D-VHS

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テンプレート:ディスクメディア D-VHS(ディー・ブイエイチエス/データ・ブイエイチエス)は、家庭用ビデオデッキとして業界標準となったVHS方式をベースにデジタル放送に対応した規格。日本ビクター(現・JVCケンウッド)が当時アメリカ合衆国で放送が開始されていたCSデジタル放送の信号を、そのままVHSテープ録画する規格として開発した。間違われることが多いが、頭文字の「D」は“Digital”ではなく“Data”を略したものである[1]

記録方式、インターフェースなど

  • 磁気テープやローディングなど基本的なメカニズム部分は従来のVHS方式と同じであり、アナログ放送記録に関しては従来規格(VHSまたはS-VHS)と同じ方式で録画再生を行う。
  • 従来規格と大きく異なるのは、各種デジタル放送デジタル信号を、エンコードすることなく直接記録するビットストリーム記録方式を採用している点にある。また映像記録にはBlu-ray Discと同じくMPEG-2 TS方式を採用(厳密には、Blu-ray DiscがD-VHSの規格に準拠した形)。ハードウェア側には入力されたアナログ映像信号MPEG-2信号にデータ圧縮するエンコーダと復元するデコーダが装備されているが、機種によっては両方もしくは片方が省略されているものもある。
  • DVD等で採用している可変ビットレート(VBR)とは異なり、固定ビットレート(CBR)でのデータ記録方式を採用している。
  • デジタル記録の場合、VHS120分テープ相当(DF-240)で、HS(ハイビジョン記録)で1倍、STD(標準解像度記録)で2倍、LS3で6倍の時間で記録が可能。なお、D-VHSテープに書かれている数値は、STDでの記録時間(単位)である。
  • HSモード(ハイビジョン記録)では、1080iおよび720pに対応している。
D-VHSの各記録モードにおける最大ビットレート
録画モード メインデータビットレート サブデータビットレート 記録データレート
HS 28.2Mbps 292kbps 19.1Mbps×2
STD 14.1Mbps 146kbps 19.1Mbps
LS2 7.0Mbps 73kbps 19.1Mbps
LS3 4.7Mbps 48.7kbps 19.1Mbps
LS5 2.8Mbps 29.2kbps 19.1Mbps
LS7 2.0Mbps 20.9kbps 19.1Mbps
D-VHSの各記録モードにおける最大録画時間
テープ型番 最大容量 録画時間
HS STD LS3 LS5 LS7
DF-160 16.9 GB 80分(1時間20分) 160分(2時間40分) 480分(8時間) 800分(13時間20分) 1,120分(18時間40分)
DF-180 19.0 GB 90分(1時間30分) 180分(3時間) 540分(9時間) 900分(15時間) 1,260分(21時間)
DF-240 25.4 GB 120分(2時間) 240分(4時間) 720分(12時間) 1,200分(20時間) 1,680分(28時間)
DF-300 31.7 GB 150分(2時間30分) 300分(5時間) 900分(15時間) 1,500分(25時間) 2,100分(35時間)
DF-360 38.1 GB 180分(3時間) 360分(6時間) 1,080分(18時間) 1,800分(30時間) 2,520分(42時間)
DF-420 44.4 GB 210分(3時間30分) 420分(7時間) 1,260分(21時間) 2,100分(35時間) 2,940分(49時間)
DF-480 50.7 GB 240分(4時間) 480分(8時間) 1,440分(24時間) 2,400分(40時間) 3,360分(56時間)
  • デジタル放送受信機(セットトップボックス:STB)等との相互接続にはi.LINKを採用。映像・音声・アスペクト比などの制御信号・番組情報などを双方向に通信し記録できる。DV端子と形状は同一だが取り扱う信号が異なる(DVC-SDフォーマットではなくMPEG-2 TSフォーマット)ため、DV方式の家庭用デジタルビデオカメラは接続できない(DVビデオカメラ用の信号を扱えるデッキもある)。MPEG-2デコーダを装備していないD-VHSデッキでD-VHS記録された映像を再生する場合、この接続形態でSTB等に内蔵のMPEG-2デコーダを通して再生する事になる。
  • テープにはアナログ方式のS-VHSテープをリファインしたD-VHSテープを使用して記録する。外見は通常のVHSテープとほぼ同じだが、磁性粉の保磁力は1000Oeを超えたコバルト被着型を採用し、記録する短波長の高出力化・磁性体の密度アップがなされており、外見上の相違点として、テープの種類を認識するための穴(識別孔)がある。デジタル方式で記録されたテープは従来のVHS / S-VHS / W-VHS方式では再生できない。しかしVHS / S-VHS方式で記録したテープはD-VHSデッキで録画・再生できる。なお、D-VHSテープはデジタル記録専用ではなくVHS / S-VHS / W-VHS / D-VHSデッキに於いてアナログ方式のVHS / S-VHS記録用の最高級テープとしても使用可能である(D-VHSデッキでD-VHSテープにアナログ方式のVHS / S-VHS記録をする場合、ボタン操作でVHS / S-VHS記録モードに切り替える必要がある)。
  • メーカー保証外だが、S-VHSテープやHG(ハイグレード)タイプのVHSテープであればD-VHS方式でのデジタル記録が可能な機種も存在する。本体やリモコンのボタン操作でD-VHS記録モードへ切り替えると記録することができる。ただし、機種によってはテープ種類の識別孔を空けなければD-VHS記録が出来ないものもある。
  • i.LINK(IEEE 1394)を使用してパソコンと接続し、MPEG-2エンコードした映像を編集可能な製品が存在する[2]。また、Windows XP搭載パソコンとIEEE 1394で接続した場合、「JVC Tape Device」として認識される機種がある。フリーウェアを使用することにより、D-VHSデッキを使用したMPEG-2キャプチャも可能である。

