ベトナム語のソースを表示

{{特殊文字|説明=[[拡張漢字|CJK統合漢字拡張A・B]]、ラテン文字拡張}}
{{Infobox Language
|name=ベトナム語
|nativename=<span lang="vi">Ti&#7871;ng Vi&#7879;t / {{拡張漢字|A|&#13762;}}越</span>
|familycolor=オーストロ・アジア語族
|states={{VNM}}<br />{{KHM}}<br />{{TWN}}<br />{{USA}}<br />{{FRA}}他
|region=[[東南アジア]]
|speakers=7000万人
|rank=14-15
|fam1=[[オーストロアジア語族]]
|fam2=[[モン・クメール語派]]
|fam3=[[ベト・ムオン語群]]
|script=[[ラテン文字]]（[[クオック・グー]]）
|nation={{VNM}}
|agency=ベトナム社会科学院言語学研究所 ({{Lang|vi|Viện Ngôn ngữ học, Viện Khoa học xã hội Việt Nam}})
|iso1=vi
|iso2=vie
|iso3=vie
|map=[[ファイル:TiengViet.PNG|270px]]
}}
'''ベトナム語'''（{{vie|v=Tiếng Việt|hn={{拡張漢字|A|&#13762;}}越}}）とは、[[ベトナム社会主義共和国]]の総人口のおよそ 87% を占める[[キン族]]の[[母語]]であり、ベトナムの[[公用語]]である。'''キン語'''や'''安南語'''ともいい、ベトナムの少数民族の間でも共通語として話されるほか、[[中華人民共和国|中国]]と[[中華民国|台湾]]など周辺諸国の[[キン族]]/[[ジン族]]、[[アメリカ合衆国]]、[[フランス]]など在外ベトナム系移民によっても話される。

== 歴史 ==
[[東南アジア]]大陸部の言語は、通常[[インド]]文化の影響を強く受けているが、ベトナム語は例外的に[[日本語]]・[[朝鮮語]]・[[チワン語]]などと同様に[[中国語]]と[[漢字文化]]の強い影響を受けている。

現在のベトナムの北部は、[[秦]]によって象郡が置かれて以来、中国の支配地域となった。この地を含む[[華南]]は「[[百越]]」と総称される諸民族が住んでいた地域で、そのひとつが、現在の[[キン族]]の祖先であった。「ベトナム ({{Unicode|Vi&#7879;t Nam}})」は[[漢字]]で書けば「越南」であり、「[[越]]」は現在[[浙江省]]周辺にあった国の名でもあるが、[[広東省]]を指す「粤」と同音の類義語で、これらの南にある地域のために「越南」と呼ばれた。

しかし、系統的には[[シナ・チベット語族]]や[[タイ・カダイ語族]]ではなく、[[オーストロアジア語族]]に属すると解することが一般的である。この説に従えば、話者数で[[クメール語]]（カンボジア語）を上回るオーストロアジア語族で最大の[[言語]]ということになる。また、[[中国語]]などの言語の影響を受け、[[声調]]言語になった。

=== 表記法の歴史 ===
[[image:I speak vietnamese.JPG|thumb|right|上段がクオック・グー（國語）による表記で、下段はチュノム（下線部）と漢字による表記である。「私はベトナム語を話します」という意味。]]

