モンゴル文字のソースを表示

{{Otheruseslist|[[ウイグル文字]]系統のモンゴル文字|[[チベット文字]]系統のモンゴル語表記|パスパ文字|現代モンゴル語の[[キリル文字]]表記|モンゴル語}}
{{特殊文字}}
{{Infobox WS
| name = モンゴル文字
| languages = [[モンゴル語]]、[[エヴェンキ語]]
| type = アルファベット
| fam1 = [[原カナン文字]]
| fam2 = [[フェニキア文字]]
| fam3 = [[アラム文字]]
| fam4 = [[シリア文字]]
| fam5 = [[ソグド文字]]
| fam6 = [[ウイグル文字]]
<!-- | creator = [[Tatar-
Tonga]] -->
| children = [[満州文字]]<br>[[トド文字]]([[:en:Clear script|en]])<br>[[ヴァギンターラー文字]]([[:en:Vaghintara script|en]])
| time = [[1208年]]-現在
| unicode = [http://www.unicode.org/charts/PDF/U1800.pdf U+1800-U+18AF]
| sample = Mongol khel.svg
| image_size = 120px
| caption = モンゴル文字による「モンゴル」
| iso15924 = Mong
}}
[[画像:Guyuk khan's Stamp 1246.jpg|thumb|280px|[[インノケンティウス4世]]宛の[[グユク]]の勅書の朱印。[[モンゴル語]]で「長生なる天の力に依りて。[[モンゴル帝国|イエケ・モンゴル・ウルス]]の海（ダライ）の[[ハーン|カン]]の勅…」とある]]
[[File:10TugrikObverse.jpg|thumb|10[[トゥグルグ]][[紙幣]]の表。モンゴル文字が表記されている。]]
[[File:10TugrikReverse.jpg|thumb|10[[トゥグルグ]][[紙幣]]の裏。キリル文字が表記されている。]]
{{音素文字}}
'''モンゴル文字'''（モンゴルもじ、蒙古文字〔もうこもじ〕／モンゴル語キリル文字表記：'''{{Unicode|Монгол бичиг}}'''、モンゴル文字：{{Mongol|‎ᠮᠣᠩᠭᠣᠯ ᠪᠢᠴᠢᠭ᠌‎}}、モンゴル文字ローマ字（ラテン文字）転写：{{ラテン翻字|mn|Mongγol bičig}}、[[中国語]]：{{lang|zh|蒙古字母}}）は、[[13世紀]]ごろ[[ウイグル文字]]から派生した[[文字]]で、主に[[モンゴル語]]を表記する。'''フドゥム'''、'''胡都木'''とも。専ら[[縦書きと横書き|縦書き]]され、行は左から右へ綴られる（左縦書き）。

現在は主に[[中華人民共和国]][[内モンゴル自治区]]で使われている<ref>内モンゴルでの使用実例：[http://fubito.blogspot.com/2011/06/mongol-chunlian-oo.html Mongol chunlian モンゴル文字の春聯 {{Unicode|хoс уянга}} {{Mongol|{{resize|70%|&#6188;&#6180;&#6180;&#6192; &#6180;&#6198;&#6176;&#6185;&#6189; &#6176;}}}}] - [http://fubito.blogspot.com/ bitx&#601;&#353;&#239;-史]''（[[ハンガリー語]]）'' 2012年2月13日閲覧。</ref>が、[[モンゴル国]]では 1994 年以降義務教育化され、歴史と伝統・文化の象徴として[[モンゴル書道|書道]]<ref>モンゴル文字書道の実例：
:* [http://tianzao.exblog.jp/13977275/ tianzao : 満都拉さんが書道展で外国人部門銅賞を受賞]、
:* [http://blogs.yahoo.co.jp/michinotomo/59231467.html モンゴル書道を拝見 - 北の空から世の中散策 - Yahoo!ブログ]、
:* [http://shitekigaho.net/report/art/odontoya/01/index.html 数千年の時を経たモンゴル書道]、
:* [http://metalkoubou.blog3.fc2.com/blog-entry-518.html 目樽工房 天満天神繁昌亭・仁智の笑いのモンゴル紀行]、
:* [http://green.ap.teacup.com/762783/205.html 内モンゴル見聞録その{{JIS2004フォント|②}} | 篆刻 希夷斎]。
</ref>や[[クラフト]]アートをはじめとした芸術作品に活用されている。

== 歴史 ==
モンゴル文字は、[[ウイグル文字]]そのものでモンゴル語を筆写していた時期の古典的な「ウイグル式モンゴル文字」と、[[子音]]や[[母音]]の文字の整備がより進んだ「現代モンゴル文字」の 2 種類に大別される。

