106急行バス

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106急行バス(ひゃくろくきゅうこうバス)とは、岩手県盛岡市と、同県宮古市を結ぶ、岩手県北自動車(岩手県北バス)が運行するバス路線の愛称である。主に国道106号を走行することから名づけられたものである。

概要

当路線は、1978年昭和53年)から運行を開始している。

2011年平成23年)3月11日東日本大震災が発生するまでは、停車停留所の少ない106特急バス、さらに座席指定制の106スーパー特急バスも運行されていたが、現在は106急行バスのみの運行である。

前史

岩手県の県庁所在地である盛岡市と、三陸海岸に位置する都市である宮古を結ぶ路線バスの歴史は古く、1913年大正2年)に盛宮自動車により運行された路線バスに端を発するが、これは岩手県では初の路線バスでもある[1]。また、さらに遡った1906年明治39年)から乗合馬車の運行が行われており、この区間には古くから一定の流動があったといえる。この路線は、山田線の全通とともに運行廃止となるが、1948年(昭和23年)のアイオン台風で山田線が不通になると、3年間にわたりバス代行輸送が行われた。

このバス代行輸送の実績を鑑みた沿線市町村から、盛岡と宮古を直通する急行バス路線の運行に対する要望が高くなった[2]。県北バスでは、1954年(昭和29年)に区界峠の悪路が改修されたことを契機としてこの区間に対する路線の免許を申請、1955年(昭和30年)6月に宮古と盛岡を結ぶ急行バスの路線が免許された。この時の所要時間は5時間程度で、宮古を午前4時に発車し、盛岡駅を9時に発車する東北本線の列車に接続させるなど、東北本線との接続を重視していた[3]

運行開始、成功

ファイル:Train on Yamada Line view from 106Express.jpg
106急行バスと併走する山田線列車(106急行バス車内より)

その後、モーターリゼーションの進展に伴い、地方の道路整備は急ピッチで行われることになった。本路線が運行されていた国道106号も例外ではなく、1970年代後半には全面的に完全舗装の2車線道路に改修され、カーブの改良やトンネルの新設などにより、走行条件は大幅に改善された。一方の山田線は、線形の悪さから大幅なスピードアップは難しい状況であった上に、国鉄のローカル線合理化の波を受けて運行本数が減少していた[4]。県北バスでは、国道106号の全面改修を見据えて、この区間に「列車より速く、マイカーより快適」というコンセプトの急行バスを運行することを決定した。

使用車両はリクライニングシート・冷暖房完備・車内テレビを設置した最新型の観光バス車両を使用することとし、運賃は鉄道の普通運賃と同程度の1600円に設定された。これは、当時地方のローカル線やバス事業者で冷房車は少なかったこと、都市部でさえようやく通常のバスに冷房の搭載が始まった時期であることを考えれば、破格のサービスレベルであり、少なくとも山田線の列車に対しては、スピード・値段・居住性のすべてを凌駕していた[5]。また、当時のマイカーと比べても遜色のない快適性を確保するものでもあった[5]

また、盛岡に到着した夜行列車に接続して盛岡駅を6時に発車する[5]などダイヤ設定にも工夫を凝らし、乗客が多い際には直ちに無線で続行便の手配を行い、着席も保証する方策を採った。

こうして、1978年(昭和53年)11月1日より、106急行の運行が開始された。

運行開始当初のダイヤは1日6往復であったが、利用者増に伴いわずか半年後の1979年(昭和54年)4月には2往復増便され、同年夏には季節運行便2往復も運行された。1980年(昭和55年)にはさらに4往復増便され、東北新幹線開業の直前の1982年(昭和57年)4月には14往復にまで増便された。

波及効果

106急行の成功は、たとえ一般道路経由のバス路線であっても、道路条件と設定次第では鉄道のローカル線に対して十分な競争力を有することを立証した。

東北新幹線開業とともに、新幹線連絡を使命とした特急バスや高速バスの路線が多数設定されたが、複数事業者による共同運行という相違点はあるものの、概ね106急行の運行体制やサービスを範としているという[4]。それらの路線には、県北バスも積極的に参入している。

また、本路線の成功により、運行事業者である県北バスの収益も大幅に増加した。106急行の収益により、過疎路線の赤字を埋め合わせるという、いわゆる内部補填が可能になったことから、県北バスは1979年度から過疎路線バス維持の補助金を返上[6][7]、以後東北地方ではトップクラスの優良バス事業者となった。また、この後県北バスは少なくとも1993年(平成5年)までは消費税転嫁以外には運賃改定を行わなかった[8]

その後も漸次増便され、現在では盛岡と宮古を結ぶ重要な公共交通としての役割を担っている[9]

