アンネ・フランクのソースを表示

{{Infobox 人物
|氏名 = Anne Frank
|ふりがな = アンネ・フランク
|画像 = Amsterdam Anne Frank.jpg
|画像サイズ = 190px
|画像説明 = [[アムステルダム]]にあるアンネ・フランクの彫像
|出生名 = アンネリース・マリー・フランク<br>Annelies Marie Frank
|生年月日 = [[1929年]][[6月12日]]
|生誕地 = {{DEU1919}} [[フランクフルト・アム・マイン]]
|没年月日 = [[1945年]][[3月]]上旬（満15歳没）
|死没地 = {{DEU1935}} [[ベルゲン・ベルゼン強制収容所]]
|親 = 父：[[オットー・フランク]]<br>母：[[エーディト・フランク]]
|署名 = Anne Frank signature.svg
|署名サイズ = 160px
|補足 = 
}}
'''アンネ・フランク'''（'''アンネリース・マリー・フランク'''、{{lang-de|Annelies Marie Frank}} {{発音|De-Annelies_Marie_Anne_Frank.ogg}} 、[[1929年]][[6月12日]] - [[1945年]][[3月]]上旬）は、『[[アンネの日記]]』の著者として知られる[[ユダヤ人|ユダヤ系]][[ドイツ人]]の少女である。

[[ドイツ]]の[[フランクフルト・アム・マイン]]に生まれたが、[[反ユダヤ主義]]を掲げる[[国家社会主義ドイツ労働者党]]（ナチス）の[[ナチ党の権力掌握|政権掌握]]後、迫害から逃れるため、フランク一家は故国ドイツを離れて[[オランダ]]の[[アムステルダム]]へ亡命した。しかし[[第二次世界大戦]]中、オランダがドイツ軍に占領されると、オランダでもユダヤ人狩りが行われ、[[1942年]][[7月6日]]に一家は、父[[オットー・フランク]]の職場があったアムステルダムのプリンセンフラハト通り263番地の隠れ家で潜行生活に入ることを余儀なくされた（フランク一家の他に[[ヘルマン・ファン・ペルス]]一家や[[フリッツ・プフェファー]]もこの隠れ家に入り、計8人のユダヤ人が隠れ家で暮らした）。ここでの生活は2年間に及び、その間、アンネは隠れ家での事を日記に書き続けた。[[1944年]][[8月4日]]に[[ゲシュタポ]]に隠れ家を発見され、隠れ家住人は全員が[[強制収容所 (ナチス)|ナチス強制収容所]]へと移送された。アンネは姉の[[マルゴット・フランク]]とともに[[ベルゲン・ベルゼン強制収容所]]へ移送された。同収容所の不衛生な環境に耐えぬくことはできず、[[チフス]]を罹患して15歳にしてその命を落とした。1945年3月上旬頃のことと見られている。

ゲシュタポに荒らされた隠れ家には、アンネが付けていた日記が残されていた。オットーの会社の社員で隠れ家住人の生活を支援していた[[ミープ・ヒース]]がこれを発見し、戦後まで保存した。8人の隠れ家住人の中でただ一人戦後まで生き延びたオットー・フランクはミープからこの日記を手渡された。オットーは娘アンネの戦争と差別のない世界になってほしいという思いを全世界に伝えるため、日記の出版を決意した。この日記は60以上の言語に翻訳され、2500万部を超える世界的ベストセラーになった<ref name="ハイル(2003)7">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.7]]</ref><ref name="黒川(2009)5">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.5]]</ref>。

== 生涯 ==

父は[[ユダヤ人|ユダヤ系]]ドイツ人の[[オットー・フランク|オットー・ハインリヒ・フランク]]。母は同じくユダヤ系ドイツ人の[[エーディト・フランク]]（旧姓ホーレンダー）。父オットーは銀行家だった<ref name="ハイル(2003)14">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.14]]</ref>。母エーディトは[[アーヘン]]の有名な資産家の娘であった<ref name="ハイル(2003)14"/><ref name="リー(2002)45">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.45]]</ref>。アンネは次女であり、3歳年長の姉に[[マルゴット・フランク]]（愛称マルゴー）がいた<ref name="ハイル(2003)15">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.15]]</ref><ref name="黒川(2009)12">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.12]]</ref><ref name="早乙女(1984)42">[[#早乙女(1984)|早乙女(1984)、p.42]]</ref><ref name="ミュラー(1999)41">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.41]]</ref>。

[[ファイル:Anne Frank Memorial Plate Frankfurt 2009.jpg|thumb|180px|left|ドイツ・フランクフルトのマルバッハヴェーク307番地にある幼少期のアンネのメモリアルプレート。右がアンネ。左がマルゴット。中央は当時の友達]]
生後12日目にエーディトはアンネをフランクフルト郊外のマルバッハヴェーク307番地にあったフランク一家の暮らすアパートに連れ帰った<ref name="リー(2002)49">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.49]]</ref><ref name="ミュラー(1999)47">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.47]]</ref>。フランク一家は[[中産階級]]のユダヤ人一家だが、[[ユダヤ教]]にも他の宗教にもあまり熱心な家庭ではなかった<ref name="リー(2002)59">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.59]]</ref>。1931年3月、フランク一家はガングホーファー通り24番地のアパートへ引っ越した<ref name="早乙女(1984)44">[[#早乙女(1984)|早乙女(1984)、p.44]]</ref><ref name="ハイル(2003)16">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.16]]</ref><ref name="ミュラー(1999)55">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.55]]</ref><ref name="リー(2002)58">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.58]]</ref>。しかしフランク一家の家業である銀行業は世界的な不況から立ち直れずに業績が悪化していた。フランク一家は一般のドイツ国民よりは経済水準は高かったものの、節約のためにもアパートを借りるのは止めることとなった。一家は{{仮リンク|ウェステント地区|de|Frankfurt-Westend}}のヨルダン通りにあるベートーベン広場に面したオットーの実家へ戻った<ref name="ミュラー(1999)70">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.70]]</ref><ref name="リー(2002)60">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.60]]</ref>。ここは1901年にオットーの父ミカエルが購入した高級住宅で、ミカエルの死後はオットーの母[[アリーセ・フランク|アリーセ]]が1人で切り盛りしていた<ref name="ミュラー(1999)40">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.40]]</ref>。とはいってもフランク一家の私生活はあまり変わらず、一家はよく旅行やショッピングに出かけていた<ref name="リー(2002)61">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.61]]</ref>。

しかしこの頃のドイツの[[政治]]は、[[反ユダヤ主義]]を掲げる[[国家社会主義ドイツ労働者党]]（以下ナチ党）が急速に伸長していた。1932年には同党が[[国会 (ドイツ)|国会]]で最大議席を獲得し、その党首[[アドルフ・ヒトラー]]がいつ[[ドイツの首相|首相]]に任命されてもおかしくない状況になった。フランクフルトでも反ユダヤ主義デモを行う[[突撃隊]]隊員の姿がよく見られるようになった。1932年にオットーはエーディトと相談して、ドイツを離れる事を考えたという。しかし亡命先で生活の糧を得られる見込みがなく、断念せざるを得なかった<ref name="ハイル(2003)19">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.19]]</ref>。

=== ドイツ脱出 ===
[[ファイル:Bundesarchiv Bild 183-S38324, Tag von Potsdam, Adolf Hitler, Paul v. Hindenburg.jpg|thumb|250px|1933年3月21日、ドイツ首相[[アドルフ・ヒトラー]]（左）とドイツ大統領[[パウル・フォン・ヒンデンブルク]]（右）]]
[[1933年]][[1月30日]]、ナチ党党首[[アドルフ・ヒトラー]]が[[パウル・フォン・ヒンデンブルク]]大統領よりドイツ国首相に任命され、ドイツの政権を掌握した。これに危機感を抱いたユダヤ系ドイツ人達は次々とドイツ国外へ亡命していき、1933年代だけで6万3000人のユダヤ系ドイツ人が国外へ亡命している<ref name="リー(2002)68">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.68]]</ref><ref name="ハイル(2003)22">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.22]]</ref>。1933年3月のフランクフルト市議会選挙でもナチ党が圧勝した。市の中心部では勝ち誇ったナチ党員たちが大規模な反ユダヤ主義デモを行った<ref name="リー(2002)63">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.63]]</ref>。ユダヤ人商店のボイコット運動も激化し、ユダヤ系企業は次々と潰された<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.76-77]]</ref>。1933年4月7日に制定された{{仮リンク|職業官吏再建法|de|Gesetz zur Wiederherstellung des Berufsbeamtentums}}によって反ユダヤ主義に従わない教師は次々と停職・退職させられ、学校内でもユダヤ人の子供の隔離が進められるようになった。アンネもマルゴーもドイツでまともな教育を受けることは不可能であった<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.77-78]]</ref>。

1929年夏にスイスへ移住していたアンネの叔父エーリヒ・エリーアスは、ジャム製造に使う[[ペクチン]]をつくる会社「ポモジン工業」の子会社{{仮リンク|オペクタ商会|de|Opekta}}スイス支社を経営していた。エリーアスは義兄にあたるオットー・フランクに[[オランダ]]・[[アムステルダム]]へ亡命してそこでオペクタ商会オランダ支社を経営しないかと勧めた。オットーはドイツに残ることの危険性、オランダに知り合いがいたこと、オランダが難民に比較的寛容であったことなどを考慮してこの申し出をありがたく受けることにした<ref name="ハイル(2003)22"/><ref name="ミュラー(1999)79-80">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.79-80]]</ref><ref name="リー(2002)67">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.67]]</ref>。

まず仕事と住居を安定させるため、1933年6月にオットーが単身でアムステルダムへ移った。その間、アンネは姉マルゴーや母エーディトとともに[[アーヘン]]で暮らすエーディトの母ローザ・ホーレンダーの家で暮らした<ref name="リー(2002)67"/><ref name="ハイル(2003)24">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.24]]</ref><ref name="ミュラー(1999)79">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.79]]</ref>。オットーは[[ヴィクトール・クーフレル]]や[[ミープ・ヒース]]など信用のできる人物を雇い、何とか事業を軌道に乗せた<ref name="黒川(2009)28">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.28]]</ref><ref name="リー(2002)70-72">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.70-72]]</ref><ref name="オランダ(1994)13-16">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.13-16]]</ref>。

オットーはその間、一家の住居先も探した。エーディトもアーヘンとアムステルダムを行き来して夫の住居探しを手伝った。オットーたちは{{仮リンク|アムステルダム・ザウト|nl|Amsterdam-Zuid}}の新開発地区に一家4人で暮らすのにちょうどいいアパートを見つけ、そこを購入した。1933年12月にまずエーディトとアンネの姉マルゴットが向かい、続いて1934年2月にはアンネもそこへ移住していった<ref name="ハイル(2003)29">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.29]]</ref><ref name="リー(2002)72">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.72]]</ref>。

