バイオントダムのソースを表示

{{ダム
| ダム名 = ヴァイオントダム
| 画像 = [[File:VajontDiga.jpg|150px]]
| 所在地 = {{ITA}}<br/>[[フリウリ＝ヴェネツィア・ジュリア州]][[エルト・エ・カッソ]]
| 左岸 = 
| 右岸 = 
| 緯度 = 46|緯分 = 16|緯秒 = 02|N(北緯)及びS(南緯) = N
| 経度 = 12|経分 = 19|経秒 = 44|E(東経)及びW(西経) = E
| 地図国コード = IT
| 河川 = ヴァイオント川
| ダム湖 = ヴァイオント湖
| ダム形式 = [[アーチ式コンクリートダム‎]]
| 堤高 = 262
| 堤頂長 = 190
| 堤体積 = 360,000
| 総貯水容量 = 168,000,000
| 有効貯水容量 = 
| 流域面積 = 
| 湛水面積 = 
| 利用目的 = 
| 事業主体 = 
| 電気事業者 = 
| 発電所名（認可出力） = 
| 施工業者 = 
| 着工年 = 1957年
| 竣工年 = 1960年
| 出典 = [http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranB/WAll.cgi?db3=049 ダム便覧]
| 備考 = 1963年の事故後放棄
}}
'''ヴァイオントダム'''（{{lang-it|Diga del Vajont}}）は、[[イタリア]]北東部を流れる[[ピアーヴェ川]]の[[支川]]・ヴァイオント川に建設された[[ダム]]。[[1960年]]に竣工したが、[[1963年]][[10月9日]]に犠牲者2000名以上を出す[[地すべり]]・溢水災害を引き起こし、放棄された。

日本では「'''バイオントダム'''」と記されることが多いため、本記事でもこの表記を用いる。

== 概要 ==
[[Image:La diga del Vajont vista da Longarone 18-8-2005 retouched.jpg|thumb|left|200px|ロンガローネから見たバイオントダムの堤体]]
バイオント川{{enlink|Vajont (torrente)||it}}は、イタリア北東部の[[ヴェネト州]]を流れるピアーヴェ川の支川である。バイオントダムは、バイオント川が東のバイオント谷からピアーヴェ川に合流する手前に通る、狭隘で深い渓谷に建設された。1960年の竣工当時、262mの堤高は世界一であった。

ダムは、[[エルト・エ・カッソ]]村（[[フリウーリ＝ヴェネツィア・ジュリア州]][[ポルデノーネ県]]）の西端にあたる。ダムの真西、峡谷の出口にあたるピアーヴェ川右岸には、[[ロンガローネ]]村（[[ヴェネト州]][[ベッルーノ県]]）の中心であるロンガローネの集落が広がっている。

貯水開始後、地すべりが頻発するようになった。危険性の指摘や、大災害の予兆はあったものの、それらは軽視された。[[1963年]][[10月9日]]のバイオントダム災害{{enlink|Disastro del Vajont||it}}は、大規模な地すべりによって貯水湖から押し出された水が[[津波]]となり、ダム湖周辺およびダム下流の集落に壊滅的な被害をもたらしたものである。堤体自体はほぼ損傷しなかったものの、ダムは放棄された。この災害以後、ダムの建設において周辺の地質を調べることが重要視されるようになった。

[[2008年]][[2月12日]]、[[国際連合教育科学文化機関|ユネスコ]]や[[国際地質科学連合]]などが中心になって行った「{{仮リンク|国際惑星地球年|en|International Year of Planet Earth}}」（IYPE）プログラムの一環として、ユネスコは地球科学の理解が重要であることを示す「5つの教訓と5つの朗報」（{{lang|en|Five Cautionary Tales and Five Good News Stories}}）を紹介した。「教訓」の筆頭に、「技術者と地質学者の失敗」によって引き起こされた事例としてバイオントダム災害が挙げられており、山腹の地質に対する適切な理解があれば防ぎ得たとした<ref name="lswn_20080211">[http://www.lswn.it/en/press_releases/2008/international_year_of_planet_earth_global_launch_event_12_13_february_2008 International Year of Planet Earth - Global Launch Event 12-13 February 2008] - Le Scienze Web News</ref><ref>{{PDF|[http://yearofplanetearth.org/PressKit.pdf International Year of Planet Earth - Global Launch Event]}}</ref>。

== 沿革 ==
[[Image:Mappa Vajont IGM 1934.jpg|thumb|200px|ダム建設前の地形図（1934年）]]
バイオント谷の出口にダムを建設するという提案は、1920年代にはじめて行われた<ref name="lswn_20080211" />。この土地の地盤の脆弱性は指摘されていたが、第二次世界大戦中の1943年10月15日に公共事業委員会から建築の許可が出されている<ref name="longarone" /><ref name="erto">{{it icon}}Francesco Niccolini,"[http://www.erto.it/diga.htm LA TRAGEDIA DEL VAJONT]" - エルト地区公式サイト</ref>。

