電機子チョッパ制御

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電機子チョッパ制御(でんきしチョッパせいぎょ)とは、鉄道車両において、直流電動機制御を行う方式の一つで、直流電流を高速度でスイッチングして切り刻む(チョップする)「チョッパ回路」を主回路主電動機電機子回路)に接続して電圧制御を行うもので、主回路チョッパ制御といわれることもある。単にチョッパ制御、もしくはサイリスタチョッパ制御というと、通常この方式をいう場合が多い。チョッパ回路、採用車両についてはチョッパ制御の項を参照のこと。なお、電機子電流界磁電流を独立して制御する方式を、「高周波分巻チョッパ制御」(4象限チョッパ制御)と区別する場合もある。本項ではそれについても解説する。

特徴

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本方式には以下のような特徴がある。

回生ブレーキの実現
中速域から低速域まで安定した回生ブレーキが使用可能であり、エネルギー消費量を減少できるほか、発電ブレーキ抵抗器を搭載しないですむため、車両の軽量化が可能となる。回路が昇圧チョッパを構成するため高速側では使用が限定され、電流を絞って回生電圧を下げるか、直列に抵抗器を挿入して電圧降下を利用する手法が取られる[1]
粘着性能の向上
抵抗制御系の制御方法とは違いステップのない無段階制御が可能であるため、粘着性能を向上させることが可能である。よって、同一加速性能であれば、動力車比率(MT比)を低下させることが可能である。
保守作業の低減
半導体素子を使った制御方式であるので、抵抗制御に用いられる制御器のような機械的な摺動部や接点が無く、保守作業を低減することが可能である。
力行時のエネルギー損失の低減
抵抗制御の場合特に起動時に電力損失を発生させるが、本方式ではそれを低減することが可能である。
装置が高価
これは本方式における最大の欠点である。本方式が多用された1970年代前半から1980年代後半の段階では、鉄道車両のような大きな電力を制御するための半導体機器が未発達な状態であり、価格も高価であった。
走行音
加速・減速時には一定の周波数で「プー」という特徴的な音が鳴る。これは高速で電源を入切するためである。例えば、A4、「ラ」の音が鳴っている車両では、約440Hzで電源直流電圧を細かく入切していることとなる。

歴史

この制御装置は扱う出力の大きさに対して発熱が少ないことから、地下トンネル内の温度上昇に頭を悩ませていた帝都高速度交通営団(営団。現在の東京地下鉄)が、昭和40年代から積極的に試験を行っていた。1965年(昭和40年)9月に荻窪線分岐線(現・丸ノ内線方南町支線)において三菱電機製の機器を2000形電車に搭載して直流600 V において試験が実施され、これが日本で初の実車試験とされている。その後は1966年(昭和41年)4月から5月にかけて日比谷線において3000系電車を使用して三菱電機ならびに日立製作所製の機器を使用して直流1,500V下において試験が実施された。この頃には阪神電気鉄道(阪神)、日本国有鉄道(国鉄)、都営地下鉄でも試験が実施されている。

この制御装置を日本で初めて採用したのは阪神の7001と7101形であった。しかし回生ブレーキを搭載しておらず、力行専用のチョッパ装置であった。これは阪神が省メンテナンスを目的として採用したためである。

本方式の回生ブレーキを世界で最初に実用化したのは、営団の6000系電車で、1968年(昭和43年)のことである。導入の主目的は、相次ぐ増発や地下水量の低下などで上昇していたトンネル内の温度に鑑み、抵抗器の発熱を抑制するためで、この後営団は本方式を標準とし、界磁抵抗を廃したAVF(自動可変界磁制御・Automatic Variable Field Control)式チョッパ制御(7000系電車で実用化)、さらに4象限チョッパへと改良を加え発展させながら長期間にわたって採用し続けた。

ファイル:Tobu2000-AFECHP.jpg
東武20000系電車のAFE式チョッパ制御装置

その後、オイルショックの洗礼を受けた緊縮経済下において、むしろ高効率の電力回生による省電力化性能が強く希求されるようになり、営団をはじめ、日本全国の公営地下鉄に続き、当時の国鉄も省エネ電車としての201系電車、併せて前述の6000系同様のトンネル内放熱抑制を狙った営団千代田線直通用の203系電車を大量生産したが、累積債務の増嵩に伴い、後の205系電車では安価な界磁添加励磁制御に方向転換した。

