ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第5代ランズダウン侯爵)のソースを表示

{{政治家
|人名 = 第5代ランズダウン侯爵<br />ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス
|各国語表記 = {{lang|en|Henry Petty-Fitzmaurice, 5th Marquess of Lansdowne}}
|画像 = Marquess of Lansdowne.jpg
|画像サイズ = 200px
|画像説明 = ランズダウン侯爵
|国略称 = {{UK}}
|生年月日 = [[1845年]][[1月14日]]
|出生地 = {{UK}}、[[イングランド]]、[[ロンドン]]
|没年月日 = [[1927年]][[6月3日]] （満82歳没）
|死没地 = {{UK}}、[[アイルランド]]、{{仮リンク|南ティペラリー州|en|South Tipperary}}、{{仮リンク|クロンメル|en|Clonmel}}
|出身校 = [[オックスフォード大学]][[ベリオール・カレッジ (オックスフォード大学)|ベリオール・カレッジ]]
|所属政党 = [[自由党 (イギリス)|自由党]]→[[自由統一党]]→[[保守党 (イギリス)|保守党]]
|称号・勲章 = 第5代[[ランズダウン侯爵]]、[[ガーター勲章]]勲爵士（KG）、{{仮リンク|インドの星勲章|en|Order of the Star of India}}ナイト・グランド・コマンダー（GCSI）、[[聖マイケル・聖ジョージ勲章]]ナイト・グランド・クロス（GCMG）、{{仮リンク|インド帝国勲章|en|Order of the Indian Empire}}ナイト・グランド・コマンダー（GCIE）、[[枢密院 (イギリス)|枢密顧問官]] （PC）
|親族（政治家） = [[ウィリアム・ペティ (第2代シェルバーン伯)|初代ランズダウン侯爵]] （曽祖父）<br />[[ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第3代ランズダウン侯爵)|第3代ランズダウン侯爵]] （祖父）<br />[[ジェイムズ・ハミルトン (初代アバコーン公爵)|初代アバコーン公爵]] （義父）<br />{{仮リンク|エドモンド・ペティ＝フィッツモーリス (初代フィッツモーリス男爵)|label=初代フィッツモーリス男爵|en|Edmond Fitzmaurice, 1st Baron Fitzmaurice}} （弟）<br />{{仮リンク|ヴィクター・キャヴェンディッシュ (第9代デヴォンシャー公爵)|label=第9代デヴォンシャー公爵|en|Victor Cavendish, 9th Duke of Devonshire}} （娘婿）
|配偶者 = {{仮リンク|モード・ペティ＝フィッツモーリス (ランズダウン侯爵夫人)|label=モード|en|Maud Petty-Fitzmaurice, Marchioness of Lansdowne}}
|サイン = 
|国旗 = CAN1868
|職名 = [[カナダの総督|カナダ総督]]
|就任日 = [[1883年]][[10月23日]]
|退任日 = [[1888年]][[6月11日]]<ref name="秦(2001)567">[[#秦(2001)|秦(2001)]] p.567</ref>
|元首職 = [[イギリスの君主|女王]]
|元首 = [[ヴィクトリア (イギリス女王)|ヴィクトリア]]
|国旗2 = IND1858
|職名2 = [[インドの総督|インド副王兼総督]]
|就任日2 = [[1888年]][[12月10日]]
|退任日2 = [[1894年]][[10月11日]]<ref name="秦(2001)101">[[#秦(2001)|秦(2001)]] p.101</ref>
|元首職2 = [[インド皇帝|女帝]]
|元首2 = [[ヴィクトリア (イギリス女王)|ヴィクトリア]]
|国旗3 = UK
|職名3 = {{仮リンク|陸軍大臣 (イギリス)|label=陸軍大臣|en|Secretary of State for War}}
|内閣3 = 第3次[[ロバート・ガスコイン＝セシル (第3代ソールズベリー侯爵)|ソールズベリー侯爵]]内閣
|就任日3 = [[1895年]][[7月4日]]
|退任日3 = [[1900年]][[11月1日]]<ref name="秦(2001)512">[[#秦(2001)|秦(2001)]] p.512</ref>
|国旗4 = UK
|職名4 = [[外務英連邦大臣|外務大臣]]
|内閣4 = 第3次[[ロバート・ガスコイン＝セシル (第3代ソールズベリー侯爵)|ソールズベリー侯爵]]内閣、[[アーサー・バルフォア|バルフォア]]内閣
|就任日4 = [[1900年]][[11月1日]]
|退任日4 = [[1905年]][[12月4日]]<ref name="秦(2001)511">[[#秦(2001)|秦(2001)]] p.511</ref>
|国旗5 = UK
|職名5 = [[貴族院 (イギリス)|貴族院]]議員 
|就任日5 = [[1866年]][[7月5日]]
|退任日5 = [[1927年]][[6月3日]]<ref name="hansard">{{Cite web |url= http://hansard.millbanksystems.com/people/mr-henry-petty-fitzmaurice/ |title= Mr Henry Petty-FitzMaurice |accessdate= 2014-1-15 |author= [[イギリス議会|UK Parliament]] |work= [http://hansard.millbanksystems.com/index.html HANSARD 1803–2005] |language= 英語 }}</ref>
}}
'''第5代[[ランズダウン侯爵]]、ヘンリー・チャールズ・キース・ペティ＝フィッツモーリス'''（{{lang-en-short|Henry Charles Keith Petty-FitzMaurice, 5th Marquess of Lansdowne}}, {{Post-nominals|post-noms=[[ガーター勲章|KG]], [[:en:Order of the Star of India|GCSI]], [[聖マイケル・聖ジョージ勲章|GCMG]], [[:en:Order of the Indian Empire|GCIE]], [[枢密院 (イギリス)|PC]]}}、[[1845年]][[1月14日]] - [[1927年]][[6月3日]]）は、[[イギリス]]の[[貴族]]、[[政治家]]。

