道徳教育

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道徳教育(どうとくきょういく)とは、道徳的な心情を育て、判断力・実践意欲を持たせるなど、道徳性を養う教育のことを日本では主にいう。

現在学校でおこなわれる道徳教育については学習指導要領に規定されており、「道徳教育は、学校の教育活動全体を通じて行うもの」であるとしており、単一の教科とはなっていない。つまり、特別活動や国語科や社会科といった教科の授業においても道徳教育が行われるものとして位置づけられている。これは、道徳とは本来誰からも評価がなされない場合であっても当然のこととして行なわれなければならないものであることが一つの根拠となっている。即ち学校において行われる全ての活動は一つの例外もなく当然のこととして道徳的であることが求められると同時に、学校外における活動についても本来全ての活動は須らく道徳的であるべきことが求められる。そして、道徳的であることが結局は評価に値することともなる。

さらに、小学校中学校中等教育学校の前期課程には道徳の時間が年間あたり35単位時間(1単位時間は、小学校45分、中学校50分。但し、34単位時間の学年あり)設けられ、年間を通して1週間あたり1校時割り当てられる計算である。キリスト教系(ミッション系)や仏教系などの伝統宗教系の私立学校や新興宗教系の私立学校では「宗教」の時間に代替して行われているケースが多い。欧米にはこういう時間がなく、宗教教育などで代替されている。イギリスでは宗教の時間とともに、PSHE(Personal, Social and Health Education(en)、人格的社会的健康教育)の時間が道徳教育と広義の社会的スキルの学習を担当している。

県立高等学校で道徳の授業がある例は少なく、茨城県埼玉県のみである。2013年度からは千葉県でも導入される[1]

「道徳」の時間に指導する内容項目

小学校から中学校を通じて、身に着けるべき4つの柱に基づく内容項目が(「徳目」や「価値項目」と言われることもあるが、学習指導要領上「内容項目」として)学習指導要領で挙げられている。

主として自分自身に関すること

  • 低学年 - 健康・安全。物や金銭を大切にする。整理整頓。規則正しい生活。任務遂行。善悪の判断。正直。
  • 中学年 - 自律。節度ある生活。深謀。謝罪と改心。不撓不屈。勇気。正直。明朗。
  • 高学年 - 節制。目標設定。自由。誠実。真理追求。創意工夫。自己評価。
  • 中学生 - 望ましい生活習慣。健康。節制。調和のある生活。希望と勇気。自主性。責任。理想実現。自己の向上。個性の伸長。

主として他の人とのかかわりに関すること

  • 低学年 - あいさつ。言葉遣い。動作。幼児・高齢者への親切心。友情。感謝。
  • 中学年 - 礼儀。思いやり。理解・信頼・助け合い。尊敬と感謝。
  • 高学年 - TPOの区別。男女協力。謙虚な心。感謝と報恩。
  • 中学生 - 礼儀。人間愛。友情の尊。異性の理解。人格尊重。他に学ぶ。

主として自然や崇高なものとのかかわりに関すること

  • 低学年 - 動植物愛護。生命尊重。敬虔な心。
  • 中学年 - 自然への感動。崇高なものへの感動。
  • 高学年 - 自然環境保全。自他の生命の尊重。感動する心。畏敬の念。
  • 中学生 - 自然環境保全。自他の生命の尊重。感動する心。畏敬の念。

主として集団や社会とのかかわりに関すること

  • 低学年 - 遵法。公共物の保全。父母への尊敬・家族愛。愛校心。郷土愛。
  • 中学年 - 公徳心。勤労。家族愛。愛校心。郷土愛。愛国心。国際理解。
  • 高学年 - 集団活動。義務の遂行。公正・公平。社会奉仕。家族愛。愛校心。郷土愛。国際親善。
  • 中学生 - 集団生活の向上。法の遵守。社会連帯。差別偏見の撤廃。公共の福祉と社会の発展。家族愛。愛校心。郷土愛。愛国心。国際貢献。

「学校の教育活動全体を通じて行う」道徳教育

学校生活において、場に応じた評価を下すことによって、直接的にかかわっていない児童生徒の成長を促すことになる。例としては

  • 学級園で種まきをしている子供が「大きくなれ」「きれいに咲いてね」などの思いが込められた言葉かけをしている。
  • 運動場で転んだ児童に優しく声をかけ、応急処置をする。
  • 来客者を職員室まで案内する。

などの好ましい言動を、朝礼や学級会で紹介し、賞讃する。

また、逆に

  • ごみ処理場の見学中に「臭い」を連呼する。
  • 集会行事の列に割り込む。
  • 清掃活動中に遊ぶ。

などの好ましくない言動を諭すといった行動を通じて、道徳心を身につけさせる。

また、教科教育との連動が図られる傾向があり、生活総合的な学習の時間、社会科見学、屋外での理科教室後の感謝状作成がこれに該当する。特別活動総合的な学習の時間における平和教育人権教育環境教育歯の衛生週間や給食週間、交通安全週間等の取り組みの中でも、道徳心の成長を促すことができる。

教材

道徳教育では指導内容を「単元」とは呼ばず「題材」と呼び、それを指導する「教材」も「資料」と呼び、正式には「教材」とは呼称しない。

資料は教師の創意工夫によって提供される。NHK教育テレビ・ラジオ第2放送が提供する教育番組が最もよく活用されている。他にも、教育委員会の編纂資料、文部科学省監修の「心のノート」、各種教材・教科書出版社が作成した道徳資料集から取捨選択するケースが多い。絵本の読み聞かせも比較的よく行われる。学校事務職員用務員など、教員以外の学校職員との連携もある。

「心のノート」は「私たちの道徳」と改名の上、全面改訂されて平成26年度から全国の小中学校に配布される予定である。[2]

歴史

日本における道徳教育

第二次世界大戦前には「修身」が筆頭教科に位置付けられていた(修身が設置された当初は筆頭教科ではなかった)。戦後、GHQ国史地理と並んで、修身を軍国主義教育とみなし、授業を停止する覚書を出した。1950年代に入り、「逆コース」の流れの中で、理性ある社会人を育てる「道徳」として復活した。

道徳教育論

エミール・デュルケームは、フランス第三共和政期に、世俗教育の進展にともない、道徳教育の根拠を、から社会に置き換える必要性から、この著作を著した。

デュルケームによれば、道徳は命令の体系ではなく、禁止の体系である。また、個人が制定過程に関与するものではなく、社会から外部的に与えられるものである。さらに、道徳には強制により実現される義務と、それを遵守すれば社会から果実を得られるとがあるとした。

デュルケームによれば、子供の心理特性には、習慣に固執する、暗示にかかりやすい、といったものがある。子供は、いったん獲得した習慣を容易に放棄しないが、暗示によって新しい習慣を獲得したならば、今度はその新しい習慣に固執し、生活習慣の形成にも役立つという。このような道徳教育は、学童期が最適であるとした。

子供が最初に経験する社会集団家族である。しかし、家族という比較的個人的な範疇の社会集団と、地域や国、国際社会という、より公共性のありかたが問題となる社会集団とは落差が大きい。そのために、学校という橋渡しが必要になる。また、その中でこのような「道徳性」を涵養する場が必要となってくる。この意味で、現代における「道徳教育」は現代社会と関わりながら生きる個人としてどうあるべきか、という「公共性」形成が重要となる。

関連項目

脚注

  1. 道徳教育:授業、13年度から 県立高、1年時に35時間 /千葉 - 毎日新聞
  2. 道徳教育 ‐ 文部科学省ホームページ

外部リンク