麻雀放浪記

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テンプレート:Portal麻雀放浪記』(マージャンほうろうき)は、阿佐田哲也作の小説。また、この原作をもとに、東映で作られた映画。

概要

ギャンブルとしての麻雀を題材としており、文中に牌活字がしばしば登場する娯楽小説である。戦後復興期のドヤ街を舞台として、主人公「坊や哲」をはじめ、「ドサ健」、「上州虎」といった個性的な登場人物達が生き生きと描かれ、彼らが生き残りをかけて激闘を繰り広げるピカレスクロマン(悪漢小説)として評価が高い。

1969年(昭和44年)、『週刊大衆』に最初のシリーズ(のちに「青春編」と呼ばれる)が連載され、昭和40年代の麻雀ブームの火付け役になった。以後、1972年(昭和47年)までに計4シリーズが連載された。

1984年和田誠監督作品として映画化されたほか、漫画化もされている。また、阿佐田自身による続編的な作品として『新麻雀放浪記』『外伝・麻雀放浪記』がある。そのほか、ドサ健を主人公にしたスピンオフ作品『ドサ健ばくち地獄』がある。

あらすじ

  • 青春編 - チンチロ部落での「ドサ健」との出会いをきっかけに賭博の世界に足を踏み入れた「坊や哲」は「ママ」や「出目徳」らによって麻雀に深くのめりこんでいく。そして、「ドサ健」、「出目徳」、「女衒の達」らとの果てしない青天井麻雀は意外な結末を迎える。1969年1月~6月まで週刊大衆に連載。
  • 風雲編 - ヒロポン中毒のため、代打ち麻雀で失態を演じた「坊や哲」は東京を去る。新天地、大阪での「タンクロウ」との激闘。慣れないブウ麻雀に初めは戸惑うが…。1970年1月~6月まで週刊大衆に連載。
  • 激闘編 - 麻雀の打ち過ぎか、肘が上がらず、「芸」が使えなくなった「坊や哲」。TS会から「カラス金」を借りて麻雀を打つが、時は戦後の復興真っ最中であり、自分の生き方と世間のギャップに戸惑う…。1971年1月 - 6月まで週刊大衆に連載。
  • 番外編 - 「親指トム」のあだ名を持つ「李億春」を主人公に据えた完結編。一方「坊や哲」は麻雀から足を洗い、勤め人になっていたが、「ドサ健」との再会により再び麻雀の世界に身を投じる。1972年1月~6月まで週刊大衆に連載。

登場人物

麻雀放浪記の魅力のひとつに「坊や哲」と、彼を取巻く個性豊かなバイニン(-商売人。ばくち打ち。)達が挙げられる。

坊や哲(ぼうやてつ)
主人公。中学卒業直後、「ドサ健」との出会いをきっかけに賭博の世界に足を踏み入れる。このとき、まだ子供だったことと一張羅として中学時代の学生服を着ていたことから「坊や」と呼ばれるようになり、やがてバイニンとしての通り名となった。
戦時中は学徒動員によって工場で働いており、そこで上州虎と出会い博打を覚えた。この頃から博打の筋は良かったらしい。中学卒業直後に終戦を迎え、家族には「仕事に行く」と偽って当てのないまま時間を潰しているとき、偶然上州虎と再会、上野の賭場に案内され「ドサ健」と出会う。
上州虎(じょうしゅうとら)
本名「樋口虎吉」。片腕の傷痍軍人(元・N工場の工員)で、ダイカストで重傷を負い、右腕の、肩の付け根あたりから先を失っている。ぼろぼろのシャツ一枚に戦闘帽を被った中年男性、賭博暦は30年。戦時中は公傷で工場で保障され、片腕しかないのをいいことに博打ばかりやっていた。学徒時代の坊や哲に丁半チョボ一オイチョ、麻雀などの博打を教えていた。通り名は、上州(現在の群馬県)出身であることに由来する。
上野の部落で行われている博打に参戦するために、たたき(強盗)、のび(空巣)、かっぱらいなどの悪事を犯してまで金をためてきた。博打に参戦するときは最初部落の仲間に断られたが、自分の片腕を見せて「自分は片腕しかないから博打しか楽しみがない」と哀れみを見せ、嘆願した末に参戦できた。そこで行われているチンチロリンは初心者だが、直ぐに親しみ興じる。当初は好調に勝っていたが、最終的に一文無しとなる。その後、金を手に入れるために人にナイフを突きつけ脅迫したが、その人がかつて鶴見工場で同僚だった坊や哲であり、偶然の再会を果たす[1]。チンチロリンの勝ち分半分をもらうことを条件に、坊や哲に上野の賭場に案内する。
ドサ健(ドサけん)
上野を拠点とする生粋のバイニン。
出目徳の一件から10年後の物語であるスピンオフ作品『ドサ健ばくち地獄』では主人公を務める。
女衒の達(ぜげんのたつ)
「ドサ健」の借金のかたに「まゆみ」を引き取りに来たのだが、彼もまたバイニンとして青天井麻雀に身を投じる。
出目徳(でめとく)
「坊や哲」に2の2の天和を教える。「ドサ健」らとの激闘の末、九連宝燈をあがり…。
チン六
密造酒の闇売りで小金をためていたが、元は博打打ちだと言うプライドから「ドサ健」に財産を博打で取られる。
愚痴を聞いてくれ金を恵んでくれた「坊や哲」に恩義を感じ、激闘編の最後に無一文になった「坊や哲」に金を返す。
クソ丸
破戒坊主。「ドテ子」を連れて賭博の旅をしている。
ドテ子
大阪で「坊や哲」とコンビを組む。
タンクロウ
大阪の老人のバイニンで、ブウ麻雀の打ち手。単騎待ちを得意としている。
達磨(だるま)
大阪の道頓堀付近にある雀荘「白楼」のマスター。その名の通り、達磨を髣髴させる肥満体系で、どてらを羽織っている。ブウ麻雀の凄腕の打ち手。
飛び甚(とびじん)
親指トム / 李億春(り おくしゅん)
両手共に親指以外の指は第一関節から先を失っているが、「ツリ技」の名手。それ故に、普段は両手に詰め物をした黒い手袋(義手の代わり)を嵌めている。
ガス
ガス牌(にせ牌)を使う「ガス師」。李億春と共に東京に現れる。
森サブ(もりサブ)