=== オランダでの生活 ===
[[ファイル:Anne Frank Merwedeplein Amsterdam.jpg|thumb|250px|オランダ・アムステルダムのメルウェーデ広場（[[2010年]]）。当時のままに残されている。アンネの自宅はビルの右側の建物群、ビルから5番目の建物。写真では右端に少しだけ見える。広場中央に見えるのはアンネ・フランク像]]
アムステルダム・ザウト地区は当時開発中でドイツからナチスの迫害をのがれて移住してきたユダヤ人が多く集まってきていた<ref name="リー(2002)75">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.75]]</ref>。フランク一家もそうした家の一つである。フランク一家はアムステルダム・ザウト地区の一郭である{{仮リンク|メルウェーデ広場|nl|Merwedeplein}}37番地のアパートの三階で暮らしていた<ref name="リー(2002)75"/><ref name="ミュラー(1999)102">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.102]]</ref><ref name="リントヴェル(1991)20">[[#リントヴェル(1991)|リントヴェル(1991)、p.20]]</ref><ref name="ハイル(2003)26">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.26]]</ref>。メルウェーデ広場は[[二等辺三角形]]をした広場で三角形の頂点には当時としては珍しい12階建てのビルがそびえ立っている（写真参照）<ref name="ミュラー(1999)97">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.97]]</ref>。

姉のマルゴットは普通の小学校に入学したが、アンネは、1934年に自宅の近くのニールス通りにある[[モンテッソーリ教育|モンテッソーリ・スクール]]の付属幼稚園に入学した<ref name="黒川(2009)29">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.29]]</ref><ref name="早乙女(1984)48">[[#早乙女(1984)|早乙女(1984)、p.48]]</ref><ref name="ハイル(2003)29">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.29]]</ref><ref name="リー(2002)76">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.76]]</ref>。さらに1935年9月には幼稚園と同じ建物の中にあるモンテッソーリ・スクールに入学する<ref name="黒川(2009)29"/><ref name="早乙女(1984)48"/><ref name="ハイル(2003)34">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.34]]</ref>{{#tag:ref|アンネが通ったこのモンテッソーリ・スクールは今日「第6モンテッソーリ・スクール、アンネ・フランク」という名称になっている<ref name="早乙女(1984)48-49">[[#早乙女(1984)|早乙女(1984)、p.48-49]]</ref><ref name="リントヴェル(1991)32">[[#リントヴェル(1991)|リントヴェル(1991)、p.32]]</ref>。[http://www.annefrank-montessori.nl/home.htm 同校の公式ウェブサイト]|group=#}}。モンテッソーリ・スクールは自由な教育を特徴とし、時間割が存在せず、教室での行動を生徒の自主性に任せ、授業中の生徒のおしゃべりさえも推奨していた<ref name="黒川(2009)29"/><ref name="リー(2002)76">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.76]]</ref>。アンネにモンテッソーリ・スクールを選んだのは、アンネがおしゃべりで長い間じっと座っていることができない性分であったためという<ref name="リー(2002)76"/><ref name="ハイル(2003)30">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.30]]</ref>。

父親のオットー・フランクは娘たちについて「アンネは陽気な性格で女の子にも男の子にも人気があった。大人を喜ばせるかと思えば、あわてさせる。あの子が部屋に入ってくるたびに大騒ぎになったものでした。一方姉のマルゴーは聡明で誰からも『いい子だね』と褒められるような子供でした」と後に語っている<ref name="リー(2003)40">[[#リー(2003)|リー(2003)、p.40]]</ref>。

[[ファイル:AnneFrankMerwedeplein.jpg|thumb|left|アンネが暮らしていたメルウェーデ広場37番地のアパート。3階部分がフランク家の部屋だった]]
当時モンテッソーリ・スクールは革新的な学校と目されており、そのためユダヤ人の入学者が多かった<ref name="リー(2002)163">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.163]]</ref>。アンネのクラスも半分がユダヤ人であり、そのほとんどがアンネと同じドイツ系であった<ref name="ミュラー(1999)113">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.113]]</ref>。アンネはモンテッソーリ学校で、同じくドイツから亡命してきたユダヤ人一家の子供[[ハンネリ・ホースラル]]（オランダ語愛称リース）や[[サンネ・レーデルマン|ズザンネ・レーデルマン]]（愛称サンネ）と親しく遊んでいた。いつも仲良しの3人少女は「アンネ、ハンネ、サンネの3人組」などと呼ばれていた<ref name="ミュラー(1999)97">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.97]]</ref><ref name="リー(2002)77">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.77]]</ref>。特にハンネのホースラル家とアンネのフランク家は家族ぐるみの親しい付き合いをしていた。1937年秋にアンネにサリー・キンメル{{#tag:ref|サリー・キンメルは両親が離婚しており、母親と2人で母の姉の家で暮らしていた<ref name="リー(2002)94">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.94]]</ref>。1941年にユダヤ人学校への転入でアンネとキンメルは別々のユダヤ人学校となり、以降アンネとは会わなくなったという<ref name="リー(2002)94"/>。1942年秋のユダヤ人狩りでキンメルの母親が連行されたが、キンメルは学校にいて難を逃れた。母はアウシュヴィッツへ移送されて殺害されている。その後、キンメルは数人のユダヤ人を匿っていた農家の主人に匿われたが、1945年初めにSSがこの農家に踏み込んだ。農家の主人と匿われていたユダヤ人1名がその場で銃殺され、キンメルら他のユダヤ人たちは逮捕されて1945年2月8日に[[ヴェステルボルク通過収容所]]へ移送された。しかし彼はそこから移送される前に1945年4月12日のカナダ軍による同収容所の解放を迎えることができた。戦後、[[アムステルダム大学]]で化学を学んだあと、アメリカの[[プリンストン大学]][[大学院]]に進んだ。その後、[[イスラエル]]の[[ハイファ]]に移住し、イスラエルの大学で化学教授として癌細胞の研究を行った<ref name="ミュラー(1999)378">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.378]]</ref>。アンネについて「非常に女の子らしい子で、人気もあり、感受性も強かった。とはいえ決して非凡な生徒というわけではなかった。」と証言している<ref name="リー(2002)94">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.94]]</ref>。|group=#}}という初めてのボーイフレンドができた。これ以降、アンネの友達に男の子が増えてくるようになった<ref name="リー(2002)94">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.94]]</ref>。陽気なアンネは学校でもパーティーでも目立つ女の子で男子からも人気があった。映画スターやファッションに興味を持ち始めたのもこの頃だった。しかしアンネは病弱であり、[[百日咳]]、[[水ぼうそう]]、[[はしか]]、[[リューマチ熱]]など子供病にはほとんど罹患している<ref name="ミュラー(1999)121">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.121]]</ref><ref name="リー(2002)86">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.86]]</ref>。

[[1938年]]10月にオットー・フランクはアムステルダムにもう一つの会社「ペクタコン商会」を設立した<ref name="ミュラー(1999)152">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.152]]</ref>。[[ソーセージ]]の製造のための[[香辛料]]を扱う会社であった。[[ヨハンネス・クレイマン]]をオペクタ商会とペクタコン商会の[[監査役]]とし、同じくドイツから亡命してきたユダヤ人でソーセージのスパイス商人だった[[ヘルマン・ファン・ペルス]]をペクタコン商会の相談役に迎えている<ref name="ミュラー(1999)153">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.153]]</ref>。ファン・ペルス一家は[[1937年]]6月にドイツをのがれてアムステルダムへ移住して来ており、フランク家の近くで暮らしていた<ref>[[#リー(2002)|リー(2002)、p.102-103]]</ref>。ファン・ペルス一家はフランク一家と家族ぐるみの付き合いをして、後に隠れ家でフランク一家と同居することとなる。

1938年末には母エーディトの実家であるドイツ・アーヘンのホーレンダー家が経営する「B・ホーレンダー商事会社」が「[[アーリア化]]（ドイツ政府の圧力の下にユダヤ系企業がドイツ系企業に捨て値で買い取られる）を受け、ホーレンダー家が財産を失った<ref name="ミュラー(1999)146">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.146]]</ref><ref name="ハイル(2003)45">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.45]]</ref>。エーディトの兄ユリウスは従兄弟のいるアメリカへ逃れたが、エーディトの母ローザは当時72歳で海を渡っての長旅は無理だった。結局ローザは息子ユリウスに同行せず、1939年3月にアムステルダムのフランク家へ移ってきて、一家は5人暮らしになった<ref name="ミュラー(1999)153"/><ref>[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.41-42]]</ref><ref name="リー(2002)107">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.107]]</ref><ref name="ハイル(2003)46">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.46]]</ref>。アンネはおばあちゃんっ子であり、よくローザに学校での話や友達とのことなどを話した<ref name="リー(2002)109">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.109]]</ref>。

また[[1940年]]春ごろには[[アメリカ合衆国]][[アイオワ州]]{{仮リンク|ダンビル (アイオワ州)|label=ダンビル|en|Danville, Iowa}}からオランダへ赴任してきていた女教師バーディー・マシューズの計らいでアンネとマルゴーは、彼女の教え子であるダンビルの学校の生徒と文通することになった。アンネとマルゴーの文通相手はダンビルの農家の娘の姉妹ベッティ・アン・ワーグナーとホワニータ・ワーグナーであった。アンネはホワニータと文通した。ちなみにこの文通は[[英語]]で行われている。父オットーが娘たちの書いた手紙を英訳したものと思われる<ref name="ミュラー(1999)162">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.162]]</ref><ref name="リー(2002)119">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.119]]</ref>。

=== ドイツ軍がオランダ侵攻 ===
[[ファイル:Bundesarchiv Bild 183-L23001, Amsterdam, Durchmarsch deutscher Truppen.jpg|thumb|250px|1940年5月、アムステルダム市に入るドイツ軍を歓迎するアムステルダム市民]]
[[1939年]][[9月1日]]の[[ドイツ国防軍|ドイツ軍]]の[[ポーランド侵攻]]によって始まった[[第二次世界大戦]]にオランダは中立を宣言していた。しかしヒトラーは「オランダはイギリス軍機がドイツ空爆のためにオランダ領空を通過していくことを黙認している。自分から中立の資格を放棄している」と主張し<ref name="ミュラー(1999)164">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.164]]</ref>、[[1940年]][[5月10日]]早朝に[[オランダにおける戦い (1940年)|ドイツ軍をオランダへ侵攻させた]]<ref name="リー(2002)128">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.128]]</ref><ref name="ハイル(2003)55">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.55]]</ref>。この日は金曜日で平日だったが、ドイツ軍侵攻を受けて[[聖霊降臨祭]]の休みが急遽繰り上げられて、学校は休みになり、アンネは自宅で待機した<ref name="ミュラー(1999)166">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.166]]</ref>。一方、父オットーは会社に出勤している。オットー以下オペクタ商会の社員たちは、暗澹たる空気の中でラジオ放送の混乱する情報を聞いていた。放送を聞くオットーの顔色は蒼白だったと[[ミープ・ヒース]]は著書の中で回顧している<ref name="ヒース(1987)79">[[#ヒース(1987)|ヒース(1987)、p.79]]</ref>。

オランダ国内はパニックに陥った。ポーランドで戦争後、オランダ政府は「たくさん蓄える者は国民に害」をスローガンに食糧配給制へ移行していたが、人々は食糧を蓄えようとして商店に殺到した。街中には空襲警報が連発した。ラジオ放送は混乱に陥り、相矛盾する命令や意味が不明瞭な命令を国民に次々と出した<ref name="ミュラー(1999)167-168">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.167-168]]</ref>。オランダ国内にいるドイツ人が手当たり次第にオランダ当局に逮捕された。自動車を所有する裕福なユダヤ人の中には、オランダからの脱出を試みようと{{仮リンク|アイマウデン|nl|IJmuiden}}や[[スヘフェニンゲン]]など海の方へ逃げる者もいたが、イギリス行きの船舶はわずかで、ほとんどはオランダ脱出に失敗している<ref name="ミュラー(1999)168">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.168]]</ref><ref name="ハイル(2003)56">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.56]]</ref>。フランク一家は逃亡を試みなかった。フランク一家は自動車を所持していなかったし、オットーやエーディトは、青春期の娘2人や年老いた祖母を連れてあちこち逃げまわりたがらなかった<ref name="ハイル(2003)56">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.56]]</ref>。オットー達は娘たちが心配なく青春を過ごせるよう現下の政治情勢については家庭内でほとんど話さないこととした<ref name="ミュラー(1999)169">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.169]]</ref>。

