ジブラルタルのソースを表示

{{Infobox British territory
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[[File:Rock_of_Gibraltar_northwest.jpg|right|thumb|300px|北西からの眺め]]
[[File:Gibraltar aerial view looking northwest.jpg|thumb|300px|南東から見た航空写真]]
<!-- [[ファイル:Kärtchen des vorgebirges von gibraltar.jpg|thumb|left|100px|19世紀末ドイツで発行されたMeyers Konversationslexikonsの挿絵地図]] -->
'''ジブラルタル'''（Gibraltar）は、[[イベリア半島]]の南東端に突き出した小半島を占める、[[イギリス]]の[[イギリスの海外領土|海外領土]]。[[ジブラルタル海峡]]を望む良港を持つため、[[地中海]]の出入口を抑える戦略的要衝の地、すなわち「地中海の鍵<ref name="sekai-daihyakka">{{Cite book | 和書 | title=[[世界大百科事典]] | edition=改訂新版 | year=2007 | publisher=[[平凡社]] | volume=第12巻 | page=pp.511-512}}</ref>」として軍事上・海上交通上、重要視されてきた<ref name="nihon-daihyakka">{{Cite book | 和書 | title=[[日本大百科全書]] | edition=第2版 | year=1994 | publisher=[[小学館]] | volume=第11巻 | page=pp.147-148}}</ref>。現在も[[イギリス軍]]が駐屯する。

半島の大半を占める特徴的な岩山（[[ジブラルタルの岩|ザ・ロック]]）は、古代より西への航海の果てにある「[[ヘラクレスの柱]]」の一つとして知られてきた。半島は8世紀より[[ムーア人]]、[[レコンキスタ]]後は[[カスティーリャ王国]]、16世紀より[[スペイン]]、18世紀より[[イギリス]]の占領下にあるが、その領有権を巡り今もイギリス・スペイン間に争いがある。

地名の由来は、[[ジブラルタル海峡]]を渡ってイベリア半島を征服した[[ウマイヤ朝]]の将軍[[ターリク・イブン・ズィヤード]]にちなんでおり、[[アラビア語]]で「ターリクの山」を意味するジャバル・アル・ターリク<ref name="sekai-daihyakka" />（Jabal al-Ţāriq<ref name="spain-jiten-p218">{{Cite book | 和書 | editor=編者 | title=スペイン・ポルトガルを知る事典 | edition=新訂増補版 | year=2001 | publisher=平凡社 | page=p.218}}</ref>、{{Lang-ar-short|&#1580;&#1576;&#1604;&nbsp;&#1591;&#1575;&#1585;&#1602;}}）が転訛したものである。なお、ジブラルタルの英語での発音は「ジブラルタ」<!-- dʒibrɔːltə（r） -->、スペイン語での発音は「ヒブラルタル」<!-- xiβraltar --><ref>{{Cite book | 和書 | author=原誠、エリンケ・コントレラス、寺崎英樹 | year=2005 | title=クラウン西和辞典 | publisher=三省堂 | isbn=978-4385122014}}</ref>に近い。 

== 歴史 ==
{{main|{{仮リンク|ジブラルタルの歴史|en|History of Gibraltar}}}}

=== 古代 ===
人類の痕跡は古く、[[ネアンデルタール人]]の遺跡が発見されている。紀元前950年に[[フェニキア人]]がジブラルタルに初めて定住するようになった。その後も[[古代ローマ|ローマ人]]や[[ヴァンダル族]]、[[ゴート族]]などがジブラルタルに訪れたが、どれも永住ではなかった。フェニキア人国家の[[カルタゴ]]が第1次[[ポエニ戦争]]後にジブラルタルと南イベリア半島を勢力下としたのち、第2次[[ポエニ戦争]]によって[[ローマ帝国]]がジブラルタルとイベリア半島を属領としたものの、400年代初期から[[西ゴート族]]がイベリア半島に居住するようになり、[[西ローマ帝国]]滅亡後は[[西ゴート王国]]の支配下となった。

=== ムスリム支配期（711年 - 1462年） ===
{{main|:en:Moorish Gibraltar|:ar:حكم الموريون لجبل طارق|:he:גיברלטר המוסלמית|:fi:Maurien valta-aika Gibraltarilla}}