[[1957年]]、ヴェネツィアのアドリア電力会社（SADE）{{enlink|Società Adriatica di Elettricità||it}}はダム工事を開始した<ref name="erto" />。[[1960年]][[11月30日]]に竣工した。設計者は、革新的なダム設計を多く手掛けたカルロ・セメンツァ{{enlink|Carlo Semenza||it}}（1893年 - 1961年）であった。この間、1962年に電力国有化によって電力会社が統合され、国営の[[エネル|イタリア電力公社]]（ENEL）に移管された。

貯水開始後、地震が頻発するようになり、水深が130mとなった時点で最初の地すべりが発生した。この地震は世界各地のダムで貯水に伴って発生しているダム地震ではないかと考えられている<ref>島村英紀『巨大地震はなぜ起きる これだけは知っておこう』2011年。花伝社</ref><ref>島村英紀「人間が起こした地震」　http://shima3.fc2web.com/sekou9701damzisin.htm</ref>。この地すべりによって当時の貯水池が二分される形になったため、1960年から61年にかけて両方を結ぶバイパス水路を建設している。補強工事などを行ったのち、1961年に本格的な貯水を開始した<ref name="dam_binran">[http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranB/WAll.cgi?db3=049 ダム便覧] - 財団法人日本ダム協会</ref>。

== バイオントダム災害 ==
=== 予兆 ===
[[1963年]]、この年は記録的な豪雨に見舞われた。9月中旬には地すべり速度が大きくなり、貯水量を下げるために3本のトンネルから放水が行われた。

=== 1963年10月9日午後10時39分 ===
[[Image:Vajont1963usarmy.jpg|thumb|200px|災害後のロンガローネ]]
[[1963年]][[10月9日]]午後10時39分、ダム左岸（南岸）のトック山{{enlink|Monte Toc}}が2km以上に渡って地すべりを起こし、膨大な土砂が時速100km程度とされる<ref name="longarone">{{it icon}}「[http://www.longarone.net/page.php?pageid=SB2SX00P La tragedia del Vajont]」 - ロンガローネ村公式サイト</ref>高速でダム湖になだれ落ちた。滑落した土砂は2億4000万m³と推定される<ref name="dam_binran" />（ほかに、2億6000万m³<ref name="erto" />や2億7000万m³<ref name="longarone" />の数字を出すものもある）。

当時のダム湖には1億1500万m³の水が貯水されていたが、土砂に押し出されて[[津波]]となった湖水は対岸と下流に押し寄せた。右岸（北岸）に向かった津波は谷の斜面を高さ250mまで駆け上った。ダムから240m以上の高さにあったカッソの集落では、低い場所にあった家屋が波に飲まれた。また、5000万m³に及ぶ水がダムの[[天端]]（頂部）を100mの高さで飛び越えてピアーヴェ川沿いの村々を襲った<ref name="dam_binran" />。とくに、峡谷の出口にあったロンガローネの集落は、上空から殺到する「水の壁」の直撃を受け、壊滅的な被害を出した。この結果、ダムの工事関係者と住民2125人が死亡するという大[[事故|惨事]]となった<ref name="dam_binran" />（犠牲者として挙げられる数は、1900人余り<ref>ロンガローネ村公式サイトの「[http://www.longarone.net/page.php?pageid=SB2SX00P La tragedia del Vajont]」では死者1910人、エルト地区公式サイトの「[http://www.erto.it/diga.htm LA TRAGEDIA DEL VAJONT]」では死者1917人という数字を挙げている。</ref>、2000人以上<ref>{{PDF|Christopher R.J. Kilburna, David N. Petleyb, [http://www.landslidecentre.org/Papers/kilburnpetley.pdf “Forecasting giant, catastrophic slope collapse: lessons from Vajont,Northern Italy”]}}, ''Geomorphology'' 54 (2003)</ref>、2500人<ref>[http://ebooks.cambridge.org/chapter.jsf?bid=CBO9780511735349&cid=CBO9780511735349A100 Rock Mechanics and Engineering
By C. Jaeger] - Cambridge Books Online</ref>、2600人<ref>[http://news.bbc.co.uk/2/hi/entertainment/1586421.stm Screen role for disaster dam] - BBC News</ref>など幅がある）。

[[ロンガローネ]]村では、ロンガローネ集落のほか Pirago, Rivalta, Villanova の各地区および Faé 地区の一部にも被害が及んだ。村全体では1450人の住民が犠牲となり<ref name="longarone" /><ref name="erto" />、895軒の住居と205軒の店舗・工場が破壊された<ref name="longarone" />。また、[[カステッラヴァッツォ]]で109人、[[エルト・エ・カッソ]]村で158人の住民が犠牲となった<ref name="erto" />。このほか、工事関係者（労働者・技術者およびその家族）など域外から来た人々から200人が犠牲となっている<ref name="erto" />。

しかしダム自体は、最上部が津波により損傷したのを除いてほとんどダメージは無かった。

{{要出典範囲|地すべりは、地下水位の急激な変動が引き金になるといわれており、バイオントダムではダム関係者が放流を急ぎ過ぎて水位降下が早かったのが原因だと指摘する声もある。|date=2012年1月}}

