Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology
Self-Monitoring, Analysis and Reporting Technology(セルフモニタリング・アナリシス・アンド・リポーティング・テクノロジー、略称: S.M.A.R.T.(スマート))は、ハードディスクドライブの障害の早期発見・故障の予測を目的としてハードディスクドライブに搭載されている機能である。この機能は、各種の検査項目をリアルタイムに自己診断し、その状態を数値化する。ユーザーはその数値を各種のツール(後述)を用いることで知ることが出来る。全ての故障を予期することは出来ないが、安定した利用環境における経年劣化による故障を知るには非常に有効である。
検査項目(属性)
各検査項目(属性)には、「現在の値」(Value)、「閾値」(Threshold)、「ワースト値」(Worst)、そして「生の値」(data)の4つの項目が設定されており、現在の値またはワースト値が閾値を下回ることがあれば、データのバックアップやハードディスクの交換など必要な処置を施すべきであると考えられる。但し、これらの値がどのような方法によって算出されているかは各ベンダーによって異なるため、一概にどの値がどうなっていれば良いとは言い切れない点もある。また、Temperature(C2)やReallocated Sectors Count(05)などの「生の値」(data)が重要な項目も存在している。
以下はS.M.A.R.T.によって報告される主な検査項目の一覧である。ATA仕様では属性のIDが何を示すかは規定していないためこの表は基本的にすべてベンダ独自の意味を解釈しているにすぎないことを注意。特に重要な項目については太字で注釈をつけた。ただし、HDDベンダーによって調査可能な検査項目は若干異なるため、必ずしも全ての項目を調査できるわけではない。また、HDDベンダーが独自の検査項目を設定していたり、IDが異なっていたり、独自の名称を設定している場合もあるが、それらについてはここでは網羅していない。
項目ID | 項目名 | 詳細な説明 |
---|---|---|
01 | Raw Read Error Rate | この項目はハードディスクからデータを読み込む時に発生したエラーの割合を表す。数値が閾値より低い場合、ハードディスク内の磁気ディスクまたは磁気ヘッドに異常がある。 |
02 | Throughput Performance | ハードディスクの全体的な(スループット)処理能力。この値が閾値以下の場合、高い確率でハードディスクに異常がある。 |
03 | Spin Up Time | ハードディスクが通電回転を開始してから規定の回転数に達するまでにかかった平均時間。 |
04 | Start/Stop Count | ハードディスクのスピンドルモーターが回転/停止した回数。 |
05 | Reallocated Sectors Count | 代替処置(データを特別に予約した予備エリアに移動する)を施された不良セクタの数。 |
07 | Seek Error Rate | 磁気ヘッドが目的のデータの在るトラックへ移動しようとして失敗(シークエラー)した割合。ハードディスクの熱、サーボ機構の損傷などによって発生する。数値が低い場合、ハードディスクの表面やハードディスクの機械的なシステムに問題がある可能性がある。 |
08 | Seek Time Performance | 磁気ヘッドがシーク作業に要した平均時間。 |
09 | Power-On Hours | 工場出荷状態からのハードディスクの通電時間の合計。閾値に対するこの値の減少はMTBF(平均故障間隔)の減少を表す。 |
0A(10) | Spin Retry Count | ディスクを規定の速度までスピンアップしようと再試行を試みた回数。 |
0B(11) | Recalibration Retries | ハードディスクのキャリブレーション動作(熱によるオフトラック現象を自動的に補正する機能)を再試行(すでに一度キャリブレーションに失敗している状態で)しようとした回数。 |
0C(12) | Device Power Cycle Count | ハードディスクの電源をON/OFFした回数。 |
0D(13) | Soft Read Error Rate | オフトラックの数。 数値が0でなければバックアップを取る。 |
C1(193) | Load/Unload Cycle Count | ロード/アンロード機構によって磁気ヘッドが磁気ディスク表面から退避場所に退避し、その後再び磁気ディスク表面に戻った回数の合計。一般的な2.5型HDDのメーカー保証値は、2005年以降に登場したモデルでは大抵60万回程度。2004年以前のモデルでは30万回程度。 |
C2(194) | Temperature | ハードディスクの現在の温度。一般的に動作が保障されている最高温度は55℃である。 |
C3(195) | Hardware ECC recovered | ECC(Error Correction Cord、誤り訂正符号)によって検知されたエラーの回数 |
C4(196) | Reallocation Event Count | セクタの代替処理が発生した回数。仮に処理に失敗しても回数に加算される。 |
C5(197) | Current Pending Sector Count | 現在異常があり、代替処理を待つセクタの総数。もし後で読み込みに成功したセクタがあれば、この値は減少する。 |
C6(198) | Off-Line Scan Uncorrectable Sector Count | オフラインスキャン時に発見された、回復不可能なセクタの総数。この値が増加する場合は、磁気ディスクの表面に明確な問題がある。 |
C7(199) | UltraDMA CRC Error Count | UltraDMAモードでのデータ転送中に発生したCRCエラーの数。 |