[[711年]]、西ゴート王国は[[ウマイヤ朝]]の[[ターリク・イブン＝ズィヤード|ターリク・イブン=ズィヤード]]に征服され、滅亡する。[[ムーア人]]の支配を受けて[[イスラム世界|イスラム圏]]に入るが、およそ4世紀の間ジブラルタルが発展することはなかった。[[756年]]には[[後ウマイヤ朝]]が成立。変遷を経て[[1309年]]に[[ナスル朝]]グラナダ王国の一部となる。カスティーリャ王国によって一時占領されるが、[[1333年]]に[[マリーン朝]]が奪還し、マリーン朝はグラナダ王国にジブラルタルを割譲した。

=== カスティーリャ・スペイン領期（1462年 - 1713年） ===
[[1462年]]に[[メディナ＝シドニア公|メディナ・シドニア公]]がジブラルタルを奪取し、750年間に渡るムーア人の支配を終えた。
メディナ・シドニアは追放されたスペイン・ポルトガル系ユダヤ人にジブラルタルの土地を与え、[[コンベルソ]]のペドロ・デ・エレアが[[コルドバ]]と[[セビリア]]から一団のユダヤ人を移住させ、コミュニティが建設された。そして、半島を守るため駐屯軍が設立された。しかし、[[セファルディム]]となったユダヤ人は数年後にコルドバか異端審問所に送還された。[[フェルナンド2世 (アラゴン王)|フェルナンド2世]]がスペイン王国を打ちたて、1501年にはジブラルタルもスペイン王国の手の下に戻った。同年に[[イサベル1世 (カスティーリャ女王)|イサベル1世]]からジブラルタルの紋章が贈られた。

<!-- [[Image:Battle of Gibraltar 1607.jpg|thumb|left|200px|ジブラルタルの海戦]] -->
[[八十年戦争]]中の[[1607年]]にオランダ艦隊がスペイン艦隊を奇襲し、ジブラルタル沖が戦場となった（[[ジブラルタルの海戦]]）。この海戦でスペイン艦隊は大きな打撃を被った。[[1701年]]にスペイン王位継承で候補者の1人[[カール6世 (神聖ローマ皇帝)|カール大公]]（後の[[神聖ローマ皇帝]]カール6世）の即位を後押しする[[ハプスブルク君主国|オーストリア]]、イギリス、[[ネーデルラント連邦共和国|オランダ]]が[[フランス王国|フランス]]王[[ルイ14世 (フランス王)|ルイ14世]]とスペイン王[[フェリペ5世 (スペイン王)|フェリペ5世]]に宣戦布告し、スペイン継承戦争が始まると、オーストリア、イギリス、オランダの同盟艦隊はスペイン南岸にある港町の襲撃を繰り返した。

[[1704年]][[8月4日]]、[[ジョージ・ルーク]]提督率いるイギリスとオランダの艦隊の支援の下、オーストリアの軍人である[[ゲオルク・フォン・ヘッセン＝ダルムシュタット (1669-1705)|ゲオルク・フォン・ヘッセン=ダルムシュタット]]（[[ヘッセン＝ダルムシュタット方伯領|ヘッセン=ダルムシュタット方伯]][[ルートヴィヒ6世 (ヘッセン＝ダルムシュタット方伯)|ルートヴィヒ6世]]の息子）指揮下の海兵隊がジブラルタルに上陸した。交渉の末、住民は自主退去を選択し、海兵隊はジブラルタルを占領した（[[ジブラルタルの占領]]）。フランス・スペイン連合軍はジブラルタル奪回のため艦隊を[[トゥーロン]]から派遣、それを阻止しようとルーク率いるイギリス・オランダ海軍が迎撃に向かい、フランス・スペイン海軍が撤退したことでジブラルタルは確保された（[[マラガの海戦]]）。

=== イギリス領期（1713年 - ） ===
[[1713年]][[4月11日]]に[[ユトレヒト条約]]の締結によって戦争が終結するものの、その条約でジブラルタルはイギリス領として認められ、スペインは奪回の機を失った。
[[アメリカ独立戦争]]中はスペインが独立軍の支援にまわり、[[1779年]]からジブラルタルへの厳重な封鎖を行った（[[ジブラルタル包囲戦]]）。イギリス軍は[[1782年]]に浮き砲台と包囲兵を撃破し、包囲網を破ることに成功した。翌年には[[パリ条約 (1783年)|パリ条約]]に先立ち、講和が行われ、ジブラルタルは解放された。

