SI接頭辞

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テンプレート:数量の比較 SI接頭辞(エスアイせっとうじ)は、国際単位系 (SI) において、SI単位の十進の倍量・分量単位を作成するために、単一記号で表記するSI単位(唯一、質量の単位は例外でSI単位でないgに適用する)の前につけられる接頭辞である。国際単位系(SI)国際文書第8版(2006年)日本語版[1]理科年表日本工業規格JIS Z 8203JIS Z 8202、他多数)ではSI接頭語(エスアイせっとうご)と言う。また、計量単位令[2]政令)や計量単位規則[3]省令)では単に接頭語と言う。

「SI」とついているが、SIにしか使えないということではない。名前の異なる多くの単位を使う代わりに1つの単位にさまざまな接頭辞をつけるという発想は、SIの導入よりも早くフランスでメートル法が施行された1793年にまでさかのぼるものであり、慣例としてSI接頭辞は多くのSIに属さない単位にも使用される。

SI接頭辞は、SIの構成要素として国際度量衡総会 (CGPM) によって決定されている。

概要

各物理量にメートルグラムなど基準となる1つの単位だけを定義し、それに10の累乗倍の数を示す接頭辞を付けることで、大きな量や小さな量を表す。例えば、接頭辞「キロ」は1000倍を表す。よって、「キロ」メートルは1000メートルに、「キロ」ワットは1000ワットになる。接頭辞「ミリ」は1000分の1を表す。よって、「ミリ」メートルは1000分の1メートルに(すなわち1メートルは1000ミリメートル)、「ミリ」リットルは1000分の1リットルになる。

例:

  • 5 cm = 5 × 10−2 m = 5 × 0.01 m = 0.05 m
  • 3 MW = 3 × 106 W = 3 × 1 000 000 W = 3 000 000 W

利点

ある物理量について1種類の単位(例えば長さについてのメートル)しかなかったら、非常に大きな数字や小さな数字を扱わなければならなくなる。尺貫法ヤード・ポンド法などの伝統的な単位系では、異なる値の複数の単位(例えば)を用意し、それらを組み合わせて値を表現していた。これで、扱う数字を小さくするという目的は達せられたが、色々な単位を覚えなければならない。

メートル法はこれに対し、同じ接頭辞を様々な単位につけるだけで単位を様々な大きさにすることができ、伝統的な単位系のような大きさによって全く別の単位を覚える必要がない。

また、十進法なので計算のための換算も簡単にできる(尺貫法のように接頭辞を使わずとも部分的に十進法を採用していた度量衡もあるが、全面的に採用することは難しい)。これはメートル法の大きな利点の1つである。

欠点

単位名称が長くなりがちで、そしてそれらはしばしば接頭辞だけに略され、さまざまな「キロ~」が単に「キロ」と呼ばれるなど紛らわしい事態になる。

体積など次元に高い次数(体積では3)を持つ物理量の単位では、桁が開きすぎてしまう。たとえば、キロは1000倍なのに、立方キロメートルは10億(109)立方メートルにもなってしまい使いづらい。ただしこれは、「1つの単位にさまざまな接頭辞を付ける」という原則が崩れているためである(もしその原則を押し通すなら、1000立方メートルをキロ立方メートルと呼ぶことになる)。

従来の度量衡に比べれば広い範囲の値を表せるが、それでも原子・素粒子や宇宙に関しては接頭辞が足りない。そのため、これらの分野では指数表記や特別な単位が使われることが多い。そういった単位のいくつかはSI併用単位に指定されている。

これらの分野で特別な単位が使われるのには、桁が違いすぎるという理由のほか、計量技術がまったく異なるせいで換算係数が精度よく求まらないという理由もある。たとえば天文単位が何キロメートルか正確にわかるようになったのは、惑星間の距離を地上の距離と同じ技術(電磁波の届く時間)で測れるようになった20世紀後半になってからであり、それまでは惑星間の距離をメガメートルやギガメートルで正確に表すことはできなかった。地球質量統一原子質量単位は、現在もキログラムとの正確な換算比がわかっていない状態である。