=== モンゴル帝国時代の「モンゴル文字」 ===
[[モンゴル]][[部]]が[[オノン川#チンギス・カン誕生の地|オノン川]]で発祥した時には元来文字を持たなかった<ref>この時の草原の[[モンゴル諸語|同語族]]諸部には、早くからこの字体を採用したものがあったが、モンゴル部からは単にこれに注目する必要がなかった。この字体でモンゴル語を書写するのを始めたのは[[13世紀]]初頭である。{{仮リンク|ボリス・ウラジミルツォフ|label=ボリス・ヤコヴレヴィチ・ウラジミルツォフ|ru|Борис Яковлевич Владимирцов}}）の『モンゴル文語と[[ハルハ]]方言との比較文法』（''{{Unicode|Сравнительная грамматика монгольского письменного языка и халхаского наречия}}'', 1929）参照、（「[http://100.yahoo.co.jp/detail/%E3%82%A6%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%9F%E3%83%AB%E3%83%84%E3%82%A9%E3%83%95/ ウラジーミルツォフ（うらじーみるつぉふ）]」 - [[Yahoo!百科事典]]）。</ref>。[[1204年]]に[[チンギス・カン|チンギス・ハーン]]が[[ナイマン]]王国を攻略したとき、捕虜となったナイマンの宰相で[[ウイグル人]]であった{{仮リンク|タタ・トゥンガ|zh|塔塔統阿}}（{{lang|zh|塔塔統阿}}）という人物がチンギスの詰問に答えて国璽と文字の効用を説いたことにより、モンゴルでも国事の遂行に印璽の使用するようになり、彼にモンゴル人の子弟にウイグル文字を習わせた、とされている<ref>『[[元史]]』[[:s:zh:元史/卷124#塔塔統阿|列伝第十一、塔塔統阿伝]]。</ref>。[[1222年]]にチンギス・カンの宮廷を訪れた[[丘処機]]が長生の術についてチンギスに講じた内容を、ウイグル人の書記がウイグル文字で記録していたという記事が『長春真人西遊記』にある。チンギス、[[オゴデイ]]、[[グユク]]の時代に活躍したウイグル人書記官チンカイは[[ナイマン]]、[[ケレイト]]攻略以前にチンギスの幕下で活動しており、ナイマン攻略前後からモンゴルはウイグル文字と接触し、その存在を意識していた可能性は高い。[[1246年]]に即位した[[グユク]]が[[ローマ教皇]][[インノケンティウス4世]]に宛てた[[ペルシア語]]による勅書が[[バチカン]]に現存するが、この書簡の書面にウイグル文字モンゴル語による銘文をもつ印璽が2か所捺されており、これが絶対年代が判明している最古のモンゴル語とモンゴル文字の資料となっている。（1226年頃にチンギス・カンの甥イェスンゲが射た遠矢の記録を記念したいわゆる「イェスンゲ紀功碑」が最古のモンゴル文字とされているが、記念碑の建立年代には異論もある）

[[モンゴル帝国]]および[[元 (王朝)|大元ウルス]]でモンゴル語の筆写に使用されていた、いわゆる「モンゴル文字」として知られている文字は、当時[[漢語]]では「{{lang|zh|畏兀兒文字}}」、同時代の[[イルハン朝]]などで書かれたペルシア語資料でも {{Unicode|kha&#7789;&#7789;-i Uyghr&#299;}} （ウイグルの文字）と称されており、飽くまでも「ウイグル文字」であって「モンゴル文字」とは呼ばれていなかった。モンゴル語の筆写にはウイグル文字がそのまま使用されていたため、正書法もウイグル文字そのものであった。このようにモンゴル語を筆写するために書かれた当時のウイグル文字を、敢えてウイグル語文書などのウイグル文字と区別するために「ウイグル式モンゴル文字」と称される場合もある。

なお、大元ウルスで「蒙古字」ないし「蒙古新字」と称されていたのは、[[チベット文字]]を基にチベット人僧侶[[パクパ]]（パスパ）がつくった[[パスパ文字]]である。

=== モンゴル国における文字事情 ===
なお、歴史上モンゴル語の表記には別系統の文字も数種類使用されている。[[ソビエト連邦]]の影響下に組み込まれた[[モンゴル人民共和国]]では[[キリル文字]]による表記が一般化したが、新生[[モンゴル国]]が発足した頃からモンゴル文字の使用が見直されてきている。一時はキリル文字表記からモンゴル文字表記への全面的な切り替えが計画され小中学校での教育が始まったが、一般国民の間では歴史と伝統・文化の象徴と見なされてはいるものの、「モンゴル文字」イコール「話しことばとは無関係の文語」というイメージが定着してしまっており、また[[縦書きと横書き|横書き]]ができないという（現代においては致命的ともいえる）弱点を抱えていることもあって、いまだ完全な移行にいたっていない。