[[ヴィクトリア朝]]後期から[[第一次世界大戦]]の頃までイギリス政界の重鎮として活躍した。はじめ[[自由党 (イギリス)|自由党]]に所属していたが、[[自由統一党 (イギリス)|自由統一党]]を経て[[保守党 (イギリス)|保守党]]へ移籍した。保守党政権下の[[1900年]]から[[1905年]]にかけて[[外務英連邦大臣|外務大臣]]を務め、[[日英同盟]]や[[英仏協商]]に調印したことで知られる。

誕生から父親が第4代ランズダウン侯爵となる[[1863年]]までは「クランモーリス子爵」（{{lang|en|Viscount Clanmaurice}}）の、1863年から自身が襲爵する[[1866年]]までは「[[ケリー伯爵]]」（{{interlang|en|Earl of Kerry}}）の[[儀礼称号]]で称された。

== 経歴 ==
[[File:Marquis of Lansdowne Vanity Fair 4 April 1874.jpg|180px|thumb|left|ランズダウン侯爵の似顔絵（[[1874年]][[4月4日]]の『[[バニティ・フェア (イギリスの雑誌)|バニティ・フェア]]』誌）]]
=== 生い立ち ===
第4代[[ランズダウン侯爵]]{{仮リンク|ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第4代ランズダウン侯爵)|en|Henry Petty-Fitzmaurice, 4th Marquess of Lansdowne|label=ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス}}と後妻の{{仮リンク|エミリー・ペティ＝フィッツモーリス (ランズダウン侯爵夫人)|en|Emily Petty-Fitzmaurice, Marchioness of Lansdowne|label=エミリー・ペティ＝フィッツモーリス}}（旧姓de Flahault）の間の長男として生まれる<ref name="thepeerage">{{Cite web|last=Lundy|first=Darryl|url=http://www.thepeerage.com/p959.htm#i9586|title=Sir Henry Charles Keith Petty-FitzMaurice, 5th Marquess of Lansdowne|work=thepeerage.com|language=英語|accessdate=2010年11月28日}}</ref><ref name="DCB">{{Cite web|last=Waite|first=P. B.|authorlink=:en:Peter Busby Waite|url=http://www.biographi.ca/009004-119.01-e.php?&id_nbr=7958|title=PETTY-FITZMAURICE, HENRY CHARLES KEITH, 5th Marquess of LANSDOWNE|work=[[:en:Dictionary of Canadian Biography|Dictionary of Canadian Biography]] Online|pages=|publisher=[[トロント大学]] & [[ラヴァル大学]]|language=英語|accessdate=2010年11月28日}}</ref>。