中国の支配を受けていたため、ベトナムの[[古典]]や歴史的な記録の多くは、[[漢字]]による[[漢文]]で書かれており、[[漢字文化圏]]である。現代語をみても、辞書に載っている[[単語]]の 70% 以上が[[漢語系語彙|漢字語]]であり、漢字表記が可能である。対応する漢字が無い語については、[[古壮字]]などと同じく、漢字を応用した独自の文字[[チュノム]]（{{vie|v=Chữ Nôm|hn={{拡張漢字|B|&#137784;}}喃|f=y}}）を作り、漢字と交ぜ書きをすることが行われた。しかし、[[1919年]]の[[科挙]]廃止、[[フランス]]総督府による[[クオック・グー]]教育の推進により漢字、チュノムの使用頻度は次第に減少、[[1945年]]の[[阮朝]]滅亡と[[ベトナム民主共和国]]の成立により、ベトナムの国字として漢字に代わりクオック・グーが正式に採択されたことで、漢字やチュノムは一般には使用されなくなった。公式な漢字の廃止は[[1954年]]であり、南北に分断したこの年に[[ベトナム民主共和国]]紙幣における漢字使用は廃止されている。現在では日常生活で漢字が見られるのはテト（旧正月）や中秋節などの伝統行事や仏事、冠婚葬祭などである。漢字の理解者も、高齢者の一部や、国文学や歴史学などの研究者、書道家や仏僧、日本語及び中国語の学習者などに限定される。

これに取って代わったものは、[[17世紀]]に[[カトリック教会|カトリック]]の[[宣教師]][[アレクサンドル・ドゥ・ロード]]が考案し、[[フランス領インドシナ|フランスの植民地化以降]]普及した[[ラテン文字|ローマ字]]表記「[[クオック・グー]]（{{vie|v=Quốc ngữ|hn=國語|h=y}}）」であった。植民地期にはクオック・グーはフランスによる「文明化」の象徴として「フランス人からの贈り物」と呼ばれたが、独立運動を推進した民族主義者はすべてクオック・グーによる自己形成を遂げたため、不便性と非効率性を理由にして漢字やチュノム文は排除され、クオック・グーが独立後のベトナム語の正式な表記法となった。現在、クオック・グーを公式の表記法とすること自体への異論はあまり存在しないが、漢文や漢字チュノム文を理解運用できる人材が少ないため、人文科学、特に歴史研究の発展に不安をもつ知識人の間には、中等教育における漢字教育の限定的復活論がある。