経緯

  • 1995年4月、日本ビクターがD-VHSフォーマットの技術発表を行う。
  • 1996年4月、D-VHSスタンダード(STD)モードの技術仕様を決定。
  • 1997年、日本ビクターからアメリカ合衆国市場向けにCSデジタル放送STB一体型のD-VHS 1号機HM-DSR100DUを発売。
  • 当初はデジタル放送受信機との組み合わせが前提であり、再生もMPEG-2デコーダを搭載したデジタル放送受信機と接続しない限り不可能であった。しかし1999年には、MPEG-2エンコーダ及びMPEG-2デコーダを内蔵し、従来のアナログ放送の信号をデジタル信号に変換し、記録・録画する機器も登場した。
  • 1998年7月、当初4時間(DF-240、従来の120分テープに相当)のSTDモード以外に、ハイビジョン記録可能なHS(High Speed)モード(DF-420で3.5時間記録可能)と、LS(Low Speed)モード(LS2 / 3 / 5 / 7)を規格に追加した[3]。LS2はSTDの2倍、LS3は3倍、LS5は5倍、LS7は7倍の記録が可能で、最長のLS7ではVHS程度の画質で56時間の長時間記録が可能である。ただしLS2以上については、録画したビデオデッキ以外のデッキでの再生を保証していない。
  • 1998年10月、日立製作所から日本市場向けにCSデジタルチューナーを搭載し、スカイパーフェクTV!の「パーフェクTV!」サービスのデジタル記録に対応した7B-DF100が限定発売された[4]
  • 2000年9月、デジタルハイビジョンビデオ推進協議会(日本ビクター、日立製作所、松下電器産業(現・パナソニック)、東芝ビデオプロダクツジャパン、及び賛同メーカー)は、D-VHS HSモード搭載機に共通のロゴ(DIGITAL Hi-Vision Video)を制定し、愛称を「デジタルハイビジョンビデオ」に統一。商品カタログや広告に使用すると発表した。
  • D-VHSにどのモードを搭載するかはメーカーの判断に任され、HSモード、LS3モード等を搭載した機種は日本でBSデジタル放送が開始された2000年に発売された。HSモードは発売当時、家庭用としては唯一BSデジタル放送を完全に記録できる規格だった(転送レート28.2Mbps・BSデジタル放送は24Mbps)。
  • D-VHSテープも後に最長480分(DF-480、STDモード時)対応のものが発売された。
  • D-VHSを自社発売したメーカーは日本ビクター、松下電器産業(現・パナソニック)、日立製作所、三菱電機OEM供給ソニーシャープ東芝(日本ビクターより)であった。2008年時点で日本ビクターも含め、すべてのメーカーで製造を終了している。日本ビクターは2007年1月限りで日本国内での販売を終了している(最終機種は「HM-DHX2」で、D-VHS(S-VHS)製品としても最終機種である)。
  • D-VHSは家庭用としてハイビジョンのまま記録できる媒体としてデジタルハイビジョンを受信するユーザーを中心に普及していたが、デジタルチューナーは非搭載で、外部チューナーかデジタルチューナー内蔵テレビなどと接続しなければならなかった。
  • 2004年4月にIEC 60774-5 として国際規格化された。
  • 2009年4月13日、D-VHSを発売していたメーカーから2011年以降にBSデジタル放送の録画に支障が出る可能性があることが発表された。2011年にはNHK BShiの終了に伴うNHK衛星第1およびNHK衛星第2のハイビジョン化及び、アナログBS放送の終了や新たな周波数帯の割り当てに伴う新規事業者の参入などBSデジタル放送の再編が予定されていたため、サービス向上の必要から新規局・既存局双方でD-VHSの設計上限である28.2Mbpsを超える送出運用が行われる可能性があった。その場合、録画番組にノイズ混入や音声の途切れなどが想定され、D-VHS機器では回避できないことから、その場合はSTDなどSD画質で録画するように呼びかけていた[5]

メリット・デメリット

  • BDレコーダーが存在しない頃は、唯一のハイビジョン画質でデジタル記録できるメディアであり、BDレコーダーが発展途上の時期にはメリット・デメリットが拮抗していたが、2010年代現在ではメリットと言える要素は極めて少なくなっている。