=== 事故の影響 ===
事故の責任を問う裁判が行われ、住民を避難させなかったとして8人の関係者が[[有罪]]となった<ref name="dam_binran" />。

また、この事故後、ダムの建設において周辺の地質を調べることが特に重要視されるようになった。どれだけ頑丈な堤防を作っても、周囲の山が崩落してはダム湖の水など簡単に溢れることが判ったためである。

事故後、土砂により分断されたダム湖の間に新たなバイパス水路が建設され、さらなる地すべりを防ぐために水圧を抜くための水路および水路橋が建設された。現在も、ダム及び周辺の山の観測データが定期的に[[イタリア電力公社]]（ENEL）へ報告されている<ref>{{リンク切れ|date=2011年8月[http://www.wec.or.jp/center/jyouhou/ronbun/H17syohou/pdf/h17_2-3.pdf]}}</ref>。

== 日本における同様のダム災害の可能性 ==
[[日本]]では地質が脆弱なことが多く、ダム地点の地質条件については慎重な調査と対策が行われてきたが、湛水域の地質についてはダム計画決定後に調査されることが多い。そのため、時には湛水域で小規模な地すべりが発生しているが、下流に被害が生じたことはない。[[2003年]]4月に[[奈良県]]の[[大滝ダム]]で試験湛水中に白屋地区地すべり（国交省発表の土量は200万m<sup>3</sup>）が起こった。しかし斜面にクラックを生じた段階で試験湛水を中止し、地すべり対策をおこなったため、このときも下流に被害を生じていない。以後、大滝ダムは恒久対策が完了するまで本格的な運用を停止し、洪水調節ができなかった<ref>大滝ダム地すべり災害（奈良県）調査報告書，国土問題，68号，国土問題研究会，2006年4月，印刷中。</ref>。結局、洪水調節が開始されたのは[[2012年]]のことである。

[[2008年]][[6月]]14日に[[岩手・宮城内陸地震]]が発生。荒砥沢ダム上流で土砂崩落が発生し、ダム湖へ流入した。崩落土砂の量がダム貯水容量の1割程度だったことや、灌漑期に入り貯水量に空きがあったことなどによって、津波がダムの堤体を越えることはなかった。

== 映像化 ==
=== ドキュメンタリー ===
*[[衝撃の瞬間]]（[[ナショナルジオグラフィックチャンネル]]）
:第2シリーズ10話　『イタリア・ダム崩壊事故』
:第5シリーズ9話　『ダム津波の脅威』
=== 劇映画 ===
*プロジェクトV（バイオント）　史上最悪のダム災害（原題:"[[:it:Vajont - La diga del disonore|Vajont - La diga del disonore]]"）
:イタリア・フランス、[[2001年]]制作。レンツォ・マルチネリ監督{{enlink|Renzo Martinelli||it}}、[[ダニエル・オートゥイユ]]主演

== ギャラリー ==
<gallery>
File:LagoDiVajontQuer.JPG|バイオント川（バイオント湖）
File:VajontMonteTocBerghang2.JPG|トック山の地すべり跡
File:VajontSchuttbergMonteToc3.JPG|トック山の地すべり跡。右に堤体が見える。
File:VajontStaumauerVonOben.JPG|天端と道路
</gallery>
== 脚注・参照 ==
<references />

==外部リンク==
{{commonscat|Vajont Dam}}
* [http://damnet.or.jp/cgi-bin/binranB/WAll.cgi?db3=049 ダム便覧（財団法人日本ダム協会） Vajont（バイオントダム）]{{ja icon}}
*[http://www.vajont.info/scuse/prefACTION-SCHOOLS.html Vajont dam disaster: a fascist legacy]{{en icon}}
*[http://www.vajont.info/eNGLISH/indexArticles.html Vajont forecast manslaughter]{{en icon}}
*[http://www.vajont.info/welcomeX2.html Sito documentale antimafia Vajont]{{it icon}}
*[http://deastore.com/libro/vajont-l-onda-lunga-quarantacinque-anni-lucia-vastano-ponte-alle-grazie/9788879289702.html#top Vajont, l'onda lunga, Lucia Vastano. Libro inchiesta, testo di corso IUAV Venezia]{{it icon}} 
*[http://www.vajont.net Il disastro del Vajont]{{it icon}} 
*[http://www.sopravvissutivajont.org Comitato Sopravissuti del Vajont]{{it icon}} 
*[http://www.vajont.info/eNGLISH/athensMlover.html Vajont: Almost a Greek Tragedy]{{en icon}}
*{{imdb title|id=0214265|title=Vajont, La diga del disonore}}
*[http://www.uwsp.edu/geo/projects/geoweb/participants/Dutch/VTrips/Vaiont.HTM Vajont Dam photos and virtual field trip (University of Wisconsin)], retrieved 2009-07-01.{{en icon}}

{{DEFAULTSORT:はいおんとたむ}}
[[Category:アーチ式コンクリートダム]]
[[Category:各国のダム]]
[[Category:イタリアの建築物]]
[[Category:フリウリ＝ヴェネツィア・ジュリア州]]
[[Category:風水害]]
[[Category:1963年の災害]]