=== 他の文字への派生 ===
モンゴル文字を基にしてつくられた文字として、[[明]]の時代に[[ヌルハチ]]がつくらせた[[満州語]]の[[満州文字]]、[[モンゴル諸語]]の[[オイラト語]]を表記するために考案された[[トド文字]]がある。

== 文字==
{| class="wikitable"
|- style="vertical-align:top;"
!rowspan=2|[[Unicode]]
!rowspan=2|[[国際音声記号|IPA]]
!colspan=3| モンゴル文字
!rowspan=2|[[パスパ文字]]
!rowspan=2|[[元朝秘史]]訳音漢字<ref>子音には、その後ろに母音「a」または「e」が付いたり付かなかったりする。</ref>
!rowspan=2|[[ラテン文字]]転写<ref>[[ニコラス・ポッペ]]の &quot;Grammar of Written Mongolian&quot; の転写法による。</ref>
!rowspan=2|[[キリル文字]]
!rowspan=2|注
|- style="vertical-align:top;" class="nounderlines"
! 語頭
! 語中
! 語末
|- class="nounderlines"
| U+1820 (ᠠ)
| {{IPA|a}}
| [[File:Mg a initial.png]]
|rowspan=2| [[File:2mg ae medial.png]]
|rowspan=2| [[File:3mg ae final.png]][[File:3mg ae2 final.png]]
|
| 阿（1-7-3）<ref>ここの数字排列は、[[内蒙古人民出版社]]オルデンタイ（額爾登泰）・ウユンダライ（烏雲達賚）[[校勘]]本『[[元朝秘史|蒙古秘史]]』に準拠し、「（節数－その節内の単語順序－その単語内の漢字順序〔正文小字を含み、旁字を含まない〕）」と注釈した。以下はみなこの例に準じる。</ref>
| a
| А
|rowspan=2| 語頭を除き、a,e は同形。aは男性語、eは女性語で使われる。子音b,pの後、または女性語の子音k,gの後の本母音の語末形は左にカーブする。
|- class="nounderlines"
| U+1821 (ᠡ)
| {{IPA|e}}
| [[File:Mg e initial.png]]
|
| 額（1-4-2）
| e
| Э
|- class="nounderlines"
| U+1822 (ᠢ)
| {{IPA|i}}
| [[File:Mg i initial.png]]
| <p>[[File:2mg_i_medial.png]]<ref>子音の後で i と転写される</ref></p><p>[[File: Mongol_i_middle2.jpg]]<ref>母音の後で yiと転写される。</ref></p>
| [[File:3mg iy final.png]]
|
| 亦（8-3-1）
| i, yi
| И, Й, Ы, Ь
| 対応する音声言語では、語中の他の母音の影響を受けて様々な母音が対応する。
|- class="nounderlines"
| U+1823 (ᠣ)
| {{IPA|o}}
|rowspan=2| [[File:Mg ou initial.png]]
|rowspan=2| [[File:2mg_öü2_medial.PNG]]
|rowspan=2| [[File:3mg ouöü final.PNG]]
|rowspan=2|
|rowspan=2| 斡（1-20-1）、兀（1-11-3）
| o
| О
|rowspan=2| o,uは同じ語形。先頭以外の音節ではoは起こらない。
|- class="nounderlines"
| U+1824 (ᠤ)
| {{IPA|ɔ}}
| u
| У
|- class="nounderlines"
| U+1825 (ᠥ)
| {{IPA|ɵ}}
|rowspan=2| [[File:Mg öü initial.PNG]]
|rowspan=2| [[File:2mg öü2 medial.PNG]][[File:2mg öü1 medial.PNG]]
|rowspan=2| [[File:3mg ouöü final.PNG]][[File: Mongol_oe_tail.jpg]]
|rowspan=2|
|rowspan=2| 斡（6-18-1）、兀（5-6-2）<ref>上の o, u との区別は語中の他の母音を見て判断するしかない。</ref>
| ö
| Ө
|rowspan=2| ö,üは同じ語形。先頭以外の音節ではöは起こらない。この字母は、u[[File:2mg_öü2_medial.PNG]]と i[[File:2mg_i_medial.png]]の[[合字]]。
|- class="nounderlines"
| U+1826 (ᠦ)
| {{IPA|u}}
| ü
| Ү
|- class="nounderlines"
| U+1827 (ᠧ)
|
| [[File:Mg w initial.png]]
| [[File:2mg w medial.png]]
|
|
|
| ē
| е
| ēは借用語でのみ使用され、その字形は w と同じ。
|- class="nounderlines"
| U+1828 (ᠨ)
| {{IPA|n}}
| [[File:Mg n initial.png]]
| <p>[[File:2mg n1 medial.png]]<ref>音節頭に来る場合の形。「訥」（n-）等が対応。</ref></p><p>[[File:2mg n2 medial.png]]<ref>音節末に来る場合の形。「恩」（-n）等が対応。</ref></p>
| [[File:3mg ae final.png]][[File:3mg n2 final.png]]
|
| 訥（1-2-3）（音節頭）、安（11-27-5）（音節末）
| n
| Н
| nは母音の後では点が付くが、それ以外では a,e と同形。
|- class="nounderlines"
| U+1829 (ᠩ)
| {{IPA|ŋ}}
| 
| [[File:2mg ng medial.png]]
| [[File:3mg ng final.png]]
| 
| 昂（78-59-1）（音節末で）
| ng
| Н, НГ
| この文字は固有語の音節末にのみ使われるため、語中形と語末形のみをもつ。チベット語の {{Unihan|0F44}} 、サンスクリットの {{Unicode|ङ}} の転写に使われる。この字母は n[[File:2mg n2 medial.png]]と g[[File:2mg g medial.png]]の合字。
|- class="nounderlines"
| U+182A (ᠪ)
| {{IPA|b}}
| [[File:Mg b initial.png]]
| [[File:3mg_ouöü_final.PNG]]
| [[File:3mg b1 final.png]][[File:3mg b2 final.png]]
|
| 巴（1-27-1）、<sub>卜</sub>（小字、字尾にある時。）（244-10-2）
| b
| Б, В
| 後続の母音と合字を形成する。
|- class="nounderlines"
