霧島山

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テンプレート:山系 霧島山(きりしまやま)は、九州南部の宮崎県鹿児島県県境付近に広がる火山群の総称であり、霧島連山霧島連峰霧島山地あるいは霧島火山群とも呼ばれる。最高峰の韓国岳(標高1,700m)と、霊峰高千穂峰(標高1,574m[1][2])の間や周辺に山々が連なって山塊を成している。

有史以降も噴火を繰り返す活火山気象庁の活火山ランク付けはB[3])であり、特に新燃岳御鉢では活発な火山活動が続いている。

地理

北海道の大雪山と同様に霧島山という固有の山はなく、個々の山岳はそれぞれ個別の名称で呼ばれる。山岳群に加えて大小の湖沼群を抱え、高千穂河原えびの高原霧島温泉郷などの観光地に恵まれる。山塊の中心部は霧島屋久国立公園(霧島地域)に指定されている。日本百名山日本百景の一つであり、2010年9月にはジオパークの一つとして認定された[4]

北部は加久藤盆地、北東部は小林盆地、南東部は都城盆地、南部は高隈山地と姶良台地(シラス台地)、南西部は北薩火山群、北西部は肥薩火山群に隣接する。宮崎県えびの市小林市高原町都城市、鹿児島県霧島市湧水町にまたがる。

日本でも有数の多雨地域であり、年間降水量は4,500ミリメートル以上に達し、このうち約半分は6月から8月に集中している[5]。霧島山の北東山麓は古くから馬の産地として知られており、薩摩藩も多くの牧場を所有していた。明治維新後も多くの国営牧場が設置され軍馬が産出された。第二次世界大戦後は民間に払い下げられ牛や豚による畜産が盛んな地域となっている[6]。また、茶(鹿児島茶)の栽培も盛んである。

山岳・湖沼・観光地の一覧

名称 標高 備考
栗野岳 1,094m 霧島山の西端にある古い火山群
飯盛山 846m
蝦野岳(えびの岳) 1,292m 白鳥山の上に生じた側火山
白鳥山 1,363m
えびの高原 蝦野岳、白鳥山、韓国岳に囲まれた高原。
白紫池 1,272m 白鳥山の火口湖。近年まで天然スケートリンクだった。
六観音御池 1,198m マール
不動池 1,228m 濃い青色を呈する火口湖。
甑岳 1,301m 山頂部に平坦な湿原、山腹に針葉樹林を抱える火山。
韓国岳 1,700m 霧島山の最高峰。
硫黄山 1,310m 1768年(明和5年)の噴火によって形成された。かつて硫黄の鉱山があった。
大浪池 1,412m(山の標高)
1,239m(水面の標高)
4万年前以前に活動した古い火口の跡。
霧島温泉郷 霧島山の南側斜面に散在する温泉群の総称。
琵琶池  
夷守岳 1,344m 生駒富士とも呼ばれる秀峰。
大幡池 1,230m  マール。
大幡山 1,353m
獅子戸岳 1,428m 姿が獅子が丸まったような形をしていることから。
新燃岳 1,421m 数回の噴火記録があり、御鉢と交互に噴火活動をする。最近の噴火は2011年4月。
湯ノ谷岳
烏帽子岳 988m
矢岳 1,132m
龍王岳 1,175m
中岳 1,332m
高千穂河原 970m かつて霧島神宮があった場所。霧島山の登山拠点の一つ。
御鉢 1,408m 高千穂峰の側火山。多数の噴火記録があり、最近の噴火は1923年。新燃岳と交互に噴火活動をする。
高千穂峰 1,574m 天孫降臨の地とされる霊峰。
二子石(二ツ石) 1,320m 高千穂峰の側火山。火口の地形は残っていない。
小池
御池 305m マール。
ファイル:Kirishima from Maruoka 2.jpg
西方(霧島市横川町丸岡)から見た霧島山
ファイル:Kirishima from North J.jpg
北方(えびの市霧の大橋)から見た霧島山