また、一部の大手私鉄でも、国鉄と同じく高性能化と省エネの両立を狙って試作車を製造[2]したが、特に高加減速性能を重視した阪神電気鉄道の「ジェットカー5131形・5331形電車、および千代田線同様に直通地下鉄線区における放熱抑止と高効率を狙った東武鉄道9000系電車20000系電車複巻電動機を使用したAFE(自動界磁励磁制御、Automatic Field Excite Control)式主回路チョッパ制御[3])のほかは本格導入に至らず、安価に回生ブレーキが使用できる(力行のみ抵抗制御の)界磁チョッパ制御を採用する場合が多かった。

その後1990年代に入ってブラシレスの交流電動機かご形三相誘導電動機)を使用するVVVFインバータ制御が価格、性能的に安定すると、保守省力化や運用経費において直流電動機に対し大きく優位となり、積極的に電機子チョッパ制御を導入していた営団も9000系電車以降ではVVVFインバータ制御を本格採用し、2000年代以降は既存の電機子チョッパ制御車両からの改造が進んでいる。2006年11月現在、日本における最も直近の建造例は、東京都交通局10-000形電車第27・28編成と京都市交通局10系電車第18 - 第20編成(いずれも1997年)である。

高周波分巻チョッパ制御

テンプレート:Double image stack 高周波分巻チョッパ制御(こうしゅうはぶんまきチョッパせいぎょ)とは、分巻電動機を用いて、機能的には電機子チョッパ制御と界磁チョッパ制御を組み合わせて制御を行うチョッパ制御方式である。

このチョッパ装置は、当時の営団が銀座線用の更新車両として計画した01系車両を設計するにあたり、従来のチョッパ制御装置では銀座線用としては機器が大きく、装置の小形化および軽量化が求められていた。このような経緯から高周波分巻チョッパ制御装置が開発された[4]

特徴と制御

この方式は4つの運転モードである「前進力行」「前進ブレーキ」「後進力行」「後進ブレーキ」を界磁励磁装置[5]を用いて連続的かつ無接点で行えることから4象限チョッパ制御 (4Quadrant: 4Q) とも呼ばれる。無接点で回路の切り換えを行えることから保守の低減が可能となっている。

このチョッパ装置が開発が可能になったのは高耐圧、大容量のGTOサイリスタが開発されたことが大きな理由とされている。

チョッパ装置の素子に高速スイッチング特性に優れたGTOサイリスタを採用することで、従来のチョッパ装置のチョッピング速度を3倍 - 4倍に高めた高周波チョッパが可能となる(チョッパ周波数を660Hzから2,000Hz以上に高周波化)。このため、従来はモーターに流れる電流を確保するために必要であった「主平滑リアクトル」が不要となる。さらに従来のサイリスタでは力行とブレーキ時(回生ブレーキ時)で回路を逆転させるための「転換器、転流装置」が必要とされていた。しかし、GTOサイリスタではこの装置が不要となり、さらにチョッパ装置の心臓部であるゲート制御装置に、当時最新のマイコン技術を使用し、従来のチョッパ装置と比較して大幅な小形軽量化を実現させた。

粘着性能は分巻電動機の特性に適した電機子と界磁を別々なチョッパ装置で制御[6]を行い、従来のチョッパ車の粘着値である16.8%から18%台へ向上された。さらに従来のAVF(自動可変界磁制御)式チョッパ制御と比較して床下艤装スペースで65%、機器重量は71%と約30%の小形軽量化が実現されている。

実用化と改良

ファイル:Tokyometro01-118.jpg
高周波分巻チョッパを採用した営団01系電車

この高周波分巻チョッパ装置(以下、分巻チョッパ)は1982年(昭和57年)4月に営団丸ノ内線において500形を使用して実車試験を実施した。この際には三菱電機が開発したGATT(Gate Assisted Turn-off Thyristor・ゲート補助ターンオフサイリスタ)素子の試験もかねて実施した[7]。しかし、01系を製造する当時はGTOサイリスタが主流化する傾向があったため、同系ではGTOを採用することになった。

その後、この分巻チョッパ制御を正式に採用したのは1983年(昭和58年)5月に銀座線用として落成した01系車両である。この車両の素子には電機子・界磁チョッパ装置ともに2,500V級のGTOサイリスタを採用している。