一覧

SI接頭辞
接頭辞 記号 漢数字表記(命数法) 十進数表記 語源
1024 ヨタ (yotta) Y 一[[じょ|テンプレート:JIS2004フォント]] 1 000 000 000 000 000 000 000 000 イタリア語「8」
1021 ゼタ (zetta) Z テンプレート:01 000 000 000 000 000 000 000 イタリア語「7」
1018 エクサ (exa) E テンプレート:01 000 000 000 000 000 000 ギリシャ語「6」
1015 ペタ (peta) P テンプレート:01 000 000 000 000 000 ギリシャ語「5」
1012 テラ (tera) T テンプレート:01 000 000 000 000 ギリシャ語「怪物」
109 ギガ (giga) G テンプレート:01 000 000 000 ギリシャ語「巨人」
106 メガ (mega) M テンプレート:01 000 000 ギリシャ語「大きい」
103 キロ (kilo) k テンプレート:01 000 ギリシャ語「1000」
102 ヘクト (hecto) h テンプレート:0100 ギリシャ語「100」
101 デカ (deca, deka) da テンプレート:010 ギリシャ語「10」
100 テンプレート:N/A テンプレート:N/A テンプレート:01 テンプレート:N/A
10-1 デシ (deci) d テンプレート:00.1 ラテン語「0.1 (10)」
10-2 センチ (centi) c テンプレート:00.01 ラテン語「100」
10-3 ミリ (milli) m テンプレート:00.001 ラテン語「1000」
10-6 マイクロ (micro) µ テンプレート:00.000 001 ギリシャ語「小さい」
10-9 ナノ (nano) n テンプレート:00.000 000 001 ギリシャ語「小人」
10-12 ピコ (pico) p テンプレート:00.000 000 000 001 イタリア語「小さい」
10-15 フェムト (femto) f 須臾 テンプレート:00.000 000 000 000 001 デンマーク語・ノルウェー語「15」
10-18 アト (atto) a 刹那 テンプレート:00.000 000 000 000 000 001 デンマーク語・ノルウェー語「18」
10-21 ゼプト (zepto) z 清浄 テンプレート:00.000 000 000 000 000 000 001 ギリシャ語「7」
10-24 ヨクト (yocto) y 涅槃寂静 テンプレート:00.000 000 000 000 000 000 000 001 ギリシャ語「8」

テンプレート:1e以上のSI接頭辞には、以下のような規則が見られる。

  • 倍量の接頭辞は最後が a で終わり、記号は大文字
  • 分量の接頭辞は最後が o で終わり、記号は小文字

ただし、メートル法の初期に作られた、テンプレート:1eまでの接頭辞は、このルールに従っていない。

記号はほぼ全てラテン文字1文字だが、デカ (da) とマイクロ (µ) だけが例外である。ただし ギリシャ文字が使えない場合にマイクロを u で表すことが ISO 2955 で認められている。

使用法

接頭辞は常に累乗に優先する。例えば “km2” は「平方キロメートル」であって「キロ平方メートル」ではない。3 km2 は 3 000 000 m2 であって 3000 m2 ではないし、もちろん 9 000 000 m2 ではない。SI接頭辞は通常は1000倍ごとのステップとなるが、2の累乗を伴う場合は 1 000 000(100万)倍ごと、3の累乗を伴う場合は 1 000 000 000(10億)倍ごとのステップとなる。そのため、このような場合には、大きな数字を使わなければならなくなる。

SI接頭辞は3の倍数の累乗となっているものを使用するのが推奨される。よって 1 hm(ヘクトメートル)よりも 100 m とする方がよい。著名な例外はセンチメートルヘクタール(hect-are)、デシリットル立方センチメートル(これはミリリットルと等しい)、ヘクトパスカルデシベルである。日本ではSI接頭辞の原則には適っていても、接頭辞と単位の組み合わせの多くは、科学や技術の分野を含めてほとんど使用されることがないが、外国ではデシメートルセンチリットルなど、頻繁に使用されている。