フィッツモーリス家は[[12世紀]]に[[アイルランド]]・[[ケリー州]]へ移住し、以来同地の領主として君臨してきた家柄である。代々[[ホイッグ党 (イギリス)|ホイッグ党]]の政治家の家系であり、曽祖父に[[イギリスの首相|首相]]や{{仮リンク|内務大臣 (イギリス)|label=内務大臣|en|Home Secretary}}を務めた初代ランズダウン侯爵[[ウィリアム・ペティ (第2代シェルバーン伯)|ウィリアム・ペティ]]（首相在職時の爵位は「第2代{{仮リンク|シェルバーン伯|en|Earl of Shelburne}}」）、祖父に[[財務大臣 (イギリス)|財務相]]や内相・{{仮リンク|枢密院議長 (イギリス)|label=枢密院議長|en|Lord President of the Council}}を歴任した第3代ランズダウン侯爵[[ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第3代ランズダウン侯爵)|ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス]]がいる<ref name="タックマン(1990)46">[[#タックマン(1990)|タックマン(1990)]] p.46-47</ref>。

[[イートン・カレッジ]]を経て[[オックスフォード大学]][[ベリオール・カレッジ (オックスフォード大学)|ベリオール・カレッジ]]を卒業した<ref name="thepeerage" /><ref name="DCB" />。

[[1866年]]、父の死により21歳で[[連合王国貴族]]の爵位「ランズダウン侯爵」、[[アイルランド貴族]]の爵位「ケリー伯爵」と家督を相続した。なお後に母親からも[[スコットランド貴族]]の爵位「[[ネアーン卿]]」（{{interlang|en|Lord Nairne}}）を相続している。ランズダウン侯爵家は大地主であるものの、抱える負債も巨額であり、彼も家計のやり繰りには苦労した<ref name="浜渦(1999)143">[[#浜渦(1999)|浜渦(1999)]] p.143</ref>。

=== 自由党政権において ===
[[貴族院 (イギリス)|貴族院]]議員となったランズダウンは[[自由党 (イギリス)|自由党]]に所属し、[[第1次グラッドストン内閣]]では[[1868年]]から[[1872年]]まで{{仮リンク|大蔵卿委員会|label=大蔵卿委員|en|Lord of the Treasury}}<ref>{{LondonGazette |issue=23451 |date=18 December 1868 |startpage=6704 |accessdate=2010年11月28日}}</ref>を、[[1872年]]から[[1874年]]まで{{仮リンク|イギリス陸軍省政務次官|label=陸軍省政務次官|en|Under-Secretary of State for War}}<ref name="thepeerage" /><ref name="DCB" />を務めた。

[[1880年]]に[[第2次グラッドストン内閣]]が発足すると{{仮リンク|インド省政務次官|en|Under-Secretary of State for India}}<ref name="thepeerage" /><ref name="DCB" />に任じられるが、[[アイルランド]]自治に関する[[ウィリアム・グラッドストン]]の方針に反対して辞職<ref name="DCB" />、後に自由党からも離党した。

=== 総督として ===
[[1883年]]から[[1888年]]まで[[カナダの総督]]を務めた<ref>{{LondonGazette |issue=25264 |date=28 August 1883 |startpage=4225 |accessdate=2010年11月28日}}</ref>。

ついで1888年から[[1894年]]まで[[インドの総督]]を務めた<ref>{{LondonGazette |issue=25871 |date=2 November 1888 |startpage=5949 |accessdate=2010年11月28日}}</ref>。[[ルピー]]の減価でイギリスの対印投資が減少している現状を踏まえて、1893年6月にルピーの[[変動相場制]]を停止し、1ルピー＝1[[シリング]]4[[ペンス]]の[[固定相場制]]へ移行させた。また[[金本位制]]導入のため銀貨自由鋳造を停止させた。これによりルピーの交換レートは上がったものの、インド国内の通貨供給が減少し、経済活動の規模は小さくなった<ref>[[#浜渦(1999)|浜渦(1999)]] p.143-144</ref>。外交面ではアフガン国境の小国[[フンザ]]と[[ナガル]]を併合し、[[シッキム州|シッキム王国]]や[[チトラル]]の[[カラート]]を保護国にするなど拡張政策を取った<ref>[[#浜渦(1999)|浜渦(1999)]] p.144</ref>。