== 文字 ==
現在の[[正書法]]である[[クオック・グー]]では、ラテン文字と、それに補助記号をつけたものが用いられる。ただし、F, J, W, Z は用いられない。
{| class="wikitable" style="text-align:center"
|+アルファベット
!文字!!文字名!!音価!![[国際音声記号|IPA表記]]
|-
||[[A]] [[a]]||a||アー||{{IPA|aː}}
|-
||[[Ă]] [[ă]]||á||ア||{{IPA|a}}
|-
||[[Â]] [[â]]||{{Unicode|ớ}}||ア||{{IPA|ə}}, {{IPA|ɜ}}
|-
||[[B]] [[b]]||{{Unicode|bê, bờ}}||バ||{{IPA|ɓ}}, {{IPA|ʔb}} ([[入破音]])
|-
||[[C]] [[c]]||{{Unicode|xê, cờ}}||カ||{{IPA|k}}
|-
||[[D]] [[d]]||{{Unicode|dê, dờ}}||ザ||{{IPA|z}}, 南: {{IPA|j}}
|-
||{{Unicode|[[Đ]] [[đ]]}}||{{Unicode|đê, đờ}}||ダ||{{IPA|ɗ}}, {{IPA|ʔd}} ([[入破音]])
|-
||[[E]] [[e]]||e||エ||{{IPA|ɛ}}
|-
||{{Unicode|[[Ê]] [[ê]]}}||ê||エ||{{IPA|e}}
|-
||[[G]] [[g]]||{{Unicode|giê, gờ}}||ガ||{{IPA|ɣ}}<br />{{IPA|ʒ}} (前母音字 i, ê, e の前)
|-
||[[H]] [[h]]||{{Unicode|hát, hờ}}||ハ||{{IPA|h}}
|-
||[[I]] [[i]]||{{Unicode|i ngắn}}||イ||{{IPA|i}}
|-
||[[K]] [[k]]||ca||カ||{{IPA|k}}
|-
||[[L]] [[l]]||{{Unicode|e-lờ, lờ}}||ラ||{{IPA|l}}
|-
||[[M]] [[m]]||{{Unicode|em-mờ, mờ}}||マ||{{IPA|m}}
|-
||[[N]] [[n]]||{{Unicode|en-nờ, nờ}}||ナ||{{IPA|n}}
|-
||[[O]] [[o]]||o||オ||{{IPA|ɔ}}
|-
||[[Ô]] [[ô]]||ô||オ||{{IPA|o}}
|-
||{{Unicode|[[Ơ]] [[ơ]]}}||{{Unicode|ơ}}||オー||{{IPA|əː}}, {{IPA|ɜː}}
|-
||[[P]] [[p]]||{{Unicode|pê, pờ}}||パ||{{IPA|p}}
|-
||[[Q]] [[q]]||{{Unicode|quy, quờ}}||クィー||{{IPA|k}}
|-
||[[R]] [[r]]||{{Unicode|e-rờ, rờ}}||ザ||{{IPA|z}}, 南: {{IPA|ʐ}}, {{IPA|ɹ}}
|-
||[[S]] [[s]]||{{Unicode|ét-sì, sờ}}||サ||{{IPA|s}}, 南: {{IPA|ʂ}}
|-
||[[T]] [[t]]||{{Unicode|tê, tờ}}||タ||{{IPA|t}}
|-
||[[U]] [[u]]||u||ウ||{{IPA|u}}
|-
||{{Unicode|[[Ư]] [[ư]]}}||{{Unicode|ư}}||ウ||{{IPA|ɯ}}
|-
||[[V]] [[v]]||{{Unicode|vê, vờ}}||ヴァ||{{IPA|v}}, 南: {{IPA|j}}
|-
||[[X]] [[x]]||{{Unicode|ích-xì, xờ}}||サ||{{IPA|s}}
|-
||[[Y]] [[y]]||{{Unicode|i dài, i-cờ-rét}}||イー||{{IPA|iː}}
|-
|}
ベトナム語表記の特徴は、[[語]]ではなく[[音節]]で分かち書きをすることである。これはベトナム語の単音節的な性質に合っている。

{{ベトナム語アルファベット}}

== 音韻 ==
中国語と同様、[[声母]]（音節頭子音）と[[韻母]]（介母音+主母音+音節末子音/母音）、および[[声調]]からなる音節構造をもち、多くの音節はそれ自体で形態素となりうる点でいわゆる「単音節語」的な特徴を有する。注記したものをのぞき、すべての単母音、二重母音は主母音に立つことができる。

[[音読み#中古音との関係|漢字音]]の対応は、中国語各方言・日本語・朝鮮語でほとんど変化のない（変化しても b など唇音のまま） {{IPA|m}} 声母字「面」「民」などが、d （北部方言の {{IPA|z}}） に変化し、半母音の {{IPA|j}} 声母字も摩擦が強まり、d（北部方言の {{IPA|z}}）となっている。また、{{IPA|s}} の一部は {{IPA|t}} に変化しているのが特徴的で、現代中国語の sh ({{IPA|ʂ}}) 声母字の一部は th ({{IPA|tʰ}}) に対応する。

=== 母音 ===
{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+単母音
!文字!!音価!![[国際音声記号|IPA表記]]!!発音の特徴!!備考
|-
||a||アー||{{IPA|aː}}||口を大きくあけてやや長めに||
|-
||ă||ア||{{IPA|a}}||口を大きく開けて短く||単独で主母音に立たない
|-
||{{Unicode|ơ}}||アー||{{IPA|əː}}, {{IPA|ɜː}}||アとオの中間的な感じでやや長めに||
|-
||â||ア||{{IPA|ə}}, {{IPA|ɜ}}||アとオの中間的な感じで短く||単独で主母音に立たない
|-
||e||エー||{{IPA|ɛː}}||口を大きく開けてやや長めに||
|-
||ê||エ||{{IPA|e}}||口を軽くあけて、狭めに||
|-
||i||イ||{{IPA|i(ː)}}||唇を左右に強く引いて||音節末母音に立つ
|-
||y||イー||{{IPA|iː}}||iの長母音||音節末母音に立つ
|-
||o||オ||{{IPA|ɔ}}||口を大きく開けてやや長めに||音節末母音に立つ
|-
||ô||オ||{{IPA|o}}||口を丸めやや突き出して||
|-
||u||ウ||{{IPA|u}}||唇を丸め口を突き出しやや長めに||音節末母音に立つ
|-
||{{Unicode|ư}}||ウ||{{IPA|ɯ}}||唇を左右に強く引いてやや長めに||
|}


