海上保安庁

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テンプレート:行政官庁 海上保安庁(かいじょうほあんちょう、テンプレート:Llang)は、日本行政機関の一つであり、①海上における人命および財産の保護ならびに②法律違反の予防捜査および鎮圧を目的とする、国土交通省外局である[1]略称海保(かいほ)、歴史的背景などから保安庁(ほあんちょう)、英語ロゴ標記の略称としてJCG[2]

概要

海上の安全および治安の確保を図ることを任務とする行政機関であり、国土交通省外局定員2011年平成23年)現在、12,636人である。主に、海難救助交通安全防災及び環境保全治安維持が任務の内訳となるが、現実には海洋権益の保全(領海警備・海洋調査)も任務としている。諸外国の軍艦への対応は海上自衛隊が担当し、非軍事の公船や民間船舶への対応は海上保安庁が担当する。

法律上、明確に軍隊ではないとされ[3]、「海の警察」と称する。だが、「Japan Coast Guard[2]」の標記などから、海上保安庁を諸外国の沿岸警備隊(コーストガード)、国境警備隊と呼ばれる準軍事組織と同様とする見解から、これらの組織が有事の際には軍隊の一部として参戦することが戦時国際法では認められていることや、自衛隊法でも特別の必要を認めるときは組織の全部や一部を防衛大臣の統制・指揮下に組み込めるなど、準軍事組織との比定が試みられる場合がある。なお、前述の条文(第25条)に従い海上保安庁法には戦時国際法に関する条文などは存在しない。

海上保安庁の職員数は約1万2千人、予算規模は約1800億円であり、その中の940億円(52%)が一般職の国家公務員人件費として費やされる。特別職の国家公務員である海上自衛隊は、人員約4万5千人、総予算規模約1.05兆円であり、防衛省予算に占める陸・海・空自衛隊の総人件・糧食費の比率は44.5%になる。

人員の大部分は、海上保安大学校海上保安学校で専門教育を受け卒業した生え抜きの海上保安官であるが、長官次長、一部の管区海上保安本部長等は、国土交通省や他省庁キャリア官僚が海上保安官に転官したうえで就くことが多い。

英称1948年(昭和23年)の開庁当初より米国の主張から、その時々に「Maritime Safety Board」や「Maritime Safety Agency」を用いた歴史的な経緯がある[4]2000年(平成12年)4月より、「広く国民の皆様に海上保安庁の業務を分かりやすく理解していただくため、海上保安庁のロゴ、ロゴマーク及びキャッチコピーを定めた。」[2]との公表後に、権限や法律の変更は全くないが、2001年以降は船舶などへも、このロゴを用いたJapan Coast Guard(略称: JCG :直訳すると「日本沿岸警備隊」)に変更している。

2012年5月現在、合計432隻の船艇、72機の航空機、また2014年現在、5369基の航路標識[5]を保有している。

歴史

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任務

  1. 警備業務:海に関わる犯罪捜査警備などの海の公安警察警備警察としての業務(領海警備を含む)
  2. 救難業務海難救助離島急患搬送船舶消火汚染防止など、海の消防機関としての業務
  3. 海洋情報業務海図の作成、潮流の測定、防災のための海底火山海底断層の調査など、海の測量機関としての業務。大陸棚の問題など、排他的経済水域における日本国政府の立場の正当性を科学的に立証することも任務である。
  4. 交通業務灯台の設置・管理、航行支援システムなど、海の交通警察海事情報提供機関としての業務
などを所管する。設置根拠は国家行政組織法第3条第2項及び海上保安庁法第1条、なお、警備業務等を円滑に実施するため、海上保安官は海上保安法第31条、刑事訴訟法第190条により特別司法警察職員と規定されている。

また、創設当時の海上保安庁(保安局)は、当分の間旧海軍艦船の保管に関する事務を掌るものとされていた[6]