[[1805年]]、[[トラファルガーの海戦]]ではイギリス海軍の拠点となった。その後、インドへのルートに[[スエズ運河]]の開通で地中海が加わり、[[蒸気機関]]を動力とする[[装甲巡洋艦]]などが海軍で普及すると給炭基地の役割も求められ、ジブラルタルが重要視されるようになった。[[第二次世界大戦]]中もジブラルタル海峡の封鎖を行っていた[[フランス]]が[[ドイツ]]に敗北し、親独政権である[[ヴィシー政権]]が設立されフランス海軍がその指揮下に入ると、イギリス海軍[[H部隊]]がジブラルタルに配備された。[[トーチ作戦]]では[[アメリカ軍]]もジブラルタルを拠点にした。

第二次世界大戦後は、東西[[冷戦]]がはじまるもイギリス海軍が役割を縮小すると同時にジブラルタルの軍事的役割も低下している。[[1967年]]に[[地中海艦隊 (イギリス)|イギリス地中海艦隊]]が解体され、これに代わる[[アメリカ海軍]][[第6艦隊 (アメリカ軍)|第6艦隊]]は[[イタリア]]の[[ガエータ]]を拠点にしている。しかし、[[1982年]]の[[フォークランド戦争]]で再び基地の重要性が確認され、現在もイギリス海軍の[[ジブラルタル戦隊]]（Gibraltar Squadron）が駐留している。

== 地形 ==
[[Image:Gibraltar map-en.svg|thumb|right|ジブラルタルの地図]]
<!-- [[Image:Rock of Gibraltar.jpg|thumb|200px|ザ・ロック（ジブラルタルの岩）]] -->
領域は南北に細長く伸びた[[半島]]になっており、南北に5キロ、東西に1.2キロある<ref name="britannica">{{Cite book | 和書 | title=[[ブリタニカ国際大百科事典]] | edition=第3版 | year=1995 | publisher=[[TBSブリタニカ]] | volume=第8巻 | page=pp.468-469}}</ref>。東は[[地中海]]、南は[[ジブラルタル海峡]]、西は[[ジブラルタル湾]]に面する。北側は砂質の低地でスペイン本土と繋がり、いわゆる[[陸繋島]]となっている<ref name="nihon-daihyakka" />。

半島の南端は[[エウローパ岬]]（ヨーロッパ岬）と呼ばれ、そこからジブラルタル海峡をはさんだアフリカ側にはスペイン領[[セウタ]]がある。一方、北側の砂州には[[ジブラルタル空港]]があり、その北に幅800メートルの[[中立地帯]]（イスモ、Istmo<ref name="europe-dokuhon">{{Cite book | 和書 | editor=碇順治（編） | title=スペイン | year=2008 | publisher=河出書房新社 | series=ヨーロッパ読本 | isbn=978-4309619040 | page=pp.295-297}}</ref>）が設けられて国境を成し<ref name="nihon-daihyakka" />、さらにその北がスペイン本土の町[[ラ・リネア・デ・ラ・コンセプション|ラ・リネア]]である。[[ジブラルタルとスペインの国境]]にはフェンスが設けられている。

=== ザ・ロック ===
{{Main|ジブラルタルの岩}}
半島の大半を占める、[[石灰岩]]と[[頁岩]]からなる岩山は「[[ジブラルタルの岩|ザ・ロック]]」と呼ばれる。東側は事実上登攀不能の崖であり<ref name="zusetsu-daihyakka">{{Cite book | 和書 | editor=[[田辺裕 (地理学者)|田辺裕]]（監） | title=イベリア | year=1997 | publisher=朝倉書店 | series=図説大百科 世界の地理 10 | isbn=978-4254169102 | page=p.1329}}</ref>、西側も山頂付近は急峻だが、中腹以下は比較的緩やかな傾斜となって市街地が階段状に連なり<ref name="britannica" />、さらに下った沿岸部分は[[ジブラルタル港|港湾施設]]が大部分を占める<ref name="britannica" />。最高峰（ターリク山）は岩山の南側頂点にあたる{{仮リンク|オハラ砲台|en|O'Hara's Battery}}跡の展望台で、海抜426メートルある。北側頂点（トップ・オブ・ザ・ロック、海抜412メートル）には麓の市街から[[ジブラルタル・ケーブルカー|ロープウェー]]で登ることができ、徒歩による九十九折の[[トレッキング]]コースもある。こちらも展望台があり、レストランなどもある。

[[石灰岩]]地質によって形成された[[鍾乳洞]]が山の中腹にある。鍾乳洞は見学ができ、見学コースの途中には、世界的にも珍しい鍾乳洞の空間を利用した[[コンサートホール]]があるが、自然の鍾乳洞に手が加えられていて、自然保護からの観点から賛否がある。