5月13日には[[ウィルヘルミナ (オランダ女王)|ウィルヘルミナ女王]]や{{仮リンク|ディルク・ヤン・デ・へール|nl|Dirk Jan de Geer}}首相以下政府閣僚がイギリスへ逃亡した<ref name="ハイル(2003)56">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.56]]</ref>。[[ドイツ空軍]]による[[ロッテルダム]]空襲の後、5月14日夜7時、オランダ軍総司令官{{仮リンク|ヘンリー・ヴィンケルマン|nl|Henri Winkelman}}大将はドイツ軍に対して降伏することを発表した。5月15日正午にはオランダ政府はドイツ政府に対して正式に降伏文書に調印した。侵攻から1週間足らずでオランダ全土はドイツ軍占領地となった<ref name="ミュラー(1999)170">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.170]]</ref><ref name="ヒース(1987)81">[[#ヒース(1987)|ヒース(1987)、p.81]]</ref><ref name="シュナーベル(1958)67">[[#シュナーベル(1958)|シュナーベル(1958)、p.67]]</ref>。

=== ドイツ軍占領下の生活 ===
占領直後のオランダはドイツ国防軍の軍政下に置かれていたが、1940年[[5月28日]]にヒトラーはオランダ駐在[[国家弁務官]]に[[親衛隊中将]][[アルトゥール・ザイス＝インクヴァルト]]を任じ、民政へ移行させた<ref name="ハイル(2003)60">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.60]]</ref>。ザイス＝インクヴァルトは占領当初「穏健」な態度をとり、オランダ社会に急激な変化をもたらさないよう気にかけた。オランダ政府閣僚はすでに国外逃亡していたが、事務次官以下官僚機構はそのままオランダに残っており、オランダの行政機能はこれまでとほとんど変りなく機能した<ref name="ヒルバーグ(1997)上433">[[#ヒルバーグ(1997)上|ヒルバーグ(1997)、上巻p.433]]</ref>。またザイス＝インクヴァルトは、[[反ユダヤ主義]]についても即時にオランダに持ち込むことはしなかった。そのため占領後もしばらくの間は、アンネの生活に大きな変化はなかった。ハンネやサンネとも今まで通り遊んでいた<ref>[[#リー(2002)|リー(2002)、p.132-134]]</ref>。アンネはオランダ降伏には怒っていたが、この頃にはまだ将来への強い不安までは感じてはいなかったという<ref name="ミュラー(1999)173">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.173]]</ref>。

1940年[[5月28日]]には[[ベルギー]]がドイツに降伏、さらに[[6月22日]]には[[フランス]]もドイツに降伏した。ドイツの情勢が安定してきたことで、ザイス＝インクヴァルトは徐々に「穏健」の仮面を脱ぎ捨ててユダヤ人迫害を開始するようになった。まず1940年7月にザイス・インクヴァルトよりオランダ国籍以外のユダヤ人は氏名と住所を登録せよとの命令が下った<ref name="リー(2002)140">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.140]]</ref><ref name="シュナーベル(1958)68">[[#シュナーベル(1958)|シュナーベル(1958)、p.68]]</ref>。さらに8月には「1933年1月1日以降にドイツからオランダへ移住したユダヤ人はその旨を登録せよ」との命令が出された。フランク一家はこれらの命令に従って登録を行っている<ref name="ミュラー(1999)179">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.179]]</ref>。10月にはユダヤ人企業に登録が義務付けられた。オットーはこれに従ってオペクタ商会とペクタコン商会を登録する一方、「アーリア化」されることを防ぐためにヴィクトール・クーフレルと[[ヤン・ヒース]]（ミープの愛人。2人は1941年7月に結婚）を仮の所有者とする偽装会社「ヒース商会」を設立した<ref name="リー(2002)143">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.143]]</ref><ref name="ミュラー(1999)181">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.181]]</ref><ref name="オランダ(1994)18">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.18]]</ref>。

[[1941年]]1月9日以降にはオランダ映画館主同盟がユダヤ人の映画館入場を拒否したためユダヤ人は映画館に入れなくなった<ref name="シュナーベル(1958)14">[[#シュナーベル(1958)|シュナーベル(1958)、p.14]]</ref>。アンネは[[ハリウッド]]の有名なスターの写真を切り抜いては台紙に貼ってコレクションするような映画好きの女の子だったのでこれは大事件だった。結局、フランク一家は自前で映写機・スクリーン・フィルムを用意して自宅で上映会を行うようになった<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.185-186]]</ref>。

1941年5月末にユダヤ人は公園、競馬場、プール、公衆浴場、保養施設、ホテルなど公共施設への立ち入りを禁止された<ref name="リー(2002)151">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.151]]</ref><ref name="ミュラー(1999)190-191">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.190-191]]</ref>。アンネはプールに行けなくなったことを嘆き、「日焼けしようにも、あまり方法はありません。プールに入れないからです。残念ですけど、どうしようもありません」と1941年6月末にスイスにいる父方の祖母アリーセに宛てた手紙で書いている<ref name="ミュラー(1999)190-191"/><ref name="リー(2002)156">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.156]]</ref>。

1941年8月29日にはユダヤ人はユダヤ人学校以外に通うことを禁止する法律が公布された<ref name="リー(2002)161">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.161]]</ref>。アンネはモンテソーリ・スクールへ通えなくなり、マルゴーともども[[フォールマーリゲ・スタツティンメルタイン]]の{{仮リンク|ユダヤ人中学校|nl|Joods Lyceum}}へ転校することとなった<ref>[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.67-68]]</ref><ref name="ミュラー(1999)197-198">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.197-198]]</ref><ref name="リー(2002)164">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.164]]</ref>。ユダヤ人中学校でアンネは新たな親友[[ジャクリーヌ・ファン・マールセン]]（愛称ジャック）と出合った。アンネとジャックは家が近いにもかかわらず、しょっちゅうお互いの家に泊まり合っていた。アンネはジャックの家に行くのに大した荷物もないのにスーツケースを持っていった。スーツケースがないと旅行気分が出ないからという<ref name="リー(2002)172">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.172]]</ref><ref name="マールセン(1994)54">[[#ミュラー(1994)|マールセン(1994)、p.54]]</ref>。

1942年1月29日には同居していた祖母ローザ・ホーレンダーが[[癌]]により死去している<ref name="黒川(2009)37">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.37]]</ref><ref name="ハイル(2003)207">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.207]]</ref>。おばあちゃんっ子のアンネには衝撃だった。アンネは後に書く日記のなかでも祖母の死について触れ、「おばあちゃんのことは、いまでもこの胸に焼き付いています。私が今でもどれだけおばあちゃんを愛しているか、きっと誰も想像がつかないと思います」と書いている<ref name="オランダ(1994)199">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.199]]</ref>。アンネは思春期になるにつれ、母エーディトとの摩擦が増えていた。アンネとエーディトの親子喧嘩の仲裁役になれるのはアンネの祖母でエーディトの母であるローザだけだった。その事もアンネが祖母好きな理由であったという<ref name="リー(2002)175">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.175]]</ref>。

[[ファイル:Yellowstar.jpg|thumb|left|オランダのユダヤ人が着用を義務付けられた[[ダビデの星]]]]
1942年4月29日にはオランダ、フランス、ベルギーにおいてユダヤ人は黄色い[[ダビデの星]]を付けることが義務付けられた。これは先にポーランドやドイツで実施されていたものが導入された物であった。オランダのダビデの星には中央に「'''Jood'''（ユダヤ人）」の文字が入っていた<ref name="リー(2002)196">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.196]]</ref><ref name="ミュラー(1999)206">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.206]]</ref><ref name="シュナーベル(1958)74">[[#シュナーベル(1958)|シュナーベル(1958)、p.74]]</ref>。1942年6月22日にはオランダの[[親衛隊及び警察高級指導者]][[ハンス・ラウター]][[親衛隊中将]]より「ユダヤ人は所有している自転車を48時間以内に当局に提出せよ」との命令が下された。フランク一家はこの命令に従わず、マルゴーの自転車を隠し持つことにした。アンネも専用の自転車を持っていたが、彼女の自転車は復活祭の休み中に何者かに盗まれてしまっていたため、この頃にはすでに所持していなかった<ref name="ハイル(2003)81">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.81]]</ref><ref name="ミュラー(1999)212">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.212]]</ref>。アンネにとって厳しかったのは1942年6月30日のユダヤ人外出制限命令だった。ユダヤ人は夜8時から朝6時までの間の外出を禁止され、また非ユダヤ人を訪問したり、あるいは訪問を受けることを禁止された。ユダヤ人の子供にとって友達と遊ぶのに大きな影響がある命令だった<ref name="ミュラー(1999)213">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.213]]</ref>。

アンネは1940年夏に[[ペーテル・スヒフ]]{{#tag:ref|ペーテル・スヒフは1943年9月23日に母と養父と共にヴェステルボルク通過収容所へ送られている。そこから[[ベルゲン・ベルゼン強制収容所]]へ移送された。その後アウシュヴィッツ強制収容所へ送られ、そこで死亡したとみられる<ref name="ミュラー(1999)386">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.386]]</ref>。|group=#}}という年上（14歳）の少年と付き合っていた。ペーテルは長身の美男子でアンネは彼にかなり熱を入れていたが、ペーテルが引っ越すとペーテルとアンネは疎遠になってしまった<ref name="オランダ(1994)496">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.496]]</ref><ref name="リー(2002)139">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.139]]</ref>。ペーテルの新しい友達たちが年下の女の子と付き合っているペーテルをからかったため、彼はアンネを故意に無視するようになったらしい<ref name="リー(2002)139"/>。アンネはしばらく失意の状態だったという<ref name="リー(2002)139"/>。1944年1月6日付け、1月7日付けの彼女の日記にもペーテルの事を忘れられないでいる様子がうかがえる<ref name="オランダ(1994)486-494">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.486-499]]</ref>。ペーテルほど熱を入れてはいなかったが、1942年6月終わり頃には3歳年長の[[ヘルムート・シルベルベルフ]]（愛称ヘロー）{{#tag:ref|ヘルムート・シルベルベルフ（オランダ語読み。ドイツ語読みではジルバーベルク）は、ドイツ・[[ゲルゼンキルヒェン]]に紳士服店経営者のユダヤ人の息子として生まれた。[[1938年]]に起こった[[反ユダヤ主義]]暴動「[[水晶の夜]]」事件でシルベルベルフ家が経営していた紳士服店は破壊された。身の危険を感じて一家はドイツを出て祖父がいるオランダ・アムステルダムへ逃れようと決意した。しかし一家全員のオランダ入国は認められず、両親はヘルムート1人だけをアムステルダムの祖父のもとへ送った<ref name="リー(2002)212">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.212]]</ref><ref name="ミュラー(1999)223">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.223]]</ref>。祖父はドイツ名の「ヘルムート」を嫌い、彼はオランダでヘローと称するようになった<ref name="ミュラー(1999)223"/>。一方両親はその後もオランダ入国の許可を得られず、[[ベルギー]]へ密入国した<ref name="ミュラー(1999)225">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.225]]</ref>。ナチ占領下のオランダでユダヤ人狩りが激しくなり、1942年8月にベルギーへ密入国して父と再開した。しかしベルギーもナチ占領下であり、ユダヤ人狩りが激しくなっていた。父とともに[[ブリュッセル]]郊外の建物にエドモンド・メルテンスと偽名を名乗って潜伏した<ref name="ミュラー(1999)345">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.345]]</ref>。彼はナチスに見つかることなく、1944年9月に連合軍によるベルギー解放を迎えた<ref name="ミュラー(1999)345"/>。戦後、アムステルダム郊外の建物の屋根裏部屋に隠れて生き延びた祖父母に会おうとオランダへ戻ろうとしたが、有効な旅券がなかったので無国籍者として扱われ、オランダへの入国を認められなかった。しかし密入国して祖父母と再会した。さらにその後、エドモンド・シルバーバーグ（シルベルベルフの英語読み）と改名して、アメリカ・ニューヨークへ移住した。現在は[[ニュージャージー州]]で暮らしている<ref name="リー(2002)212"/><ref name="ミュラー(1999)384">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.384]]</ref>。|group=#}}という男の子と付き合い始めていた<ref name="ミュラー(1999)222">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.222]]</ref>。ヘローはこの時のことを後に「アンネは魅力的な女の子でした。いきいきとしていて機転がきいて、人を笑わせたり、楽しませたりするのが大好きでした。はっきりと記憶に残っているのはいつも大きな椅子に座り、あごに両手を添えてじっと私のことを見ているアンネの姿です。（略）たぶん私はアンネに恋していたのでしょう。ひょっとすると彼女も同じ気持ちだったかもしれません」と語っている<ref>[[#リー(2003)|リー(2003)、p.76-77]]</ref>。