担任水域

領海接続水域排他的経済水域(EEZ)、日米SAR協定に基づく捜索救助区域(本土より南東1200海里程度)である。このうち領海とEEZを合わせた面積だけでも約447万km2あり、領土(約38万km2)の約11.8倍に相当する。これにSAR協定分担域を合わせると、国土面積の約36倍という広大な水域を担当していることになる。捜索救難任務で、海上保安庁の巡視船や航空機だけでは対処困難な場合は、各管区海上保安本部から海上自衛隊航空自衛隊災害派遣の要請が出される。災害派遣の要請を受けた海上自衛隊では、護衛艦哨戒機救難飛行隊などを派出して海上保安庁の活動に協力する態勢が敷かれる。同様に航空自衛隊の場合は、主に航空救難団救難隊1958年(昭和33年)より数多くの捜索救難などの活動で海上保安庁に協力して来ている。

活動範囲は当初、「海峡その他の日本国の沿岸水域において」(制定時の海上保安庁法第1条第1項)と限定されていたが、後に改正されて単に「海上において」と規定され、活動範囲の限定が解除された。そのため、活動範囲は全世界に及ぶ。一例として、専用船「しきしま」によるヨーロッパ - 日本間のプルトニウム輸送護衛任務、マラッカ海峡おける海賊捜索任務などがある。

その任務の過程で得たノウハウを、各国の水上警察沿岸警備隊に提供することもある。マレーシアインドネシアフィリピンなどの東南アジアには、海上保安庁の職員や退職者を国際協力機構を通じて人員を派遣している。特にテンプレート:仮リンクについて、海上保安庁はその創設から携わり、海上保安庁が手塩にかけて育てた組織という評価もある[7]

海上保安庁の性格

海上保安庁は海上における警察消防救難交通業務を総合的に司ることを念頭に設置された海上警察機関であり、国家行政組織法に基づく行政機関である。また、海上保安庁法第25条テンプレート:Refnestにより、海上保安庁は軍隊ではない事が規定されている。そのため、シンボルマーク記章類・制服等は軍隊色をイメージしないものが取り入れられるよう配慮されている。巡視船艇の船舶自体の運航体制は、民間船舶とほぼ同様であり、海上保安業務等は残りの乗組員(職員)により執行される。また停泊中は数名の当直を残し船内もしくは宿舎等で待機する。

しかし、世界的に海軍沿岸警備隊は共通する部分が多く、制服のデザインも類似しているため他国の沿岸警備隊に準じた制服を採用している日本の海上保安庁も実際には、海上自衛隊を含む各国海軍の軍服に類似しており、世界的に見た場合、一般的に主権を行使できる国境警備隊・沿岸警備隊は「準軍事組織」と認知されるため、海外の報道や資料では、海上保安庁を「準軍事組織」として扱っている場合もある。また、かつて海上保安庁などの統合目的で創設された保安庁への移行時期には、内部組織の海上警備隊(沿岸警備隊)が短期間ながら準軍事組織として存在したテンプレート:Refnest

なお、海上における準軍事組織とは、国際法国連海洋法条約)の観点から軍艦が定義されており、乗組員についても階級と名簿が必要である[8]。また、海上保安庁の階級は「官職名の沿革」からも分かるように、船舶に乗り込む行政職員として船長航海士機関長通信士甲板員主計員などの職責・職務の範囲を示す船員制度に近くテンプレート:Refnest、このことからも海上保安庁が準軍事組織であるとは言い難く、資料などによる「準軍事組織」としての扱いは日本の国内事情や法体制などがあまり知られていないことによる。

海上自衛隊との関係

海上保安庁は国土交通省(旧運輸省)の機関(外局)であり、海上での警察および消防機関として領海排他的経済水域警備を第一の任務として、主に民間船舶を任務対象としている。それに対して行政上別系統である防衛省特別の機関である海上自衛隊は、主に他国の軍艦軍用機を対処目標として存在し、防衛大臣による海上警備行動の発令によって初めて洋上の警備行動が取れる。

海上保安庁は第二次世界大戦終戦前までの高等商船学校出身の旧海軍予備士官が中核を担い1948年5月設立されたのに対し、海上自衛隊の前身・海上警備隊海軍兵学校出身の旧海軍正規士官が中核を担って海上保安庁内に1952年4月設置された。

