鶴見川

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鶴見橋(現・鶴見川橋)。19世紀初めの『江戸名所図会』より。

鶴見川(つるみがわ)は、東京都および神奈川県を流れる。鶴見川水系の幹川で、一級河川に指定されている。東京都町田市上小山田町の泉を源流とし、神奈川県横浜市鶴見区の河口から東京湾に注ぐ。全長42.5km、流域面積235km²、支川数は10。2005年(平成17年)4月に特定都市河川に指定された。

概要

鶴見川は、東京都および神奈川県を流れる河川である。その流域は、東京都町田市、神奈川県川崎市横浜市の3市(2政令指定都市を含む)からなり、一級河川に指定されている[1][2]。流域の形がバクに似ていることから「バクの流域」を愛称とし、しばしばバクが鶴見川流域の河川管理行政においてマスコットとして用いられる。河口から第三京浜道路までの17.4kmは、国土交通省京浜河川事務所の直轄管理区間となっており、第三京浜道路より上流の区間は神奈川県または東京都が管理する[3]

流路延長は42,5km、流域面積は235km²。流域内人口は約188万人で、流域内人口密度は全国109水系中第1位の8,000人/km²となっている(いずれも2004年(平成16年))。流域の土地利用は、宅地等の市街地が約85%、森林や農地等が約15%で、市街地化が進んでいる[4]。河川水は、農業用水または工業用水に利用されている。なお、流域の生活用水は流域外から導入されている。流域の下水道普及率は高く、人口増加に伴い、下水処理水の流入も増加している。

流域は、源流域に緑地地域が多く残り、中流域まで高水敷が広がる。中上流域には絶滅危惧種に指定される淡水魚や鳥類、昆虫類も生息し、下流域には汽水性の魚類、エビ・カニ・ウニ類、貝類や海鳥が生息する。国土交通省の調査による河川の区域面積あたりの利用者数は、十勝川に次いで多く、特に散策の利用者は全国で最も多い。中流域の鶴見川サイクリングコースや堤防上の歩道、森永橋付近にある横浜市鶴見川漕艇場など、河川利用を促進する施設も整備されている。

一方、鶴見川は、古くから洪水氾濫を繰り返す暴れ川として恐れられた。流域の市街地化が進んだことで、保水・浸透機能が低下し、大雨による水位の増大が激しくなり、一旦氾濫すると大きな浸水被害が生じる危険性も高まった。このため、全国に先駆けて1979年(昭和54年)から「総合治水対策」に取り組み、2005年(平成17年)4月には全国で初めて、特定都市河川浸水被害対策法3条に基づく、特定都市河川および特定都市河川流域に指定された[5]

また、例年、国土交通省が発表する河川の水質調査では、ワーストランキングの2位から3位となることが多い。水質は、1960年代から1980年代に比べれば大幅な改善が見られ、環境基準はほぼ達成された。しかし、流域の市街地化は今も続いており、なお大きな課題となっている。

流域の自治体

東京都
町田市稲城市
神奈川県
川崎市横浜市

地理

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鶴見川上流端(東京都町田市上小山田町・新橋)の標識

鶴見川の源流は、東京都町田市の北部、多摩市との境に近い上小山田町にある多摩丘陵の谷戸群(低湿地)の一角、田中谷戸(標高約170m)の湧泉である。源流周辺は、「鶴見川源流泉のひろば」として整備されている。源流を発した鶴見川は、町田市鶴川で真光寺川と、神奈川県川崎市麻生区麻生川と合流し、横浜市青葉区を縦断する。東名高速道路の下を抜けて、横浜市緑区都筑区の境界に沿い、下末吉台地に挟まれた沖積低地の入り口付近である緑区中山町で恩田川と合流する。このあたりまで、鶴見川は谷本川(やもとがわ)とも呼ばれ、源流からおおむね南東に流れる。恩田川と合流した鶴見川は、利水の基準地点とされる落合橋付近から東流し、港北区新横浜付近で鳥山川と合流すると蛇行して北へ向かう。再び蛇行して東流すると、港北区綱島付近で早渕川と合流し、鶴見区駒岡付近で矢上川と合流する。鷹野大橋付近から左岸に川崎市幸区と接しながら、南東へゆるやかに蛇行し始め、治水の基準地点とされる末吉橋付近から鶴見区を貫き、同区末広町・大黒町の河口から東京湾に注ぐ。

鶴見川流域は、標高80mから170mの低い丘陵地帯が分水界をなし、河床勾配は、源流から恩田川合流付近までの上流部で約1/250、沖積低地の中下流部で約1/1000の緩勾配となる。流域の大半が大きく起伏した丘陵・台地のため、かつては開発されることもなく、自然豊かな環境・景観が形成されていた。しかし、1960年代(昭和30年代半ば)に始まる高度経済成長期から、流域周辺は人口が急増し、住宅地として急速に開発が進められた。1958年(昭和33年)には流域内の市街地率は約10%、人口は約45万人であったが、2003年(平成15年)には市街地率約85%、人口約188万人となっている。この市街地化の結果、谷戸や低平地の農地はほとんど姿を消し、自然主体の流域から都市主体の流域へと変貌した。