===  保守党政権の閣僚として ===
[[File:Defence Committee meeting in London.jpg|180px|thumb|第三次ソールズベリー侯爵内閣の防衛委員会の会合を描いた絵。左から蔵相[[ジョージ・ゴッシェン (初代ゴッシェン子爵)|ジョージ・ゴッシェン]]、首相[[ロバート・ガスコイン＝セシル (第3代ソールズベリー侯爵)|ソールズベリー侯爵]]、外相ランズダウン侯爵、[[枢密院 (イギリス)|枢密院]]議長[[スペンサー・キャヴェンディッシュ (第8代デヴォンシャー公爵)|デヴォンシャー公爵]]、[[庶民院院内総務]][[アーサー・バルフォア]]]]
帰国後は[[自由統一党]]（[[リベラル・ユニオニスト]]）に所属。[[1895年]]、第3代[[ソールズベリー侯爵]][[ロバート・ガスコイン＝セシル (第3代ソールズベリー侯爵)|ロバート・ガスコイン＝セシル]]を首相とする[[保守党 (イギリス)|保守党]]との連立政権（{{仮リンク|第三次ソールズベリー侯爵内閣|label=第三次ソールズベリー侯爵内閣|en|Unionist Government 1895–1905}}）において{{仮リンク|陸軍大臣 (イギリス)|label=陸軍大臣|en|Secretary of State for War}}<ref name="LondonGazette1895">{{LondonGazette |issue=26640 |date=5 July 1895 |startpage=3805 |accessdate=2010年11月28日}}</ref>として入閣した。陸軍総司令官人事では[[ガーネット・ウルズリー]]を任命し、[[エドワード・カードウェル]]の路線を継承して陸軍への文民統制を強化した。在任中の[[1899年]]に第二次[[ボーア戦争]]が勃発するが、5万人以上と予想されるブーア軍に対して3万5千人の動員が必要である、とのウルズリーの進言を「徹底的に効率の良い状態にある」1万人で事足りるとするなどしたことから、戦争準備が不十分であったことを批判された<ref name="DCB" />。

[[1900年]]10月にソールズベリー侯爵の後を受けて[[外務英連邦大臣|外務大臣]]へ転任した<ref name="thepeerage" /><ref name="DCB" /><ref name="坂井(1999)287">[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.287</ref>。中国分割をめぐるロシア帝国主義の極東進出を憂慮し、極東の現状維持ができる国として[[日本]]に注目し、首相ソールズベリー侯爵の賛成も得て、[[1902年]][[1月30日]]には[[ロンドン]]にて[[在イギリス日本大使|イギリス駐箚日本公使]][[林董]]男爵（後に伯爵）との間で[[日英同盟]]を調印した<ref>[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.295-297</ref>。

続く[[アーサー・バルフォア]]内閣でも外相に留任した。[[1903年]][[5月15日]]には[[ペルシア湾]]におけるイギリスの優越権を宣言して[[ロシア帝国]]の[[南下政策]]を牽制した。また日本国内の日露協商派の動きを警戒し、1903年7月には日本政府に対して日本が独断でロシアと協商を結ばないよう釘を刺した<ref name="坂井(1999)309">[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.309</ref>。日英同盟は「日英どちらかが二か国以上と戦争になった場合はもう片方は同盟国のために参戦、一か国との戦争の場合はもう片方は中立を保つ」という約定になっていたため、フランスがロシアとともに日本に宣戦布告せぬようフランス取り込みに腐心した。[[フランス]][[フランス外務省|外相]][[テオフィル・デルカッセ]]と交渉を進め、両国の懸案事項である世界各地での植民地争奪戦を互譲的に解決していき、[[1904年]][[4月8日]]に[[英仏協商]]を締結させることに成功した<ref>[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.307-309</ref>。

[[1903年]]から政権与党内で[[ジョゼフ・チェンバレン]]ら関税改革（保護貿易）派と蔵相{{仮リンク|チャールズ・リッチー (初代リッチー・オブ・ダンディー男爵)|label=チャールズ・リッチー|en|Charles Ritchie, 1st Baron Ritchie of Dundee}}ら自由貿易派の対立が深まったが、ランズダウン卿はチェンバレンを支持していた。この件での政権与党内の亀裂は深まる一方で、党分裂を避けるため1905年12月にバルフォア内閣が総辞職するまでの事態となった<ref name="坂井(1999)211">[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.211/219</ref>。

===  保守党野党時代 ===
[[1906年]]の[[1906年イギリス総選挙|総選挙]]において自由党が圧勝すると、保守党が半永久的に多数を占めている貴族院から自由党政府の政策に抵抗するという保守党党首[[アーサー・バルフォア]]の計画に協力し、初等教育から宗教教育を排除することを目的とした「教育法案」や富裕の醸造業者の独占を制限することを目的とした「酒類販売免許法案」などを貴族院で廃案に追い込んだ<ref name="坂井(1967)416-417">[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.416-417</ref>。