年表

  • 1978年11月1日 - 運行開始。
  • 1987年 - 特急便の運行を開始。
  • 1988年11月15日 - 特急便の運行を休止。
  • 1989年4月22日 - 宮古駅前 - 船越駅前間区間延長(2往復)。
  • 1992年4月25日 - 106特急(現在のスーパー特急に相当)運行開始。1日2往復(1往復は浄土ヶ浜乗り入れ、1往復は船越駅前発着)。
  • 1992年10月 - 宅配業者(日本通運)と連携して「宅配バス」の運行開始。
  • 1993年4月25日 - 急行便(1往復)が浄土ヶ浜に乗り入れ。鍬ヶ崎・前須賀乗り入れを廃止。
  • 1995年頃 - 106特急を1日3往復に増便、計1日21往復となる。
  • 1999年11月15日 - 急行便を1往復増便、計1日22往復となる。
  • 2000年11月15日 - 船越駅前乗り入れがすべて急行便となる(3往復は変わらず)。
  • 200x年 - 従来の106特急便を「スーパー特急」とし、途中停留所のある「特急便」を新設(3往復)。急行便(18往復)とあわせ1日24往復となる。盛岡駅前 - 盛岡バスセンター間の運賃を100円に値下げ。
  • 2005年頃 - 一部便が盛岡駅西口(5番のりば)発着となる。
  • 2008年7月26日 - 1往復を宮古駅前 - 奥浄土ヶ浜間を延長運行( - 同年8月17日まで)。
  • 2009年7月1日 - 上り便(盛岡行)の休憩箇所を箱石休憩所からやまびこ産直館に変更(同時に、盛岡行でのやまびこ産直館停留所での客扱いを開始)。あわせて同年9月30日までの限定で、「106+やまびこ産直館さわやかきっぷ」(片道乗車券+やまびこ産直館での買い物・食事に使用できる800円のサービス券付で2,500円)を販売[10]
  • 2010年4月17日 - 急行便を1往復減便。盛岡駅西口への乗り入れを廃止。バス停新設(片巣、根市)および改称(川井高校前→上川井)。
  • 2011年3月16日 - 同年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響により運休していたが、この日より宮古駅前 - 盛岡駅前間1日3往復が運行再開(途中無停車)。
  • 2011年3月17日 - 1日6往復に増便、途中停留所における乗降扱いを再開。
  • 2011年3月22日 - 1日8往復に増便。
  • 2011年3月26日 - 1日9往復に増便。
  • 2011年4月13日 - 1日12往復に増便。
  • 2011年6月25日 - 1日15往復に増便。
  • 2011年12月1日 - 1日16往復に増便。
  • 2012年4月1日 - 朝の上り1便に限り、船越駅前~宮古駅前間の運行を再開。
  • 2012年6月1日 - 1日17往復に増便。うち船越駅前発着は2往復。

所管営業所

  • 盛岡南営業所(盛岡南営業所所属車はヨーデル号アーバン号などの県外への高速バスと共通運用)
  • 宮古営業所
  • 山田営業所(船越駅前発着便のみ)

主な停留所

2012年6月1日現在。

盛岡駅前(東口) - 中央通二丁目 - 県庁・市役所前 - 盛岡バスセンター - 茶畑公園 - 築川支所前 - 区界 - 松草 - やまびこ産直館前 - 川内 - 箱石 - 川井 - 茂市 - 蟇目 - 千徳駅前 - 下千徳 - 宮古駅前 - 上磯鶏 - 山田中央町 - 船越駅

のりば

  • 盛岡駅前(東口):7番のりば
  • 盛岡バスセンター:宮古方面 ななっく向かい・盛岡駅方面 日専連向かい
  • 宮古駅:案内所前6番のりば

過去の運行系統

106急行バス(主要停留所記載)
  • 盛岡駅前(東口) - (現在と同ルート) - 宮古駅前 - シートピアなあど <盛岡行のみ> - 浄土ヶ浜ターミナルビル - 奥浄土ヶ浜
  • 盛岡駅西口 - 盛岡駅前(東口) - (現在と同ルート) - 宮古駅前
106特急バス(停車停留所記載)
  • 盛岡駅東口 - 中央通二丁目 - 県庁・市役所前 - 盛岡バスセンター - 茶畑公園 - やまびこ産直館前 - 川井 - 茂市 - 千徳駅前 - 下千徳 - 宮古駅前(←信用金庫前←浄土ヶ浜ターミナル←浄土ヶ浜パークホテル)
106スーパー特急バス(停車停留所記載)
  • 盛岡駅東口 - 中央通二丁目 - 県庁市役所前 - 盛岡バスセンター - 宮古駅前(→浄土ヶ浜パークホテル)

運行回数

2012年6月1日現在。

  • 急行便:1日17往復(うち3往復はかつて「106スーパー特急バス」に充当していたトイレ付き車両で運行)

乗車券

  • 基本的に乗車時に整理券を取り、下車時に運賃表示機を確認のうえ運賃を支払う。
  • 盛岡駅県北バス窓口、宮古駅前案内所自動券売機で乗車券を発売している。
  • 岩手県北バスの発行するバスカードでも利用できる(車内販売もあり)。その場合、乗車時・下車時にカードリーダーを通すこと。
    • 岩手県交通の発行するバスカードは、2010年4月1日以降利用できない(詳細はバスカードの記事を参照)。