書籍

以下には現在入手可能なものを示す。

  • 麻雀放浪記(一) 青春編 角川文庫 ISBN 4041459516
  • 麻雀放浪記(二) 風雲編 角川文庫 ISBN 4041459524
  • 麻雀放浪記(三) 激闘編 角川文庫 ISBN 4041459532
  • 麻雀放浪記(四) 番外編 角川文庫 ISBN 4041459540

映画 麻雀放浪記

テンプレート:Infobox Film 原作小説の第1巻「青春編」が、1984年(昭和59年)に和田誠監督作品として映画化されている。

雀卓を舐めるように旋回するカメラワーク、そして実力派俳優達が演じるばくち打ち達、これらが相まって、麻雀を知らなくても楽しめる娯楽作品に仕上がっている。桜井章一の雀技指導により、「つばめ返し」等のイカサマ技も見られる。

映像は戦後の混乱期の雰囲気を描いたモノクロームとなっている。映画のスタッフとキャスト表示は、現代のカラー映画では冒頭で一部のみ表示し、エンディングで全てを表示するフォーマットだが、この映画では冒頭ですべてを表示し、エンディングは「終」しか表示しない、白黒映画時代のフォーマットになっている。ただし書体については昔風の書き文字でなく、写植である。

また、本作の絵コンテの一部が伊丹十三監督の『マルサの女2』のドキュメント「マルサの女2をマルサする」(周防正行演出)で見ることが出来る。

スタッフ

キャスト

この映画のシナリオは、『シナリオ麻雀放浪記』として刊行されている。また、和田誠自身による撮影記が『新人監督日記』として刊行されている。もともとはドサ健役に松田優作を予定していたが、折り合いがつかず変更となった。

また、この映画のパロディを「オレたちひょうきん族」で放送したことがある。内容は「博打」というテーマではあるものの、映画のメインである麻雀のシーンがなく、代わりにポーカー(といっても完全にルール無視)で戦うシーンが入っている。ちなみに、坊や哲を明石家さんま、出目徳(コント内では「出目タケ」に変更)はビートたけしがそれぞれ演じている(『オレたちひょうきん族 1983〜1984 II』の3枚目に収録されている。タイトルは「ギャンブル放浪記」)。ちなみに、この回で初めてタケちゃんマンタケちゃんマン7に変わったことが報告される。

漫画化作品

  • 『麻雀放浪記 青春編』作画 北野英明 1975年 双葉社
  • 『麻雀放浪記 Classic』作画 井上孝重 連載:近代麻雀オリジナル(1994~1997年)竹書房
  • 麻雀放浪記 凌ぎの哲』作画 原恵一郎 連載:近代麻雀(2001年~2006年)竹書房
  • 哲也-雀聖と呼ばれた男』原案 さいふうめい 作画 星野泰視 連載:週刊少年マガジン(1997年~2004年)講談社(本作を初めとする阿佐田哲也の諸作品を大幅にアレンジしたもの)

なお、西原理恵子の『まあじゃんほうろうき』は、タイトルの読みが同じであるが、本作とは関連がない。

ゲーム化作品

  • 『麻雀放浪記 Classic』 1997年、イマジニア、NINTENDO 64
業務用脱衣麻雀の『麻雀放浪記』シリーズ(ホームデータ)は、麻雀の思考プログラムを阿佐田哲也が監修したもの。ゲームのストーリーなどについては、小説版との関連性はない。

お蔵入りの箇所

執筆の段階では、筑豊炭鉱にて、中国人在日コリアンらが麻雀に興じるシーンがあった。この他に被差別部落者が加わっていたくだりがあったが、編集段階でカットされており、お蔵入りとなっている(『徹底追及「言葉狩り」と差別』(文藝春秋)より小林健治の談話)。

脚注

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外部リンク

  • このとき動揺しながらも「誰だろうと同じだ。欲しい物は奪(と)る」と脅迫していたが、坊や哲が思い出話を聞かされたことでナイフを引っ込めた。