また岩山を掘って作られた主に軍事目的の地下通路、弾薬庫、貯蔵庫などもあり、掘り出された土砂は北西岸の埋め立て（[[ジブラルタル空港|飛行場]]建設など）に使われた<ref name="nihon-daihyakka" />。

ジブラルタルには自然の湧水源や河川が無く<ref name="britannica" /><ref name="zusetsu-daihyakka" />、夏季に全く雨が降らないこともしばしばであるため<ref name="zusetsu-daihyakka" />、東側山麓の斜面に岩山そのものを穿った雨水用の貯水槽が作られている<ref name="britannica" />。上水はそこから集めた水、ポンプでくみ上げた水、海水を蒸留した水をブレンドして供給されている<ref name="britannica" />（非飲料用としては海水も利用されている<ref name="britannica" />）。

== 気候 ==
[[地中海性気候]]及び[[亜熱帯]]に属する。夏季は高温多湿であり、冬季は比較的温暖で降雨も適度にある<ref name="britannica" />。

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== 生物 ==
[[File:Gibraltar Barbary Macaque.jpg|thumb|right|[[バーバリーマカク]]]]
植生は500種以上にのぼる<ref name="britannica" />。ザ・ロックの頂上付近には[[オリーブ]]や[[パイナップル]]が自生し<ref name="britannica" />、[[ジブラルタル・キャンディタフト]]というこの地特有の花も見られる<ref name="zusetsu-daihyakka" />。

ザ・ロックはヨーロッパで唯一となる野生猿の生息地である<ref name="britannica" /><ref name="zusetsu-daihyakka" />。これらの[[バーバリーマカク]]は[[マカク属]]なので[[ニホンザル]]と近縁だが、オスの成体は体毛が長く[[タイワンザル]]に似ている。彼らがジブラルタルからいなくなったら英国がジブラルタルから撤退するとの伝説がある<ref name="spain-bunka">{{Cite book | 和書 | year=2011 | editor=[[川成洋]]（編）、[[坂東省次]]（編） | title=スペイン文化事典 | publisher=丸善 | pages=pp.672-673 | isbn=978-4621083000}}</ref>。この猿達の世話は[[イギリス陸軍]]砲兵隊の管轄。また第二次世界大戦中に物資不足から猿の個体数が減少したが[[ウィンストン・チャーチル|チャーチル]]首相が直々に猿の保護を命じたという逸話が残っている。

猿のほかには、ウサギ、キツネなどの小動物がみられる<ref name="britannica" />。また、ザ・ロックは渡り鳥の群れの中継地点ともなっている<ref name="zusetsu-daihyakka" />。

== 政治 ==
[[File:Gibraltar Parliament at dusk.jpg|thumb|right|[[ジブラルタル議会]]]]
[[1969年]]の憲法制定以来、[[ジブラルタル自治政府]]によって、防衛以外では内政に関して完全な自治が行なわれている<ref name="britannica" />（ただし、[[国際連合非自治地域リスト]]に掲載されてもいる）。[[イギリス政府|イギリス国家]]が選任し、[[イギリスの君主|イギリス国王]]によって任命される[[ジブラルタル総督]]が行政上の最高権限を持ち、最高軍事司令官（守備隊長<ref name="sekai-daihyakka" />）を兼ねる<ref name="britannica" />。

選挙権は18歳以上のジブラルタル人と、6ヶ月以上居住しているイギリス人に与えられる<ref name="britannica" />。4年毎の選挙によって、[[ジブラルタル議会]]（一院制）の議員17名が選ばれる。また、彼ら以外に1名の議長が総督によって任命される。議会の多数党党首より選出された{{仮リンク|ジブラルタル首相|en|Chief Minister of Gibraltar|label=首相}}は議員のうちから9名の閣僚を選任し、ともに総督によって任命される。

=== 帰属問題 ===
1713年の[[ユトレヒト条約]]以降イギリスが統治を続けているジブラルタルだが、スペインは今も返還を求めている。ジブラルタルはヨーロッパに残る最後の「[[植民地]]」であり<ref name="europe-dokuhon" />、また係争当事国がいずれも[[欧州連合|EU]]加盟国である点、係争が300年もの長きにわたっている点で、世界の[[領土問題]]のなかでも異色の存在と言える<ref name="europe-dokuhon" />。

