阪急710系電車

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710系電車(710けいでんしゃ)は、1950年より阪急電鉄京都線用として製造された電車である。

ファイル:Hankyu710Series.jpg
引退目前の710系(1983年 桂駅

概要

制御電動車である710形711~717の7両と、制御車である760形761~767の7両の合計14両がナニワ工機で製造され、特急を中心に使用された[1]

車体

車体については、同時期に設計された姉妹車である神戸線用810系と共に阪急全線共通寸法[2]を初めて採用した。そのため、車体の寸法や基本設計は810系と同一である。

神戸線900形以来の腰高な一段下降窓を備えるデザインが継承されたが、窓配置はd1(1)D10D(1)2(d:乗務員扉、D:客用扉)で、当時73両を擁して京都線の主力車であった100形(P-6)のレイアウトや窓幅が踏襲されており、異なる2社の伝統を融和するデザインであった。

もっとも、窓枠の塗装や標識灯兼用の尾灯の取り付け方向、それに行先表示板の固定具などは新京阪以来の伝統に従っており、この点では神宝線の伝統に従う810系と一線を画していた。

なお、当初より特急用として計画されたため、固定クロスシート装備で竣工したが、最後に製造された2編成4両(716-766・717-767)は、ロングシート装備で竣工している。この2編成も特急に使用される事が多く、特急が4両編成の時代には、この2編成を繋げた4両全てロングシートの特急もあった。

主要機器

新京阪鉄道時代からの伝統を受け継ぎ、電装品に東洋電機製造製を採用していたのが最大の特徴である。

主電動機

神戸線で920系以来標準的に採用されていた大出力吊り掛け式電動機である芝浦SE-151[3]の同等品である東洋電機製造TDK-536-Aを710形の各台車に2基ずつ計4基搭載する。

但し、最終増備車に当たる717はP-6用主電動機であるTDK-527-A[4]を流用して竣工しており、本来のTDK-536-Aを装備する他編成よりも低出力であったため、加速時のノッチオンの時間が長くなり抵抗が赤熱するなど、ぎりぎりの運用を強いられたという。

なお、この717用TDK-527-Aは後の台車振り替え(後述)で715に転用された後、920系の廃車が始まりSE-151に余裕が発生し始めた時期に810形822[5]から捻出されたTDK-536-Aと交換されて淘汰されている。

制御器

制御段数13段とP-6用ES-504-Aの9段より多段化され乗り心地が改善された、電動カム軸制御器の東洋電機製造ES-552を搭載する。

この制御器を含め本系列の電装品はいずれも複電圧対応で、床下に設置された主回路と高圧補助回路の2つの電圧転換器は無電圧を検出すると自動で1500V動作に切り替わる設計となっており、十三駅に設置のデッドセクションにより神戸線から京都線への入線時には自動切り替え、京都線から神戸線への入線時には十三駅進入後、デッドセクション通過後に車上のスイッチ操作により手動で600Vモードに切り替えを行って対処した。

これは本系列が基本的に1500V区間で使用される車両であることと、600Vモードのまま京都線1500V区間に入線して機器破損が発生するのを防ぐための仕様であるが、これにより600V区間を運行中に停電が発生した場合には一旦1500Vモードにリセットされるため、改めて600Vに切り替える必要があった。

台車

715-765までの各編成は新設計の扶桑金属工業FS-5・3ウィングばね式台車を装着して竣工した。FS-5が710形用、-3が760形用で、いずれも平軸受仕様で完成している。

これに対し、716-766および717-767の2編成は先行して810系で採用され好成績を得ていたゲルリッツ式の住友金属工業FS-103を全車とも装着して竣工したが、後にこれらは特急運用に重点的に充当されるクロスシート車の乗り心地を改善するために714-764・715-765の2編成が履くFS-5・3と振り替えが実施されている。

ブレーキ

台車ブレーキ方式を採用したため、中継弁付きのA動作弁によるAMA-R・ACA-R自動空気ブレーキが採用された。

このA動作弁はレスポンスは鋭敏であったものの、P-6が搭載していたU自在弁と比較すると高速域からのブレーキの利きが甘く、乗務員の評価は2分されたという。

運用

登場以来、京都線特急用として使用された他、複電圧車の特性を生かして、神戸線直通特急(歌劇号)にも使用されていた。河原町延伸による特急の増発時には、特急運用が再度増加した。その後、2800系の登場により特急運用から外れ、急行・普通運用が中心となり、全車ロングシート化された他、元からロングシートだった4両は3扉化された。列車無線やATS等の装備も、同じ頃に施工されている。

その後、1971年より更新改造され、シールドビーム2灯化・3扉化や窓枠交換等の改造が実施された。また、これと平行して712-762+713-763、714-764+715-765、716-766+717-767については4両固定編成化改造が実施され、中間に入る713・715・717および762・764・766の6両は運転台撤去が実施されて中間電動車および付随車に車種変更されている。

その後は千里線嵐山線で使用されたが、1980年頃には千里線での運用を終了。その結果一部の車両に休車が発生し、平井車庫へ疎開した車両もある[6]。その後、1981年より廃車が開始され、1983年までに全車廃車解体されている。

脚注

  1. 阪急には「710号車」が存在していた時期があるが、これは700系に属する。
  2. 最大寸法は全長19,000mm、全幅2,750mm、全高4,260mm。
  3. 端子電圧750V時定格出力170kW。
  4. 端子電圧750V時定格出力150kW。
  5. 本来710形718として製造が進められていたものが途中で神戸線用810形に変更されて完成しており、部材調達の関係で主電動機は710形用TDK-536-Aを搭載していた。
  6. 711-761と712-763の4両。これらの車両は、そのまま平井車庫で解体されている。


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