[主権]]者たる[[君主]]と[[国家]]の存立を同一視する体制において定められることが多い。現在では、国民の[[自由]](特に[[思想・良心の自由]]、[[表現の自由]])を過度に制約し、支配層の横暴を許す恐れがあるため、[[君主制]]を採用している国でも廃止・失効している場合が大半である。[[イスラム世界]]や[[タイ王国]]は、現在も不敬罪が存在する数少ない例である。 == 日本の不敬罪 == {| class="wikitable" style="text-align:right" align=right |+ 皇室に関する罪の件数(1924-1941年)<ref>[[内務省 (日本)|内務省]][[警保局]]・編『内務省警察統計報告』、日本図書センター。</ref> ! 西暦年 !! 元号年 !! 認知件数<ref>元の統計では被害数、発生件数とあるが、用語を認知件数に改めた。前年以前に起きてその年に認知された事件を含み、その年に起きて翌年以降に認知された事件を含まない。</ref> !! 検挙件数 |- | 1924年 || 大正13年 || 17 || 19 |- | 1925年 || 大正14年 || 14 || 15 |- | 1926年 || 大正15年<ref>昭和元年。</ref> || 15 || 16 |- | 1927年 || 昭和2年 || 15 || 15 |- | 1928年 || 昭和3年 || 128 || 131 |- | 1929年 || 昭和4年 || 29 || 27 |- | 1930年 || 昭和5年 || 32 || 27 |- | 1931年 || 昭和6年 || 26 || 19 |- | 1932年 || 昭和7年 || 39 || 38 |- | 1933年 || 昭和8年 || 43 || 43 |- | 1934年 || 昭和9年 || 30 || 27 |- | 1935年 || 昭和10年 || 20 || 22 |- | 1936年 || 昭和11年 || 39 || 37 |- | 1937年 || 昭和12年 || 28 || 27 |- | 1938年 || 昭和13年 || 61 || 60 |- | 1939年 || 昭和14年 || 66 || 79 |- | 1940年 || 昭和15年 || 42 || 45 |- | 1941年 || 昭和16年 || 60 || 62 |} === 沿革 === 日本では不敬罪は、[[1880年]](明治13年)に公布された[[刑法 (日本)|旧刑法]](明治13年[[太政官布告]]第36号)において明文化された。この規定は、[[1907年]](明治40年)に公布された[[刑法 (日本)|現行刑法]](明治40年[[法律]]第45号)に引き継がれた。その後、不敬罪(74条、76条)を含む刑法第2編第1章(「皇室ニ對スル罪」、73条から76条まで。)は、[[1947年]](昭和22年)に削除されている。不敬罪で起訴になった最後の事件は1946年5月の[[食糧メーデー]]における[[プラカード事件]]。この刑法第2編第1章には、不敬罪のほか、天皇・皇族等に対して危害を加える行為(未遂を含む)を加重処罰する罪(73条、75条)も定められていた。危害罪も含めた「皇室ニ對スル罪」全体を不敬罪と呼ぶこともある。 === 概要 === 不敬罪の客体は、次の5種に分けられる。 :第一に天皇(74条1項) :第二に太皇太后、[[皇太后]]、[[皇后]]、[[皇太子]]、[[皇太孫]]など天皇に準ずる[[皇族]](同条項) :第三に[[神宮]](74条2項) :第四に[[天皇陵|皇陵]](同条項) :第五に普通の皇族(76条) 不敬罪の実行行為は、これらの客体に対して「不敬ノ行為」(不敬行為)を行うことである。不敬罪の法定刑は、第一から第四の客体に対する罪は「3月以上5年以下の[[懲役]]」とされ、第五の普通の皇族に対する罪は「2月以上4年以下の懲役」とされた。 不敬罪の客体のうち「神宮」は、[[伊勢神宮]]を指すのが通例だが、[[熱田神宮]]、[[橿原神宮]]、[[香取神宮]]など「神宮」と名付く[[神社]]も含まれると解された。また、同じく「皇陵」は、かつて天皇に在位した歴代の天皇の[[墳墓]]と解された。なお、現在でも[[礼拝所及び墳墓に関する罪|礼拝所不敬罪]]という罪名があるが、これは単に墳墓や神社仏閣の[[境内]]、[[教会堂]]全般に対する保護のためのもので、皇室とは直接関係ない。 