鉄欠乏性貧血

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鉄欠乏性貧血(てつけつぼうせいひんけつ、テンプレート:Lang-en-short)とは、体内にが不足する事により、十分に赤血球を生産できなくなることで生じる貧血のことである。

病態

赤血球は細胞内に血色素(ヘモグロビン;Hb)を含有しており、血色素を構成する必須成分の一つである。血色素が酸素を結合して運べるのは、鉄の存在があればこそである。その鉄が体内で不足する事により、十分な血色素が生産できなくなり生じる貧血である。赤血球数は、正常域にあることが多いため、赤血球一つ一つに含まれる血色素量は低下する(低色素性)。

  • 生殖年齢の女性は、月経により定期的に出血を生じるが、その際、赤血球に含まれる鉄も体外に排出される。そのため、女性は基本的に鉄分が不足しがちである。
    • 若年女性などが偏食や無理なダイエットによって十分な鉄を摂取していない場合は鉄欠乏性貧血に陥りやすい。
    • 子宮筋腫の存在する女性が更年期近くになって出血量が増加し鉄欠乏性貧血になる例も多く見られる。
  • 胃潰瘍胃癌大腸癌、などの消化管出血が鉄欠乏の原因となることがある。特に右半大腸癌は鉄欠乏性貧血が唯一の症状であることがある。まれに他の悪性腫瘍が原因で慢性的に出血して鉄欠乏性貧血を生じる事もある。

鉄欠乏性貧血の診断はさほど難しくはないが、診断・治療にあたっては下記のように原因を検索する必要があり、その際出血の有無、出血源を調べる。蛇足であるが、第二次世界大戦前は回虫鉤虫症などの寄生虫も大きな原因であったらしい。

貧血一般の症状は貧血も参照。

原因

鉄の出納が喪失側に偏ると起る。しかし体内には鉄の予備があるため、それを使い切るまでは症状が現れない。

鉄分喪失

慢性的な出血によって、材料のを喪失するため起る。赤血球を慢性的に失う病態として以下の物が挙げられる。

  • 月経過多 - 月経の頻度や量が造血能に比べて相対的に多すぎる。
  • 悪性腫瘍 - 特に消化管の腫瘍は出血を伴うことが多く、赤血球・鉄喪失の原因となる。
  • 潰瘍性大腸炎 - 腫瘍以外で長期の出血を来す代表的な疾患。

鉄分摂取不足

偏食やダイエットによって鉄摂取が不足した場合も鉄欠乏性貧血の原因になる。

統計

  • 発症年齢は若年~中年に多い。
  • 性差は女性に多い。女性は月経に伴って定期的に赤血球を失っているため男性に比べて貧血に陥りやすい。
  • 発症頻度は貧血の中で最も多い。

症状

合併症

  • 異食症(ピカ)
    特定の非栄養物質の強迫的・常習的摂取する症候。特に氷を異常な量、食べてしまう氷食症のケースが多い。

検査

  • 血液検査

  典型的な検査結果パターン

  1. Hb(ヘモグロビン)    低下
  2. Ht(ヘマトクリット)   低下
  3. MCV(平均赤血球容積)    低下
  4. MCH(平均赤血球色素量)  低下
  5. Fe(血清鉄)      低下
  6. フェリチン       低下
  7. TIBC          上昇
    • 血清生化学検査
      鉄が欠乏するので、血清が減少し、血清フェリチン(貯蔵鉄量を反映する)が減少する。また、総鉄結合能(TIBC)、不飽和鉄結合能(UIBC)が上昇する。
    • 末梢血塗沫染色標本検査
      造血能が保たれていれば赤血球の数が相対的に多く、中身が相対的に不足して小球性低色素性貧血を来たす。赤血球は中身が減って薄っぺらくなる。薄っぺらくなった赤血球を菲薄赤血球と言う。様々な大きさの赤血球が見られる。様々な大きさの赤血球を大小不同の赤血球と言う。大小不同の菲薄赤血球が見られる。また、網状赤血球も減少する(数値的には正常のこともある)。
  • 先に述べた原因疾患の探究も必要である(便潜血検査・内視鏡等消化管検査、婦人科受診など)。

治療

原因疾患がある場合にはそちらの治療も行う。

貧血の程度が重篤ではなく生命に危険を及ぼす状態でなければ、鉄剤投与(経口、静脈注射)を行う。経口の場合は一緒にビタミンCを摂取すると、鉄の吸収率が僅かに上昇する。

重篤な貧血で生命に危険を及ぼす可能性がある場合は、輸血が必要となる。経口鉄剤は人により胃腸症状などの副作用が強い場合があり、あるいは何らかの原因により経口鉄剤の吸収が悪いと予想される場合(消化管切除後など)は静脈注射が必要であるが、過量の鉄剤投与は鉄沈着を招くことがあるので、投与総量には注意を要する(投与総量の計算には中尾の式を用いることが多い 必要鉄量[mg]=(2.7×(16-Hb)+17)×BW)。

関連項目

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