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ビリアル定理
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'''ビリアル定理'''(Virial theorem)とは、多粒子系(N粒子系)において、[[粒子]]が動き得る範囲が[[有限]]である場合に、[[古典力学]]、[[量子力学]]系のいずれにおいても成立する以下の関係式のことである。 :<math> \left\langle K \right\rangle = \left\langle \sum_{i=1}^N { \mathbf{p}_i^2 \over {2 m_i} } \right\rangle = \sum_{i=1}^N \left\langle { \mathbf{p}_i^2 \over {2 m_i} } \right\rangle = -{1 \over 2} \sum_{i=1}^N \left\langle \mathbf{F}_i \cdot \mathbf{r}_i \right\rangle </math> Kは[[系]]全体の[[運動エネルギー]] :<math> K = \sum_{i=1}^N { \mathbf{p}_i^2 \over {2 m_i} } </math> で、'''p'''<SUB>i</SUB>は粒子iの[[運動量]]、'''r'''<SUB>i</SUB>は粒子iの[[位置]]座標、'''F'''<SUB>i</SUB>は粒子iに働く[[力]]、m<SUB>i</SUB>は粒子iの[[質量]]である。<math> \left\langle \cdots \right\rangle </math>は[[物理量]]の平均操作(一般に長時間平均)を意味する。 粒子iに働く力'''F'''<SUB>i</SUB>が、系全体の[[ポテンシャルエネルギー]]<math> V = V(\mathbf{r}_1, \cdots, \mathbf{r}_N) </math>を用いて<math> \mathbf{F}_i = - \nabla_{\mathbf{r}_i} V (\mathbf{r}_1, \cdots, \mathbf{r}_i, \cdots, \mathbf{r}_N) </math>と表せるならば、ビリアル定理は、 :<math> \left\langle K \right\rangle = {1 \over 2} \sum_{i=1}^N \left\langle \nabla_{\mathbf{r}_i} V \cdot \mathbf{r}_i \right\rangle </math> という形で表せる。 ポテンシャルエネルギーVが[[中心力]][[ポテンシャル]]で、粒子間の距離のn+1乗(r<SUP>n+1</SUP>)に比例する形、すなわち、 :<math> V(\mathbf{r}) = a\mathbf{r}^{n+1}</math> という形で表せるならば、 :<math> \left\langle K \right\rangle = {n+1 \over 2} \left\langle V \right\rangle </math> となる。中心力が[[電磁気力]]や[[重力]]の場合を考えると、n = -2であるから、 :<math> \left\langle K \right\rangle = -{1 \over 2}\left\langle V \right\rangle </math> となる。ビリアル定理から次のことが言える。 *系全体の運動エネルギーKの時間平均は、系全体のポテンシャルエネルギーVの時間平均の-1/2に等しい。 また、同等のこととして、 *系全体のポテンシャルエネルギーVの時間平均は、系全体の全エネルギーの時間平均に等しい。 *系全体の運動エネルギーKの時間平均と系全体の全エネルギーの時間平均を加えた物は0。 ということが示される。 ビリアル定理という名前は'''ビリアル'''([[ラテン語]]で「力」の意)と呼ばれる値に由来している。ビリアルは<math>G = \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{p}_i </math>によって定義される値で、[[1870年]][[クラウジウス]]が命名した。 ==証明== [[古典力学]]系の場合のビリアル定理の証明。ビリアル :<math>G = \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{p}_i </math> を[[時間]]で[[微分]]すると、 :<math>{{d G} \over {dt}} = \sum_i {{d \mathbf{r}_i} \over {dt}} \cdot \mathbf{p}_i + \sum_i \mathbf{r}_i \cdot {{d \mathbf{p}_i} \over {dt}} = \sum_i {\mathbf{p}_i \over m_i} \cdot \mathbf{p}_i + \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_i = 2K + \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_i </math> つまり、 :<math>{{d G} \over {dt}} = 2K + \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_i </math>。 この式の両辺を0から時間tの範囲で[[積分]]してtで割り、<math>t \to \infty</math> の[[極限]]をとって長時間平均する。すると、粒子が動き得る範囲は有限なのでGも有限だから、左辺は :<math> \lim_{t \to \infty} {{1 \over t} \int_{0}^{t} {{d G} \over {dt}}} dt = \lim_{t \to \infty} {G(t)-G(0) \over t} =0</math>。 したがって、 :<math> 0=2 \left\langle K \right\rangle + \left\langle \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_i \right\rangle</math> つまり、ビリアル定理 :<math> \left\langle K \right\rangle = -{1 \over 2} \left\langle \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_i \right\rangle</math> を得る。 