鶴見川流域の地形・地質は、大きく2つに分けられる。流域全体の7割を占める源流付近から上中流域にかけての丘陵・台地は、保水・浸透機能が高い赤土関東ローム層で覆われており、残り3割を占める中下流域の沖積低地は、シルト質(砂と粘土との中間の大きさの砕屑物。沈泥。)の軟弱な地盤となっている。

流域の気候は太平洋側気候に属し、冬季は晴天乾燥、夏季は高温多湿な日が多く、概して温和な気候といえる。流域の年間総雨量は1,600mmから1,400mmで、秋季の雨量が多い。

生物

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ヨコハマヒザクラ(横浜緋桜。横浜市鶴見区上末吉付近の堤防上)

今も源流付近に残る広い緑地や、流域の市街地内に点在する緑地などは、保水・浸透機能を有する貴重な自然環境と自然景観を形成している。源流付近の湧水が集まる水域には、絶滅危惧種であるホトケドジョウギバチスナヤツメなどの魚類が、流域にはオオタカをはじめとする猛禽類が生息し、上流域には同じく絶滅危惧種のタコノアシカンエンガヤツリなどの植生が見られる。中流域の高水敷には、メヒシバクズヨシオギなどの群落が広がり、オオヨシキリなどの鳥類の繁殖地や、絶滅危惧種であるヨコハマナガゴミムシの国内唯一の生息地が確認されている。下流域には高水敷の緑地は少ないものの、汽水性の水域にはスズキマハゼマゴチコイなどの魚類や、ケフサイソガニユビナガスジエビなどのエビ・カニ類、流域にはユリカモメホシハジロ、絶滅危惧種であるコアジサシなどの鳥類が生息する。

また、一部の堤防上には、サクラツツジなどの植栽も行われている。特に、横浜市鶴見区内では、区役所の支援と区民の活動により、ヒカンザクラの園芸品種である「ヨコハマヒザクラ」が多く植えられている[6]

2002年(平成14年)8月には、中流域から下流域に至る豊富な魚貝類に誘われたのか、アゴヒゲアザラシタマちゃんが東京湾から遡上した[7]

利用

鶴見川の河川水は、主に農業用水と工業用水に利用されている。農業用水は、流域の開発に伴い減少しつつも、約130haの耕地の灌漑に利用されている。最大取水量は、かんがい用水として1.616m³/s(慣行、21件)、工業用水として0.555m³/s(許可、1件)。農業用水の取水は中流域の亀の子橋より上流域に点在し、工業用水の取水は河口部にほど近い鶴見曹達東亞合成の子会社)のみである。なお、鶴見川流域では、生活用水のほとんどが流域外から導水されている。

また、鶴見川流域では下水道の整備が進んでおり、すべての処理区で普及率90%を超えている。鶴見川には、麻生水処理センター(川崎市)、鶴見川クリーンセンター(町田市)、成瀬クリーンセンター(町田市)、都筑水再生センター(横浜市)、港北水再生センター(横浜市)、加瀬水処理センター(川崎市)、北部第一水再生センター(横浜市)の計7つの処理場から下水処理水が流入している。流域人口の増加を受けて、下水処理水の放流量は増加している。下水道の普及は、鶴見川の水質改善に大きな役割を果たしたものの、下水処理水に多く含まれるアンモニア態窒素[8]などが、鶴見川の水質に特徴的な傾向を与えている。

一方、鶴見川は、国土交通省が行っている「河川水辺の国勢調査(河川空間利用実態調査)」によれば、区域面積あたりの年間利用者数が、十勝川に次いで多い[9]。特に、散策の利用者数は全国1位(42.9万人/年・km²)となっている[10]

治水

鶴見川は、古くから洪水氾濫を繰り返す暴れ川として恐れられた。特に大規模な河川改修計画を策定する契機となった1938年(昭和13年)から、2004年(平成16年)までの約70年間に、主なものだけでも17回の水害に見舞われた。流域の年間降水量は約1,400mmから1,600mm程度であり、水害の要因のほとんどは台風性の降雨によるものである。

水質

鶴見川の水質は、1980年代には環境基準を大きく超えていたが、その後は下水道の普及や水質汚濁防止法等による排水規制の実施などにより改善が進み、BOD75%値[11][12]でみるとほぼ全ての地点で環境基準値が達成されている。しかし、下水処理水の影響を大きく受ける中流部では、依然として環境基準値が達成されておらず、大きな課題となっている。

国土交通省が発表する一級河川(直轄管理区間、166河川)における水質調査(BOD値による河川水質状況)では、例年、ワーストランキングの2位から3位となっており、さらなる水質改善努力が続けられている[13]。なお、同調査によれば、ダイオキシン類については、水質・底質ともに環境基準値の2分の1以下となっている。