{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+介母音
!文字!!音価!![[国際音声記号|IPA表記]]!!備考
|-
||o||ウ||{{IPA|w}}||主母音 a, e の前
|-
||u||ウ||{{IPA|w}}||主母音 y(i), ê の前 
|}


{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+二重母音
!文字!!正書法上の制限!!音価!![[国際音声記号|IPA表記]]!!発音の特徴
|-
||uô||_C||rowspan=2|ウア||rowspan=2|{{IPA|uə}}||rowspan=2|ウは唇を丸く突き出してやや長めに、アはあいまいな感じで
|-
||ua||_Ø
|-
||{{Unicode|ươ}}||_C||rowspan=2|ウア||rowspan=2|{{IPA|ɯə}}||rowspan=2|ウは唇を強く引いてやや長めに、アはあいまいな感じで
|-
||{{Unicode|ưa}}||_Ø
|-
||iê||C_C||rowspan=4|イア||rowspan=4|{{IPA|iə}}||rowspan=4|イは唇を強く引いてやや長めに、アはあいまいな感じで
|-
||ia||C_Ø
|-
||yê||V_C
|-
||ya||V_Ø
|}

=== 子音 ===

{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+頭子音
!文字!!音価!![[国際音声記号|IPA表記]]!!備考
|-
||p||パ||{{IPA|p}}||借用語のみ。しばしばbと発音される
|-
||b||バ||[[入破音|{{IPA|ɓ}}, {{IPA|ʔb}}]]||声門を閉じて同時に開放
|-
||m||マ||{{IPA|m}}||
|-
||n||ナ||{{IPA|n}}||
|-
||s||サ||{{IPA|ʂ}}, {{IPA|s}}||南部では[[そり舌音]]
|-
||x||サ||{{IPA|s}}||
|-
||d||ザ||{{IPA|j}}, {{IPA|z}}||
|-
||gi||ザ||{{IPA|ʒ}}, {{IPA|z}}||
|-
||r||ザ||{{IPA|z}}, {{IPA|ɹ}}, {{IPA|ʐ}}||南部では[[そり舌音]]
|-
||t||タ||{{IPA|t}}||
|-
||đ||ダ||[[入破音|{{IPA|ɗ}}, {{IPA|ʔd}}]]||声門を閉じて同時に開放
|-
||nh||ニャ||{{IPA|ɲ}}||
|-
||h||ハ||{{IPA|h}}||
|-
||ch||チャ||{{IPA|c}}||
|-
||tr||チャ||{{IPA|tʂ}}, {{IPA|c}}||{{IPA|tr}}と発音する方言もある
|-
||c||カ||{{IPA|k}}||下記以外
|-
||k||カ||{{IPA|k}}||前母音i, ê, eの前
|-
||q||クワ||{{IPA|k(w)}}||介母音 u を伴う場合
|-
||ph||ファ||{{IPA|f}}||
|-
||v||ヴァ||{{IPA|j}}, {{IPA|v}}||
|-
||l||ラ||{{IPA|l}}||
|-
||th||タ||{{IPA|tʰ}}||
|-
||kh||ハ||{{IPA|x}}||
|-
||g||ガ||{{IPA|ɣ}}||
|-
||gh||ガ||{{IPA|ɣ}}||前母音i, ê, eの前
|-
||ng||ガ||{{IPA|ŋ}}||
|-
||ngh||ガ||{{IPA|ŋ}}||前母音i, ê, eの前
|-
||Ø||||{{IPA|ʔ}}||{{要追加記述範囲|日本語と同じ|date=2013年9月}}
|}


