マスタリング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年7月17日 (木) 01:51時点におけるたまま1999 (トーク)による版 (音圧優先のマスタリングの問題)
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

マスタリングmastering)とは、

  1. 様々な素材、内容を記録媒体(CDDVDBlu-ray Disc、LPレコード、ビデオテープ等)に収録し、量産用プレスをする際のマスター(原盤)を作成する作業。これは音楽に限らずコンピュータゲームパソコンソフト、データを収録したCD-ROMDVD-ROMBD-ROMの他、DVD-VideoDVD-Audio等のメディアの種類を問わず原盤を作成する事を意味する。原盤製作作業。
  2. 録音による音楽作品制作において、ミキシングして作られた2トラック音源(トラックダウン音源、または2ミックス音源)を、イコライザーコンプレッサー、その他のオーディオ・エフェクト機器を用いて加工し、CDやDVDやBD、インターネット上の投稿サイトといった最終的なメディアに書き出すために、音量や音質音圧を調整すること。

原盤製作

原盤製作においても、広義のマスタリングと狭義のマスタリングの二つの用法が存在する。原盤製作作業における狭義のマスタリングとは、量産プレスの為に、プリマスタリング(後述)によって作成された内容で原盤(スタンパ)を作成する工程を指す。原盤製作作業における広義のマスタリングには、プリマスタリングとスタンパ作成の両方の行程が含まれる。

原盤製作作業において一般的にマスタリングと言えばプリマスタリングの事、もしくは広義のマスタリングを指すことが多い[1]

プリマスタリング

通常、収録内容、収録順序の決定、内容編集等の工程がマスタリングの前に必要となる。これはプリマスタリング(pre-mastering)と呼ばれる。

音楽メディアのプリマスタリング
音楽CD、DVD-AUDIO等の音楽メディアの場合はミキシング(ミックスダウン)して作られたマスターテープから、曲順の決定や、フェードイン・フェードアウトなどのクロスフェード作業、最終的な曲のレベルや音質、音圧調整、曲間の編集等[2]を経て、CDカッティング用マスターテープ(現在はプリマスターCD-RDisc Description Protocolファイル)をつくる作業を指し、通常、マスタリングスタジオで行われる。音楽メディアにおけるプリマスタリングは、楽曲やアルバム全体の最終的な印象を決める重要な作業である。
音楽メディア以外のプリマスタリング
その他のCD-ROM、DVD-ROM等の媒体の場合は、内容を編集し、マスターを製作する為の原盤の原盤を製作する作業をプリマスタリングと呼ぶ。プリマスタリングされた内容はCD-R等に記録される。

リマスタリング

1990年代半ば以降、有名アーティストの古い作品(多くは1960 - 80年代)がリマスタリングやデジタル・リマスター(デジタル・リマスタリング)等と称して再発されている。これらは、プリマスタリング及びマスタリングをやり直した作品である。[3]この際、リマスタリングをデジタル機器で行うことをデジタルリマスターと呼ぶ。古い音源を最新の音響技術を用いてマスタリングし直す事で、より現代的な音像で楽しむ事ができる(レコーディングやミキシング自体は古い為、完全に現代的になる訳ではない)。

音質・音圧調整

録音による音楽制作においては、最終的にCD等の形で量産されないものも多い(放送局のジングルやCM音楽など)。だが、こうした音楽制作においてもミックスダウン後の2トラックマスターの音圧や音質を調整する作業は必要である。このような作業もマスタリングと呼ばれる。

元々音質・音圧調整という意味でのマスタリングは、単に全収録曲の質感や音量差を違和感なく整えるといった意味だけでなく、マスターテープの音声データをアナログ・レコード盤に起こす際に生じる音質の大きな変化を是正するための工程という目的も大きな部分を担っていた。その為、デジタル音源はマスターテープの音質を忠実に再現出来るとして70年代後半~90年代前半のCD時代初期には、せいぜいレベルを合わせる程度で積極的な処理は行われていなかった。しかし、90年代も半ばを迎える頃には単純にデジタル化しただけではCDメディアの特性にマッチしておらず、アナログ・レコード時代のように最終的なメディアに適した音質に調整するべきだという認識が広まり、現在に至っている[4]

しかしながら現在ではレコーディング・ミキシングもフルデジタル化していることもあり、楽曲単位であればミキシングの段階でCDに最適化したようなマスタリングに準ずる処理を簡単に行うことが可能になっている。よって”アナログのマスターテープをデジタル化する際にCD音源用に質感を最適化する”という意味でのマスタリングは、アナログ・レコード時代の作品のCD化や、マスターがアナログテープであった時代のCD作品をリマスター再発する場合などに限られている。その為、現在では「マスタリングといえど積極的な音づくりを行う」、「出来る限りミキシング時の音を尊重し、マスタリングでは最低限の処理以外行わない」、「TDデータがCD規格(16Bit/44.1KHz)を大きく上回る品質(24Bit/96KHzなど)なので、CD規格の品質にコンバートした際の変質を考慮して積極的な処理を行う」またはそれらの折衷方針など、マスタリング・エンジニアやミュージシャンの意向によりマスタリングに対する姿勢や処理方針は千差万別となってきている。