細菌による汚染

1978年(昭和53年)3月、鶴見川河口付近の河川水からコレラ菌(エルトール型)が検出された。当時の厚生省は、本件において河川水からコレラに感染する可能性はないと発表したものの、住民には動揺が広がった。結局、川崎市高津区内の医院に設置された浄化槽から、支流の有馬川を経て、鶴見川を汚染していたものと判明した[14]

この件の後、全国各地の自治体で各地方衛生研究所を中心に、河川水の定点観測が始められた。神奈川県と横浜市、川崎市でも、各衛生研究所(衛検)が、河川水の細菌学的定点観測を継続している。鶴見川では、臨港鶴見川橋、川向橋(以上、横浜市衛検)、末吉橋(川崎市衛検)を定点として観測されている。一般的なコレラ菌(O1)は検出されるものの、毒素を産生する菌が検出されたことはない[15]

支流

鶴見川は、主なものだけで、支流の矢上川をはじめとして、早渕川鳥山川大熊川鴨居川恩田川麻生川真光寺川と、二次支流の砂田川梅田川のあわせて10支川が合流し、東京湾に注いでいる。

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新袋橋より上流方面を望む
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寺家橋より鶴見川本流と早野川
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宮前橋より下流方面を望む
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学校橋より下流方面を望む
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新鶴見橋より下流方面を望む
200px</br>森永橋から上流方面を望む

上流より記載(支流および二次支流)

橋梁

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図師大橋
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丸山橋
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参道橋
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新袋橋
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袋橋
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鍛冶屋車橋
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川島橋
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大蔵橋
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春日橋
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関山橋
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住吉橋
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弁天橋
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八坂橋
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下川戸橋
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川井田橋
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小田急小田原線の橋
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大正橋
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川井田人道橋
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睦橋
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本村橋
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宝殿橋と岡上跨線橋(奥)
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岡上橋
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精進場橋
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子の神橋
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四ッ木橋
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麻生橋
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恩廻橋
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水車橋
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寺家橋
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河内橋
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鴨志田橋
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常磐橋
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宮前橋
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川間橋
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新川間橋
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谷本橋
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学校橋
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天神橋
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精進橋と地下鉄鉄橋(奥)
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千代橋
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落合橋
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鴨池大橋
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鴨池人道橋
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新川向橋
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川向橋
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第三京浜道路
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小机大橋
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亀の甲橋
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新横浜大橋
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新羽橋
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東横線の鶴見川鉄橋

鶴見川沿いの主な施設

上流より記載

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脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

関連項目

外部リンク

テンプレート:一級水系

テンプレート:鶴見川の支流
  1. 河川法4条1項、河川法第四条第一項の水系を指定する政令31号。
  2. なお、鶴見川は、旧河川法に基づき、1967年(昭和42年)5月に、建設大臣から一級水系の指定を受けている。
  3. 支川については、矢上川早渕川鳥山川の一部が国交省管理区間となっている他は、神奈川県、東京都、横浜市などの管理区間となっている。
  4. テンプレート:Cite web
  5. 鶴見川を特定都市河川の第1号に指定、国土交通省河川局、2005年(平成17年)3月24日。
  6. 鶴見川沿いの植樹事業について、横浜市市民活力推進局。
  7. タマちゃんは、2002年8月7日に多摩川丸子橋付近に現れた後、8月25日から8月30日まで鶴見川にとどまり、その後、帷子川大岡川中川荒川など、東京湾に注ぐ河川各所に出没した。
  8. アンモニア態窒素(NH4-N)とは、水中にアンモニウム塩として含まれている窒素のことで、主として、屎尿や家庭下水中の有機物の分解などに起因し、富栄養化などに関わる水質汚濁の指標となる。
  9. 平成15年度・河川水辺の国勢調査(河川空間利用実態調査)、国土交通省河川局。
  10. 平成15年度・調査対象河川区域面積あたりの年間利用者数ベスト10、同上。
  11. BOD(Biochemical Oxygen Demand、生物化学的酸素要求量)とは、水中の好気性微生物の増殖や呼吸によって消費される酸素量のこと。水の有機物汚染が大きければその有機物を栄養分とする微生物の活動も活発になり、微生物によって消費される酸素の量も増加する。そのため、BOD値が大きければ水中の有機物汚染が大きいことを示すため、水の有機物汚染の指標とされる。
  12. BOD75%値とは、年間の日平均値の全データ(n個)を値の小さいものから順に並べ、「0.75×n番目」のデータの値をいう。BOD75%値と環境基準値を比較することで、年間日数の4分の3(75%)における、基準値達成状況が分かる。
  13. 「平成18年度・全国一級河川の水質現況の公表について」、国土交通省河川局。
  14. 地方衛生研究所全国協議会、健康危機事例集「鶴見川・有馬川水系のコレラ菌汚染」、大阪府立公衆衛生研究所。
  15. 「神奈川県の感染症」、神奈川県衛生研究所。