| U+182B (ᠫ)
| {{IPA|p}}
| [[File:Mg p initial.png]]
| [[File:2mg p medial.png]]
| [[File:3mg p final.png]]
|
|
| p
| П
| 中世モンゴル語にはこの文字は無かった。チベット語の {{Unihan|0F54}} 、サンスクリットの प の転写に使われる。b[[File:3mg_ouöü_final.PNG]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
|rowspan=2| U+182C (ᠬ)
| {{IPA|χ}}
| [[File:Mg q initial.png]]
| [[File:2mg q medial.png]]
| [[File:3mg q final.png]] 
|
| <sup>中</sup>合（4-10-1）
| q ([[モンゴル語#.E6.AF.8D.E9.9F.B3.E8.AA.BF.E5.92.8C.E3.81.AE.E8.A6.8F.E5.89.87|男性語]])
| Х
|
|- class="nounderlines"
| {{IPA|x}}
| [[File:Mg g initial.png]]
| [[File:2mg g medial.png]]
| [[File:3mg g final.png]]
|
| 可（2-2-1）、<sub>克</sub>（小字、字尾にある時。）（1-8-3）
| k ([[モンゴル語#.E6.AF.8D.E9.9F.B3.E8.AA.BF.E5.92.8C.E3.81.AE.E8.A6.8F.E5.89.87|女性語]])
| Х
| 対応する音声言語で区別される k、g は同一の文字であらわされる。
|- class="nounderlines"
|rowspan=2| U+182D (ᠭ)
| {{IPA|ɢ}}
| [[File:Mg gh initial.png]]
| [[File:2mg gh1 medial.png]][[File:2mg_q_medial.png]]
| [[File:3mg gh1 final.png]] [[File:3mg_q_final.png]] 
| 
| <sup>中</sup>合（4-9-1）、<sub>黑</sub>（小字、字尾にある時。）（1-24-3）
| γ,ġ ([[モンゴル語#.E6.AF.8D.E9.9F.B3.E8.AA.BF.E5.92.8C.E3.81.AE.E8.A6.8F.E5.89.87|男性語]])
| Г
| この文字の前後に母音が隣接する場合、対応する音声言語では γ が発音されず[[代償延長|隣接する母音を長母音として発音する]]ことが多い<ref>例：'''可汗'''qaγan（元人は'''合罕'''と書いた）が'''汗'''qaan（母音が長母音になっている点に注意）に対応する。少数だが'''白'''（察罕）のように音の変化が無い例もある。</ref>。q[[File:2mg q medial.png]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| {{IPA|ɡ}}
| [[File:Mg g initial.png]]
| [[File:2mg g medial.png]]
| [[File:3mg g final.png]]
| 
| 格（1-12-1）
| g ([[モンゴル語#.E6.AF.8D.E9.9F.B3.E8.AA.BF.E5.92.8C.E3.81.AE.E8.A6.8F.E5.89.87|女性語]])
| Г
| k、gは同形。γ同様対応する音声言語では脱落し長母音を成す<ref>例：'''上''' deger は対応する音声言語では deer と読まれる。少数だが üge などの例外もある。</ref>。
|- class="nounderlines"
| U+182E (ᠮ)
| {{IPA|m}}
| [[File:Mg m initial.png]]
| [[File:2mg m medial.png]]
| [[File:3mg m final.png]]
| 
| 馬（2-3-2）
| m
| М
| 
|- class="nounderlines"
| U+182F (ᠯ)
| {{IPA|ɬ}}
| [[File:Mg l initial.png]]
| [[File:2mg l medial.png]]
| [[File:3mg l final.png]]
|
| 剌（1-24-4）、<sub>勒</sub>（小字、字尾にある時。）（1-12-5）
| l
| Л
| 音節末において[[元 (王朝)|元]]人訳では {{ipa|n}} 音と混同されることがある。
|- class="nounderlines"
| U+1830 (ᠰ)
| {{IPA|s}}
| [[File:Mg s initial.png]]
| [[File:2mg s medial.png]]
| [[File:3mg s final.png]]
| 
| 撒（6-12-1）、速（u音を伴う）（5-28-3）、速（小字でも字尾でもない。）（270-44-3）
| s
| С
|
|- class="nounderlines"
| U+1831 (ᠱ)
| {{IPA|ɕ}}
| [[File:Mg sh initial.png]]
| [[File:2mg sh medial.png]]
| [[File:3mg sh final.png]]
|
| 沙（273-13-3）（ただし用字上ではsと混同されることがある）
| š
| Ш
| s[[File:2mg s medial.png]]から分化してできた字母。元朝秘史の時代の資料では大抵母音 i を伴っていた。
|- class="nounderlines"
| U+1832 (ᠲ)
| {{IPA|t}}
|rowspan=2| [[File:Mg td initial.png]]
|rowspan=2| [[File:2mg td2 medial.png]][[File: Mongol_t_middle2.jpg]][[File:2mg td1 medial.png]]
|rowspan=2| [[File:3mg td final.png]]
|rowspan=2|
|rowspan=2| 塔（1-27-2）、<sub>惕</sub>（小字、字尾にある時。）（3-22-4）、答（6-23-3）
| t
| Т
|rowspan=2| 対応する音声言語で区別される t, d も伝統的には文字上区別されない。外来語はこの限りではない。
|- class="nounderlines"
| U+1833 (ᠳ)
| {{IPA|d}}
| d
| Д
|- class="nounderlines"
| U+1834 (ᠴ)
| {{IPA|ʨ, ʦ}}
| [[File:Mg c initial.png]]
| [[File:2mg c medial.png]]
|
|
| 察（2-3-3）
| {{Unicode|č}}
| Ч, Ц
| [[ハルハ・モンゴル語]]などで区別される {{ipa|ʨʰ}} 、 {{ipa|ʦʰ}} は対応する文字では伝統的に区別されないが、前者は母音 i を伴うことが多い。[[チャハル・モンゴル語]]では前者の音が対応する。