不敬罪の[[保護法益]]は、客体が体現(象徴)する[[国家]]の名誉と尊厳、および客体自身の名誉と解された。そのため、不敬罪は、一般人における[[名誉毀損罪]]や[[侮辱罪]]等、名誉に対する罪の一種とされた。しかし、「不敬ノ行為」(不敬行為)は、これら一般人における名誉に対する罪の[[実行行為]]よりも広い範囲の行為を含むとされた。また、名誉毀損罪等が[[親告罪]]とされるのに対して、不敬罪は非親告罪とされた。 不敬行為とは、客体に対する軽蔑の意を表示し、その尊厳を害する一切の行為を指すとされた。客体の行為の公私の別・即位の前後・事実の有無・事実の摘示の有無に関係なく、これら全てについて一切の行為、上は実際の名誉毀損・侮辱行為から下は神聖性([[現人神]]であること)に疑問を持つなどまでである。また、その行為は、第三者から認識し得ることを要するものの、公然・非公然の別を問わないため、[[日記]]の記述を不敬行為とした[[判例]]もあり、適用範囲はきわめて広かった。積極的な行為でなくても、要求される敬意を払わないというようなことでも不敬行為とされた。 もっとも、歴代の天皇に対する不敬行為は、それが同時に現在の天皇に対する不敬行為にあたる場合を除き、不敬罪は適用されず、ただ死者に対する名誉毀損罪(230条2項)の適用の有無のみが問題とされた(注:死者に対する名誉毀損罪は、「虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ」(現代語化改正前の法文は「誣罔ニ出ツルニ非サレハ」)、処罰されない)。 現行法律下では告訴権者が「天皇、皇后、太皇太后、皇太后又は皇嗣」であるときに[[内閣総理大臣]]が代わって名誉毀損罪や侮辱罪の告訴を行うことができるのみで、適用される法律自体は一般国民に対するそれと変わらない。 === 法文 === ==== 刑法 ==== 刑法第二編第一章は、1947年(昭和22年)に削除されている。 *刑法(明治40年法律第45号) :第1章 皇室ニ對スル罪 :第73条 ::天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ對シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ處ス :第74条 ::天皇、太皇太后、皇太后、皇后、皇太子又ハ皇太孫ニ對シ不敬ノ行為アリタル者ハ三月以上五年以下ノ懲役ニ處ス ::神宮又ハ皇陵ニ対シ不敬ノ行為アリタル者亦同シ :第75条 ::皇族ニ對シ危害ヲ加ヘタル者ハ死刑ニ處シ危害ヲ加ヘントシタル者ハ無期懲役ニ處ス :第76条 ::皇族ニ對シ不敬ノ行為アリタル者ハ二月以上四年以下ノ懲役ニ處ス ==== 旧刑法 ==== 旧刑法にも同様の規定がある。[[罰金]]刑を定めていた点、及び、監視に関する規定を持つ点が異なる。 *旧刑法(明治13年太政官布告第36号) :第1章 皇室ニ對スル罪 :第116条 ::天皇三后皇太子ニ對シ危害ヲ加ヘ又ハ加ヘントシタル者ハ死刑ニ處ス :第117条 ::天皇三后皇太子ニ對シ不敬ノ所為アル者ハ三月以上五年以下ノ[[重禁錮]]ニ處シ二十圓以上二百圓以下ノ罰金ヲ附加ス :2項 ::皇陵ニ対シ不敬ノ所為アル者亦同シ :第118条 ::皇族ニ對シ危害ヲ加ヘタル者ハ死刑ニ處ス其危害ヲ加ヘントシタル者ハ無期[[徒刑]]ニ處ス :第119条 ::皇族ニ對シ不敬ノ所為アル者ハ二月以上四年以下ノ重禁錮ニ處シ十圓以上百圓以下ノ罰金ヲ附加ス :第120条 ::此章ニ記載シタル罪ヲ犯シ軽罪ノ刑ニ處スル者ハ六月以上二年以下ノ監視ニ付ス === 大津事件 === {{Main|大津事件}} [[1891年]]([[明治]]24年)5月、日本を訪問していた[[ロシア帝国]]の[[皇太子]]ニコライ(後の[[ニコライ2世]])が、[[滋賀県]][[大津市]]で警備の[[巡査]]・[[津田三蔵]]に突然斬りかかられて負傷する暗殺未遂事件が発生した。その事件処理に際して、大国ロシアを恐れた政府は[[大審院]]に対し、皇室に対する罪を適用して処断するよう圧力をかけた。しかし、大審院は、「皇室に対する罪は、外国の皇太子に対する行為については適用されない」として、一般の[[殺人罪 (日本)|殺人未遂]]事件として処理し、[[司法]]権の独立を保った。このとき政府から適用するよう求められた罪は、不敬罪ではなく皇族に対する危害罪(旧刑法116条)である。 == タイ王国の不敬罪 == タイにおける不敬罪は刑法第112条によって定められている。 :第112条 国王、王妃、王位継承者あるいは摂政に対して中傷する、侮辱するあるいは敵意をあらわにする者は何人も三年から十五年の禁固刑に処するものとする<!--มาตรา ๑๑๒ ผู้ใดหมิ่นประมาท ดูหมิ่น หรือแสดงความอาฆาตมาดร้ายพระมหากษัตริย์ พระราชินี รัชทายาท หรือผู้สำเร็จราชการแทนพระองค์ ต้องระวางโทษจำคุกตั้งแต่สามปีถึงสิบห้าปี--><ref>{{lang|th|{{Cite book|title=ประมวลกฎหมายอาญา พ.ศ. ๒๔๙๙|url=http://www.krisdika.go.th/lawHeadPDF.jsp?formatFile=pdf&hID=0|pages=มาตรา ๑๑๒}}}}</ref>。 1956年制定の当初は、刑期を「7年以下」と規定していたが<ref>{{lang|th|{{cite journal|journal=ราชกิจจานุเบกษา|volume=เล่ม ๗๓|issue=๙๕ ก ฉบับพิเศษ|pages=หน้า ๖๘ (ในหน้า ๑-๑๗๑)|title=พระราชบัญญัติให้ใช้ประมวลกฎหมายอาญา พ.ศ. ๒๔๙๙|url=http://www.krisdika.go.th/data/law/law4/%bb06/%bb06-20-2499-001.tif|date=๑๕ พฤศจิกายน พ.ศ.๒๔๙๙}}}}</ref>、1978年のクーデター後、「国家統治改革団」の命令41号によって下限・上限が広げられ重罰化された<ref>{{lang|th|{{cite journal|journal=ราชกิจจานุเบกษา|volume=เล่ม ๙๓|issue=๑๓๔ ก ฉบับพิเศษ|pages=หน้า ๔๗-๕๑|title=คำสั่งของคณะปฏิรูปการปกครองแผ่นดิน ฉบับที่ ๔๑|url=http://www.ratchakitcha.soc.go.th/DATA/PDF/2519/A/134/46.PDF|date=๒๑ ตุลาคม พ.ศ.๒๕๑๙}}}}</ref>。 この条項に書かれている行為を行うことは一般に「ご威光を侮辱する ({{lang|th|หมิ่นพระบรมเดชานุภาพ}}) 」と表現され、「ご威光を侮辱する罪(すなわち「不敬罪」、{{lang|th|โทษฐานการหมิ่นพระบรมเดชานุภาพ}})」とされる。また、外国の君主、妃、[[王配]](皇配)あるいは元首を侮辱した場合も別の条項によって罰せられる<ref>{{lang|th|{{Cite book|title=ประมวลกฎหมายอาญา พ.ศ. ๒๔๙๙|url=http://www.krisdika.go.th/lawHeadPDF.jsp?formatFile=pdf&hID=0|pages=มาตรา ๑๓๓}}}}</ref>。 「ご威光を侮辱する」の範囲は明確ではなく、“公然と敬意を表さないこと”をも含めるか否かで議論がある。[[タイ軍事クーデター (2006年)|2006年のクーデター]]の反対運動を行っていた政治活動家のチョーティサック・オーンスーン<ref>{{lang|th|{{Cite web|date=23 เมษายน 2551|url=http://www.prachatai.com/05web/th/home/11938|title=ข่าวที่ไม่ได้รับการตีพิมพ์: ว่าด้วยเรื่อง‘โชติศักดิ์ อ่อนสูง'|publisher=ประชาไท|accessdate=2008-09-01}}}}</ref>は同様に映画館で王室歌が流れた際に起立しなかったため不敬罪で2007年に起訴されたが、その際に表敬しないことは有罪ではないという旨の主張を行い<ref>{{lang|th|{{Cite web|author=จิรนันท์ หาญธำรงวิทย์|date=21 เมษายน 2551|url=http://www.prachatai.com/05web/th/home/11916|title=สัมภาษณ์ "โชติศักดิ์" ผู้ถูกกล่าวหาหมิ่นพระบรมเดชานุภาพ เพราะไม่ยืนเคารพเพลงสรรเสริญฯ ในโรงหนัง|publisher=ประชาไท|accessdate=2008-09-01}}}}</ref>、その友人らはチョーティサックの主張を受けて無罪を主張する署名活動を行っている<ref>{{lang|th|{{Cite web|author=Alan Na Phuket|url=http://www.petitiononline.com/Chotisak/petition.html|title=Suport Chotisak and a friend|accessdate=2008-09-01}}}}</ref>。