スペインの基本的見解は、ユトレヒト条約第10条はジブラルタルの町、城、それに付随する港、要塞の所有と軍事利用をイギリスに認めたに過ぎず、主権はスペインに残っているというものである<ref name="sekai-daihyakka" />。スペインにとってジブラルタルは長らく「スペインの靴の中に入ったペニョン（岩山）」となっている<ref name="europe-dokuhon" />。しかし返還を求めるスペインの主張は、[[モロッコ]]の[[セウタ]]など自らの植民地所有と矛盾するものでもある<ref name="kakkokushi">{{Cite book | 和書 | editor=[[立石博高]]（編） | title=スペイン・ポルトガル史 | year=2000 | publisher=山川出版社 | series=新版 世界各国史 16 | isbn=978-4634414600 | page=pp.319-320}}</ref>。一方、現在のイギリス統治が住民から圧倒的支持を受けていることは1967年9月の住民投票から明らかであるが<ref name="nihon-daihyakka" /><ref name="britannica" />、同年12月に[[国際連合|国連]]の{{仮リンク|非植民地化委員会|en|Special Committee on Decolonization}}<!-- 訳語は、平凡社『世界大百科事典』「ジブラルタル」の項、山川出版社『新版 世界各国史 スペイン・ポルトガル史』p.319 の用法に従った。2013-01-06 -->はイギリスのジブラルタル領有を植民地主義的だとして返還を促す決議を採択している<ref name="nihon-daihyakka" /><ref name="kakkokushi" />。

1704年のイギリスによる[[ジブラルタルの占領|ジブラルタル占領]]以降、スペインはジブラルタルを武力で奪回すべく1705年、1727年、1783年に包囲戦をしかけたが、いずれも失敗した<ref name="sekai-daihyakka" />。またその後の外交による交渉も全て不首尾に終わった<ref name="sekai-daihyakka" />。19世紀後半以降、スペインの国力が衰えている時期にイギリスは国境を北へ押し上げる行動に出た<ref name="europe-dokuhon" />。最終的にこれはスペイン本土との間に[[非武装中立地帯]]を設けることで落ち着いたが、ここの境界線の画定は今も棚上げされた状態である<ref name="europe-dokuhon" />。

1954年2月、イギリスの植民地を歴訪していた[[エリザベス2世]]がスペインの抗議にも関わらず<ref name="sekai-daihyakka" />最後の訪問地としてジブラルタルに入ると、スペイン各地で抗議運動が沸き起こった<ref name="europe-dokuhon" />。スペインは翌1955年に国連加盟を果たし、さっそくジブラルタル問題を国際世論に訴えかけ、1957年にジブラルタル返還を求めて国連に提訴した<ref name="europe-dokuhon" />。1960年代には運動を強化し<ref name="britannica" />、1964年に国連の非植民地化委員会へ返還要求を提出した<ref name="nihon-daihyakka" />。イギリスはこれに対し、イギリス統治の可否を問う住民投票を1967年に実施し、住民は 12138 対 44 という圧倒的大差でイギリスへの帰属を選択した<ref name="britannica" />。この投票はスペインの態度を決定的に硬化させ、1969年にスペインは国境を封鎖して物流とスペイン人の通勤を差し止めるという、ジブラルタルに対する経済封鎖に踏み切った<ref name="sekai-daihyakka" /><ref name="britannica" />。これによってジブラルタルは陸の孤島と化し、往来は[[モロッコ]]経由か[[ロンドン]]からの航空便に頼るしかなくなった<ref name="nihon-daihyakka" />。1982年にスペインに[[スペイン社会労働党|社会労働党]]政権が発足すると<ref name="britannica" />、徒歩での往来が許可されるなど封鎖は部分的に解かれ<ref name="nihon-daihyakka" />、両国間の交渉再開が宣言された<ref name="britannica" />。1985年には封鎖は完全に解除された<ref name="nihon-daihyakka" /><ref name="britannica" />。

[[2002年]]には[[共同主権]]の検討がなされた。これに対し、地元の二大政党である[[保守]]系の{{仮リンク|ジブラルタル社会民主党|en|Gibraltar Social Democrats}}および[[革新]]系の{{仮リンク|ジブラルタル社会主義労働党|en|Gibraltar Socialist Labour Party}}は、共にスペインに対する主権の譲渡に強硬な反対を行い、住民投票においても90%以上が反対の意思を示したため、この構想は実現しなかった。これ以降、帰属に関する交渉はイギリス、スペインにジブラルタル自治政府を加えた三者間会議に移り、2006年9月に初の会議が開かれた<ref name="spain-bunka" />。ジブラルタル自治政府はその3ヶ月後、自治権拡大を意図した新憲法草案を住民投票にかけ、可決させた<ref name="spain-bunka" />。