高等商船学校生は卒業時に海軍予備少尉又は海軍予備機関少尉に任官され、戦時中召集されると海防艦の艦長、特設艦艇の艦長・艇長、あるいはそれらの艦艇の機関長等として船団護衛、沿岸警備の第一線で活躍したほか、乗り組んでいた商船が船ごと軍に徴用されて危険海域の物資・兵員輸送業務に従事するなど、予備士官といえども海軍兵学校出身の正規士官に負けない働きをした。 それでも海軍兵学校を頂点とするエリート意識がアイデンティティである旧海軍の学閥偏重主義、学歴至上主義のため、優秀なエキスパートであっても予備士官は将校とはされず、有事の際には指揮権継承の優先権を軍令承行令に基いて、将校たる正規士官より下位とされた。太平洋戦争では高等商船学校出身者の戦死率が海軍兵学校出身者よりもむしろ高く、これが後世に至るまで海上保安庁(高等商船学校出身者)と海上自衛隊(海軍兵学校出身者)の関係に禍根を残してきた。

1999年能登半島沖不審船事件が発生し、事態が海上保安庁の能力を超えているとして海上自衛隊に初の海上警備行動が発動された。このときの反省を受け事件後に、海上保安庁と海上自衛隊との間で不審船対策についての「共同対処マニュアル」が策定され、戦争中の旧海軍内での立場や受けた仕打ちに端を発して設立時の恨みから長らく続いてきた両者間の疎遠な関係を改善する切っ掛けとなり、情報連絡体制の強化や両機関合同の訓練が行われるようになった。この時点では上級幹部に至るまで防衛大学校海上保安大学校出身者が占めるようになっていた。また高速で防弾性に優れ長距離射撃能力が付与された巡視船が建造されるようになった。さらに2001年には海上警備業務における武器使用基準を定めた海上保安庁法第20条第2項の改定が行われ、一定の条件下に限って該船の乗員に危害射撃を加えても海上保安官の違法性が阻却(免責)されるようになった。この改定の直後に九州南西海域工作船事件が発生したが、事態が改定された要件に当てはまらなかったため、仮に該船の乗員に危害射撃をした場合に海上保安官の違法性が問われる恐れのある状態で、敢えて船体射撃を行った。

なお、海上警備行動時には海上自衛隊が海上保安庁の任務を一時的に肩代りするものであるから、海上自衛隊も警察官職務執行法海上保安庁法準用して行動する。

防衛大臣による指揮

自衛隊法第80条テンプレート:Refnestにより、自衛隊の防衛出動治安出動があった際に特に必要な場合には、内閣総理大臣の命令により防衛大臣の指揮下に組み入れられる可能性がある。これは、初期の海上保安庁(後に海上警備隊創設)の設立モデルとなったアメリカ沿岸警備隊が、戦時にはアメリカ海軍の指揮下に入って軍隊として運用される規定に倣ったものである。

ただし、防衛大臣の指揮下に入った場合でも、その行動範囲や活動権限は特に通常時と変わらない(特に武器の使用については、あくまでも警察官職務執行法に従わなければならない)ことから、あくまでも自衛隊が必要とするところ(自衛隊施設など)への警備を手厚くするよう指示したり、実際の警備行動において自衛隊と海上保安庁の各部隊を一元的に指揮し、両者の連携を円滑にする程度に留まると思われる。また、「文面を見る限り、自衛隊法第80条は、海上保安庁法第25条と矛盾するのでないか」との指摘もあるが、防衛大臣の海上保安庁の部隊に対する指揮は、直接行われるのではなく、海上保安庁長官(文官)に対して(間接的に)行われるに過ぎない[9]。そのため、矛盾しないものと考えられている。

その他の大臣による指揮

海上保安庁長官は海上本保安庁法第10条ただし書により「国土交通大臣以外の大臣の所管に属する事務については、各々その大臣の指揮監督を受ける」とされており、例えば、漁業関連の取締りでは農林水産大臣の、出入国関係では法務大臣の指揮監督下にある。

組織

テンプレート:Main2 テンプレート:海上保安庁職員数は12,671名であり、これは愛知県警察とほぼ同じである。参考までに、全国の警察官は257,125名(2010年4月1日)、海上自衛官は45,517名(2012年4月1日)である。