2009年1月には、2300もの国内ウェブサイトが王室侮辱の廉で、タイ情報技術通信省により閉鎖させられた<ref>[http://sankei.jp.msn.com/world/asia/090106/asi0901062243002-n1.htm 王室侮辱の2300サイト閉鎖 タイが不敬罪の規制強化]MSN産経ニュース2009年1月6日</ref>。同年8月にはタクシン派組織「反独裁民主戦線」の幹部、ダラニー・チャーンチェンシラパクンが集会における国王批判(表敬をしなかったという理由ではない)で禁固18年の刑を宣告され控訴している<ref>[http://mainichi.jp/select/world/news/20090830k0000m030091000c.html タクシン派女性、不敬罪で禁固刑]毎日.jp</ref>。 一方で[[マグサイサイ賞]]受賞者で弁護士のトーンバイ・トーンパオは、表敬するように要求があった場合に表敬しないことは罪であると主張し、過去には[[タイの王室歌|王室歌]]が流れたときに起立しなかった[[チュラーロンコーン大学]]の学生が2年間の禁固刑を受けていることを指摘している<ref>{{lang|th|{{Cite web|date=24 เมษายน 2551 17:16 น.|url=http://www.manager.co.th/Crime/ViewNews.aspx?NewsID=9510000048141|title=เผยโฉม “โชติศักดิ์” ไม่ยืนตรงเพลงสรรเสริญ-โทษถึงคุก!|publisher=Manager Online|accessdate=2008-09-01}}}}</ref>。 首相を務めた[[アピシット・ウェーチャチーワ]]は「過去の事件で政治的に不敬罪が濫用されていた」と懸念を示している。 == 関連項目 == *[[君主制]] *[[絶対君主制]] *[[国体]] *[[治安維持法]] *[[内乱罪]] *[[内村鑑三]] - [[第一高等中学校]]の嘱託教員であった際の「不敬」事件([[1891年]])。 *[[大逆罪]] *[[大逆事件]] *[[美濃部達吉]] - [[東京大学|東京帝国大学]][[教授]]。[[天皇機関説]]事件([[1935年]])の際、不敬罪で告発される。不起訴となったが、[[貴族院 (日本)|貴族院]]議員を辞職した。 *[[牧口常三郎]] - [[創価学会]]初代会長。[[1943年]][[7月6日]]、[[治安維持法]]違反・不敬罪の容疑で逮捕され、翌年[[巣鴨プリズン]]で獄死。 *[[尾崎行雄]] - [[衆議院議員]]。1943年、前年の総選挙の際の演説で[[翼賛選挙]]批判を行った中に引用した[[川柳]]「売家と唐様で書く三代目」が[[明治天皇]]から数えて近代日本三代目の[[昭和天皇]]を揶揄するものであるとされ不敬罪で起訴される([[尾崎不敬事件]]。一審で有罪、1944年[[大審院]]で無罪確定)。 *[[大津事件]] - [[児島惟謙]] *[[プラカード事件]] *[[台中不敬事件]] - [[趙明河]] *[[京大天皇事件]] - [[昭和天皇]]に公開質問状を出そうとした学生の態度が「不敬」と非難された。 *[[ケマル・アタテュルク#ケマル主義|アタテュルク擁護法(アタテュルク侮辱罪)]] *[[菊タブー]] == 脚注 == {{reflist}} {{Law-stub}} {{DEFAULTSORT:ふけいさい}} [[Category:犯罪類型]] [[Category:日本の皇室関連法規]] [[Category:タイの法]] [[Category:君主制]] [[Category:天皇制]] [[Category:日本の犯罪類型]]
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