ジブラルタルの独立を求める声もある。特にジブラルタルの元首相でもある、ジブラルタル社会主義労働党の{{仮リンク|ジョー・ボサノ|en|Joe Bossano}}党首はEUの後援の元での、独立を求めていた。

== 経済 ==
[[File:Gibraltar Bay 02.jpg|thumb|rithg|[[ジブラルタル港]]（左）と市街]]
ジブラルタルの主な経済基盤は、第一には駐留するイギリス軍（守備隊および海軍ドック）に関する軍事関連産業である<ref name="sekai-daihyakka" /><ref name="nihon-daihyakka" /><ref name="britannica" />。ほか、[[ジブラルタル港]]では[[自由港]]として[[中継貿易]]も多く行なわれている<ref name="sekai-daihyakka" /><ref name="britannica" />。ジブラルタルはもともと領土が狭く、さらに平地が限られるため、農業は殆ど見られない<ref name="britannica" />。工業も小規模な食品加工関連（タバコ、飲料、缶詰など）があるだけである<ref name="britannica" />。近年は観光開発にも力を入れており、1988年には377万人が観光に訪れた<ref name="britannica" />。またスペインに対して相対的に低い法人税が銀行・金融部門の成長を促しており、2013年時点で同部門がGDPに占める割合は25-30%に増加、特に[[オンラインカジノ|オンライン・ギャンブル]]関連はGDPの15%を占めるまでになっている<ref name="afpbb_2013-08-14" />。ジブラルタルで正規に登録されている企業は1万8000社にのぼるが<ref name="afpbb_2013-08-14" />、[[ペーパーカンパニー]]も少なくなく<ref name="spain-jiten-p452" />、[[タックス・ヘイヴン|租税回避地]]として域外（特にスペイン<ref name="afpbb_2013-08-14" />）から問題視されているという面もある<ref name="spain-jiten-p452">{{Cite book | 和書 | editor=編者 | title=スペイン・ポルトガルを知る事典 | edition=新訂増補版 | year=2001 | publisher=平凡社 | page=p.452}}</ref>。

人口の約60%は総督府に雇用されている<ref name="nihon-daihyakka" />。民間部門では建設業、船舶修理業、観光業などの従事者が多くみられる<ref name="britannica" />。

通貨として[[ジブラルタル・ポンド]]（[[スターリング・ポンド|イギリス・ポンド]]と等価）が発行されている。ジブラルタルではイギリス・ポンドも使えるが、逆にイギリス本国でジブラルタル・ポンドを使うことはできない<ref name="arukikata-2010">{{Cite book | 和書 | year=2010 | title=地球の歩き方 スペイン 2010-2011 | publisher=ダイヤモンド社 | pages=pp.356-357 | isbn=978-4478058107}}</ref>。[[ユーロ]]が使える店舗も多いが、レートにばらつきがある<ref name="arukikata-2010" />。ジブラルタルには消費税がない<ref name="afpbb_2013-08-14" />。

== 社会 ==
[[File:Cathedral of St. Mary the Crowned west.jpg|thumb|right|[[セント・マリー・ザ・クラウンズ教会]]]]
3万人近い人口のうち、イギリス系 27%、スペイン系 24%、イタリア系 19%、ポルトガル系 11%、他 19%という比率になっている<ref name="europe-dokuhon" />。また、スペインは[[ユダヤ人]]を追放したことから独特のユダヤ人コミュニティが成立している。小売業に多い[[インド人]]や[[モロッコ]]からの労働者もそれぞれコミュニティを形成している<ref name="britannica" />。1925年以前にジブラルタルで生まれたもの及びその子孫である「ジブラルタル人」はイギリスの完全な市民権を認められており、人口全体の2/3を占める<ref name="britannica" />。それ以外の外国人（人口全体の1/5）および軍関係者は居住権が無いため居住許可証を必要とする<ref name="britannica" />。スペイン本土からは毎日1万人ほどが越境通勤してくる<ref name="afpbb_2013-08-14">{{Cite web | author=Katell Abiven | date=2013-08-14 | url=http://www.afpbb.com/article/politics/2961762/11181311?utm_source=yahoo&amp;utm_medium=news&amp;utm_campaign=txt_link_Sun_r2 | title=繁栄を謳歌する英領ジブラルタル、不況下スペインの南端で | work=AFPBB News | accessdate=2013-09-02}}</ref>。

