FTTH

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ファイル:FTTH.jpg
FTTHの装置の一例。
灰色のボックスがメディアコンバーター(光回線終端装置などを内蔵)
メディアコンバーターの左下が光ケーブル、右下がイーサネットケーブル(写真はRJ-45)である。

Fiber To The Home(ファイバー・トゥ・ザ・ホーム)または略してFTTH(エフ・ティー・ティー・エイチ)とは光ファイバーを伝送路として一般個人宅へ直接引き込む、アクセス系光通信構成方式のことである。また一般個人宅に限らず、同様の形態でサービスの提供を受ける小規模なオフィスも含めてFTTP(Fiber To The Premises : 敷地)ということもある。

収容局設備から各ユーザー宅までのラストワンマイルにおいて光通信の伝送システムを構築し、広帯域(主に100Mbps - 1Gbps)の常時接続サービスを主に提供するものである。

なお光通信分野における広義のFTTHは光ファイバーを伝送路に使用したアクセス系通信システムの総称として、FTTxに示される網構成によるものも含める。狭義のFTTHはFTTxのうち一般個人宅まで直接引き込まれる網構成のみをいい、区別される。

特徴

利点

ADSLと比較して収容局(中継局)からの線路長が長くても伝送損失の影響が少なく、また道路鉄道AMラジオ放送といったノイズ源からの干渉等による外部の影響も受けない。それらを原因とした速度低下や切断(再トレーニング)も少なく、安定した通信が可能である。収容局から加入者宅までの通信可能距離は、後述するPONの場合では概ね20kmまでとなっている。

ユーザ向け商用サービスにおけるユーザエンドでの通信速度は、公称値(理論最大値)で100Mbpsが主流である。下り(≒受信)の平均実効速度は全ての都道府県においてADSLより速いが東京都50Mbps、沖縄県10Mbpsと地域によって差がある。日本での普及初期においては公称10Mbpsが主流であったがサービスの発展とともにNTT西日本フレッツ 光ネクストKDDIauひかりケイ・オプティコムeo光のように公称1Gbps (≒1000Mbps) を提供するものもある。

広帯域である事を生かして、光波長多重通信による多チャンネルのケーブルテレビ(デジタルCATVを含む)の同時伝送や安定したIP電話IPテレビ電話等の多彩なサービスの提供が可能である。また上り(≒送信)の帯域がADSLよりも確保されているため、撮影した動画の送信や自宅サーバ運営など大容量のデータをやりとりする環境では大きな利点となる。

欠点

既存の通信網(電話線、ケーブルテレビなど)を利用するわけではなく新規に光通信網を構築するため、サービスエリアの拡大に多大な費用がかかる。そのため、提供されるエリアは都市部や需要のある地域などに限定される。尚、離島でも八丈島のようにBフレッツが利用可能な例もある。

各戸への光ケーブルの引き込みが考慮されていない設計が古いマンションアパートなどの集合住宅ビルでは、戸別導入は難しい。そのためLAN配線、VDSLFWAなどを利用する。これらはFTTHに含めずFTTBと呼ばれる。ただし、設計が古いマンションでも、要望すれば各戸への引き込みが可能な場合がある。

通信に利用されるガラス製の光ケーブルはその性質から屋内の配線での自由な取り回しが利かず、また取り扱いに一定の知識・技術、専用の工具を要するため、それらを持っていない利用者が自由に配置換えなどをすることは困難である。

また、各社が100Mbps - 1Gbpsの通信速度をベストエフォートの最大値としているが、各戸と局舎間の速度がその速度であって、他のコンピュータやネットワーク機器、インターネットへの通信速度がそこまであるとは限らない。多くのインターネットサービスプロバイダ (ISP) はバックボーン回線として数Gbps - 数十Gbps程度の回線を用意しているのが現在におけるスタンダードであるため、光ファイバーの芯を共有(下記参照)しバックボーン回線も共有するという状態が一般的な昨今においてインターネットなどへの通信速度は最大値から大きく下回る場合が多い。

アクセス網の網構成方式

収容局設備内から各ユーザー宅までのアクセス網のネットワーク構成として次のようなものがある。

専有型

「占有型」ともいい、収容局設備(中継局)から各ユーザー宅までを直接1本の光ケーブルで結ぶもの。伝送帯域を1つの加入者で専有でき網構成も単純であるが、それが故に運用コストが高くなる。NTTなどではSingle Starと呼ばれている。