各種割引乗車券

  • 「106急行往復乗車券」 - 設定区間は盛岡駅 - 宮古駅間、中央通二丁目・盛岡バスセンター - 宮古駅間で7日間有効。
  • 「三鉄106まるとく往復乗車券」 - 三陸鉄道と106急行バスを乗り継いで利用できる往復乗車券。三陸鉄道北リアス線有人駅(久慈駅・宮古駅を除く)で発売。
  • 「106急行・三陸鉄道観光フリーパス」 - 7月16日から11月30日まで106急行バス往復乗車券と三陸鉄道北リアス線フリー乗車券がセットなった割引乗車券(バス往復券7日間、三鉄フリー乗車券2日間有効)。盛岡駅県北バス窓口、盛岡バスセンターで発売。
  • 「106急行バス・アーバン号乗り継ぎ往復割引乗車券」 - 106急行バスとアーバン号を乗り継いで利用できる割引乗車券(6日間有効)。宮古駅前案内所で発売。
  • 「宮古らくとく空港きっぷ」 - 106急行バスと岩手県交通の花巻空港連絡バスの乗車券がセットとなった割引乗車券(1か月間有効)。宮古駅前案内所並びに岩手県交通空港案内所で発売。IGRが発売している「らくとく空港きっぷ」同様に花巻空港の一部サービスが割引になる[11]
  • 「106急行高齢者らくらく往復乗車券」 - 満70歳以上の方が利用できる往復割引乗車券。盛岡駅県北バス窓口と宮古駅前案内所で発売(7日間有効)。購入には年齢を証明する書類が必要。2013年3月31日までは満75歳以上の方が対象となっていた[12]

その他

  • 盛岡 - 宮古間を即日配達する「106急行宅配便」を行っている。
  • チャイルドシートのレンタルを行っているほか(チャイルドシートレンタルは事前予約制)、一般路線バスと同様にベビーカーでの乗車もできる[13]
  • 急行便と特急便は途中、宮古・山田(船越)方面行は「やまびこ産直館」バス停(宮古・山田方面行のみの停車で、盛岡行は停車しなかった)にて、盛岡行は「箱石休憩所」(ここで客扱いはせず、乗降バス停は少し先の「箱石」バス停となっていた)にてそれぞれトイレ休憩を行っていた。なお、2009年(平成21年)7月1日から盛岡行も「やまびこ産直館」での休憩に変更された。
  • スーパー特急便(運行休止中)は座席指定料金200円が必要(ただし、座席は指定席ではない。また、専用車が車両点検の場合は一般車両で運転される場合があり、その場合は座席指定料金200円は不要となる)であった。なお、トイレ付き車両のため途中休憩はなかった。また盛岡市内についてはクローズドドアシステムが適用されるため、宮古行の場合は盛岡駅→盛岡バスセンターのみの降車、盛岡行の場合は盛岡バスセンター→盛岡駅のみの乗車はできなかった。
  • 盛岡駅 - 盛岡バスセンター相互間は、岩手県交通が運行している盛岡都心循環バス「でんでんむし」にあわせて、運賃が100円である(他の岩手県北バス一般路線バスも同様。但し、盛岡市内にて乗降制限のある106スーパー特急は対象外であった)。
  • JR山田線が不通になったり、区界 - 千徳間で列車の運転が打ち切られた場合は106急行バスで振替輸送を行う場合がある。

車両

基本的に55人乗りハイデッカー車両(UDトラックス(旧:日産ディーゼル)・スペースアロー日野・セレガ三菱ふそう・エアロエース)が使用されるが、一部便にはかつてスーパー特急便に運用されていたUDトラックス(旧:日産ディーゼル)・スペースウイング(トイレ付)が使用される(トイレ付き車両充当便は時刻表に明示されている)。

注記

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

  • バスラマ・インターナショナル20「ユーザー訪問:岩手県北自動車」(1993年10月25日初版・ぽると出版)
  • 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」(2004年10月7日初版・クラッセ)
  • 同「高速バス大百科(新版)」(1991年) なお、本路線は高速バスではない。

外部リンク

テンプレート:岩手県北自動車
  1. 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」p12
  2. 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」p26
  3. 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」p27
  4. 4.0 4.1 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」p74
  5. 5.0 5.1 5.2 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」p75
  6. 鈴木文彦「岩手のバス いまむかし」p65
  7. バスラマ・インターナショナル20「ユーザー訪問:岩手県北自動車」p29
  8. バスラマ・インターナショナル20「ユーザー訪問:岩手県北自動車」p34
  9. 106急行バスの盛岡駅前 - 宮古駅前間の総延長は94,1kmだが、並行する山田線の盛岡 - 宮古間の直通列車は1日4往復しかなく、しかも盛岡 - 宮古間の直通列車の盛岡発の最初の列車の時刻は11時台である他、営業キロは102.1kmで、盛岡 - 宮古間のJR定期券は購入できない。
  10. テンプレート:PDFlink
  11. 平成25年3月31日より、宮古らくとく空港きっぷの販売を開始いたします。岩手県北バスプレスリリース 2013年3月29日
  12. 平成25年4月1日より、106急行高齢者らくらく往復乗車券がリニューアルいたします!岩手県北バスプレスリリース 2013年3月30日
  13. チャイルドシート貸出とベビーカーでのバス乗車!岩手県北バス 2011年8月1日