{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+末子音
!文字!!音価!![[国際音声記号|IPA表記]]!!備考
|-
||p||ッ(プ)||{{IPA|p&#794;}}||[[内破音]]
|-
||m||ム||{{IPA|m}}||
|-
||t||ッ(ト)||{{IPA|t&#794;}}||内破音
|-
||n||ン||{{IPA|n}}||
|-
||ch||ィッ（ク）||{{IPA|c&#794;}}||内破音
|-
||nh||ィン||{{IPA|ɲ}}||
|-
||c||ッ(ク)||{{IPA|k&#794;}}||内破音
|-
||c||ッ(ク)||{{IPA|k&#794;p&#794;}}||内破音。主母音 o, ô, u の後
|-
||ng||ン||{{IPA|ŋ}}||
|-
||ng||ン||{{IPA|ŋm}}||主母音 o, ô, u の後
|-
||Ø||||{{IPA|ʔ}}||
|}

=== 声調 ===
ベトナム語には 6 種の[[声調]]があり、各音節は必ずいずれかの声調を持つ。ただし南部方言では {{Unicode|thanh hỏi}} と {{Unicode|thanh ngã}} が合流し、5 声調になっている。
{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+声調
!番号!!声調名!!読み!![[ダイアクリティカルマーク|記号]]!![[平仄]]!!例!!備考
|-
||1||thanh ngang||タィンガン
|(なし)
| rowspan="2" | {{Unicode|bằng}} (平)
| {{Audio|Vi ngang tone.ogg|a}}
|平らに
|-
||2||{{Unicode|thanh huyền}}||タィンフイェン
|'''`''' ([[グレイヴ・アクセント|グレイヴ]])
| {{Audio|Vi huyen tone.ogg|à}}
|残念そうに、低く下がる
|-
||3||{{Unicode|thanh sắc}}||タィンサッ(ク)
|'''´''' ([[アキュート・アクセント|アキュート]])
| rowspan="4" | {{Unicode|trắc}} (仄)
| {{Audio|Vi sac tone.ogg|á}}
|激しく急上昇する
|-
||4||{{Unicode|thanh hỏi}}||タィンホーイ
|'''&nbsp;̉''' (フック)
| {{Audio|Vi hoi tone.ogg|{{Unicode|ả}}}}
|低く下がって上がる
|-
||5||thanh ngã||タィンガー
|'''{{lang|en|˜}}''' ([[チルダ]])
| {{Audio|Vi nga tone.ogg|ã}}
|急激に上がって声門を閉じ、上がる
|-
||6||{{Unicode|thanh nặng}}||タィンナン
|'''&nbsp;̣''' (ドット)
| {{Audio|Vi nang tone.ogg|{{Unicode|ạ}}}}
|はじめから緊張を伴い、下がって声門を閉じる
|}


[[画像:VNtone.jpg|300px|right]]
歴史的には、末子音が消滅した時、3 声調に分かれたとされる。ベトナム語の属する[[オーストロアジア語族]]のほとんどは声調を持たない。その後、頭子音の無声/有声に従って各声調が二つに分かれ、今日の 6 声調になった<ref>{{ citation
| title=De l'origine des tons du vietnamien
| last=Haudricourt
| first=André-Georges
| year=1954
| journal=Journal Asiatique
| volume=242
| pages=69-82
}}</ref><ref>{{ citation
| title=The origin of Chinese tones
| first=Laurent
| last=Sagart
| year=1998
| journal=International Symposium on "Tone languages in the world" December 10-12, 1998
| url=http://halshs.archives-ouvertes.fr/docs/00/09/69/04/PDF/TOKYO_tone_published.pdf
}}</ref><ref>{{ citation
| title=A.G. Haudricourt と声調の起源・分岐について
| author=新谷忠彦
| url=http://www.aa.tufs.ac.jp/~p_phonol/TEXTS/97-2/sintani.txt
| accessdate=2008-05-01
}}</ref>。