|- class="nounderlines"
| U+1835 (ᠵ)
| {{IPA|ʥ, ʣ}}
| [[File:Mg j initial.png]]
| [[File:2mg j medial.png]]
| 
| 
| 札（1-7-1）
| &#x01f0;
| Ж, З
| č と同様に、ハルハ・モンゴル語では2種類の子音が対応する。初期には y- と混同された。
|- class="nounderlines"
| U+1836 (ᠶ)
| {{IPA|j}}
| [[File:Mg y initial.png]]
| [[File:2mg y medial.png]]
| [[File:3mg iy final.png]]
| 
| 牙（34-6-1）
| y
| Е, Ё, И, Ю, Я
| i[[File:2mg i medial.png]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| U+1837 (ᠷ)
| {{IPA|r}}
| [[File:Mg r initial.png]]
| [[File:2mg r medial.png]]
| [[File:3mg r final.png]]
| 
| <sup>舌</sup>剌（4-9-3）、兒（字尾にある時。小字でない。）（1-3-4）
| r
| Р
| 固有語や古い借用語では語頭に現れない。<ref>例：伝統に基づけば、[[ロシア|{{Unicode|Русь}}]]という語を音訳する際、字首に「斡」（o）一音を添えて[[ロシア|斡<sup>舌</sup>魯速]]（270-44-2）とすればよく、この舌音を字首に置くことを避ける。日本人が'''ロシア'''（露西亜）と訳し、中国人が'''オロス'''（俄羅斯）と訳したのは、モンゴル音から転じたためであろう〔訳注：日本人もかつては'''[[ロシア#国名|オロシャ]]'''と言った〕。</ref>
|- class="nounderlines"
| U+1838 (ᠸ)
| {{IPA|β, w}}
| [[File:Mg w initial.png]]
| [[File:2mg w medial.png]]
|
|
|
| v
| В
| サンスクリットの {{Unicode|व}} や漢語ピンインの w の転写に使われる。i[[File:2mg i medial.png]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| U+1839 (ᠹ)
| {{IPA|f}}
| [[File:Mg f initial.png]]
| [[File:2mg f medial.png]]
| [[File:3mg f final.png]]
|
|
| f
| Ф
| 中世モンゴル語にこの文字は無かった。b[[File:3mg_ouöü_final.PNG]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| U+183A (ᠺ)
|
|
|
|
|
|
| (k,gh)
| г
| 外来語の表記に使用。
|- class="nounderlines"
| U+183B (ᠻ)
| {{IPA|k}}
| [[File:Mg k initial.png]]
| [[File:2mg k medial.png]]
| [[File:3mg k final.png]]
|
| 
| &#x1e33;<ref>この転写法は[[小沢重男]]『現代モンゴル語辞典』頁xiの記すところによる。</ref>
| К
| 中国語の「可」の声母、[[ロシア語]]の К などの転写に使われる。g[[File:2mg g medial.png]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| U+183C (ᠼ)
| {{IPA|ʦʰ}}
| [[File:Mg ts initial.png]]
| [[File:2mg ts medial.png]]
| 
|
|
| (c)
| (ц)
| [[チベット語]]の {{Unihan|0F5A}} 、[[サンスクリット語]]の {{Unicode|छ}} の転写に使われる。一見、下の発音と対になっているように見えるが、現在ではチベット語の影響を受けて {{ipa|ʦʰ}} という発音を表す。外国語の転写にも用いられる。č[[File:2mg c medial.png]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| U+183D (ᠽ)
| {{IPA|ʣ}}
| [[File:Mg z initial.png]]
| [[File:2mg z medial.png]]
|
| 
| 
| (z)
| (з)
| チベット語の {{Unihan|0F5B}} 、サンスクリット語の {{Unicode|ज}} の転写に使われる。一見、上の発音と対になっているように見えるが、現在ではチベット語の影響を受けて {{ipa|ʣ}} という発音になっている。外国語の転写にも用いられる。č[[File:2mg c medial.png]]から分化してできた字母。
|- class="nounderlines"
| U+183E (ᠾ)
| {{IPA|(h)}}
| [[File:Mg h initial.png]]
| [[File:2mg h medial.png]]
| 
| 
|
| (h)
| (г, х)
| サンスクリット語では {{Unicode|ह}} に相当する。またこの字は、一部の[[有声]]子音の後に直接続けて、有声[[有気音]]を表す（lh、つまりチベット語の {{Unihan|0F63}}{{Unihan|0FB7}}のように）。外国語の転写にも用いられる。
|- class="nounderlines"
| U+1840 (ᡀ)
|
|
|
|
|
|
| lh
| лх
| 外来語の表記に使用。ᡀᠠᠰᠠ (lhasa) など。
|-
| U+183F (ᠿ)
| {{IPA|(ʐ)}}
| [[Image:Mg ri initial.png]]
|
| 
|
|
| (ř)
| (-,-)
| [[内モンゴル自治区|内モンゴル]]で、[[中国語]]の'[[ピン音|r]] ([[注音符号|ㄖ]])'を転写するのに用いられる（後述の[[#関連項目]]参照）。
|-
| U+1841 (ᡁ)
| {{IPA|(ʈʂ)}}
| [[Image:Mg zh initial.png]]
|
|
|
| 
| (zh)
| (-,-)
| 内モンゴルで、中国語の'[[ピン音|zh]] ([[注音符号|ㄓ]])'を転写するのに用いられる（後述の[[#関連項目]]参照）。母音iを伴う。
|-
| U+1842 (ᡂ)
| {{IPA|(ʈʂʰ)}}
| [[Image:Mg ch initial.png]]
|
|
| 
|
| (ch)
| (-,-)
| 内モンゴルで、中国語の'[[ピン音|ch]] ([[注音符号|ㄔ]])'を転写するのに用いられる（後述の[[#関連項目]]参照）。母音iを伴う。
|- class="nounderlines"
|- class="nounderlines"
|}