[[1909年]]には貴族院は予算案に介入しないという慣例を破って「{{仮リンク|人民予算|en|People's Budget}}」を否決した。この予算案には土地課税が盛り込まれており、地主貴族から土地の国有化を狙う「アカの予算」として強い反発を招いていたためだった。ランズダウン卿も「土地課税が実施されるには土地の評価が前提となる。引いてはこれが土地の国有化につながる」と批判している<ref name="坂井(1967)427">[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.420/427</ref>。

しかしこれを受けて首相[[ハーバート・ヘンリー・アスキス]]は[[庶民院]]を解散。[[1910年]]1月の{{仮リンク|1910年1月イギリス総選挙|en|United Kingdom general election, January 1910|label=総選挙}}は[[ハング・パーラメント]]となったものの自由党は{{仮リンク|アイルランド議会党|en|Irish Parliamentary Party}}と連立して予算案を通過させた<ref>[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.428-435</ref>。

さらに同年12月の{{仮リンク|1910年12月イギリス総選挙|en|United Kingdom general election, December 1910|label=総選挙}}後、自由党政権は貴族院の権限を縮小する[[議会法]]案を提出してきた。これに対してランズダウン卿は初め徹底抗戦で臨んだが、自由党政権は1911年7月に選挙前に国王から新貴族任命の約束を得ている旨を明らかにし、議会法案を貴族院が否決したら法案に賛成する新貴族任命を行うであろうことをバルフォアやランズダウン卿ら保守党幹部に通告した。ここに至ってランズダウン卿は党首バルフォアとともに法案を可決させるしかないと判断し、貴族院保守党の説得にあたったが、貴族院保守党には徹底抗戦派が多かった。ランズダウン卿はじめ妥協派の保守党貴族院議員ははじめ棄権を考えていたが、棄権すると議会法案否決の公算が大であったため、賛成する方針に転じ、賛成131、反対114の僅差でなんとか可決させた。この結果、イギリスにおける庶民院の優越が確定することとなった<ref>[[#坂井(1967)|坂井(1967)]] p.456-460</ref>。

===  第一次世界大戦 ===
[[第一次世界大戦]]中の[[1915年]]、[[ガリポリの戦い]]はじめ好転しない戦局からアスキスは保守党も取り込んだ[[挙国一致内閣]]（{{仮リンク|第2次アスキス内閣|en|United Kingdom coalition government (1915–1916)}}）を組織した。この際にランズダウン卿も保守党からの閣僚として[[無任所大臣]]として入閣、首相が[[デビッド・ロイド・ジョージ]]に代わる[[1916年]]まで務めた<ref name="thepeerage" /><ref name="DCB" />。

戦死者の急増で兵員が枯渇してくるとロイド・ジョージや[[ウィンストン・チャーチル|チャーチル]]、[[ジョージ・カーゾン (初代カーゾン・オヴ・ケドルストン侯爵)|カーゾン卿]]といった閣僚たちとともに徴兵制導入の主要論者となり、慎重派閣僚たちを退けて、[[1916年]]5月に18歳から41歳の男性を一律に即時徴兵する法案を可決させることに成功した<ref name="中村(1978)115">[[#中村(1978)|中村(1978)]] p.115</ref>。

1916年11月には講和覚書を書き、閣僚たちに回覧した。その中でランズダウン卿はイギリスが今度の大戦で負った甚大な人的・財政的・物的損害を列挙したうえで「この負担に耐えることはもとより国民の義務であり、国民の士気も衰えてはいないが、近い将来敵国を打倒し、無条件降伏を受諾させられるかは極めて疑わしい。そうなると無用の殺戮を不必要に長引かせていることに責任が生じよう。」と論じ、ドイツとの講和交渉に応じる可能性を排除すべきではないと訴えた。だがこれは陸軍大臣ロイド・ジョージら反政府派から厳しく批判された（ロイド・ジョージはアスキスに対する政権内不満分子になりはじめていた）<ref>[[#中村(1978)|中村(1978)]] p.121-123</ref>。

=== 晩年・死去 ===
[[1927年]][[6月3日]]、[[心臓発作]]のため死去。82歳。爵位は長男の{{仮リンク|ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第6代ランズダウン侯爵)|en|Henry Petty-Fitzmaurice, 6th Marquess of Lansdowne|label=ケリー伯爵ヘンリー}}が相続した。遺産は土地が 1,044,613 [[スターリング・ポンド|UKポンド]]、他の資産が 233,888 UKポンドであった。
{{-}}