「デカ」の英語表記は、SI公式文書によれば、decaのみである[4]。アメリカ合衆国においてはNISTがその表記をdekaに定めており[5]、同国においてのみ用いられている表記である。

二重接頭辞、すなわち複数の接頭辞を同時に使用することはかつては行われていた。だが、SI導入の際に廃止されたため現在では二重接頭辞の使用はできない。かつての使用例に、テンプレート:1e-メートルを1nm(ナノメートル)と言わずに1µmm(マイクロミリメートル)や1mμ(ミリミクロン)と言った例があり、他にも 「マイクロマイクロファラド」(ピコファラド)、「ヘクトキロメートル」(100キロメートル)、「キロメガサイクル」(ギガヘルツ)等が使われていた。

キログラムSI基本単位の中で唯一接頭辞がついており、グラムはその質量の1000分の1として定義されている。しかし、SIでは二重接頭辞は認めていないので、接頭辞はキログラムではなくグラムに対してつけられる。

かつて使われていた接頭辞に「ミリア」(myria, 104) があったが、SIが導入される以前の1935年に廃止された(さらにミリオ (myrio, テンプレート:1e-) があったとも言われる)。それは、これらの接頭辞が3の倍数の累乗のパターンに入っていないことや、これらの接頭辞に割り当てられる記号がない(m は既に使われており、のちに M, µ も使われた)こと、そしてあまり用いられていなかったことのためである。

  • 質量: ヘクトグラム、グラム、ミリグラム、マイクログラム、およびそれよりも小さいものが使用される。しかし、大きいものが使用されるのはまれであり、代わりにトンや指数表記が使用される。トンと等しいメガグラムは、非SIのトンとSIに基づくトンを明確に区別するために用いられることがある。
  • リットルによる体積: リットル、デシリットル、センチリットル、ミリリットル、マイクロリットル、およびそれよりも小さいものは使用される。大きなものでは、キロリットル、メガリットル、ギガリットルが使用される。
  • 長さ: キロメートル、メートル、デシメートル、センチメートル、ミリメートル、およびそれ以下のものが使用される。メガメートル、ギガメートル、およびそれ以上のものが使用されるのはまれである。大きな長さ(距離)を示すときには天文単位光年パーセクが使用されており、天文単位は非SI単位であるがSIと併用して良い単位とされている。
  • 時間: 、ミリ秒、マイクロ秒、およびそれより小さなものは使用される。秒よりも大きな時間には通常はなどや指数表記が使用される。また、秒にSI接頭辞を付けて「キロ秒」、「メガ秒」のように使うことはできるが、分や時間にSI接頭辞を付けて「キロ分」のように使うことはできない。

歴史

1793年に制定された最初のメートル法では、10倍刻みでテンプレート:1eまでのデカ、デシ、ヘクト、センチ、キロ、ミリの6つの接頭辞が定められた。名称は、倍量接頭辞はギリシャ語の「10」「100」「1000」、分量接頭辞はラテン語の「0.1(10とも)」「100」「1000」から作られた。

1795年ミリア (テンプレート:1e) が導入された。ミリアはギリシャ語の「10000」から作られた。しかしそれ以上の接頭辞は作られず、デシミリ (dm = テンプレート:1e-)、ヘクトキロ (hk = テンプレート:1e)、センチミリ (cm = テンプレート:1e-) などの二重接頭辞が使われた。なおミリアと同時にミリオ (テンプレート:1e-) が導入されたとも言われるがはっきりしない。

1873年1874年英国科学振興協会 (BAAS) はCGS単位系に、接頭辞としてミリアを含む7つに加え、テンプレート:1eを表すメガとマイクロを導入した。ただしメガとマイクロはMKS単位系やMKSA単位系ではなかなか使われなかった。メガとマイクロは、ギリシャ語の「大きい」「小さい」から作られた。なお、この後に作られる接頭辞は、メガとマイクロのように、倍量接頭辞は‐a、分量接頭辞は‐oで終わるようになる。