共有型

収容局設備(中継局)から各ユーザー宅の間に光ケーブルの分岐ポイントがあるもの。一つの光ケーブルを多くのユーザーで共有するため、収容局内の伝送設備などの運用コストを低く抑えることができる。

専有型と比べて、1軒あたりの収容局までの伝送速度は利用するユーザーが多いほど反比例する形で低くなる。ただし、ユーザーが享受できる伝送速度は専有型・共有型だけでは決定されない。これは局設備で専有回線及び共有回線を一つに束ねそこにコアネットワークへ接続する形をとるが、そのコアネットワークの状況にも大きく左右されるため一概に専有型だから速いあるいは共有型だから遅いということはいえない。

共有型にも以下の2種類がある。

Active Optical Network (AON)

ファイル:PON vs AON.png
AONとPONの通信の比較図

中継局からの1本の光ケーブルを能動素子で分岐させ加入者と結ぶもの。能動素子が分散設置されるため保守が煩雑となる。NTTではActive Double Starと呼んでいる。

Passive Optical Network (PON)

光スプリッタ(光カプラ)と呼ばれる光受動素子で1本の光ファイバーを分岐させているもの。ケーブルの延長距離の短縮と、中継局装置の数の減少を図っている。NTTではPassive Double Starと呼んでいる。

次のような種類がある。

A-PON (ATM-PON)
ATM (Asynchronous Transfer Mode) をプロトコルとして用いたもの。
BPON (Broadband PON)
WDM(波長分割多重)を用いたもの。あるいはITU-T G.983シリーズで標準化されたATM-PONを指す。
E-PON (Ethernet-PON)
イーサネットをプロトコルとして用いたもの。
GE-PON (Gigabit Ethernet-PON)
ギガビット・イーサネットをプロトコルとして用いたもの。特にIEEE 802.3ahとして標準化されたものを指すことが多い。
G-PON (Gigabit PON)
ITU-T G.984シリーズで標準化されたPON。

今のところGE-PONを利用したサービスの多くは、各ユーザー側光回線終端装置から各ユーザーが共有している局終端装置 (OLT : Optical Line Terminal) までの回線のスループットが1Gbpsとなっているだけである。ユーザー側端末の最大通信速度は100Mbpsに制限されるがそれでもその部分の回線はバックボーンとしては広くなっているので、多くのユーザーが一斉に通信を始めても速度が低下しにくいというメリットはある。また一部にはユーザ側端末スループットが1Gbpsとなっているサービスもあるが、OLTから先のコアネットワークまでのバックボーン回線が細いなどといったボトルネックが原因でユーザ端末側では公称速度どおりのスループットに達しないことも少なくない。また、使用する光の波長等が規格化されていないため、事実上OLTとONTは同一メーカーのものを使用する必要がある。

ユーザ宅向け網構成方式

光ケーブルの引き込み方により数種類に分かれる。FTTxの項を参照の事。

日本におけるFTTH

普及度

総務省は「光の道」構想に基づき、2010年現在の35%であるFTTH世帯普及率を2015年頃をめどに100%まで上げることを目指している[1]。ただし、NTTは経済的合理性からこのスケジュールでの提供は不可能であるという回答を総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」に提出している[2][3][4]

2014年6月20日の総務省の発表[5]によれば2014年3月末の段階でDSLの契約数については447万(前期比4.9%減、前年同期比17.6%減)、FTTHの契約数については2,535万(前期比1.3%増、前年同期比6.3%増)と固定回線によるブロードバンド接続では、FTTHの利用がDSLの利用の約5.7倍と大きく超過している。DSLの世帯普及率は、2006年3月の28.8%をピークに減り続けている[6]。NTTはPSTNの廃止時期を2025年としメタル回線を存続しない方針であり[7]、地域間の格差の問題や、インターネットへの接続需要の飽和によるFTTH契約件数の伸びの鈍化などの問題があるが、DSLからFTTHおよび無線系サービスへ移行することは止められない。現実的には、2011年度末におけるNTT東日本の加入電話とISDNの契約数合計はピーク時(2000年度末)の3147万件からほぼ半減の1570万件[8]になり、同じくNTT西日本の加入電話とISDNの契約数合計はピーク時(1997年度末)の3156万件からほぼ半減の1598万件[9]となり、ADSLの前提となるメタル回線自体が大幅に縮小しており、メタル回線の廃止時期は時間の問題でしかない。メタル回線の廃止については、加入電話、公衆電話、緊急通報 の電話サービスをユニバーサルサービスとして、電気通信事業法の第7条により「公平かつ安定的な提供に努めなければならない」と規定されているサービスであることが問題となっていたが、平成23年4月より、加入電話に相当する光IP電話が新たにユニバーサルサービスの対象となり、メタル回線の廃止を阻む問題ではなくなった。