[[ファイル:The Diary of a Young Girl at the Anne Frank Zentrum.jpg|thumb|[[ベルリン]]の{{仮リンク|アンネ・フランク・センター|de|Anne Frank Zentrum}}に展示される、アンネが日記に用いたサイン帳]]
1942年6月12日の13回目のアンネの誕生日、オットーからのプレゼントでサイン帳を贈られた。表紙全体に赤と白のチェック模様が入っている女の子らしいサイン帳であった<ref name="リー(2002)205">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.205]]</ref>。アンネはこのサイン帳を日記帳として使用することにし{{#tag:ref|『アンネの日記』は4冊存在し、1942年6月12日のアンネの誕生日の送られたサイン帳は日記の1冊目である<ref name="リー(2002)296">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.296]]</ref>。なおアンネは途中から日記の書きなおし作業を行っており、1944年3月まで書き直しが及んでいる。書きなおし前の2冊目のオリジナルは現存していない<ref name="リー(2002)297">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.297]]</ref>。|group=#}}、その日、最初の日記をつけている。後世に『[[アンネの日記]]』として世界的に知られることになる日記の執筆の始まりである。なおアンネは日記帳を「キティー」と名付け、この「キティー」に手紙を書くという設定にしていた。なぜキティーだったかは諸説あってはっきりとしないが、当時オランダの女の子の間で人気があった少女小説の主人公の名前から取られたという説が最も有力である<ref name="黒川(2009)46">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.46]]</ref>。あるいはアンネの友達の一人ケーテ・エヘイェディ（愛称キティー）から来ている可能性もある<ref name="リー(2002)287">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.287]]</ref>。日記の最初はこのように記されている。

{{Quotation|あなたになら、これまで誰にも打ち明けられなかったことを何もかもお話しできそうです。どうか私のために大きな心の支えと慰めになってくださいね<ref name="オランダ(1994)185">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.185]]</ref>。|1942年6月12日}}

1942年6月末には夏休み前の学期末試験の通知書が却ってきた。マルゴーは「いつも通りの素晴らしい成績」で、アンネも日記上でしぶしぶ賛辞を呈している<ref name="リー(2002)214">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.214]]</ref>。一方アンネは予想よりは良かったが、[[数学]]の成績が低く、夏休み後の9月に追試を受けることを申し渡されてしまった<ref name="リー(2002)214"/>。しかしアンネが再び学校に通える日はもう来なかった。

=== 隠れ家の準備 ===
[[ファイル:AnneFrankHouseAmsterdam.jpg|right|thumb|200px|プリンセンフラハト通り263番地にあるオットーの会社の建物。この建物の裏につながって存在する「後ろ家」の3階と4階部分に隠れ家があった。現在アンネ・フランク財団によって管理されており、アムステルダムの観光名所の一つである]]
ドイツの総力戦体制が強まり、ユダヤ人狩りが頻繁に行われはじめると、「ユダヤ人はポーランドへ連行されそこで虐殺される」という不穏な噂が流れるようになった。ドイツ側は、連行しているユダヤ人は失業中で未婚のユダヤ人のみであり、彼らはドイツ国内の労働収容所へ送っており、そこで公正な取り扱いの下に強制労働に従事しているとしていた。しかしイギリスの[[BBC]]放送などはユダヤ人はポーランドへ連れて行かれ、そこで虐殺されていると報道していた。いずれにせよ明白であるのは、経済の「アーリア化」によりユダヤ人失業者は増大しており（オットー・フランクも書類上は失業者であった）、ユダヤ人狩りで連れていかれる人数は日増しに増え、その対象はユダヤ人ならば誰でも手当たり次第という具合になっていたことである<ref name="ミュラー(1999)218-219">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.218-219]]</ref>。

危険が迫ってきていると判断したオットーとヘルマン・ファン・ペルスは、オペクタ商会とペクタコン商会（ヒース商会）が入っている建物の中に隠れ家を設置して身を隠す準備を進めた<ref name="リー(2002)185-187">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.185-187]]</ref>。その建物はアムステルダム・{{仮リンク|ヨルダーン地区|nl|Jordaan (Amsterdam)}}{{仮リンク|プリンセンフラハト通り|nl|Prinsengracht}}263番地にあった。4階建ての建物で1階が倉庫、2階が事務所、3階と4階（更にその上に屋根裏部屋もあり）も倉庫として使われていた。この建物の後ろには離れ家（運河に面したアムステルダムの建物にはよくある形状で「後ろの家」(アハターハウス)と呼ぶ。[[定冠詞]]を付けた「後ろの家」"は、オランダ語版アンネの日記のタイトルとなった）がついており、そこの2階にはオットーのオフィスと従業員用のキッチンがあり、3階と4階は放置されていた<ref name="リー(2002)145">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.145]]</ref>。この離れ家の3階と4階と屋根裏部屋を改築して隠れ家が作られた<ref>[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.85-86]]</ref>。

[[ミープ・ヒース]]、[[ヨハンネス・クレイマン]]、[[ヴィクトール・クーフレル]]、[[ベップ・フォスキュイル]]ら会社の非ユダヤ人社員たちが食料や日用品を隠れ家に運び込む役を引き受けてくれた。オットーは、ドイツ軍に見つからぬよう少しずつ家具などを隠れ家に入れていった<ref name="リー(2002)187">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.187]]</ref>。この間、アンネとマルゴーには隠れ家のことは一切知らされていなかった。少しでも娘たちに自由な時間を楽しませたいというオットーとエーディトの配慮からだった<ref name="リー(2002)188">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.188]]</ref>。ユダヤ人の子供はすでに自由に遊ぶことはできなくなっていたが、それでもアンネは、ハンネ、サンネ、ジャック達とともにイルセ・バーハネルという子の家に集まって卓球をして遊んだり、卓球の後はユダヤ人でも入れるアイスクリーム屋へ行って男の子達と会って仲良くしたりして楽しんでいた<ref name="ハイル(2003)75">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.75]]</ref><ref name="ミュラー(1999)222">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.222]]</ref>。

[[1942年]][[7月5日]]午後3時頃、マルゴーに対して7月6日にユダヤ人移民センターへの出頭を命じる[[親衛隊 (ナチス)|ナチス親衛隊(SS)]]からの召集命令通知がフランク家に届けられた<ref name="黒川(2009)72">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.72]]</ref><ref name="ハイル(2003)85">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.85]]</ref><ref name="ミュラー(1999)229">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.229]]</ref><ref name="リー(2002)218">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.218]]</ref>。これはマルゴーに限らずアムステルダムの15歳から16歳のユダヤ人数千人に一斉に出された召集命令であった<ref name="リー(2002)218"/>。召集後は[[ヴェステルボルク通過収容所]]を経てドイツ国内の[[強制収容所 (ナチス)#強制労働収容所|強制労働収容所]]へ送られ、労働に従事させられることとなっていた<ref>[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.72-73]]</ref><ref name="ハイル(2003)85"/><ref name="ミュラー(1999)229"/><ref name="リー(2002)218"/>。通知には持って行ける衣類とシーツ、食器類についてのリストまで付属していた<ref name="リー(2002)218"/>。オットーの帰宅後、すぐにヘルマン・ファン・ペルスやヒース夫妻、クレイマンなどと連絡をとり、対策を話し合った。召集命令に応じるのは危険と判断したオットー達は、すぐに潜伏生活を始めることとした。アンネとマルゴーも荷造りの準備を始めた<ref name="リー(2002)219">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.219]]</ref>。

7月6日朝7時半、アムステルダムは雨が降っていた。自転車を持っていたマルゴーはミープに連れられてひと足先に隠れ家へ向かった<ref name="ハイル(2003)91">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.91]]</ref><ref name="ミュラー(1999)241">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.241]]</ref>。続いて7時45分、アンネとオットーとエーディトの3人も家を出ると徒歩で隠れ家へ向かった<ref name="ミュラー(1999)241"/>。アンネたちは1時間ほどかかってプリンセンフラハト通り263番地の隠れ家に到着した<ref name="ミュラー(1999)241">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.241-242]]</ref>。到着した頃には雨はあがっていた<ref name="ミュラー(1999)242">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.242]]</ref>。

アパートを出る際にオットーはその頃フランク家に下宿していた人物に宛てて手紙を置き遺した。そこでスイスへ逃れることをほのめかし、アンネが飼っていた猫「モールチェ（ユダヤ人学校へ転校した頃から両親の許可を得て飼っていた<ref name="ミュラー(1999)200">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.200]]</ref>）」を託したい旨を書いている<ref name="黒川(2009)78">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.78]]</ref><ref name="リー(2002)225">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.225]]</ref>。フランク一家の突然の失踪は近所の人たちにも知られたが、召集命令が来たユダヤ人は次々と逃げ出していたのでとりたてて不思議には思われなかったようである。すぐに「フランク一家はスイスへ逃げたらしい」という噂が流れた<ref>[[#リー(2003)|リー(2003)、p.85-86]]</ref>。アンネの友達のハンネリやジャックもアンネを探しに来たが、家はもぬけのからになっていた。ジャックはアンネと事前にお互い身を隠す時が来たら手紙を置き残そうと約束していたので手紙を探したが見つからなかった。彼女たちはとりあえずアンネとの思い出の品を探し、ジャックはアンネが水泳競技でもらったメダルを見つけて持って帰っている<ref name="リー(2002)227-228">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.227-228]]</ref>。