住民の多くは[[カトリック教会|カトリック]]であり<ref name="sekai-daihyakka" /><ref name="britannica" />、ジブラルタル教区の[[司教座聖堂]]として[[セント・マリー・ザ・クラウンズ教会]]が置かれている。また[[イングランド国教会]]の[[主教座聖堂]]としては[[ホーリー・トリニティ教会 (ジブラルタル)|ホーリー・トリニティ教会]]があり、こちらのジブラルタル教区はスペイン・ポルトガル・モロッコと広範囲にわたる。

公用語は[[英語]]であるが、殆どの住人は[[スペイン語]]を母語とする<ref name="sekai-daihyakka" />[[バイリンガル]]である<ref name="britannica" />。また、英語の影響を受けたスペイン語[[方言]]である{{仮リンク|ジャニート語|en|Llanito}}（ラニト語）も話されており、ジブラルタル人は自分たちのことをジャニートス（{{Lang-es-short|Llanitos}}）と呼ぶことがある<ref name="europe-dokuhon" />。ほか、[[ヘブライ語]]、[[アラビア語]]も用いられている。

教育は、4-15歳を義務教育とし、公立小学校が12校、公立総合中学校が2校、私立小学校が2-3校ある<ref name="britannica" />。大学などの高等教育はイギリス本国で受けることになる<ref name="britannica" />。

== 交通 ==
[[Image:Gibraltar-lotnisko.jpg|thumb|right|[[ジブラルタル空港]]の滑走路は西側がジブラルタル湾に大きくはり出し、南北に道路が平面交差している。]]
{{Main|ジブラルタルの交通}}
50 kmの道路と50 kmのトンネルがある。20世紀初めにザ・ロックの東西を結ぶトンネルが掘られ、道路網が整備された<ref name="britannica" />。

[[ジブラルタル港]]には[[旅客船]]も寄港しており、[[モロッコ]]の[[タンジール]]との間で毎日[[カーフェリー]]が往来している<ref name="britannica" />。

[[ジブラルタル空港]]はスペインとの[[国境]]付近にあり、[[滑走路]]は国境に沿うようにジブラルタルのある半島を完全に横切って、一部は海に突き出して作られている。[[国境検問所]]とジブラルタル中心部を結ぶ道路は滑走路と[[平面交差]]している。そのため[[飛行機]]が離着陸する時は、道路側に設置された[[遮断機]]が降り通行禁止になる。この対航空機「[[踏切]]」は自動車だけでなく自転車・歩行者も通行可能である。この問題の解消にむけて、立体交差のための新設道路およびトンネルの建設を行っており、当初は2009年完成予定であった。しかし工事遅延のため2013年現在も完成しておらず、先延ばしになっている。

== エピソード ==
* アメリカの金融グループ、[[プルデンシャル・ファイナンシャル]]は、社章にジブラルタル（ジブラルタ）・ロックをデザインしている。これはジブラルタルの要塞が難攻不落という意味から生まれた諺、"As safe as the Rock"（ジブラルタル・ロックのように安心）から作成された。このプルデンシャルの傘下にある日本の外資系生命保険会社、[[ジブラルタ生命保険]]は、社章だけでなく社名もジブラルタルにちなんでいる。
* [[サッカージブラルタル代表]]は[[1895年]]設立という古い歴史を持つが、[[国際サッカー連盟]]（FIFA）には未加盟である。これは、加盟に関してジブラルタルの領有権を主張するスペインが「ジブラルタル代表の加盟を認めるなら、スペインはFIFAより脱退する」と、強い圧力をかけているからである<ref name="spain-bunka" />。[[欧州サッカー連盟]]については、[[2013年]]5月に加盟が認められた<ref>{{Cite web|url=http://www.uefa.com/uefa/aboutuefa/organisation/congress/news/newsid=1956133.html|title=Congress decisions bring Gibraltar on board|work=[[欧州サッカー連盟|UEFA.com]]|date=2013-05-24|accessdate=2013-06-26}}</ref>。
* [[1969年]][[3月20日]]、 [[ジョン・レノン]]と[[オノ・ヨーコ]]はこの地で結婚式を挙げた。ジブラルタル郵政局は[[1999年]]に結婚30周年の記念切手を発行している<ref name="spain-bunka" />。
* [[1981年]]、[[イギリス]]の[[チャールズ (プリンス・オブ・ウェールズ)|チャールズ王太子]]と[[ダイアナ (プリンセス・オブ・ウェールズ)|ダイアナ妃]]の新婚旅行の第一目的地となった。ジブラルタルの返還を求める立場のスペイン国王[[フアン・カルロス1世 (スペイン王)|フアン・カルロス1世]]はこれに抗議し、結婚式への参列をボイコットした<ref name="sekai-daihyakka" /><ref name="spain-bunka" />。
* [[2002年]]2月17日、[[イギリス海兵隊]]がジブラルタルへの上陸演習を行ったが、誤ってすぐ北のスペイン領内である[[ラ・リネア・デ・ラ・コンセプション|ラ・リネア]]に上陸した。民間人の多数いた海岸に上陸してしまった海兵隊員達は駆けつけたスペイン警察の警察官に位置の誤りを指摘され、即座に沖合の[[揚陸艦]]に撤収した。[[国防省 (イギリス)|英国防省]]は2月19日にスペイン政府に対し正式に謝罪し、「我が国はスペインへの侵攻の意図は全くない」とコメントした。
* 2012年5月18日、[[エリザベス2世]]の即位60年を祝う昼食会が開かれたが、体調不良（訪問先のボツワナで転んで腰を強打、手術を受けた）により欠席したフアン・カルロス1世の代理として出席する事になっていた[[ソフィア (スペイン王妃)|ソフィア王妃]]も、イギリス王族の同島訪問予定に抗議し欠席した。