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生物

日本本土最南端の高山地帯であり火山地帯でもあるという特徴的な地域のため、明治初期から昭和初期にかけて多くの植物学者が訪れた。このためキリシマエビネキリシマノガリヤスキリシマスズなど多くの植物が霧島山で最初に同定されている。日本において霧島山を南限とする植物はカツラヒノキウラジロノキなど100種以上あるのに対して、霧島山を北限とする植物はツクシチドリツクシヒメアリドウシランの2種のみである。霧島山にのみ自生する固有種として、ノカイドウクモイコゴメグサなどがある[7]

植生分布は、最高峰の韓国岳山頂付近にミヤコザサコツクバネウツギ、標高1,500メートル付近にススキミヤマキリシマ、標高1,400メートル付近にヤシャブシマイヅルソウ、標高1,200メートル付近にアカマツ、標高1,100メートル付近にモミツガなどが多く見られる。特にミヤマキリシマは標高700メートル以上の日当たりの良い場所に広く分布する[8]

ホオジロアオゲラシカ等の野生動物が生息しており、国指定霧島鳥獣保護区(大規模生息地)に指定されている(面積11,364ha、うち特別保護地区1,884ha)。多様な生物が見られる貴重な場所として森林生物遺伝資源保存林にも指定されている。一方で、野生のシカが増えすぎ樹皮を食べられて立ち枯れする樹木も出るなど問題となっており[9]、観光客が餌付けをしないよう呼びかけが行われている。

湖沼が多いため水鳥が多く見られる。最も多い種はマガモカルガモであり、ヒヨドリアトリも多い。ヒヨドリは春と秋に多く見られることから渡りの中継地になっていると考えられている[10]

地質

火山群は大まかに北西から南東の方向へ並ぶ傾向を示しており、大浪池や韓国岳などを含む北西部(韓国群)と高千穂峰や新燃岳などを含む南東部(高千穂群)に分けられる。地熱が豊富であり、霧島温泉郷などの温泉地に恵まれ大霧発電所では発電にも利用されている。硫化水素二酸化炭素を噴出する噴気孔が散在する。「霧島火山群」として日本の地質百選に選定されている。

形成史

四万十層群と呼ばれる地層と、その上に重なっている第三紀火山岩が基盤となっている。30万年前に大噴火を起こした加久藤カルデラの南縁付近で火山活動が繰り返され、30万年前から15万年前にかけて安山岩または玄武岩から成る栗野岳、湯ノ谷岳、烏帽子岳、獅子戸岳、矢岳の古期霧島火山が形成された。

休止期間を経て10万年前から活動が再開し、古期霧島火山の上に新期霧島火山が重なるように形成された[11]。白鳥山や蝦野岳などがつくられた後に活動は東西に分かれ、西部では大浪池、韓国岳、甑岳などが、東部では大幡山、夷守岳、二子石、中岳、新燃岳、高千穂峰などが形成されている[12]完新世に入ってからも大幡池や御池などの噴火があった。有史以降の噴火活動は御鉢と新燃岳に集中している。

歴史

古代においては天孫降臨説話の舞台とされ、高千穂峰の山頂には天孫降臨に際して逆さに突きたてたという天の逆鉾が立てられている。「霧島」が最初に文献に登場するのは837年(承和4年)8月の続日本紀であり、諸県郡の霧島岑神社を官社とする旨が書かれている。

「霧島」の名称は周囲が霧の深い地域であることに由来し、特に霧が立ちこめた都城盆地から高千穂峰を望んだときに、まるで霧の中に浮かんだ島のように見えるためとする説が一般的である。この他に、イザナギカグツチを斬った故事にちなんで「切り嶼(きりしま)」と名付けられたとする説や、火山活動による噴煙を霧に見立てたとする説などがある[13]

古代から山岳信仰の対象となっており、中世においては修験道の霊山であった。10世紀中頃に性空が修行に訪れ、山中の様々な場所に分散していた信仰を天台修験の体系としてまとめ、霧島六社権現として整備した。軍神であるヤマトタケルを祀っていたことから、南北朝時代に勢力を伸ばした島津氏に信仰され、九州南部各地に霧島神社が建てられた[14]