  • 予算: 1779億円(2012年度予算)(参考: 2011年度海上自衛隊予算は約1兆1008億円)
  • 船艇: 448隻(2012年3月現在)
  • 航空機: 73機(2012年3月現在)

長官と特別な職

内部部局

内部部局として、5つの部と2名の監察官が置かれている。

施設等機関

施設等機関として、2つの文教研修施設が設置されている。

地方支分部局

地方支分部局として、11の管区海上保安本部が設置されている。

管区海上保安本部

各管区の担当区域は、特記のない限り、当該都道府県の区域(陸地)、沿岸水域及びその沖合い水域を担当する。

各海上保安本部の管区担当区域
管区名 本部所在地 担当区域
第一管区 北海道小樽市 北海道(北方領土含む)
第二管区 宮城県塩竈市 青森県岩手県宮城県秋田県山形県福島県(沖合い水域は太平洋側のみ担当)
第三管区 横浜市中区 茨城県栃木県群馬県埼玉県千葉県東京都神奈川県山梨県静岡県
第四管区 名古屋市港区 岐阜県愛知県三重県
第五管区 神戸市中央区 滋賀県京都府南丹市以南)、大阪府兵庫県瀬戸内海側)、奈良県和歌山県徳島県高知県
第六管区 広島市南区 岡山県広島県山口県山口市以東の瀬戸内海側)、香川県愛媛県
第七管区 北九州市門司区 山口県(宇部市以西の瀬戸内海側、日本海側)、福岡県佐賀県長崎県大分県(水域上は熊本県有明海も担当)
第八管区 京都府舞鶴市 京都府(京丹波町以北)、福井県兵庫県日本海側)、鳥取県島根県竹島含む)
第九管区 新潟市中央区 新潟県富山県石川県長野県(沖合い水域は東北地方の日本海側も担当)
第十管区 鹿児島市 熊本県(水域上は有明海を除く)、宮崎県鹿児島県
第十一管区 沖縄県那覇市 沖縄県(尖閣諸島含む)

管区海上保安本部の事務所

装備

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海上航行に不可欠な羅針盤をデザインしたシンボルマークを使用している。

マスコット

1998年、設立50周年を記念してマスコットキャラクターが制定された。タテゴトアザラシの子供をモチーフに「うみまる」が制定されている。2002年には妹分で女性保安官をイメージした「うーみん」も制定された。これらのキャラクターは広報活動で積極的に用いられている。また、秋田なまはげ青森ねぶた等の全国のご当地バージョンも存在する。

脚注

注釈

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出典

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参考文献

公的刊行物

一般刊行物

定期刊行物

関連項目

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外部リンク

テンプレート:国土交通省 テンプレート:海上保安庁2 テンプレート:海上保安庁の巡視船 テンプレート:日本の特殊部隊 テンプレート:日本の救助隊

テンプレート:日本のドクターヘリ
  1. 海上保安庁法(昭和23年法律第28号)第1条
  2. 2.0 2.1 2.2 平成12年版海上保安庁白書広く国民の皆様に海上保安庁の業務を分かりやすく理解していただくため、海上保安庁のロゴ、ロゴマーク及びキャッチコピーを定めた。」
  3. 海上保安庁法第25条
  4. 『よみがえる日本海軍(上)』p.129
  5. 光波標識5266基・電波標識58基・その他の標識45基
  6. 制定時の海上保安庁法附則第35条。
  7. テンプレート:Cite news
  8. 国連海洋法条約 条文第2部(英文)Definition of warships: For the purposes of this Convention, "warship" means a ship belonging to the armed forces of a State bearing the external marks distinguishing such ships of its nationality, under the command of an officer duly commissioned by the government of the State and whose name appears in the appropriate service list or its equivalent, and manned by a crew which is under regular armed forces discipline.:条文で軍艦などの「艦」とつく船の定義(乗員についても)が行われている。政府用船(巡視船等)については“government ships”としている。
  9. 自衛隊法施行令第103条「法第80条第2項 の規定による大臣の海上保安庁の全部又は一部に対する指揮は、海上保安庁長官に対して行うものとする。」。