=== 書写例 ===
{|
|-
| style="text-align:center" | '''&#x4eff;古書体'''
| style="text-align:center" | '''現代印刷書体'''（白体）
| 
|- valign="top"
| [[File: Mclassical_mimic.jpg]]
| [[File: Wikiclassicalmongol.jpg]]
| 
{| cellpadding="0px" cellspacing="0px"
|&nbsp;
|-
| colspan="2" | 左側の単語を分析すると：
|-
| [[File:Mg_w_initial.png]] || は v の語頭形。
|-
| [[File:2mg_i_medial.png]] || は i の語中形で、子音の後ろに接続するもの。
|-
| [[File:2mg_k_medial.png]] || は k の語中形（後ろの i のために陽性の q[[File:2mg g medial.png]]ではなく、陰性の k が接続している）。
|-
| [[File:2mg_i_medial.png]] || は i の語中形、子音の後ろに接続するもの。
|-
| [[File:2mg_p_medial.png]] || は p の語中形。
|-
| [[File:2mg_ae_medial.png]] || は e の語中形（e/a は語中で同形）。
|-
| [[File:2mg_td2_medial.png]] || は d の語中形（d/t は語中で同形）。
|-
| [[File:2mg_i_medial.png]] || は i の語中形、子音の後ろに接続するもの。
|-
| [[File:2mg_y_medial.png]] || は y の語中形。
|-
| [[File:3mg_ae_final.png]] || は a の語尾形（e/a は語尾でも同形）。
|- 
|
| 繋げると、&quot;vikipediya&quot; となる。
|}
|}