近世に入って1714年(正徳4年)に霧島山南西部で硫黄谷温泉(霧島温泉郷)が発見され温泉保養地として知られるようになった。1866年には坂本龍馬おりょう夫婦が新婚旅行に訪れている。1929年(昭和4年)には林田熊一が林田温泉を開発し、1934年3月16日に日本で最初の国立公園(霧島国立公園)に指定された。1950年代後半になると、えびの高原や高千穂河原が登山拠点として整備され多くの登山者が訪れるようになった。

伝説

霧島山山中に仙人の住む仙境があるという伝説がある。また、特に霧島神宮周辺に見られる神秘的な現象は霧島の七不思議と呼ばれている[15]

霧島の七不思議

蒔かずの種
山中で種を蒔かないのに陸稲が生えることがある。これは天孫降臨の際に高天原からもたらされた種によるものとされている。
文字岩
霧島神宮の西方に体積10立方メートルの大岩があり、10センチメートル程度の隙間がある。手を入れることの難しい狭い隙間であるにも関わらず内側に梵字が彫られている。
亀石
霧島神宮の旧参道に亀に似た石がある。
風穴
霧島神宮の旧参道に風が吹き出す岩穴がある。
御手洗川(みたらしがわ)
冬期には涸れ、5月頃から大量の水がわき出す川。天孫降臨の際に高天原からもたらされた真名井の水が含まれているといわれている。
両度川
6月頃から9月頃までの間のみ流れる川。数日の間隔を置いて2度流れることから両度川と呼ばれる。
夜中の神楽
霧島神宮が現在の場所に遷宮された時、深夜に聞こえるはずのない神楽の音を多くの人が聞いたといわれる。

参考画像

その他

脚注

  1. テンプレート:Cite news
  2. GNSS測量等の点検・補正調査による2014年4月1日の国土地理院『日本の山岳標高一覧-1003山-』における改定値。なお、旧版での標高は1,573m。
  3. 気象庁・過去の火山活動による分類(ランク分け)
  4. テンプレート:Cite web
  5. 森茂善、荒木一好「霧島山の気候」『霧島山総合調査報告書』霧島山総合研究会、1969年
  6. 吉岡善三郎ほか 「畜産」『霧島山総合調査報告書』霧島山総合研究会、1969年
  7. 平田正一「霧島山の植物解説」『霧島山総合調査報告書』霧島山総合研究会、1969年
  8. 宍戸元彦「霧島山の森林植生」『霧島山総合調査報告書』霧島山総合研究会、1969年
  9. 宮崎県総合博物館編・発行 『宮崎県総合博物館総合調査報告書 霧島山の動植物』 2004年
  10. 中村豊 「霧島山の鳥類」 『宮崎県総合博物館総合調査報告書』 2004年
  11. 高橋正樹小林哲夫編『九州の火山』築地書館〈フィールドガイド日本の火山5〉、1999年、ISBN 4-8067-1165-9
  12. 遠藤尚ほか「火山灰層による霧島熔岩類の編年(試論)」『霧島山総合調査報告書』霧島山総合研究会、1969年
  13. 橋口兼古、五代秀堯、橋口兼柄 『三国名勝図会 巻之33』 1843年
  14. 中野幡能 『山岳宗教研究叢書13 英彦山と九州の修験道』 名著出版、1977年
  15. 霧島町郷土誌編集委員会編 『霧島町郷土誌』 霧島町、1992年

参考文献

  • えびの市郷土史編さん委員会編『えびの市史 上巻』 えびの市、1994年。
  • 宮崎県総合博物館編・発行 『宮崎県総合博物館総合調査報告書 霧島山の動植物』 2004年
  • 牧園町郷土誌編さん委員会編『牧園町郷土誌 改訂版』 牧園町、1991年。

関連項目

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外部リンク

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