== 栄典 ==
[[File:Henry Charles Keith Petty-Fitzmaurice, 5th Marquess of Lansdowne by Philip Alexius de László.jpg|180px|thumb|ガーター騎士団の正装をしたランズダウン侯爵の肖像画（フィリップ・ド・ラースロー画）]]
=== 爵位 ===
*[[1866年]][[7月5日]]、第5代[[ランズダウン侯爵]]（[[1784年]]創設[[グレートブリテン貴族]]爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第5代ワイクーム・オブ・チッピング・ワイクーム伯爵（1784年創設グレートブリテン貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第6代{{仮リンク|ケリー伯爵|en|Earl of Kerry}}（[[1723年]]創設アイルランド貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第6代{{仮リンク|シェルバーン伯爵|en|Earl of Shelburne}}（[[1753年]]創設[[アイルランド貴族]]爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第5代キャルネ・アンド・キャルストン子爵（1784年創設グレートブリテン貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第6代クランモーリス子爵（1723年創設アイルランド貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第6代フィッツモーリス子爵（[[1751年]]創設アイルランド貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第6代ドゥンケロン男爵（1751年創設アイルランド貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第6代ワイクーム卿、チッピング・ワイクーム男爵（[[1760年]]創設グレートブリテン貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*1866年7月5日、第24代{{仮リンク|ケリー男爵|en|Baron Kerry}}（[[1295年]]創設アイルランド貴族爵位）<ref name="thepeerage" />
*[[1895年]][[6月26日]]、第9代{{仮リンク|ネアーン卿|en|Lord Nairne}}（[[1681年]]創設[[スコットランド貴族]]爵位）<ref name="thepeerage" />

=== 勲章 ===
*1884年、[[聖マイケル・聖ジョージ勲章]]ナイト・グランド・クロス（GCMG）<ref>{{LondonGazette |issue=25313 |date= 29 January 1884 |startpage=431 |endpage=432 |accessdate=2010年11月28日}}</ref>
*1888年、{{仮リンク|インド帝国勲章|en|Order of the Indian Empire}}ナイト・グランド・コマンダー（GCIE）<ref name="thepeerage" />
*1888年、{{仮リンク|インドの星勲章|en|Order of the Star of India}}ナイト・グランド・コマンダー（GCSI）<ref name="thepeerage" />
*1895年、[[ガーター勲章]]勲爵士（KG）<ref>{{LondonGazette |issue=26606 |date=12 March 1895 |startpage=1469 |accessdate=2010年11月28日}}</ref>
*[[1905年]]、{{仮リンク|ロイヤル・ヴィクトリア剄飾|en|Royal Victorian Chain}}<ref>{{LondonGazette |issue=27866 |date=22 December 1905 |startpage=9172 |accessdate=2010年11月28日 }}</ref>
=== その他 ===
*1895年、[[枢密院 (イギリス)|枢密顧問官]] （PC）<ref name="LondonGazette1895" />
*法学博士号（[[マギル大学]][[名誉学位]]）<ref name="thepeerage" />
*法学博士号（[[リーズ大学]]名誉学位）<ref name="thepeerage" />
*法学博士号（ケンブリッジ大学名誉学位）<ref name="thepeerage" />
{{-}}