== Unicode収録位置 ==
[[Unicode]] 3.0 にて収録された（U+18AA のみ Unicode 5.1 にて収録）。
{|class="wikitable" cellpadding="4" cellspacing="0" style="font-family:Code2000,'SimSun-18030','Mongolian Baiti','Daicing White','Mongolian White','Mongolian Art';font-size:125%;text-align:center;"
!U+!!width="15pt"|0!!width="15pt"|1!!width="15pt"|2!!width="15pt"|3!!width="15pt"|4!!width="15pt"|5!!width="15pt"|6!!width="15pt"|7!!width="15pt"|8!!width="15pt"|9!!width="15pt"|A!!width="15pt"|B!!width="15pt"|C!!width="15pt"|D!!width="15pt"|E!!width="15pt"|F
|-
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|&#6144;||&#6145;||&#6146;||&#6147;||&#6148;||&#6149;||&#6150;||&#6151;||&#6152;||&#6153;||&#6154;||&#6155;||&#6156;||&#6157;||&nbsp;&#6158;||style="background:#666;"| 
|-
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|-
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|-
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|-
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|}

== パソコンでの実装 ==
モンゴル文字の特殊な表示方式のため、[[システム]]がもし正確に表示しようとするなら、[[フォント]]とシステム[[モジュール]]の両方が同時に対応する必要があり、そうなって初めて表示が可能になる。そうでなければ、画面では誤った表示をすることになる。

まず、システムにはモンゴル文字を表示するモジュールを[[インストール]]する必要がある。[[Microsoft Windows]] [[Microsoft Windows 2000|2000]]/[[Microsoft Windows XP|XP]]/[[Microsoft Windows Server 2003|2003]]の[[OS]]では、システムの[[Uniscribe]]モジュール（usp10.dll）を最新版に入れ換えなければならない。この他にも、Uniscribeと合致した[[OpenType]]フォント一式が必要である。[[Microsoft Windows Vista]]/[[Microsoft Windows 7|2008]]には、すでに文字を支援するモジュールとフォントを提供している。現時点では、Windows Vista/2008付属のフォントを除いて、{{仮リンク|Code2000|en|Code2000}}<ref name="a">後述の[[#外部リンク]]参照。</ref>（変形にはまだ誤りが存在する）・[[Mongolian Baiti]]<ref name="a" />（変形にはまだ誤りが存在する）だけがモンゴル文字を表示することができ、[[Daicing White]]<ref name="a" />が[[満州文字|満州文]]と[[シボ文字|シボ文]]・[[ダフール文字|ダフール文]]を正確に表示できる。