=== 隠れ家生活 ===
[[ファイル:AnneFrankHouse Bookcase.jpg|thumb|200px|隠れ家への入口を隠した本棚]]
「後ろの家」の隠れ家の入口は正面の建物から3階に上がり、本棚の後ろに隠れた秘密の入口を通って入ることができた。秘密の入口を通るとすぐ右手に4階への階段があった。階段のすぐ横のドアはオットーとエーディトの部屋であった<ref name="黒川(2009)86">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.86]]</ref>。その部屋とつながっている右側の細長い部屋がアンネとマルゴーの部屋だった（[[フリッツ・プフェファー]]合流後、プフェファーはアンネの部屋で暮らすことになり、マルゴーはオットーたちの部屋に移っている）。アンネたちの部屋と4階への階段の手前から洗面所に入ることができ、そこに洗面台と水道、そして水洗トイレがあった<ref name="黒川(2009)86"/><ref name="ミュラー(1999)242">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.242]]</ref>。4階に通じる階段を上ると大きな部屋があり、そこは隠れ家のリビングルーム、またファン・ペルス一家の部屋だった<ref name="黒川(2009)86"/>。またその部屋に通じる部屋にファン・ペルス一家の長男[[ペーター・ファン・ペルス]]の部屋があり、この部屋から屋根裏部屋へ上がるはしご段があった<ref name="黒川(2009)86"/><ref name="リー(2002)224">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.224]]</ref>。屋根裏部屋のつきあたりの[[アーチ]]形の窓からは{{仮リンク|西教会|nl|Westerkerk (Amsterdam)}}の時計塔が見え、別の窓からは中庭に立つ[[セイヨウトチノキ|マロニエ]]の巨木を眺めることができた<ref name="リー(2002)225">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.225]]</ref><ref name="ミュラー(1999)243">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.243]]</ref>。隠れ家にはオットー・フランク一家（オットー、妻エディート、長女マルゴー、次女アンネ）、1942年7月13日から[[ヘルマン・ファン・ペルス]]一家（ヘルマン、妻[[アウグステ・ファン・ペルス|アウグステ]]、長男ペーター）<ref name="ハイル(2003)104">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.104]]</ref><ref name="ミュラー(1999)243">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.243]]</ref>、1942年11月16日から[[歯科医]]のフリッツ・プフェファーも合流して合計8人が隠れ家で同居した<ref name="ミュラー(1999)272">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.272]]</ref>。

==== 隠れ家での人間模様 ====
隠れ家生活に入ってからアンネと母エーディトは対立することが多くなった。母から自立したいアンネとアンネを心配するエーディトがすれ違っていたせいであった<ref name="黒川(2009)109">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.109]]</ref>。オットーがよく2人の仲裁に入っていた。日記上でも母親を批判する記述は多い。「とにかくママが我慢なりません。ママの前では、自分を抑えて辛抱しなくちゃなりません。そうしないとママの横っ面をひっぱたいてしまいかねませんから。どうしてこんなにまでママが嫌いになってしまったのか。自分でも分かりません」と書いている<ref name="ミュラー(1999)288">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.288]]</ref>。しかしやがてアンネは母を傷つけていることを反省して、徐々に攻撃の手を緩めるようになる。日記の書きなおし作業の中で「アンネ、本当に貴女が書いたの？『憎らしい』なんて? よくもこんなことが書けたわね」「お母さんが私の気持ちを分かっていないのは事実ですが、私もお母さんの気持を分かっていないのですから」などと書いている<ref name="ミュラー(1999)293">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.293]]</ref>。

またアンネは、成績優秀で控えめな性格の姉マルゴーをやっかむ事が多かった。母エーディトがマルゴーを高く評価し、アンネはいつもマルゴーと比べられてお姉さんを見習うように言われるせいだった。アンネは「鼻持ちならないとしか言いようがありません。昼も夜も神経に触りっぱなし。私はいつもマルゴーをからかって『よくそんなに猫をかぶってられるわね』と言ってやりますけど、さすがのマルゴーもこれにはむっとしてるようですから、そのうち猫を被るのは止めるかも」<ref name="リー(2002)277">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.277]]</ref>、「ママは何かと言うとマルゴーの味方をします。それは誰の目にも明らかです。いつだって2人でかばい合っています。もうそれは慣れっこなので、ママがごちゃごちゃお説教をしても、マルゴーが怒ってきても何とも思いません。もちろん2人のことは愛していますが、それは私のお母さんであり、お姉さんだからにすぎません。1個の人間としては2人ともくたばれと言いたいです」<ref name="黒川(2009)104">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.104]]</ref><ref name="ミュラー(1999)290">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.290]]</ref>と書いている。しかし後に親への不満を共通の話題にして姉妹仲はよくなった。「特別なことと言えば、マルゴーと私が二人揃って両親が鼻につき始めてることぐらいです。誤解しないでほしいんですけど、私は今でも以前と変わらずお父さんを愛してますし、マルゴーは両親どちらも愛しています。でも私たちぐらいの年になると、誰でもちょっとは物事を自分で決めたくなります。（略）マルゴーも悟ったようです。両親より同性の友達の方が、自分自身について気楽に話せるってことが」「（マルゴーとは）本当の親友になりかけています。もう私のことを子供扱いして、相手にしてくれないなんて事もありません」と書いている<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.291-292]]</ref>。

家族の中でアンネが一番好きだったのは父オットーだった。アンネは1942年11月7日の日記には「パパだけが私の尊敬できる人です。世界中にパパ以外に愛する人はいません」と書いている<ref name="ミュラー(1999)292">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.292]]</ref>。アンネはオットーにエーディトへの不満を漏らす事があったが、オットーはアンネに拒絶されて苦しんでいるエーディトを知っていたので必ずしもその言い分を認めなかった。「パパは、私が時々ママについて、鬱憤をぶちまける必要があることを分かってくれません。そのことを話題にしたがらないんです。話がママの欠点について触れそうになると、すぐにその話題を避けようとします」とアンネは書いている<ref name="ミュラー(1999)293">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.293]]</ref>。この件についてオットーは後年、「この事では妻の方がアンネより深く悩んでいたと思う。実際に妻はよく出来た母親で子供のためならいかなる苦労も惜しまなかった。アンネの反抗についてよくこぼしていたが、それでもアンネが父親の私を頼っていることに妻は幾らか慰められているようだった。アンネと妻の仲介役になる時は私も気が重かった。妻を苦しませたくはなかったが、アンネが母に対して生意気で意地悪な態度を取った時、アンネをたしなめるのは、しばしば容易なことではなかった」と述べている<ref name="ミュラー(1999)288">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.288]]</ref><ref name="リー(2002)276">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.276]]</ref>。

アンネの妥協の無さ、臆することのない舌鋒は、ファン・ペルス夫妻やフリッツ・プフェファーも立腹させることが多かった。彼らは「アンネの躾がなっていない」とよく、フランク夫妻に忠告した。しかしこのような時には母エーディトは常にアンネの味方だった<ref name="リー(2002)277">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.277]]</ref>。プフェファーとアンネは机の使用権などをめぐって対立し<ref name="ミュラー(1999)277">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.277]]</ref>、プフェファーはアンネにマナーなどの説教をすることがあった。アンネは皮肉をこめてプフェファーを「閣下」などと呼んでいる。また彼女がプフェファーに付けた日記上の変名は「デュッセル（ドイツ語で間抜けの意）」である<ref name="ミュラー(1999)273">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.273]]</ref>。またファン・ペルス夫妻とフランク一家にもしばしば摩擦があった。

しかし対立ばかりではなく、楽しい時も多かった。隠れ家ではお祝いをするきっかけを見つけては頻繁にお祝いをしていた。毎週金曜日に行う[[ユダヤ教]]の[[安息日]]の儀式、隠れ家メンバーの誕生日のお祝い、[[ハヌカー]]祭、[[クリスマス]]、新年、などであった。ヘルマン・ファン・ペルスはもともと陽気な人だったのでこうした席でよく冗談をいって人を笑わせていた。アンネの日記にもそうした楽しい思い出が「夜にはみんなしてテーブルを囲み、頭がおかしくなるほど笑い転げました。私がドレヘルさんの奥さんの毛皮のカラーを持ち出して、パパの頭に巻きつけたからです。なんだか馬鹿に神々しくて見えて、ほんと、笑い死にするかと思いました。次にファン・ペルスおじさんもそれを真似をしましたけど、こちらはもっと滑稽でした」「ペーターがおばさんのすごく細みのドレスを着て、帽子をかぶり、私が彼の服を着て、男の子の帽子を被ったら、大人たちはみんなお腹を抱えて笑い転げ、おかげで私たちまですっかり楽しくなりました」<ref name="リー(2002)254">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.254]]</ref>と多く描かれている。

隠れ家で唯一の[[ティーンエイジャー]]の男の子のペーターとは徐々に恋仲になっていき、アンネとペーターは屋根裏部屋で2人きりで長い時間を過ごすようになった。2人は[[キス]]もしている。1944年4月16日付けの日記に「昨日の日付を覚えておいてください。私の一生の、とても重要な日ですから。もちろん、どんな女の子にとっても、初めてキスされた日といえば記念すべき日でしょう?」と書いている<ref name="オランダ(1994)685">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.685]]</ref>。<!-- 日記からはアンネが性交にも関心を持ち始めていたことが窺える。 --><!-- 左記投稿者の主観につきco -->ただペーターには物足りなさも感じていたようでしばしばペーターへの不満の記述もある。

==== 様々な困難 ====
人に見つかってはならない隠れ家には厳しいルールがあった。昼間はできる限り静かに過ごすこと（事務所に人の出入りがあるから）、カーテンは閉めたままにすること、水を流す音が響かないようにすること、トイレの使用は早朝と事務所が閉まる夕方以降にすること、などである。食料はミープ・ヒースが店長がレジスタンス活動家であった食料店から購入していた。食料は屋根裏部屋に貯蔵された。しかし食料の確保はどんどん難しくなり、少なくなっていった。特に1944年に入ると食料切符があっても満足に食料を得られなくなった<ref name="黒川(2009)118">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.118]]</ref>。しかも同年5月25日には野菜の入手経路だった八百屋の主人ファン・フーフェンが2人のユダヤ人を匿っていた罪によりゲシュタポに逮捕されたため、野菜の確保が難しくなった<ref name="ハイル(2003)159">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.159]]</ref>。ひもじさに耐えねばならなくなると隠れ家住民達の心がすさんで喧嘩になることも多かった。アンネも日記の中で1週間に1種類か2種類の食事しか食べられないことを嘆いている。

医者にかかれないため、病気になると大変であった。1943年冬にはアンネは[[インフルエンザ]]にかかり、隠れ家の大人たちが総がかりで必死に看病した。幸い熱は下がり、回復したが、悪性の伝染病に襲われた時にはひとたまりもなさそうであった。また夜には連合軍の空襲の恐怖にさらされることも多くなっていった。もし爆弾が落ちても助けは求められなかった。隠れ家からそう遠くないミュントプレインに対空砲火に撃ち落とされた英軍機が墜落した際にはその轟音と火事で隠れ家がパニックになったという<ref>[[#ヒース(1987)|ヒース(1987)、p.215-216]]</ref>。電力も制限されていき、ろうそくを明かりの代わりに使用するようになった。また暖房の使用ができなくなると厚手のコートを重ね着したり、ダンスや体操をして体を温めたりしていた。