その後も営団地下鉄において1988年(昭和63年)に日比谷線用の03系、丸ノ内線用の02系東西線用の05系において改良が加えながら採用が続いた。

02系のチョッパ装置

02系用のチョッパ制御装置は01系用の装置とほとんど同じ仕様である。しかし、本形式は電機子チョッパ装置にはGTOサイリスタ素子を使用したが、界磁チョッパ装置には高耐圧パワートランジスタに変更して機器のさらなる小形軽量化を図った。なお、採用の約2年前にあたる1986年(昭和61年)11月には01系を用いて実車試験を実施している。

03系・05系のチョッパ装置

テンプレート:Double image stack 03系・05系用はシステムは基本的に01系用の装置を1,500V用としたものである。ただし、この2形式では艤装や保守の容易化、さらにMT比1:1で従来のチョッパ車並みの性能を実現させるために大きな改良が加えられている。

この1,500V用の装置は1987年(昭和62年)2月に東西線において5000系車両に試作した制御装置を搭載し、本線試運転を実施して実用化の試験を行った。なお、03系は05系の開発途中に日比谷線の輸送力増強が必要となり、急遽製造された形式である。

床下機器ではチョッパ装置を主チョッパ装置、ゲート制御部、界磁チョッパ装置や周辺機器などを1台の機器箱に集約することで、艤装の簡略化およびメンテナンスの容易化を図った。素子には電機子・界磁ともに1,500V用として4,500V級のGTOサイリスタを採用した。

制御装置は心臓部であるゲート制御部を16bitマイクロコンピュータとIC論理ロジックへの大幅な置き換えがされており、有接点部を減少させて装置の小型軽量化と無接点化を図った。

主回路は前述した高性能マイコンによる全デジタル制御の採用で、以下の制御機能が導入されている。

  • 電動車の各車軸速度を検出し、マイコンで速度差や加速度・加速度変化率を瞬時に比較演算をし、空転制御を行うことで最大限の粘着を行う「高粘着制御」の導入。
  • 上り・下り勾配および曲線など路線条件によって変化する加速度を限流値内で補正し、一定の加速度を引き出す「加速度一定制御」の導入。

この高精度のアダプティブクリープ制御(資料によってはアンチスリップ制御)によって粘着性能を19.1%に向上させ、MT比1:1で起動加速度3.3km/hを実現させた[8]

前述の通り、分巻チョッパ制御は営団地下鉄で積極的に採用を進めた。しかし、営団でも在来路線において1992年(平成4年)度から06系07系を最初にVVVFインバータ制御の本格的な採用が始まり[9]、同年度で本方式の採用は終了となった。なお、分巻チョッパを採用したいずれの4形式とも1993年(平成5年)以降に落成した車両はVVVFインバータ制御が採用されている。

日本の電車で、この分巻チョッパ制御を採用したのは前記した営団地下鉄の4車種のみである。新交通システムとしては横浜新都市交通シーサイドライン1000形および広島高速交通アストラムライン6000系で採用されている。

脚注

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高周波分巻チョッパについての参考文献

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関連項目

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  1. ちなみに、抵抗制御でも抑速ブレーキのように高速でなおかつ速度変化が安定している場合や界磁調整器を搭載している場合は、回生ブレーキは使用できる。
  2. 阪急2200系(また同社の2300系電車5300系電車の一部も試験的に電機子チョッパ制御に改造された)、南海8000系電車(初代)近鉄3000系電車のように試作車に関しては関西私鉄の方が積極的であった。
  3. 複巻電動機を使用の場合、電機子チョッパの呼び方は適切ではなく、主回路チョッパ制御が正しい。
  4. 帝都高速度交通営団「60年のあゆみ - 営団地下鉄車両2000両突破記念 - 」参照。
  5. 界磁チョッパ装置4組をブリッジ形に組み合わせた装置。
  6. 主制御装置は主チョッパ装置(電機子チョッパ)と界磁チョッパ装置の2種類のチョッパ装置で構成される。
  7. 『鉄道ピクトリアル』1999年3月号参照。
  8. 従来の分巻チョッパ制御を採用する01系・02系の粘着性能は18%台で、起動加速度は3.0km/h/s。
  9. 南北線用9000系は路線条件の都合から特殊な事例。