{| class="wikitable" border="1" style="text-align:center"
|+ {{JIS2004フォント|声調の起源}}
! [[モン・クメール語派|モン・クメール]] !! 古ベトナム語 !! 現代ベトナム語
|- class="Unicode"
| -Ø || -Ø || ngang, huyền
|- class="Unicode"
| -s, -h || -h || hỏi, ngã
|- class="Unicode"
| -ʔ || -ʔ || sắc, nặng
|}

== タイピング方式 ==
クォック・グーの入力の基本は英文タイプに準ずるが、声調記号や各種装飾記号の入力方法によっていくつかの方式に分かれる。

=== VIQR方式 ===
声調記号をそのシンボル通りの入力で補う方式。以下のように入力する。

'''声調記号'''： á（a 'の順にタイプ）、à（a `の順にタイプ）、ả（a ?の順にタイプ）、ã （a ~の順にタイプ）、ạ （a .の順にタイプ）。<br />
'''その他記号'''： đ（ddの順にタイプ）、ă（a (の順にタイプ）、â ê ô（それぞれa ^, e ^, o ^の順にタイプ）、ư, ơ（それぞれu +, o +の順にタイプ）

=== TElEX方式 ===
声調記号をその呼び名のイニシャルで（タインサック＝s, タインフイェン=f のように）入力する方式。以下のように入力する。

'''声調記号'''： á（a sの順にタイプ）、à（a fの順にタイプ）、ả（a rの順にタイプ）、ã （a xの順にタイプ）、ạ （a jの順にタイプ）。<br />
'''その他記号'''： đ（ddの順にタイプ）、ă（a wの順にタイプ）、â ê ô（それぞれa a, e e, o oの順にタイプ）、ư, ơ（それぞれu w, o wの順にタイプ）

=== VNI方式 ===
声調記号を数字で入力する方式。以下のように入力する。

'''声調記号'''：：á（a 1の順にタイプ）、à（a 2の順にタイプ）、ả（a 3の順にタイプ）、ã （a 4の順にタイプ）、ạ （a 5の順にタイプ）。<br />
'''その他記号'''：  đ（d 9の順にタイプ）、ă（a 8の順にタイプ）、â ê ô（それぞれ a 6, e 6, o 6 の順にタイプ）、ư, ơ（それぞれ u 7, o 7の順にタイプ）

== 文法 ==
語順は[[SVO型]]（[[主語]]-[[動詞]]-[[目的語]]）である。

[[修飾語]]が基本的に[[修飾語|被修飾語]]の後に置かれる点は、オーストロ＝アジア語族の言語をはじめとする東南アジアの多くの言語と共通である。たとえば、「ベトナム社会主義共和国」は、"{{Unicode|nước Cộng hòa Xã hội chủ nghĩa Việt Nam}}" （国-共和-社会主義-ベトナム）となる。

古典的[[言語類型論|類型論]]からみると[[孤立語]]的特徴をもっており、形態変化をせず、接辞をあまり用いず、統語的関係はもっぱら[[語順]]によって表されること、[[使役]]、[[受動態|受動]]を[[動詞]]に先行する前置詞句構文で表すこと、動詞に補語を後置して動作の方向や結果を表すこと、事物の[[存在動詞|存在]]を表すための特別の構文が存在することなどは、中国語（[[普通話]]）と共通する特徴である。