C8(200) | Write Error Rate (Multi Zone Error Rate) | データの書き込み中に発見されたエラーの総数。 |
C9(201) | Soft Read Error Rate | プログラムが磁気ディスク表面からデータを読み込む際に発生したエラーの割合。 |
CA(202) | Data Address Mark Error | DAM(データアドレスマーク)に関するエラーの頻度を表す。 |
CB(203) | Run Out Cancel | ECC(誤り訂正符号)エラーの頻度を表す。 |
CC(204) | Soft ECC Correction | ソフトウェアECCによって訂正されたエラーの総数。 |
CD(205) | Thermal Asperity Rate | サーマル・アスペリティ現象(磁気ヘッドが磁気媒体の突起に衝突して熱を生じ、データ検出を誤る可能性のある現象)によるエラーの総数。 |
CE(206) | Flying Height | 磁気ヘッドの浮上高。 |
CF(207) | Spin High Current | ドライブのスピンアップに使用した高電流量。 |
D0(208) | Spin Buzz | バズルーチン(ヘッドがディスクに接触するのを避けるために、ヘッドをディスクに対して垂直方向に跳ね上げる処理。これが連続して発生するとブザーのような音が鳴る。)を使用した数。 |
D1(209) | Offline Seek Performance | オフラインスキャン時に測定された、シーク機能の性能の値を表す。 |
D2(210) | Vibration During Write | データの書き込み中に加わった大きな振動を表す。 |
D3(211) | Vibration During Read | データの読み込み中に加わった大きな振動を表す。 |
D4(212) | Shock During Write | データの書き込み中に加わった大きな衝撃を表す。 |
DC(220) | Disk Shift | ディスク(プラッタ)が衝撃などにより当初の固定位置よりズレた距離。 |
DD(221) | G-Sense Error Rate | ハードディスクに加えられた衝撃によって発生したエラーの割合。衝撃はハードディスクに内蔵された衝撃感知センサーによって感知されている。 |
DE(222) | Loaded Hours | 一般的な作業時間中に引き起こされた磁気ヘッドアクチュエータの負荷の値を表す。 |
DF(223) | Load/Unload Retry Count | ロード/アンロード機構によるロードまたはアンロード時に失敗して再試行した回数。 |
E0(224) | Load Friction | 機械的なパーツの摩擦による磁気ヘッドアクチュエータの負荷の値を表す。 |
E2(226) | Load-in Time | 磁気ヘッドアクチュエータがデータの読み込みによる負荷を受けていた時間の総合計。 |
E3(227) | Torque Amplification Count | ディスク回転時のトルク増幅力の値を示す。 |
E4(228) | Power-Off Retract Count | 電源を抜くなどしてハードディスクが強制的に停止し、磁気ヘッドが緊急退避した回数。ハードディスクに大きな負担を与える。一般的な2.5型HDDのメーカー保証値は2万回程度。 |
E6(230) | GMR Head Amplitude | GMR磁気ヘッドの動作中における震えの振幅。 |
F0(240) | Head Flying Hours | 磁気ヘッドが位置決めをしている時間。 |
FA(250) | Read Error Retry Rate | データを磁気ディスクから読み込む間に現れるエラーの頻度。 |
各種のツール
Windowsでは、多種多様なツールが存在している。また、HDDベンダーから診断ツールが公開されている場合もある。以下の外部リンクは、そのようなツール等の製作・配布元のうち主なもののURLである。
- Active SMART(試用版あり、商品、Windows7対応)
- CrystalDiskInfo(Free、Windows8対応、日本語)
- FromHDDtoSSD(Free版あり、商品、Windows8対応、日本語)
- DTemp(リンク切れ)
- Hard Drive Inspector(15日試用版あり、商品、Windows7対応)
- HDD Health(Free、Windows7x64で作動異常)
- HDD Health 日本語化
- HDDlife(試用版あり、商品、Windows7対応)
- HDDlife JE(販売終了)
- HDD-SCAN(Free、日本語)
- HDD SMART Analyzer(Free、ver1.2.0からWindows7対応、日本語)
- HD Tune(試用版あり商品、Windows7対応)
- Mam's S.M.A.R.T Reader
- PC-Doctor for Windows(商品、Windows7対応)
- S.M.A.R.T. Explorer(リンク切れ)
- SmartHDD Pro ハードディスク診断(販売終了)
- SpeedFan(Free)
- SpeedFan日本語化(リンク切れ)
- ハードディスク・スマートチェッカー(シェアウェア、Windows7x64非対応)
- SMARTReporter Apple Macintosh
- smartmontools Unix
- ファイナルハードディスク診断3.0(商品)
装置ベンダーとツールベンダーでデータの意味付けが異なることが多い。そのため、A社のHDDの状態についてB社のツールがエラー、障害あるいは劣化がある、あるいはないと表示したとしても、実際とは違うかもしれないので注意が必要である。