メリット

  • テープ方式のために大容量(DF-480使用時で50.7GB[6]、最高画質のHSモード(ハイビジョン画質)で4時間記録が可能)。
    • 但し、Blu-ray DiscもDL(2層50GB)、BDXL(3層100GB、4層128GB)を商品化している。
  • コピーフリーの番組を録画したD-VHSはi.LINK経由でBDレコーダーへダビングができる。

デメリット

  • テープ媒体のため頭出しの時間がかかる(メーカーによっては録画した番組のナビゲーション機能を搭載しているが、同一デッキでの使用に限られる)。
  • 映像の特殊再生(早回しなど)には紙芝居のような映像しか出ないこと、静止画は可能であるがコマ送りやスローなどは対応しなかったこと。
  • テープの傷やホコリに弱く、特に長時間モードでの録再時に画像エラーが出やすい。
  • 初期の一部機種ではMPEG-2デコーダを内蔵していないため、ビデオ単体では映像が見られない。また、通常のMPEG-2デコーダは搭載しているがハイビジョン用デコーダを搭載していない機種もあり、この場合にはハイビジョンチューナーを経由して再生しなければならない。
  • VHSテープ自体がDVDやBlu-ray Discと比べてサイズが大きい。
  • 2007年1月時点でD-VHSデッキの生産が終了しており、それ以降でD-VHSデッキを導入するには在庫が残っている店舗を探すか、中古市場で買い求める以外に方法が無い(中古市場でのD-VHSデッキの入手はS-VHS/VHSと比べると困難である)。
  • D-VHSテープの入手が困難なうえ(メーカー取り寄せは可能だが店頭で見かけることはほとんどない)、代用となるS-VHSテープさえ販売流通数および生産本数の減少で入手困難になりつつある(従来VHSテープは未だ一定以上流通しているが、磁性体の保磁力が劣るためD-VHS方式でのデジタル記録は困難)。
  • Blu-ray Discの普及による増産で低価格化が進み、D-VHS/S-VHSテープと価格が逆転している。
  • コピー・ワンスの番組を録画したD-VHSはBDレコーダーへダビング・ムーブはできない。
  • ハイビジョン録画・ダビングの手段がi.LINK経由に限られる。そのためi.LINK端子を搭載しないハイビジョンテレビやチューナーからはハイビジョン画質での録画や再生(ハイビジョン用デコーダ非搭載機種)が行えない。

他規格との連携

Blu-ray Discを発売した松下電器産業(現・パナソニック)は、2004年4月にD-VHS製品を出荷完了している。ソニー、シャープも同様にBlu-ray Discへと移行した。

パナソニックはこれに伴い、単体デジタルチューナーやデジタル3波チューナー内蔵テレビから、D-VHSの録画に不可欠なi.LINK端子を撤去したモデルを販売している。ただし、パナソニックのBDレコーダー「DIGA」の「DMR-BW」シリーズには、i.LINK端子が搭載されており、ハードディスクに録画したハイビジョン番組を、Blu-rayメディアの他、D-VHSテープにもムーブ可能。公式にパナソニック製BDレコーダーとの連携が保証されているのは、同社のD-VHSデッキである「NV-DHE10」、「NV-DH1」、「NV-DHE20」、「NV-DH2」の4機種である。

ソフト

ハイビジョン記録されたパッケージ規格 “D-Theater”も開発された。D-Theater規格のテープはD-Theater機能を搭載したD-VHSデッキでしか再生できない。D-TheaterにはDVDと同じくリージョンコードがあり、パッケージとデッキのリージョン番号が一致しないと再生できない。アメリカ市場ではソフトが商品化されているが、日本市場でのD-VHSソフトは、僅か1タイトルが発売されたに過ぎない。ハイビジョンソフトの再生規格としては、既にHD DVDとの規格争いに勝利したBlu-ray Discに確定しており、開発メーカーである日本ビクター自身がBlu-ray Discに移行している上に、D-VHSの機器の日本市場向けモデルの製造が打ち切られたことから、今後新たなるソフトの発売の可能性は絶無である。

ちなみに、録画用テープについては、2014年現在でもビクターアドバンストメディアがS-VHSテープと共に、パナソニックもDVカセットと共に製造・販売を続けているので、店頭にない場合は取り寄せる事が可能[7][8]

脚注

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関連項目

外部リンク

テンプレート:Video storage formats
  1. D-VHS入門、ASCII24、2001年4月19日
  2. D-VHSからのMPEG-2キャプチャが可能なIEEE1394カード GV-DVC3/PCI、ASCII24、2002年1月18日
  3. VHSのデジタルフォーマット「D-VHS」全仕様決定、日本ビクター、1998年7月3日
  4. CSデジタルチューナー内蔵 D-VHS VTRを発売、日立製作所、1998年8月27日
  5. 2011年以降のBSデジタルD-VHS記録で支障が出る可能性 -BS再編などで設計上限を超える可能性。ビクター発表、AV Watch、2009年4月13日
  6. 28.2Mbps(HSモード時)×60(秒)×240(分)=406,080Mb=50,760MB≒50.7GB
  7. 記録メディア(ディスク・テープ関連)商品、ビクターアドバンストメディア
  8. DVカセットテープ/D-VHSテープ、パナソニック