1935年国際度量衡委員会 (CIPM) はメガを採用し、代わりにミリアを廃止した。

1960年の第11回国際度量衡総会 (CGPM) でSIが定められたときには、メガ・マイクロまでの8つの接頭辞(ミリアは除く)に加え、さらに新しくテンプレート:1eのギガとナノ、テンプレート:1eのテラとピコを加えた12の接頭辞を導入した。ギガ、ナノ、テラはギリシャ語の「巨人」「小人」「怪物」、ピコはイタリア語の「小さい」から作られた。また同時に、二重接頭辞が廃止された。

1964年の第12回CGPMでテンプレート:1eのフェムトとテンプレート:1eのアト、1975年の第15回CGPMでテンプレート:1eのペタとテンプレート:1eのエクサが導入された。ペタとエクサはギリシャ語の「5」と「6」(10005・10006なので)、フェムトとアトはデンマーク語ノルウェー語の「15」と「18」から作られた。

1991年の第19回CGPMでテンプレート:1eのゼタとゼプト、テンプレート:1eのヨタとヨクトが導入された。ゼタとヨタはイタリア語の「7」と「8」、ゼプトとヨクトはギリシャ語の「7」と「8」から作られた。元は同系の語であるため、テンプレート:1eテンプレート:1e-は語形が似ており、記号は大文字・小文字の違いのみになった。なおこのとき初めて、「倍量接頭辞はギリシャ語」という慣習が崩れた。

SI以外での使用

メートル法

テンプレート:1eまでの接頭辞はSI以前からあり、当然、SI以外の単位に対しても普通に使われる(ヘクタールミリリットル、ミリダインなど)。

SI以降にできたテンプレート:1e以上の接頭辞が使われることは希であるが、従来の二重接頭辞を1つのSI接頭辞に置き換える場合もある(ピコキュリーなど)。

その他の物理単位

特殊な分野でSI単位に代わって使われる、パーセク (pc)、電子ボルト (eV)、ダルトン (Da)、 (a)、塩基対 (bp) 等には、倍量接頭辞がよく使われる。しかし、分量接頭辞がよく使われる単位は少ない。

ビット (b) とバイト (B) にも倍量接頭辞がよく使われる。2進接頭辞 (1000の代わりに1024の冪) の意味で使われていることもある。キビ (Ki = 1024) の意味のキロの記号は大文字のKを使う。

尺貫法など伝統的な度量衡の単位に使用されることはない。ただし、ヤード・ポンド法の単位にはごく希に使われる(マイクロインチ、キロフィートなど)。

冗談として使われる単位にマイクロフォートナイト(2週間の100万分の1、約1.2秒)やアトパーセク(パーセクの10-18倍。約3.1センチメートル)などがある。また、SFの未来社会の設定などで、地球に依拠した分や時といった単位を使わず、キロ秒やメガ秒を使っている、といったものがある(ヴァーナー・ヴィンジ『最果ての銀河船団』、1キロ秒は約17分弱、1メガ秒は約11日半ちょっと)。

物理単位以外

「キロ」を表す記号 “k” は、しばしば物理単位以外の単位についても1000倍の意味で用いられる。例えば40000円を40k円のように表現したり、2000年問題を “Y2k” と略記したりする。

このような場合、kは大文字で “K” と書かれることもあるが、メートル法の単位について使用する場合は大文字のKは正しい表記でない。

冗談に使われる単位( w:List of humorous units of measurement を参照)にも、接頭辞が付けられることがある。

脚注

  1. 国際単位系(SI)国際文書第8版(2006年)日本語版 (PDF) - 訳・監修:(独)産業技術総合研究所 計量標準総合センター (NMIJ) 参照
  2. 計量単位令 別表第四 - 法令データ提供システム参照
  3. 計量単位規則 別表第三 - 法令データ提供システム参照
  4. [1]の94ページ以降、[2]
  5. The International System of Units (SI), NIST Special Publication 330, 2008 Edition, p.iii, 第3段落

関連項目

外部リンク

テンプレート:SI units navboxfi:Kansainvälinen yksikköjärjestelmä#Kerrannaisyksiköt