どんなに絶望的な状況になっていってもアンネは最後まで希望を捨てなかった。1944年7月15日の『アンネの日記』には次のような記述がある。

{{Quotation|自分でも不思議なのは私がいまだに理想のすべてを捨て去ってはいないという事実です。だって、どれもあまりに現実離れしすぎていて到底実現しそうもない理想ですから。にもかかわらず私はそれを待ち続けています。なぜなら今でも信じているからです。たとえ嫌なことばかりだとしても人間の本性はやっぱり善なのだと<ref name="オランダ(1994)810">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.810]]</ref>。|1944年7月15日}}

この言葉はアンネ・フランクの代表的な言葉としてよく引用されている<ref name="ミュラー(1999)282">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.282]]</ref>。『アンネの日記』は、この後、7月21日に記述があり、その次の1944年8月1日火曜日を最後にして終わっている<ref name="オランダ(1994)818">[[#オランダ(1994)|『アンネの日記 研究版』(1994)、p.818]]</ref>。

=== 逮捕 ===
1944年8月4日朝、プリンセンフラハト263番地の建物はいつも通りであった。隠れ家メンバーは読書や勉強、裁縫などに専念して音を立てないよう静かにしていた<ref name="黒川(2009)122">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.122]]</ref>。表の建物の2階の事務所の社長室では[[ヴィクトール・クーフレル]]、その隣室の事務所では[[ミープ・ヒース]]、[[ヨハンネス・クレイマン]]、[[ベップ・フォスキュイル]]の3人が働いていた<ref name="リー(2002)16">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.16]]</ref>。また一階の倉庫では倉庫従業員のヴィレム・ファン・マーレンとランメルト・ハルトホがスパイスを袋に詰める作業をしていた<ref name="ハイル(2003)164">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.164]]</ref><ref name="リー(2002)28">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.28]]</ref>。

そんな中の午前10時半頃、プリンセンフラハト263番地の前に1台の車が止まった<ref name="ハイル(2003)164"/>。中から出てきたのは[[制服 (ナチス親衛隊)#一般SSのグレーの制服|制服姿]]の[[ゲシュタポ]]・ユダヤ人課の[[カール・ヨーゼフ・ジルバーバウアー]][[親衛隊曹長]]と私服のオランダ人警察官数名であった<ref>[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.164-165]]</ref><ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.28・33]]</ref>。ジルバーバウアーらは建物の中に入ると倉庫従業員のファン・マーレンから事務所が2階であることを聞きだし、階段を上って事務所に向かった<ref name="ハイル(2003)165">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.165]]</ref><ref name="ミュラー(1999)28">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.28]]</ref>。

事務所に入ったオランダ人警官がミープ、クレイマン、ベップの3人に銃口を突き付けて「そのまま座っていろ。動くな!」と指示した<ref name="ハイル(2003)165"/><ref name="ミュラー(1999)28">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.28]]</ref><ref name="リー(2002)17">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.17]]</ref>。ジルバーバウアーは石のように固まっている3人を無視して、その隣室の社長室に入り、デスクに座っているクーフレルの前に立った<ref name="リー(2002)17"/><ref name="ミュラー(1999)29">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.29]]</ref>。ジルバーバウアーは「この建物の中にユダヤ人が匿われているはずだ。そこへ案内しろ」と命じた<ref name="ミュラー(1999)30">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.30]]</ref><ref>[[#リー(2002)|リー(2002)、p.17-18]]</ref>。クーフレルに打つ手はなく、言われた通りにするしかなかった<ref name="ミュラー(1999)30">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.30]]</ref>。

クーフレル、ジルバーバウアー、オランダ人警察官たちは3階へ上っていった<ref name="ミュラー(1999)30"/>。クーフレルは平静を装っていたが頭の中は真っ白になっていたという<ref name="ミュラー(1999)30"/><ref name="リー(2002)19">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.19]]</ref>。ジルバーバウアーは本棚の後ろに隠れ家があることも知っており、本棚の前に立つと「開けろ」とクーフレルに指示した<ref name="ミュラー(1999)31">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.31]]</ref>。クーフレルは最後の悪あがきで「ただの本棚ですよ」と述べたが<ref name="ハイル(2003)165">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.165]]</ref>、イライラしたジルバーバウアーはクーフレルを無視してオランダ人警官たちに本棚を動かすよう指示した。本棚を動かすと隠れ家に通じる白いドアが発見された<ref name="ミュラー(1999)31">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.31]]</ref><ref name="リー(2002)19">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.19]]</ref>。ジルバーバウアーはクーフレルに銃を押し当てると「入れ」と指示した<ref name="リー(2002)19"/>。

クーフレルが隠れ家に入るとフランク夫妻の部屋のテーブルに座っていたエーディトが目に入った。クーフレルは彼女に「[[ゲシュタポ]]だ…」と小さい声で言った<ref name="ミュラー(1999)31">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.31]]</ref><ref name="リー(2002)2">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.20]]</ref>。クーフレルの後ろからオランダ人警官が現れ、エーディトに銃を突きつけて「両手をあげろ」と指示した<ref name="ミュラー(1999)31"/>。オランダ人警官たちが続々と隠れ家に入ってきて家宅捜索を開始した。まず隣室のアンネの部屋にいたアンネとマルゴーが拘束され<ref name="ミュラー(1999)31"/>、つづいて4階のリビングルームにいたファン・ペルス夫妻とフリッツ・プフェファーが拘束された<ref name="リー(2002)21">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.21]]</ref>。最後に発見されたのがペーターの部屋でここではオットーがペーターに英語を教えているところだった<ref name="リー(2002)21"/><ref name="ハイル(2003)165"/>。

隠れ家メンバーの8人は全員手をあげさせられて入り口に近い3階のオットー夫妻の部屋に集められた。誰も声を出さなかったが、マルゴーだけは声を上げずに泣いていた<ref name="リー(2002)21"/><ref name="ミュラー(1999)32">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.32]]</ref>。ジルバーバウアーは真っ先に貴重品を提出させて押収した。ジルバーバウアーがカバンを逆さにして中身をぶちまけた際に中からはアンネの日記が床に落ちたが、アンネが何か言うことはなかった<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.32-33]]</ref>。ジルバーバウアーは武器の携帯の有無を調べた後、「5分で準備をしろ」と命じた<ref name="リー(2002)22">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.22]]</ref>。ジルバーバウアーはオットーが[[第一次世界大戦]]の際にドイツ帝国の将校だったことを知ると、態度が少し優しくなり、荷造りをしている隠れ家住人に「ゆっくりでいい」と指示し直している<ref name="リー(2002)24">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.24]]</ref>。

クーフレルとクレイマンはジルバーバウアー達に何を聞かれても答えなかったため、この2人も連行されることとなった<ref name="リー(2002)27">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.27]]</ref>。女性従業員と倉庫従業員は逮捕を免れた<ref name="黒川(2009)126">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.126]]</ref>。

連行する人数が予想より多かったため、ジルバーバウアーはもう1台車を手配し、午後1時頃に警察の護送車が到着した<ref name="ハイル(2003)170">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.170]]</ref><ref name="リー(2002)27">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.27]]</ref>。10人ともこの護送車に乗せられ、アムステルダム南部のユーテルペ通りにあった[[ゲシュタポ]]本部に連行された<ref name="ミュラー(1999)328">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.328]]</ref><ref name="リー(2002)309">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.309]]</ref><ref name="シュナーベル(1958)170">[[#シュナーベル(1958)|シュナーベル(1958)、p.170]]</ref>。

逮捕を免れたミープ、ベップ、ファン・マーレン、駆けつけてきた[[ヤン・ヒース]]らはゲシュタポに荒らされた隠れ家の整理にあたり、『アンネの日記』も拾い集められた。それらはミープが戦後まで保存した<ref>[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.128-129]]</ref>。

ゲシュタポは密告を受けて出動していた。この密告者が誰かについては今日に至るまで判明していない。倉庫係ヴィレム・ファン・マーレン、ランメルト・ハルトホ、もしくはその妻で掃除婦のレナ・ハルトホを疑う説もあるが、真相は不明である<ref name="リー(2002)463">[[#リー(2002)|リー(2002)、p.463]]</ref><ref name="黒川(2009)130">[[#黒川(2009)|黒川(2009)、p.130]]</ref>。

ゲシュタポ本部へ到着後、隠れ家メンバーは取り調べを受けた。取り調べでは他に潜伏しているユダヤ人について中心に聞かれたが、ずっと隠れ家生活をしていた8人が知るところではなかった<ref name="ミュラー(1999)328"/><ref>[[#リー(2002)|リー(2002)、p.310-311]]</ref>。その日ひと晩はゲシュタポ本部の監房で過ごすこととなった。翌日にはアムステルダムのベーテリングスハンスの拘置所に移され、ここで3日ほど過ごした<ref name="ミュラー(1999)329">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.329]]</ref>。

=== ヴェステルボルク収容所 ===
[[ファイル:Westerbork-monument2.jpg|thumb|250px|ヴェステルボルク通過収容所]]
1944年8月8日に隠れ家のユダヤ人8人はアムステルダム中央駅からオランダ北東の[[ヴェステルボルク通過収容所]]へ移送された<ref name="ハイル(2003)176">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.176]]</ref>。オットー・フランクの回想によれば、この移送中にアンネは列車の窓から一度も離れず、外の光景を眺めていたという。アンネは都会っ子で田舎にはほとんど興味がなかったというが、この時には窓外の田園風景に釘付けだったという<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.329-330]]</ref><ref name="リー16-24">リー、16-24頁</ref><ref name="シュナーベル173">シュナーベル、173頁</ref>。

1944年8月8日午後遅くにヴェステルボルク収容所に到着した。フランク一家はじめ隠れ家メンバー8人は「有罪宣告を受けたユダヤ人」に分類され、政治犯として懲罰棟である第67号棟へ収容された。男性は丸刈り、女性は短髪と定められており、アンネも髪を切られたものと思われる。ヴェステルボルクではフランク一家はド・ヴィンテル一家（父マヌエル、母ローザ、娘ユーディー）と親しくなった。ユーディーはアンネと同い年だった。ド・ヴィンテル一家もユダヤ人であり、潜伏生活を送った後、発見されて逮捕されていた。

ヴェステルボルク収容所においてアンネ、マルゴー、エーディトは電池の分解作業に割り当てられていた。昼食はわずかなパンと水っぽいスープだけであった。ここでアンネたちは同じ作業を行っていたヤニーとリーンチェのブリレスレイペル姉妹と知り合った。リーンチェは「アンネとマルゴーはいつもお母さんのそばにいました。『アンネの日記』ではアンネはお母さんを手厳しく批判していますが、ちょっとした反抗期だったんじゃないでしょうか。収容所ではお母さんの腕にしがみついていました」と証言している<ref name="リー324">リー、324頁</ref>。1944年9月3日、ヴェステルボルク収容所の最後の移送列車が[[ポーランド]]の[[アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所]]へ向けて出発することとなった。アンネたちはこの列車に乗せられることとなった<ref name="ミュラー(1999)340">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.340]]</ref>。

=== アウシュヴィッツ＝ビルケナウ収容所 ===
1944年9月3日、隠れ家メンバー8人、ド・ヴィンテル一家、ヤニ－とリーンチェのブリレスレイペル姉妹はまとめて[[アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所]]へ向かう移送列車に詰め込まれた<ref name="ハイル(2003)183">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.183]]</ref>。移送中のアンネは、マルゴー、ペーター、ユーディーと一緒に話をしたり、時々小窓によじのぼって外の光景を眺めていたという<ref name="ハイル(2003)184">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.184]]</ref><ref name="リー333">リー、333頁</ref>。