具体的な音質・音圧調整の作業例

具体的な音質・音圧調整作業の手順は非常に複雑であり、またそれを行うエンジニアによって使用機材も手順も千変万化するが、ここではマスタリングエンジニアの葛巻善郎による作業例を示す[5][6]

  1. 2種類のコンプレッサーを通して音源をコンピュータに取り込む。うち1機はコンプレッションを行わず、単に回路を通して音質を変化させる為のみに用いられる。
  2. 音楽編集ソフトを起動、VSTプラグイン・ソフトを呼び出して3つの帯域にパラメトリック・イコライザーをかける。
  3. ノイズ除去用プラグイン・ソフトを呼び出してデジタルノイズを一定の割合で除去。
  4. 再び、別のプラグイン・ソフトを呼び出してコンプレッサーをかける。
  5. 2とは別の音楽編集ソフトを起動し、同時に2系統のイコライザーを使用して音質調整。

音圧優先のマスタリングの問題

テンプレート:See also

マスタリングの根幹の一つは音圧調整であるが、1990年代半ば以降、一聴しただけで耳に残る(即ち売れる)ようにするために音圧を限界まで上げるマスタリングが流行している[7][8]。こうしたマスタリングでは音圧を稼ぐ為にダイナミックレンジが犠牲となる為、生楽器を多く使う音楽では演奏者の意図が薄められてしまう弊害が指摘されている。前出の葛巻は、欧米ではこういった音圧競争も徐々に薄まってきているが、日本国内では相変わらず音圧至上主義のマスタリングが支配的であるとコメントしている。

3Mテープ使用のマスターテープについて

大滝詠一のA LONG VACATIONの記述の中に『1989年に初の『公式』リマスター盤が発売されたが「まだ世間的にはリマスタリングなんて言葉も無かったころですが、実は我々にしてみればこの時点で4回目のマスタリングだったんです。で、この時はアナログ・マスターからPCM-1630のU-Maticに落としました。その際『アナログ・マスターが危険な状態にある”という話を聞かされたんです。1980年から83年までの3Mのテープは全体的に不具合があるという通達が来たのですよ。磁性体がボロボロ落ちて音が出なくなると。普通アナログは経年変化で最後はダメになるのだけど、この時期のテープはそれより早くダメになるという』とある。 一例を挙げると、松任谷由実のこの時期に当たるマスターテープも同じ状態にあり、1999年にリマスタリングした際(東芝EMI時代にピンク色の帯で再発売された作品)には、特殊なオーブンで磁性体を一時的に定着させ作業を行った、という記述が当時の音楽雑誌にあり、『最終リマスター』と言われている。ちなみに3Mはその時期会社内で自社製のテープを使ったアルバムに『最優秀録音アルバム賞』というものを贈る風習があり、1982年の受賞アルバムに、『パール・ピアス/松任谷由実』『ユートピア/松田聖子(こちらはデジタル・マスター)』があり、これらがオリジナルのマスターからデジタル化されているのかは謎である。

脚注

  1. 市販のCD/DVD/BDライティングソフトでマスタリングと表記されている場合も、こちらを指す。CD/DVD/BDライティングソフトをマスタリングソフトと呼ぶ事もある。
  2. なお、すでにトラックダウンされたギターベースなどの個々の楽器のバランスをマスタリング作業において調整することはできない。これらはミキシングにおける作業である。
  3. 楽器や音声素材ごとに定位・音量バランス等、全ての編集をやり直す作業にリミックスがあるが、リマスタリングとは異なる。もっとも、ミキシングはマスタリングの前に行う作業なので、リミックス音源は即ち、リマスタリング音源であるとも言える。だが、ただ単に「リマスタリング」と記載されている音源は、大抵リマスタリングのみで、リミックスは行われていない。編集そのものからのやり直すリミックスは、古い時代に編集をされた音源を使用したリマスタリングと比較すると、より現代的な音像を期待できる。
  4. 日本コロムビア LPファクトリーコラム
  5. 永野光浩『マスタリング』音楽之友社、2004年、75-79ページ
  6. もちろん、この作業工程とは全く異なる手順を踏むエンジニアも多くおり、この工程が標準という訳ではない事に留意が必要である
  7. マスタリングとミックスダウン
  8. コンプレッサー (音響機器)や英語版ウィキペディアのLoudness warも参照の事

関連項目