== 家族 ==
[[File:Lady Maud Evelyn Hamilton, Marchioness of Lansdowne by Cowell, Simla, India.jpg|180px|thumb|妻{{仮リンク|モード・ペティ＝フィッツモーリス (ランズダウン侯爵夫人)|label=モード|en|Maud Petty-Fitzmaurice, Marchioness of Lansdowne}}]]
ランズダウンは、初代{{仮リンク|アバコーン公爵|en|Duke of Abercorn}}[[ジェームズ・ハミルトン (初代アバコーン公爵)|ジェイムズ・ハミルトン]]の娘である{{仮リンク|モード・ペティ＝フィッツモーリス (ランズダウン侯爵夫人)|label=モード・ハミルトン嬢|en|Maud Petty-Fitzmaurice, Marchioness of Lansdowne}}と[[1869年]][[11月8日]]に[[ウェストミンスター寺院]]で結婚した<ref name="thepeerage" />。夫妻の間には以下の二男二女が生まれた。
* {{仮リンク|イヴリン・ペティ＝フィッツモーリス|en|Evelyn Cavendish, Duchess of Devonshire|label=レディ・イヴリン・エミリー・メアリー}} （1870年8月27日 – 1960年4月2日） - 第9代[[デヴォンシャー公爵]]{{仮リンク|ヴィクター・キャヴェンディッシュ (第9代デヴォンシャー公爵)|en|Victor Cavendish, 9th Duke of Devonshire|label=ヴィクター・キャヴェンディッシュ}}夫人
* [[ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第6代ランズダウン侯爵)|ケリー伯爵ヘンリー・ウィリアム・エドマンド]] （1872年1月14日 – 1936年3月5日） - 第6代ランズダウン侯爵
* {{仮リンク|チャールズ・ペティ＝フィッツモーリス|en|Lord Charles Petty-Fitzmaurice|label=チャールズ・ジョージ・フランシス卿}} （1874年2月12日 – 1914年10月30日）
* {{仮リンク|ベアトリクス・ペティ＝フィッツモーリス|en|Beatrix Beauclerk, Duchess of St Albans|label=レディ・ベアトリクス・フランシス}} （1877年3月25日 – 1953年8月5日） - 初め第6代{{仮リンク|ウォーターフォード侯爵|en|Marquess of Waterford}}{{仮リンク|ヘンリー・ベレスフォード (第6代ウォーターフォード侯爵)|en|Henry Beresford, 6th Marquess of Waterford|label=ヘンリー・ベレスフォード}}夫人、次いで第12代[[セント・オールバンズ公爵]]{{仮リンク|オズボーン・ボークラーク (第12代セント・オールバンズ公爵)|en|Osborne Beauclerk, 12th Duke of St Albans|label=オズボーン・ボークラーク}}夫人
{{-}}
== 出典 ==
{{脚注ヘルプ}}
<div class="references-small">{{Reflist|2}}</div>