[[ファイル:Auschwitz-birkenau-main track.jpg|left|thumb|250px|「アウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所」のうちのビルケナウ収容所]]
3日後、列車はビルケナウ収容所に到着した。到着と同時に男女が分けられた。アンネは、父オットーとはここで今生の別れとなった<ref name="ミュラー(1999)347">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.347]]</ref>。さらにその後、SS医師団による働ける者と働けない者の選別が開始された。この移送でアウシュヴィッツへ送られてきた者1019人のうち549人が労働不能と判断されてガス室送りとなった<ref>[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.347-348]]</ref>。しかしアンネたち隠れ家メンバーは、全員労働可能と認定され、ガス室送りを免れた<ref name="ミュラー(1999)348">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.348]]</ref><ref name="リー338">リー、338頁</ref><ref name="黒川143">黒川、143頁</ref>。

女子供はビルケナウ収容所の中にある女子収容施設へ入れられ、男性は3キロ離れた場所にあるアウシュヴィッツ強制収容所へ向けて歩かされた。アンネとマルゴーとエーディトは女子収容施設である29号棟に入れられた<ref name="ミュラー(1999)351">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.351]]</ref>。アウシュヴィッツでは男子も女子も丸刈りにしていたのでアンネも短髪から丸刈りにされた。またアウシュヴィッツでは囚人の左腕に囚人ナンバーの刺青を入れていた。アンネの左腕に入れられた正確な囚人番号は分かっていない。A25060からA25271までの間のいずれかの番号であった<ref name="ハイル(2003)188">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.188]]</ref><ref name="ミュラー(1999)348"/>。

ビルケナウでのアンネはエーディトとマルゴー、ローザとユーディーのド・ヴィンテル母子などと固まって暮らしていたという。まもなくアンネやマルゴーはシラミやダニに喰われて傷口が化膿した<ref name="ミュラー(1999)351">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.351]]</ref>。エーディトは娘たちに献身的につくし、自分に支給されたパンも娘たちに分け与えていた。

ソ連軍の接近に伴うアウシュヴィッツ強制収容所撤収作戦の一環で10月28日に[[ベルゲン・ベルゼン強制収容所]]へ送る者の選別が行われた<ref name="ミュラー(1999)352">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.352]]</ref>。ローザ・ド・ヴィンテルによると選別を行ったのは[[ヨーゼフ・メンゲレ]][[親衛隊大尉]]であったという。この選別でアンネとマルゴーは母エーディトと切り離されてベルゲン・ベルゼンへ送られることとなった。母エーディトとはここで最期の別れとなった。ローザはこの時のアンネを「15歳と18歳、痩せこけて、裸でしたが、それでも堂々として選別デスクに向かいました。アンネはマルゴーを励まし、マルゴーは背筋をしっかり伸ばして、ライトの中を進みました。姉妹2人、裸で、丸坊主という姿でした。ふとアンネの目がこちらに向けられました。曇りのない目で、まっすぐこちらに視線を向けて、まっすぐ立って」<ref name="リー356">リー、356頁</ref>と回想している。

=== ベルゲン・ベルゼン収容所での死 ===
[[ファイル:Anne frank memorial bergen belsen.jpg|thumb|160px|[[ベルゲン・ベルゼン強制収容所]]跡地の墓碑]]
アンネたちのベルゲン・ベルゼンへの移送は4日に及び、その間、食料はほとんど与えられず、アンネたちはますます弱っていった。
到着したベルゲン・ベルゼン強制収容所は恐ろしく不潔な収容所で病が大流行していた。食料もほとんど与えられず、餓死者と病死者が続出する収容所だった。この収容所でアンネはチフスに罹患して命を落とすことになる。

この収容所でアンネはリーンチェとヤニーのブリレスレイペル姉妹と再会したという。ブリレスレイペル姉妹はフランク姉妹より10歳以上年長だったが、同じアムステルダム出身であり、親しくなって一緒に過ごすようになったという。リーンチェは後にこの時のアンネについて「アンネはよく就寝後に話を聞かせてくれた。姉のマルゴーも同様だった。馬鹿げた小話だの、ジョークだの、いつも4人（アンネ、マルゴー、リーンチェ、ヤニ－）で交代で話し役を受け持った。たいがいは食べ物の話だった。アムステルダムの{{仮リンク|アメリカン・ホテル (アムステルダム)|label=アメリカン・ホテル|nl|American Hotel}}に行き、豪華なディナーを食べるという話をしていたところ、いきなりアンネが泣き出したことがあった。もう2度とあの街へ戻ることはできないだろうと考えたのだろう。みんなで空想のメニューをこしらえ、すばらしい御馳走を考え出した。そしてアンネはいつも言うのだった。『私にはまだ学ばなくちゃいけないことがたくさんある』と」<ref name="リー364">リー、364頁</ref>と証言をしている。食事の話ばかりになったのは食糧がますます減らされたためだった。リーンチェによるとアンネの顔は痩せこけて、まるで目だけになってしまったようだったという<ref name="リー366">リー、366頁</ref>。

1944年11月終わりにはアウグステ・ファン・ペルスがベルゲン・ベルゼンに移送されてきてアンネたちと再会した。アウグステは別の区画にアンネの親友ハンネがいたことをアンネに告げた。1945年初めには有刺鉄線越しだがアンネはハンネと再会できたという。2人は互いの無事を喜び涙を流しあったという。アンネはこの時ようやく実はスイスに亡命したのではなくて隠れ家で隠れていたことをハンネに打ち明けた。また両親とは離れ離れになったことを告げ、「私にはもう両親がいないの」と涙ながらに語っていたという。その後も3、4回あったというが、2月末ごろからアンネの姿を見なくなったという<ref name="リントヴェル50">リントヴェル、50頁</ref>。

しかしこのころのアンネの詳細については、このような数少ない目撃者たちの断片的な証言を残すのみであり、はっきりとはしていない。体力の衰えた姉妹はやがてチフスにかかり、先にマルゴーが、2、3日遅れてアンネが息を引き取ったとされている。オランダ[[赤十字]]は[[1945年]][[3月31日]]を死亡日としているが、これは特定されたものではなく、生き残った者の証言などにより、それよりも早い2月の終わりか3月の始めころに亡くなったものと推測される<ref name="ハイル(2003)193">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.193]]</ref><ref name="ミュラー(1999)365">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.365]]</ref>。

友人たちのうち、スザンネ・レーデルマンやイルセ・ヴァーハネルも犠牲になったが、ハンネリ・ホースラル、ナネッテ・ブリッツ、ケーテ・エヘイェディは生還し、ジャクリーヌ・ファン・マールセンも戦後を迎えることができた。

=== 没後 ===
[[ファイル:Diario anne frank.jpg|thumb|160px|[[1955年]]に出版された[[スペイン語]]版の『Las habitaciones de atrás（後ろの家）』の初版]]
隠れ家の住人はオットー・フランクを除いて全員が終戦を迎えることなく強制収容所の中で死亡した。アンネとマルゴーはベルゲン・ベルゼン強制収容所、母エーディト・フランクはアウシュヴィッツ＝ビルケナウ強制収容所、ペーター・ファン・ペルスは[[マウトハウゼン強制収容所]]、ヘルマン・ファン・ペルスはアウシュヴィッツ強制収容所、フリッツ・プフェファーは[[ノイエンガンメ強制収容所]]でそれぞれ死亡している。アウグステ・ファン・ペルスの死亡場所は不明である。

オットー・フランクは、解放後に[[アムステルダム]]に戻った。日記を保存していた[[ミープ・ヒース]]から娘アンネの残した日記などの文書を遺品として渡された<ref>[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.194-195]]</ref>。この文書はオットーによってタイプし直され、関係者の間に私家版としてごく少数の者に配られた<ref name="ハイル(2003)195">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.195]]</ref>。やがてこれが評判を呼び、[[1947年]]に{{仮リンク|『後ろの家』|nl|Het Achterhuis (dagboek)}}というタイトルでオランダ語の初版が出版された<ref name="黒川162">黒川、162頁</ref>。

売れ行きは非常に好調で、ほどなく各国語に翻訳された。1950年には[[ドイツ語]]版と[[フランス語]]版が出版され、1952年5月に[[英語]]版が出版された<ref name="ハイル(2003)196">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.196]]</ref><ref name="リー440">リー、440頁</ref>。日本語版は[[昭和]]27年（[[1952年]]）に『光ほのかに <small>アンネの日記</small>』というタイトルで[[文藝春秋]]から出版されたのが最初である<ref name="黒川5">黒川、5頁</ref>。[[イギリス]]ではあまり売れなかったが、[[アメリカ]]・[[ドイツ]]・[[フランス]]・[[日本]]では発売とともに好調な売れ行きを示した<ref name="リー440-442">リー、440-442頁</ref>。イギリスでは1954年に[[ペーパーバック]]版になった後に売れるようになった<ref name="リー442">リー、442頁</ref>。

1955年10月5日に[[戯曲]]『アンネの日記』が[[ニューヨーク]]の[[ブロードウェイ]]で初演された<ref name="ハイル(2003)196">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.196]]</ref>。主演は[[スーザン・ストラスバーグ]]。彼女の友人の[[マリリン・モンロー]]が観劇している<ref name="リー443">リー、443頁</ref>。上演回数は1000回を超えた<ref name="ハイル(2003)196"/>。同演劇は1956年度の[[ピューリッツァー賞]]と[[トニー賞]]を獲得した<ref name="リー444">リー、444頁</ref>。

[[ファイル:Anne-Frank-Realschule Ludwigshafen.jpg|thumb|250px||left|[[ドイツ]]・[[ルートヴィヒスハーフェン]]の「アンネ・フランク実科学校（[http://www.annefrankrealschule.de/index.htm 公式ウェブサイト]）」]]
1956年からヨーロッパでも上演された。特にドイツで重く受け止められた。100万人のドイツ人が観劇し、その効果でドイツでの『アンネの日記』の売り上げが急上昇し、ドイツ各地にアンネの名を冠した青少年団体や学校や通りが出現するようになった<ref name="リー445">リー、445頁</ref>。オランダでは1956年11月27日にオランダ王室の臨席のもとで初上演された。そのオープニング・セレモニーに[[オットー・フランク]]、[[ミープ・ヒース]]、[[ヤン・ヒース]]、[[ベップ・フォスキュイル]]、ジャクリーヌ・ファン・マールセン（ジャック）らが出席している<ref name="リー446">リー、446頁</ref>。

[[ファイル:Merwedeplein - Statue Anne Frank.jpg|thumb|160px|オランダ・アムステルダムのメルウェーデプレインに建つアンネ・フランク像（[[2005年]]）]]
1957年にはアメリカの[[20世紀フォックス]]社が[[アンネの日記 (1959年の映画)|映画『アンネの日記』]]の撮影を開始した。大戦中に[[ダッハウ強制収容所]]を解放した[[アメリカ軍]]部隊の兵士だった[[ジョージ・スティーヴンス]]が監督を務めた。この映画は1959年4月16日にアムステルダムで[[ユリアナ (オランダ女王)|ユリアナ]]女王や[[ベアトリクス (オランダ女王)|ベアトリクス]]王女臨席のもとに初公開された<ref name="リー448">リー、448頁</ref>。