もし、システムに最新版のUniscribeモジュールがなければ、一字母ごとにその黙認で表示形を表示することになる。しかし、もし正確なフォントが対応していなければ、字母が誤った形態に表示されることがありうる。例えば、表示が語頭形になったり誤った変形体を用いたりするなど。

現在、非Unicodeや一部がUnicodeに基づくモンゴル文字フォントと入力システムが市場の大部分を占めている。

[[CMs*]]などのように、[[Linux]]システムであれば、Unicodeモンゴル文字フォントを入れるだけで、英文[[キーボード (コンピュータ)|キーボード]]を使って自由にモンゴル文字文書を入力でき、特別な文字入力システムや文書編集機器は不要であるが、表示字体の方向は英文のように左から右への横書きであり、その他の西洋文書や学術文献と同一ページに共存するのには都合が良いが、伝統的な書写方のように左から右へ縦書きするには、[[OpenOffice.org Writer]]や[[LibreOffice Writer]]のような組版ソフトの文書方向の変更を利用することで、その問題を解決できる。

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

==関連項目==
*[[中国語のモンゴル文字表記]]
*[[満洲文字]]
*[[パスパ文字]]

== 参考文献 ==
* ニコラス・ポッペ（Poppe, Nicolas）著 ''Grammar of Written Mongolian'', 3rd ed. [[シアトル|Seattle]]: [[ワシントン大学 (ワシントン州)|University of Washington]] Press, [[1974年|1974]].
* オルデンタイ（額爾登泰）・ウユンダライ（烏雲達賚）校勘『蒙古秘史校勘本』[[呼和浩特]]: 内蒙古人民出版社、[[1981年]]。
* ジャクチドスチン（札奇斯欽、Jagchid Sechin）著『蒙古文化與社會』[[台北]]：台湾[[商務印書館]]、[[1987年]]。
* {{仮リンク|チングルタイ|zh|清格爾泰}}ら訳、ボリス・ウラジミルツォフ（{{Unicode|Владимирцов, Борис Яковлевич}}）著『蒙古書面語與喀爾喀方言比較語法』[[西寧市|西寧]]: [[青海人民出版社]]、[[1988年]]。
* グワンチグ（關其格）・フーピン（和平）・チャオクジルトゥ（朝克吉勒圖）[http://tc.wangchao.net.cn/baike/detail_1247088.html]ら著『蒙漢詞典』呼和浩特: [[内モンゴル大学|内蒙古大学]]出版社、[[1999年]]。
* [[小澤重男]][http://spysee.jp/%E5%B0%8F%E6%B2%A2%E9%87%8D%E7%94%B7/1682094/]『現代モンゴル語辞典』第三版 [[大学書林]]、[[2000年]]。
* オリヘンバヤル（額力很巴雅爾）著『蒙古文書法概論』[[瀋陽市]]: [[遼寧人民出版社]]、2003年。

==外部リンク==
{{Incubator|prefix=Wp|code=mvf}}
* [http://www.daicing.com/ Daicing.com] - Unicodeの満州語・[[シベ族|シボ]]語・[[ダウール族|ダフール]]語のフォント（Daicing White）と入力メソッド''（[[中国語]]と[[英語]]）''
* [http://www.microsoft.com/downloads/details.aspx?familyid=fc02e2e3-14bb-46c1-afee-3732d6249647 モンゴル文字を含むWindows XP、2000用フォント『GB18030 Support Package』]
* {{Wayback|url=http://code2000.net/|title=Last archive copy of James Kass' website|date=20110108105420}} - 対応フリーフォント「Code2000」。多数の言語の文字が収録された Unicode フォント
* [http://www.eaglefonts.com/mongolian-baiti-ttf-2204.htm Mongolian Baiti] - [http://www.eaglefonts.com/ Eagle Fonts.com]の[http://www.microsoft.com/typography/fonts/family.aspx?FID=325 Mongolian Baitiフォント]配布ページ。
* [http://www.mongolfont.com/ja/index.html MongolianFont] - フリーフォント、[[株式会社アルマス]]（Almas Inc.）[http://www.almas.co.jp/]開発。白体・美術体・筆記体フォント3種をOpenType/[[Apple Advanced Typography|AAT]]の2形式で提供している。
* [http://www.omniglot.com/writing/mongolian.htm Mongolian alphabets, pronunciation and language] - 世界の言語と表記体系のオンライン百科辞典[http://www.omniglot.com/index.htm Omniglot]のモンゴル語のページ。モンゴル語の詳しい説明や入力システム・フォント等へのリンクも充実。

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[[Category:モンゴルの言語]]
[[Category:アジアの文字]]
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