== 語彙 ==
[[File:Từ thuần Việt + Từ Hán Việt.png|350px|thumb|{{color|#c87b16|オレンジ色}}は純越語素（[[固有語]]）で、{{color|#577827|緑色}}は漢越語素。<br/>「'''{{color|#c87b16|私の母は}}{{color|#577827|毎日曜にいつも}}{{color|#c87b16|お寺}}{{color|#577827|で精進料理を}}{{color|#c87b16|食べる}}'''」]]

語彙には漢字が多いが、[[固有語]]の形態素も漢字語根と同様単音節から成り立つ。ただし造語にあたっては、固有語の場合は文法に従って修飾成分を後置するのに対し、漢越語は[[中国語]]からそのまま借用したため、修飾成分は前置されたままである。

'''固有語による造語'''
*{{Lang|vi|máy bay}}: 飛行機（機械+飛ぶ 中国語「{{Lang|zh|飛機}}」の[[翻訳借用]]）
*{{Lang|vi|tên lửa}}: ロケット（槍+火 中国語「{{Lang|zh|火箭}}」の翻訳借用）
*{{Lang|vi|nhà máy}}: 工場（家+機械）
ただし、南北統一後に「ベトナム語純化運動」が起き、いくつかの漢字借用語が固有語に置き換えられているため、[[南ベトナム]]で書かれた古い文章や、[[ベトナム戦争]]終結前に海外に移住した人々の間では、{{Lang|vi|máy bay}}を{{Lang|vi|phi cơ}}（翻訳借用ではない「飛機」の直読み）とするなどのズレがある<ref>{{cite book |last= |first= |author=田原洋樹 |authorlink= |coauthors= |year= |title=ベトナム語表現とことんトレーニング |publisher=白水社 |page=135 |id= |isbn=978−4−560−08628-5 |quote= }}</ref>。

'''漢字語による[[借用語]]'''
*{{Lang|vi|giáo sư}} 「教師」: 教授
*{{Lang|vi|thủ tướng}} 「首相」: 首相

また現代中国語の語彙と意味が異なる漢字語も多い。

*{{Lang|vi|phương tiện}} 「方便」: 手段。中国語では「{{Lang|zh|辦法}}」、「{{Lang|zh|手段}}」という。「{{Lang|zh|方便}}」 (fāngbiàn / fong pin) は中国語/広東語で便利の意味。
*{{Lang|vi|văn phòng}} 「文房」: 事務室。中国語では「{{Lang|zh|辦公室}}」、「{{Lang|zh|寫字樓}}」という。「{{Lang|zh|文房}}」 (wénfáng / man fong) は中国語/広東語で書斎の意味。

日本語の[[和語]]に漢字を当てた漢字語が[[和製漢語]]として借用されそのまま定着した例もある。この場合ベトナム語では中国語、朝鮮語の例と同様すべて[[音読み|漢字音]]で読まれる。

*{{Lang|vi|lập trường}} 立場
*{{Lang|vi|trường hợp}} 場合
*{{Lang|vi|thủ tục}} 手続

このほか、[[フランス語]]や[[英語]]からの借用語もある。[[アルファベット]]使用言語からの借用（とりわけ固有名詞の借用）は、[[ローマ字]]採用によって容易になったが、もとのスペルを生かすか、ベトナム語の音韻構造にそったスペルを採用するかをめぐって現在まで議論が続いており、借用形の使用には混乱がみられる。{{ipa|m}}, {{ipa|n}}, {{ipa|ŋ}}, {{ipa|ɲ}} 以外の有声子音は音節末に立たないため、対応する無声子音（ない場合は[[調音部位]]の近い無声子音）に置き換えられる（フランス語の r を {{ipa|k}} に音訳するなど）。

*{{Lang|vi|ga}} [[鉄道駅|駅]] (仏: gare)
*{{Lang|vi|nhà băng}} [[銀行]] (仏: banque)　※nhàは日本語の「～家」「～屋」に相当する
*{{Lang|vi|mít-tinh}} 会議 (英: meeting)
*{{Lang|vi|Gia-các-ta / Jakarta}} [[ジャカルタ]]
*{{Lang|vi|Internet}} [[インターネット]]