FTTHによるサービスはブロードバンド・ゼロ地域の解消や携帯電話不感地帯の解消といった、いわゆるデジタル・ディバイドの解消の実現のためにも期待されている[10]。FTTHのサービスは新しい公共インフラの側面がありADSLとは異なり距離に関係なく一定の通信品質を提供できることから、地理的条件に左右されず希望者にサービスが提供されることが理想である。近年のサービス提供エリア拡大により格差が解消されつつある傾向はあるものの、ADSL回線では通信できなかったり低速な通信しかできなかったりする本来FTTHが必要とされる過疎地域や市街地の周辺地域については電気通信事業者が採算性を理由にサービスの提供を拒否している地域が存在し、該当地域での不満が拡大しつつある。FTTHが特別なサービスとはいえない状態にまで普及しつつあるなか、サービス提供の平等化が重要となっている[11]

一分岐貸し問題

共有型のFTTHにおいて、現在は一芯単位でNTTが他事業者に貸し出している光ケーブルを、一分岐ごとに貸し出すことの是非をめぐる問題。通信事業者間で設備投資に関するリスク対応で不公正な状態が発生する可能性があり問題となっており、総務省情報通信行政・郵政行政審議会 電気通信事業部会 接続委員会で審議されている。光回線を借りる他事業者にとっては、空き分岐が発生するリスクがなくなり、格安にFTTHを提供することができるメリットがある。しかし、光回線を貸し出すNTTにとっては、光回線の空き分岐による採算の悪化を一方的に押し付けられる形になるほか、回線速度の向上や帯域制御が困難になるなど、メリットがほとんどない。また、自社で光回線を設置しているNTT以外の事業者にとっても、設備投資リスクを回避した格安業者の出現は死活問題となる。NTTのメタル回線を利用したADSLを提供している事業者を中心に、一分岐貸しを求めている。光回線を持たないADSLを提供している事業者にとっては、ADSLの利用者が減少しているため、光回線を確保することは事業の継続にかかわる死活問題となっていることが背景にある。しかし、既設だったメタル回線とは異なり、まだこれから新設を続けていく光回線では、まだ投資した資金を回収できる状態ではなく、NTTの採算の悪化につながる一分岐貸しを実施することは難しい。また、ほとんどの場合に電話サービスについてはNTTのものを使用していたADSLとは異なり、FTTHではプロバイダがIP電話サービスを提供することでNTTの電話サービスを利用しない点が、NTTの収益悪化を加速させることになり、NTTの態度を硬化させる原因になっている。電話サービスを主業務とするNTTにとっては、携帯電話により固定電話契約が減っている中で、同じ電話サービスを提供する競合他社に一分岐貸しを行うことで収益を減らすことは死活問題となる。FTTHにおけるNTTによる寡占化(NTT西日本、東日本を合計した全国シェアは約76%)が問題視されているものの、実際には、NTT西日本営業地域では、NTT西日本のシェアが50%を下回っている地域もあり、局地的にはCATV業者などと熾烈な競争が展開されている。一方で、NTTは、物理的なケーブルではないものの、フレッツを介して広くVNOであるプロバイダ各社にネットワークを提供しており、物理回線を提供する業者として一定の義務を果たしているともいえる。結局のところ、物理回線の占有に固執するものの、光回線を持たないDSL事業者にしかメリットがないため、各事業者の立場によって、利害関係がはっきり分かれており、膠着状態になっている。