== 参考文献 ==
*{{Cite book|和書|author=[[坂井秀夫]]|date=1967年(昭和42年)|title=政治指導の歴史的研究 近代イギリスを中心として|publisher=[[創文社]]|asin=B000JA626W|ref=坂井(1967)}}
*{{Cite book|和書|author=[[バーバラ・タックマン]]|translator=[[大島かおり]]|date=1990年（平成2年）|title=世紀末のヨーロッパ　誇り高き塔・第一次大戦前夜|publisher=[[筑摩書房]]|isbn=978-4480855541|ref=タックマン(1990)}}
*{{Cite book|和書|author=[[中村祐吉]]|date=1978年（昭和53年）|title=イギリス政変記 アスキス内閣の悲劇|publisher=[[集英社]]|asin=B000J8P5LC|ref=中村(1978)}}
*{{Cite book|和書|author=[[浜渦哲雄]]|date=1999年(平成11年)|title=大英帝国インド総督列伝 イギリスはいかにインドを統治したか|publisher=中央公論新社|isbn=978-4120029370|ref=浜渦(1999)}}
*{{Cite book|和書|date=2001年（平成13年）|title=世界諸国の組織・制度・人事　1840―2000|editor=[[秦郁彦]]編|publisher=[[東京大学出版会]]|isbn=978-4130301220|ref=秦(2001)}}
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Henry Petty-FitzMaurice, 5th Marquess of Lansdowne|第5代ランズダウン侯爵ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス}}
* {{Hansard-contribs|mr-henry-petty-fitzmaurice|Mr Henry Petty-FitzMaurice}} {{en icon}}
* {{Cite web|url=http://www.gg.ca/document.aspx?id=55|title=Former Governors General|work=The Governor General of Canada |publisher=|language=英語|accessdate=2010年11月28日}}
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{{succession box | before={{仮リンク|エドワード・スタンホープ|en|Edward Stanhope}}| title={{flagicon|UK}} {{仮リンク|インド省政務次官|en|Under-Secretary of State for India}}| years=[[1880年]]| after={{仮リンク|ジョージ・ビング (第3代ストラフォード伯爵)|label=エンフィールド子爵|en|George Byng, 3rd Earl of Strafford}}}}
{{succession box | before=[[ヘンリー・キャンベル＝バナマン|サー・ヘンリー・キャンベル＝バナマン]]| title={{flagicon|UK}} {{仮リンク|陸軍大臣 (イギリス)|label=陸軍大臣|en|Secretary of State for War}}| years=[[1895年]] - [[1900年]]| after={{仮リンク|セント・ジョン・ブロドリック (初代ミドルトン伯爵)|label=ウィリアム・セント・ジョン・ブロドリック|en|St John Brodrick, 1st Earl of Midleton}}}}
{{succession box | before=[[ロバート・ガスコイン＝セシル (第3代ソールズベリー侯)|第3代ソールズベリー侯爵]]| title={{flagicon|UK}} [[外務大臣 (イギリス)|外務大臣]]| years=[[1900年]] - [[1905年]]| after=[[エドワード・グレイ|サー・エドワード・グレイ准男爵]]}}
{{succession box | before=[[スペンサー・キャヴェンディッシュ (第8代デヴォンシャー公爵)|第8代デヴォンシャー公爵]]| title={{flagicon|UK}} {{仮リンク|貴族院院内総務|en|Leader of the House of Lords}}| years=[[1903年]] - [[1905年]]| after=[[ジョージ・ロビンソン (初代リポン侯爵)|初代リポン侯爵]]}}
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{{succession box | before=[[ジョン・キャンベル (第9代アーガイル公爵)|ローン侯爵]]| title={{Flagicon|CAN1868}} [[カナダの総督|カナダ総督]]| years=[[1883年]] - [[1888年]]| after=[[フレデリック・スタンリー (第16代ダービー伯爵)|初代スタンリー・オブ・プレストン男爵]]}}
{{succession box | before=[[フレデリック・ハミルトン＝テンプル＝ブラックウッド (初代ダファリン侯爵)|初代ダファリン伯爵]]| title={{Flagicon|IND1858}} [[インドの総督|インド副王兼総督]]| years=[[1888年]] - [[1894年]]| after=[[ヴィクター・ブルース (第9代エルギン伯爵)|第9代エルギン伯爵]]}}
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{{succession box|title=[[File:County Flag of Wiltshire.svg|23px]] {{仮リンク|ウィルトシャー総督|en|Lord Lieutenant of Wiltshire}}|before={{仮リンク|ジョン・シン (第4代バース侯爵)|label=第4代バース侯爵|en|John Thynne, 4th Marquess of Bath}}|after={{仮リンク|ウォルター・ロング (初代ロング子爵)|label=ウォルター・ロング|en|Walter Long, 1st Viscount Long}}|years=[[1896年]]–[[1920年]]}}
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{{Succession box| title  = {{仮リンク|保守党貴族院院内総務|en|Leaders of the Conservative Party#Leaders in the House of Lords 1834–present}}| years  = [[1903年]]-[[1916年]]| before = [[スペンサー・キャヴェンディッシュ (第8代デヴォンシャー公爵)|第8代デヴォンシャー公爵]]| after  = [[ジョージ・カーゾン (初代カーゾン・オヴ・ケドルストン侯爵)|初代カーゾン・オブ・ケドルストン伯爵]]}}
{{Succession box| title  = {{仮リンク|保守党党首 (イギリス)|label=保守党党首|en|Leader of the Conservative Party (UK)}}<br/><small>保守党庶民院院内総務[[アンドルー・ボナー・ロー]]とともに</small>| years  = [[1911年]]-[[1916年]]| before = [[アーサー・バルフォア]]| after  = [[アンドルー・ボナー・ロー]]}}
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{{succession box | title=[[File:Marquess of Lansdowne.svg|23px]] 第5代[[ランズダウン侯爵]]| before= {{仮リンク|ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第4代ランズダウン侯爵)|label=ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス|en|Henry Petty-Fitzmaurice, 4th Marquess of Lansdowne}}| after= {{仮リンク|ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第6代ランズダウン侯爵)|label=ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス|en|Henry Petty-Fitzmaurice, 6th Marquess of Lansdowne}}| years=[[1866年]] - [[1927年]]}}
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{{succession box | title=[[File:Marquess of Lansdowne.svg|23px]] 第9代{{仮リンク|ネアーン卿|en|Lord Nairne}}| before= {{仮リンク|エミリー・ペティ＝フィッツモーリス (ランズダウン侯爵夫人)|label=エミリー・ペティ＝フィッツモーリス|en|Emily Petty-Fitzmaurice, Marchioness of Lansdowne}}| after= {{仮リンク|ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス (第6代ランズダウン侯爵)|label=ヘンリー・ペティ＝フィッツモーリス|en|Henry Petty-Fitzmaurice, 6th Marquess of Lansdowne}}| years=[[1895年]] - [[1927年]]}}
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{{イギリスの外務大臣}}
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[[Category:ランズダウン侯]]
[[Category:イギリスの外務大臣]]
[[Category:イギリス自由党の政治家]]
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