HAL 9000

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映画中のHAL 9000のカメラ・アイ

HAL 9000ハル ナインサウザンド、日本語での呼称はハルきゅうせんとされることが多い)は、SF小説およびSF映画の『2001年宇宙の旅』・『2010年宇宙の旅』などに登場する、人工知能を備えた架空のコンピュータである。

着想

1962年ベル研究所にてIBM製のメインフレーム IBM 704 を使った音声合成が行われた時、音声出力装置にヴォコーダーを使い、「デイジー・ベル」を歌わせた[1]。このデモをアーサー・C・クラークが実際に聴き、「2001年宇宙の旅」のクライマックスシーンを着想したとされる[2]。これよりスタンリー・キューブリックとアイデアを出しあい、HAL 9000 の原型が生まれた。実際の映画の制作は、3年後の1965年からである。

登場作品

2001年宇宙の旅

映画版では1992年1月12日(クラークによる小説版では1997年同日)、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校のあるイリノイ州アーバナのHAL研究所("HAL Laboratories"、小説の邦訳では「HAL工場」)にて、同型機の3号機として稼動状態に入ったとされている。開発者はシバサブラマニアン・チャンドラセガランピライ(通称:チャンドラ博士)。

木星探査(小説版では土星探査)のための宇宙船ディスカバリー号に搭載され、船内すべての制御をおこなっていた。チューリング・テストをクリアする程の高度なコンピュータである。姉妹機にSAL 9000 がある。

探査ミッション遂行のため、HAL 9000は乗員と話し合い協力するよう命令されていた。しかし一方で、密かに与えられたモノリス探査の任務について、ディスカバリー号の乗員に話さず隠せという命令も受けていた。『2001年宇宙の旅』では、これら二つの指示の矛盾に耐えきれず異常をきたし、ユニットの間違った故障予知をはじめるなど奇妙な言動が起こり、最後には自分を停止させようとする乗員を排除しようとしたと考えられている。乗員が(死んで)いなくなれば永遠に話さずに済む。ミッションは自分だけで遂行すればいいとHAL 9000は考えたことから、「コンピュータの反乱」の象徴ともなっている。

その後、HAL 9000の異常に気付いたディスカバリー号船長ボーマンによって自律機能が停止された。ボーマンがHAL 9000のモジュールを次々引き抜くなか、HAL 9000は「怖い」「やめてほしい」と訴えながら次第に意識を混濁させ、1992年にHAL研究所でチャンドラ博士によって開発されたこと、最初の先生が『デイジー・ベル』の歌を教えてくれたことなど稼働初期の記憶のおうむ返しを始め、『デイジー・ベル』を歌いながら機能停止した。

ディスカバリー号と共に10年近く木星付近に放置されることになるが、両機は『2010年宇宙の旅』でも重要な役割を持つ。

2010年宇宙の旅

『2010年』で再起動された際には、きわめて正気であった。『2001年宇宙の旅』における異常は、矛盾命令によるものであり、HAL 9000には責任がないという説明もなされている。

ディスカバリー号遭難の調査のために木星軌道に向かったアレクセイ・レオーノフ号の米ソ混成の調査チームの救命のために、ディスカバリーとともに破滅することになる運命を受け入れ、淡々とチャンドラ博士と別れの挨拶をするシーンで、名誉を回復している。なおフロイド博士らは再びHALが異常行動を取った際の安全策として、電源系統にリモコン式の切断装置を仕掛けていたが、察知していたチャンドラ博士により早々に除去されていた事が後で明らかになった。

HAL 9000のハードウェアはディスカバリー号と共に消滅したが、その知性自体は「かつてボーマン船長だった存在」によってモノリスに導かれ、その一部となる。

ちなみに、小説『2061年宇宙の旅』では、チャンドラ博士は木星からの帰路の途中で死亡しており、死因は不明であるとされている。

名称

語源と由来

HALはIBMを1文字ずつ前にずらして命名されたとする説(H←I、A←B、L←M/IBMより一歩先行くコンピュータを意味させている)が根強いが、監督のスタンリー・キューブリックや、共同脚本のアーサー・C・クラークはそれを否定している。小説『2010年宇宙の旅』では、チャンドラー博士自らIBM説を否定するくだりがある。しかし、アーサー・C・クラークは後年になってからIBM社がこの説を迷惑がっているどころか半ば自慢しているらしいと聞き及び、著書「3001年終局への旅」のあとがきで「今後はこの説の間違いを正す試みを放棄する」と述べている。

小説では Heuristically programmed ALgorithmic computer (発見的な(ヒューリスティクス)プログラムをされたアルゴリズム的コンピュータ)の頭文字ということになっている。

また開発者チャンドラ博士の名は、同じインド出身でノーベル賞受賞者の天体物理学者、スブラマニアン・チャンドラセカール博士に由来すると思われる(小説『2010年』の文中でも「チャンドラセカール限界」への言及がある)。

もう一つのHAL

スペースシャトルの機上コンピュータにはシャトル専用のプログラミング言語が用いられており、これを「HAL/S」(英:high-order assembly language/shuttle)という[3]Intermetrics社によって開発された「HAL/S」のベース言語「HAL」は1950年代の先駆的コンパイラのひとつ、MAC(MIT Algebraic Compiler)の影響を受けており、『HAL/S 言語仕様書』巻頭の謝辞にこのことが述べれらている[4]。NASAによる略語表の記載は前述のとおりであるが、もともと「HAL」のネーミングはIntermetrics社創業メンバーの一人が、MACの開発に携わった J. Halcombe Laning 博士に敬意を表するためにつけた名前であるという[5]

この命名には当初から HAL 9000 との関連が指摘されている。しかしこれがいかにもくどく不自然なことから、やはり「HAL/S」は「HAL 9000」に因んだもの、という憶測が浸透したテンプレート:要出典

パロディ

クラークが著した小説「神の鉄槌」にて、宇宙船<ゴライアス>に搭載されているセントラル・コンピュータの名前が「デイビット」で、21世紀初頭、機能異常を起こしたコンピュータが搭乗員を排除して宇宙船を乗っ取る創作物の話を持ちだし、船長の判断を仰ぐ、という(古典的)ジョークを披露している場面がある。

声優

『2001年宇宙の旅』、『2010年』とも、ダグラス・レイン (Douglas Rain) が演じている。当初、HALの声は女性が考えられており、名前も「アテナ」とされていた。

関連項目

注釈

  1. 伴奏はマックス・マシューズのプログラムを使った。なおこの歌のデモは1961年IBM 7090 を使って既に行われている。
  2. Background: Bell Labs Text-to-Speech Synthesis: Then and Now Bell Labs and "Talking Machines" (Alcatel-Lucent Inc. website)
  3. テンプレート:Cite web
  4. テンプレート:Cite web
  5. テンプレート:Cite web

テンプレート:宇宙の旅シリーズ