== 人称代名詞 ==
ベトナム語では一般的に自分を表すのに Tôi, 相手を表すのに Bạnという語があるが、これは非常によそよそしい印象をもたらすものであり、初対面程度でしか用いられない。多少なりとも顔見知りであればお互いの年齢を確認のうえ、相手が年上なのか、年下なのか、男性なのか、女性なのか、年上であれば自分の両親より上か下か等の区別により、相手を表す語だけでなく自分を表す語も変化する。

== 方言 ==
ベトナム語の方言は、北部方言、中部方言、南部方言の三つに大別され、それぞれ[[ハノイ市]]、[[フエ]]、[[ホーチミン市]]（サイゴン）を標準とする。このうち中部方言は他の両者と比べ音韻、語彙の両面にわたる差異がもっとも大きく、次いで北部と南部が対立する。これは、歴史的にハノイとフエが鄭氏と広南阮氏の分立以来の対抗の歴史を持っているのに対し、南部は[[18世紀]]末以降初めて領域に入った「新開地」であり、明の滅亡でベトナムに流入した中国人難民が南部に入植し、ベトナム人官吏の支配下で勢力を拡大して[[クメール]]系住民を駆逐し、[[1863年]]のフランスによるカンボジア保護国化まで陸続としてカンボジア領土を侵食して拡大した歴史があるためである。

フランスの植民地化は1858年からの南部占領（[[コーチシナ]]総督府の設置）に始まり、その中心となった[[サイゴン]]は「東洋の[[パリ]]」と称される大都市に成長し、[[1975年]]の[[サイゴン陥落]]まで、ハノイに対立する政治的経済的中心であり続けたため、現在のベトナム語においてもハノイ方言とサイゴン方言とはほぼ同等の威信をもって並立しており、音声メディアにおいてもサイゴン方言はハノイ方言と並んで使用されている。

また、[[ベトナム戦争]]では多くの政治難民が発生し、特に南ベトナムに住んでいた富裕層や華人の多くが海外に移住している。そのような、社会主義国家としての新しい生活環境・習慣を知らない[[越僑]]の間で使われる言葉は、戦後の共産党政府による「ベトナム語純化運動」の影響を受けていないために漢語率が高いなどを含め、特に語彙の面において現在のベトナム在住者の言葉とは異なっている。

=== 音韻 ===
音韻面においては、[[クオック・グー]]で弁別される特徴のうち、[[音節]]頭子音（[[声母]]）における対立がハノイ方言で摩滅しているのに対し、サイゴン方言ではこれを保存している（詳細は「文字」「子音」の各表を参照。ただし音節頭子音の弁別はハノイ以外の北部方言ではかなり保存されている）。これに対し、音節末子音（[[韻尾]]）と[[声調]]の対立はサイゴン方言で摩滅する傾向にあり、韻尾にn, ng, nh を持つ母音がいずれも[[鼻音化]]しているほか、声調では {{Unicode|thanh hỏi}} と {{Unicode|thanh ngã}} の区別がなくなっている。

== 関連項目 ==
* [[オーストロアジア語族]]
* [[チュハン]]
* [[チュノム]]
* [[クオック・グー]]
* [[シナ・チベット語族]]
* [[ベト・ムオン語群]]

== 参考文献 ==
== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

== 外部リンク ==
{{Wikipedia|vi}}
*[http://www.vietnavi.com ベトなび]　有料・無料の各種ベトナム語辞書情報あり。
*[http://www.coelang.tufs.ac.jp/modules/vi/index.html ベトナム語のモジュール]　東外大のベトナム語オンラインコース。
*[http://jubinell.blogspot.com/2010/05/japanese-vietnamese-kanji-list.html Jubinellの日本越南漢字リスト]
*[http://jubinell.blogspot.com/2010/08/jp-vn-kanji-word-list.html Jubinellの日本越南漢字言葉のリスト]

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