== ギャラリー ==
<gallery><!-- おおよそ北から南の順に並べました。2013-01-06 -->
File:Princess Caroline's Battery.png|[[プリンセス・キャロライン砲台]]
File:The Moorish Castle.jpg|[[ムーア城]]
File:American War Memorial.jpg|[[アメリカ戦争記念門]]
File:Torah ark, Gibraltar.jpg|[[グレート・シナゴーグ (ジブラルタル)|グレート・シナゴーグ]]
File:Main Street Gibraltar.JPG|[[メイン・ストリート (ジブラルタル)|メイン・ストリート]]
File:View of John Mackintosh Square, Gibraltar.jpg|[[ジョン・マッキントッシュ・スクエア]]
File:Gibraltar City Hall 01.jpg|[[ジブラルタル・シティ・ホール]]
File:Gibraltar War Memorial.jpg|[[ジブラルタル戦争記念碑]]
File:Bomb House.jpg|[[ジブラルタル博物館]]
File:Garrison Library, Gibraltar 17.jpg|[[ガリスン図書館]]
File:Cathedral of the Holy Trinity.jpg|[[ホーリー・トリニティ教会 (ジブラルタル)|ホーリー・トリニティ教会]]
File:The Convent and King's Chapel Gibraltar.jpg|[[ザ・カンヴェント (ジブラルタル)|ザ・カンヴェント]]（[[ジブラルタル総督|総督]]公邸）と[[キングス教会 (ジブラルタル)|キングス教会]]
File:Gibraltar Cable Car 4.jpg|[[ジブラルタル・ケーブルカー]]
File:1a4.jpg|[[アラメダ庭園]]
File:TrafalgarCemetery.JPG|[[トラファルガー墓地]]
File:Rockbuster-front.jpg|[[ネイピア・オブ・マグダラ砲台]]
File:Parsons Lodge Battery, Gibraltar.jpg|[[パースンズ・ロッジ砲台]]
File:Shrine of Our Lady of Europe in Gibraltar (3).jpg|[[聖母マリア教会 (ジブラルタル)|聖母マリア教会]]
File:Europa Point Lighthouse and cottages.jpg|[[エウローパ岬灯台]]
</gallery>

== 脚注 ==
{{脚注ヘルプ}}
{{Reflist}}

== 関連書籍 ==
* 「われらが英雄スクラッフィ」 [[ポール・ギャリコ]] ISBN 4488194044 第二次大戦中のジブラルタルを舞台にしたユーモア小説
<!--
== 関連項目 ==
* 
-->
== 外部リンク ==
{{Commonscat|Gibraltar}}
* {{Cite web
 | url=http://www.gibraltar.gov.gi/
 | title=Government of Gibraltar
 | language=英語
 | accessdate=2013-01-01
}} - ジブラルタル自治政府の公式ウェブサイト

{{イギリスの海外領土}}
{{イギリス植民地帝国}}
{{EU}}
{{DEFAULTSORT:しふらるたる}}
[[Category:ジブラルタル|*]]
[[Category:領有権問題]]
[[Category:スペインの歴史的地域]]
[[Category:ヨーロッパの首都]]
[[Category:欧州連合加盟国の特別領域]]
[[Category:ヨーロッパの港町]]
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