実質的には、ADSLによるインターネット接続事業で成長し、2013年9月末の段階におけるDSLの契約数で63.4%のシェアを持つソフトバンク系列が、自社による光回線をほとんど持っていないため、ソフトバンク系列によるインターネット接続事業を救済するかどうかの問題になっている。実際、もっとも強く、一分岐貸しを要求しているのは、ソフトバンクである。ソフトバンク系列による固定回線によるインターネット接続事業では、自社のADSLのユーザが減少する一方で、コストがかかるにもかかわらず自社のFTTHユーザが増えないため、総務省統計から概算するとユーザ数が四半期毎に5%程度純減しており、採算が悪化している。ついに2011年9月末にはDSLの契約件数が最盛期の半分程度になった。現在は、ユーザの流出を防ぐために、他のプロバイダが行っているようにフレッツを介在することで、NTTのFTTHを利用してインターネット接続事業を継続している。フレッツを利用した場合、ADSLの場合よりも利益率が低いのみならず、ソフトバンク系列が想定している一分岐貸しの場合に見込まれる粗利率よりも低くなると予想されている。実際、ソフトバンク系列の2012年3月期第3四半期(2011年4 - 12月)の決算によると、ブロードバンド・インフラ事業は、売上高が前年同期比10.2%減の1297億円、営業利益が同15.6%減の283億円と、「Yahoo! BB 光 with フレッツ」の割合が増加している結果として、売り上げがピークだった2006年を境に減少傾向に歯止めがかからなくなっている。2011年11月18日、ソフトバンク系列は、総務省による調停が、ソフトバンク系列の望まない形で結審したことから、NTT東西に対して訴訟を提起したものの棄却されている[12][13]

一芯単位であることには利点もある。KDDIは、一芯単位であることの利点を利用して、1Gbpsでの通信サービスを提供している(同様にNTT西日本も1Gbpsでの通信サービスを提供しているが、こちらは最大32回線で1Gbpsの伝送路を共有してベストエフォートでサービスを提供しているため、実効速度の期待値は31.25Mbps程度であり、実際に1Gbpsという実効速度で通信できるわけではない。)。

NTTとしては、光回線の卸売り「サービス卸」により、NTTが設備や回線網を一元管理できたうえで、一分岐貸しと同様な効果が得られるとして2014年第3四半期半ばまでに「サービス卸」を開始したいとしている。「サービス卸」は、携帯電話のMVNOと同様、通信設備を持たない事業者がネットワークを借り「FVNO」(仮想固定通信事業者)として、フレッツ光のブランドを使用せず自社ブランドでサービスを提供できる。一分岐貸しは物理的な機器レベルでの共有であるのに対して、「サービス卸」は、仮想ネットワークサービスの提供であって、物理的な機器レベルでの共有ではない点が異なる。しかし、光回線を敷設してきた他の業者にとっては、一分岐貸しと同様な影響があることから、「サービス卸」を中止するよう批判している。

注 : 実績として、NTTは、通信速度の向上と、コスト削減を目的として、FTTHのサービス開始から6年間で分岐方式を4回(計7種類)変更している。現在は「GE-PON」と呼ぶ方式だが、将来は10Gビット/秒超の高速化を実現する「WDM-PON」への移行が検討されている。

サービス提供事業者

脚注

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関連項目

  • 総務省|「光の道」構想に関する意見募集
  • NTT|グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォースに提出した資料
  • 総務省|グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース 「電気通信市場の環境変化への対応検討部会」
  • NTT|「光の道」の実現に向けたNTTの考え方
  • 電気通信サービスの契約数及びシェアに関する四半期データの公表(平成25年度第4四半期(3月末))|総務省
  • DSLアクセスサービス~普及率~|総務省 九州総合通信局
  • PSTNのマイグレーションに関する概括的展望について
  • 平成23年度電気通信役務契約等状況報告について(NTT東日本)
  • 平成23年度電気通信役務契約等状況報告について(NTT西日本)
  • テンプレート:PDFlink
  • 情報通信審議会 2020-ICT基盤政策特別部会 基本政策委員会(第11回)配布資料・議事録
  • NTT東西に対する訴訟の提起について|ソフトバンクBB株式会社,ソフトバンクテレコム株式会社
  • NTT東西に対する独禁法差止訴訟の判決について|ソフトバンクBB株式会社,ソフトバンクテレコム株式会社