隠れ家のあるアムステルダム・プリンセンフラハト263番地を含めた地域一帯が[[ブローカー]]に買収され、さらに1957年5月には再開発予定地に組み込まれて、アンネの隠れ家のあった建物が取り壊されそうになった<ref name="黒川162">黒川、162頁</ref><ref name="リー451">リー、451頁</ref>。取り壊しに反対する市民運動が巻き起こり、ユリアナ女王やアムステルダム市長も運動に参加し、オランダ国外からも寄付金が寄せられた<ref name="黒川162"/>。建物を所有していた不動産会社ベルクハウス社<ref name="リー452">リー、452頁</ref>は市民の声に負け、「アンネ・フランクに捧げる」として隠れ家の建物をアムステルダム市に寄付した。アムステルダム市はアンネの隠れ家の建物の付近を「歴史地区」に指定し、保護することを市民に約束した<ref name="黒川162"/>。建物の保存と一般公開を目的として「アンネ・フランク財団」が設立され、1960年5月に同財団が建物の所有権を買い取り、博物館「[[アンネ・フランクの家]]」として一般公開を行っている<ref name="ハイル(2003)200">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.200]]</ref><ref name="黒川163">黒川、163頁</ref>。

[[1980年]][[8月19日]]にオットー・フランクは[[スイス]]・[[バーゼル]]の自宅で死去した。オットーの遺言でアンネの書いた物はすべてオランダ政府に遺贈された<ref name="リー456">リー、456頁</ref>。オランダ国立戦時資料研究所が1980年11月にアンネの日記の原稿を受け取っている<ref name="リー456">リー、456頁</ref>。

== 人物 ==
アンネ・フランクの将来の夢は著名な作家になることであったが、多くの芸術家たちと同様、死して後その名が知られるようになった<ref name="ハイル(2003)201">[[#ハイル(2003)|ハイル(2003)、p.201]]</ref>。[[2004年]][[10月3日]]、[[オランダ]]の司法省は、[[ドイツ]]からの亡命と同時に[[無国籍]]となり、国籍を持たないまま、この世を去っていった彼女にオランダの[[市民権]]を与えるべきという要望に、死後の市民権の付与は不可能という拒否解答を出した。彼女は、[[政治]]、[[文化]]、[[経済]]などでのオランダを代表する人物の中に以前から数えられているが、国籍、市民権が与えられたことはない。
[[ファイル:The Rose "Souvenir d Anne Frank" (Kinugasa Campus, Ritsumeikan University, Kyoto, Japan).JPG|thumb|200px|[[立命館大学]]の衣笠キャンパスにある「アンネのバラ」]]
* 隠れ家でアンネはたくさんの本を読んだ。日記に出てくる本だけでも26冊にも及ぶ<ref name="ミュラー(1999)281">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.281]]</ref>。初め文学の本に関心が強かったが、後に伝記に関心を持つようになった。彼女が読んだ伝記は[[マリー・アントワネット]]、皇帝[[カール4世 (神聖ローマ皇帝)|カール4世]]、[[ピーテル・パウル・ルーベンス]]、[[レンブラント・ファン・レイン]]、[[フランツ・リスト]]などであった<ref name="ミュラー(1999)281"/>。父オットーの勧めで[[ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ]]、[[フリードリヒ・フォン・シラー]]、[[フリードリヒ・ヘッベル]]などドイツ人古典作家の本もかなり読んだという。ドイツ古典はオットーがナチスから守りたかった世界であったという<ref name="ミュラー(1999)283">[[#ミュラー(1999)|ミュラー(1999)、p.283]]</ref>。

== その他 ==
[[File:The Rose "Souvenir d Anne Frank" (Suma-rikyu Park, Kobe, Japan).jpg|thumb|200px|神戸市、[[須磨離宮公園]]で撮影した「アンネのバラ」]][[File:Souvenir d Anne Frank（由来の説明）.jpg|thumb|200px|須磨離宮公園での解説板]]
* 隠れ家で日記を書き続けたアンネであるが、『アンネの日記』以外にもいくつかの短編小説を残しており、これらは現金出納簿の一冊に書かれていた。短編小説を書くのは1943年夏頃から夢中になった彼女の趣味だった。アンネの書いた短編小説には、『じゃがいも騒動』『悪者！』などのような身近な題材の作品から、『カーチェ』『管理人の一家』『エーファの見た夢』など幻想的な作品まで幅広く存在する<ref name="リー290">リー、290頁</ref>。
* 彼女の名に由来する[[小惑星]][[アンネフランク (小惑星)|アンネフランク]]がある。この小惑星には探査機が接近し、写真を撮影した。
* “Souvenir d'Anne Frank”（「スヴニール・ダンヌ・フランク」と読み、フランス語で「アンネの追憶」の意）」という名前の[[バラ]]がある。[[ベルギー]]の園芸家が作った新種のバラで、アンネの父オットー・フランクに贈られた。[[1972年]][[12月]]に、オットー・フランクより10本が日本に贈られた。また、[[1976年]][[3月]]に再び10本が贈られ、日本全国で「アンネのバラ」として育てられている<ref>[http://www.roseraie.jp/knowledge/annefrank.html 「Rose Garden」の「アンネのバラ」の紹介]</ref>。
* [[アパルトヘイト]]（人種隔離政策）に反対して投獄された[[ネルソン・マンデラ]]は、『アンネの日記』を読んで常に希望を失わなかったアンネの生き方に励まされたと述べている<ref name="黒川5"/>。
* アンネが屋根裏の採光窓から眺めたとされる隠れ家の裏の[[セイヨウトチノキ|マロニエ]]の木、通称「アンネの木」が、2010年8月23日に強風のため倒木した。倒木時は推定樹齢は150-170才で既に立ち枯れ状態であった。2006年に倒木の危険があるとして一度アムステルダム市が伐採を決定したが、国内外から反対運動があり、2008年に撤回されて鉄柵で保護されていた。なお建物への被害や怪我人はなかった<ref>[http://www.asahi.com/international/update/0823/TKY201008230450.html 朝日新聞「アンネが窓から眺めたクリの木、風雨で倒壊　オランダ」]</ref><ref>[http://www.yomiuri.co.jp/komachi/news/20100824-OYT8T00752.htm 読売新聞「隠れ家から眺めた「自由の象徴」アンネの木、力尽く」]</ref>。

==映画==
* ジョージ・スティーヴンス監督『[[アンネの日記 (1959年の映画)]]』（''The Diary of Anne Frank'', 1959）
* アルベルト・ネグリン監督『アンネの追憶』（''Mi ricordo Anna Frank'', 2009）<ref>[http://www.gocinema.jp/anne/ アンネの追憶]</ref>

== 注釈 ==
{{reflist|group=#|3}}

== 出典 ==
{{reflist|3}}

== 参考文献 ==
* {{Cite book|和書|author=黒川万千代著|year=2009|title=アンネ・フランク <small>その15年の生涯</small>|publisher=[[合同出版]]|isbn=978-4772604635|ref=黒川(2009)}}
* {{Cite book|和書|editor=[[早乙女勝元]]|year=1984|title=母と子で見る アンネ・フランク―隠れ家を守った人たち|publisher=草土文化|isbn=978-4794500373|ref=早乙女(1984)}}
* {{Cite book|和書|author=エルンスト・シュナーベル著|translator=[[原田義人]]|year=1958|title=アンネのおもかげ|publisher=[[みすず書房]]|asin=B000JAV3MK|ref=シュナーベル(1958)}}
* {{Cite book|和書|author=マティアス・ハイル著|translator=松本みどり|year=2003|title=永遠のアンネ・フランク|publisher=[[集英社]]|isbn=978-4087733921|ref=ハイル(2003)}}
* {{Cite book|和書|author=[[ミープ・ヒース]]著|translator=[[深町眞理子]]|year=1987|title=思い出のアンネ・フランク|publisher=文藝春秋|isbn=978-4163416304|ref=ヒース(1987)}}
* {{Cite book|和書|author=[[ラウル・ヒルバーグ]]著|translator=[[望田幸男]]・[[原田一美]]・[[井上茂子]]|year=1997|title=ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅 上巻|publisher=[[柏書房]]|isbn=978-4760115167|ref=ヒルバーグ(1997)上}}
* {{Cite book|和書|author=ジャクリーヌ ファン・マールセン著|translator=深町眞理子|year=1994|title=アンネとヨーピー <small>わが友アンネと思春期をともに生きて</small>|publisher=文藝春秋|isbn=978-4163485805|ref=マールセン(1994)}}
* {{Cite book|和書|author=メリッサ・ミュラー著|translator=畔上司|year=1999|title=アンネの伝記|publisher=文藝春秋|isbn=978-4163549705|ref=ミュラー(1999)}}
* {{Cite book|和書|author=メリッサ・ミュラー著|translator=畔上司|year=2000|title=アンネの伝記（[[文春文庫]]）|publisher=文藝春秋|isbn=978-4167136284|ref=ミュラー(2000)}}
* {{Cite book|和書|author=キャロル・アン・リー著|translator=深町眞理子|year=2002|title=アンネ・フランクの生涯|publisher=[[DHC]]|isbn=978-4887241923|ref=リー(2002)}}
* {{Cite book|和書|author=キャロル・アン・リー著|translator=橘高弓枝|year=2003|title=アンネ・フランク <small>隠れ家で日記を書き続けた少女</small>|publisher=[[偕成社]]|isbn=978-4036450107|ref=リー(2003)}}
* {{Cite book|和書|author=ウィリー・リントヴェル著|translator=酒井府・酒井明子|year=1991|title=アンネ・フランク 最後の七ヵ月|publisher=徳間書店|isbn=978-4193544435|ref=リントヴェル(1991)}}
* {{Cite book|和書|editor=オランダ国立戦時資料研究所編|translator=[[深町真理子]]|year=1994|title=アンネの日記―研究版|publisher=文藝春秋|isbn=978-4163495903|ref=オランダ(1994)}}

== 関連項目 ==
* [[アンネの日記]]
* [[アンネ・フランクの家]]
* [[ホロコースト教育資料センター]]
* [[深町眞理子]]
* [[石岡史子]]

== 外部リンク ==
{{Commons&cat|Anne Frank|Anne Frank}}
* [http://www.annefrank.org/ The official Anne Frank House website] {{en icon}}{{de icon}}{{nl icon}}
* [http://www.annefrankguide.net/en-GB/default.asp?resetculture=1 Anne Frank Guide] {{en icon}}{{de icon}}{{nl icon}}{{fr icon}}{{it icon}}{{cs icon}}
* [http://www.annefrank.com/ Anne Frank Center, USA Website] {{en icon}}
* [http://www.channels.nl/amsterdam/annefran.html The Anne Frank House]{{en icon}}
* [http://www.annefrank.de/ Anne Frank Zentrum]{{de icon}}
* [http://www.ushmm.org/museum/exhibit/online/af/htmlsite/ Anne Frank, the exhibition "An Unfinishted Story"] {{en icon}}
* [http://www.urban.ne.jp/home/hecjpn/  ホロコースト記念館] （広島県福山市）{{ja icon}}
* [http://www.annesrosechurch.com/kannai_01.htm アンネ・フランク資料館]（兵庫県西宮市） {{ja icon}}
* [http://www.ne.jp/asahi/holocaust/tokyo/  NPO法人ホロコースト教育資料センター(Kokoro)]（東京都新宿区）{{ja icon}}
* [http://www.am-j.or.jp/index2.htm アウシュヴィッツ平和博物館] （福島県白河市）{{ja icon}}
* [https://www.facebook.com/annefrank.kokoro  アンネ・フランクと希望のバラ(Kokoro教材)]{{ja icon}}

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