次に、ポテンシャルエネルギーVが[[中心力]]ポテンシャルで、粒子間の距離のn+1乗(r<SUP>n+1</SUP>)に比例する形、すなわち、 :<math> V(\mathbf{r}_1, \cdots, \mathbf{r}_N) = \sum_{i<j} a |\mathbf{r}_{i}-\mathbf{r}_{j}|^{n+1} </math> のとき (和は <math> i=1, 2, \cdot, N</math>、 <math> j=1, 2, \cdot, N</math>、<math> i < j</math>の2重の和)、 粒子iに働く力 <math> \mathbf{F}_i</math> は, :<math> \mathbf{F}_i = -\nabla_{\mathbf{r}_i} V = -a (n+1) \sum_{j \ne i} (\mathbf{r}_{i}-\mathbf{r}_{j}) |\mathbf{r}_{i}-\mathbf{r}_{j}|^{n-1} = \sum_{j \ne i} \mathbf{F}_{ij} </math>。 ここで、 :<math> \mathbf{F}_{ij}= - a (n+1) (\mathbf{r}_{i}-\mathbf{r}_{j}) |\mathbf{r}_{i}-\mathbf{r}_{j}|^{n-1} </math> は、粒子jから粒子iに働く力である。これを、ビリアル定理の右辺に代入すると、 :<math> -{1 \over 2} \left\langle \sum_i \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_i \right\rangle = -{1 \over 2} \left\langle \sum_{i \ne j} \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_{ij} \right\rangle </math>。 和は <math> i=1, 2, \cdot, N</math>、 <math> j=1, 2, \cdot, N</math>、<math> i \ne j</math>の2重の和である。 この和を<math> i > j</math>と<math> i < j</math>に分け, :<math> \sum_{i \ne j} \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_{ji} = \sum_{i > j} \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_{ji} + \sum_{i < j} \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_{ji} </math> 第2項で添え字を入れ替えて <math> \mathbf{F}_{ji}=-\mathbf{F}_{ij} </math> に注意すると、 <math> = \sum_{i > j} \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_{ji} + \sum_{j < i} \mathbf{r}_j \cdot \mathbf{F}_{ij} = \sum_{i > j} \mathbf{r}_i \cdot \mathbf{F}_{ji} - \sum_{j < i} \mathbf{r}_j \cdot \mathbf{F}_{ji} = \sum_{i > j} (\mathbf{r}_i - \mathbf{r}_j) \cdot \mathbf{F}_{ji} = -(n+1) V(\mathbf{r}_1, \cdots, \mathbf{r}_N) </math>。 したがって、 :<math> \left\langle K \right\rangle = {n+1 \over 2} \left\langle V \right\rangle </math>。 ==応用== ビリアル定理を[[太陽系]]や[[銀河]]を始めとする、非常に複雑な物理体系(重力[[多体問題|多体系]])に適用することにより、計算結果を簡素化することができるので非常に便利である。 また、ビリアル定理が成り立つ場合、次式から系の[[圧力]]を求めることができる。 :<math> P = {1 \over {3 V}} (2 \left\langle K \right\rangle + \sum_{i=1}^N \left\langle \mathbf{F}_i \cdot \mathbf{r}_i \right\rangle ) </math> ここで、Pは[[圧力]]、Vは系の[[体積]]である。[[気体分子運動論]]では上式から圧力を求める。 ==一般化== 一般化されたビリアル定理を、'''超ビリアル定理'''(Hypervirial theorem)と言う。座標'''r'''と運動量'''P'''(互いに[[共役]]である)を考え、この2つの量を変数とした[[関数]]<math> W(\mathbf{r},\mathbf{P}) </math>を考える。この関数は、冒頭での粒子系と同様な[[境界条件]]の基で任意に選べるとする。[[ハミルトニアン]]をHとして、[[ポアソン括弧]](詳細は[[ハミルトン力学]]を参照)の時間平均、 :<math> \left\langle [W,H] \right\rangle = 0 </math> となるのが古典的な超ビリアル定理である。量子力学では、上記[[交換関係]]の[[基底状態]]の平均がゼロとなる。 :<math> \left\langle 0|[W,H]|0 \right\rangle = 0 </math> これが量子力学的な超ビリアル定理である。ここで、<math>W</math>として上記のビリアルをとる。すなわち、 :<math> W = \mathbf{r} \cdot \mathbf{P} </math> とすれば、通常のビリアル定理が導かれる。 ==関連記事== *[[統計力学]] *[[物性物理学]] *[[多体問題]] {{DEFAULTSORT:ひりあるていり}} [[Category:天体物理学]] [[Category:定理|ひりある]]
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