近鉄5820系電車

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テンプレート:鉄道車両 近鉄5820系電車(きんてつ5820けいでんしゃ)は、近畿日本鉄道通勤形電車[1]の一系列。 5800系L/Cカーデュアルシート採用車)をベースに車体、走行機器を見直した車両。

概要

IGBT素子VVVFインバータ制御を採用し、「人にやさしい」をテーマに座席の仕切り棒や高さの異なる吊り革を用意したシリーズ21の第2弾となる車両。奈良線用は8000系の代替目的で、大阪線用は固定クロスシート車2600系の代替として製造されている。

主要機器・性能

シリーズ21では系列ごとにVVVFインバータ装置のメーカーは決まっておらず、同じ系列で三菱電機製と日立製作所製(3220系6820系は日立製のみ)が混在する。5820系では5825Fと5852Fが日立製のインバータを、それ以外の編成では三菱製のインバータを搭載している。

制動装置は現在一般的な電気指令式ブレーキだが、電磁直通ブレーキである従来車との連結を考慮してブレーキ読替装置が搭載されている。主電動機は三菱電機製MB-5085A形(185kw×4)を採用し、5800系よりも出力を増強している。歯車比は6.31へと再び大きくなった。性能上の最高速度は120km/hだが、現在のところ特急以外の最高速度は大阪線系統110km/h、奈良線系統105km/hに抑えられている。大阪線新青山トンネル内22.8‰上り勾配においても均衡速度108km/h以上での走行を可能とし、33.3‰上り勾配区間において架線電圧10%減・定員乗車条件でも均衡速度100km/hを確保している。

台車3220系同様に近畿車輛製のボルスタレス台車で、電動車(M)はKD-311形、制御車(Tc)・付属車(T)はKD-311A形を装備するが、大阪線編成のTc車・T車は長距離連続勾配区間での運用を考慮してディスクブレーキ (1軸1ディスク) を併設したKD-311B型を装備する。基礎ブレーキ装置は車輪の踏面を片方の制輪子で押し付ける片押し式である。大阪線編成は新造時から増粘着剤噴射装置が装備されている。奈良線編成も後述の阪神直通対応改造の際に設置された。

パンタグラフは5821F・5824F・5825F・5851Fがシングルアーム式のPT-7126形を、5822F・5823F・5852Fが下枠交差形のPT-4811形を装備する。

車体

車体塗装は3220系第1編成と同じく、車体上部をアースブラウン、車体下部をクリスタルホワイトに、そしてサンフラワーイエロー帯に配色されている。側面窓ガラスは車端部を除き、固定式となり、5800系や2610系L/Cカーなどにあった中央の縦桟はなくなっている。5800系と異なり、L/Cカーをイメージしたグラフィックロゴのカラーシールは先頭車前面のみ貼られ、運転席後部戸袋部とデュアルシートを設置した窓下には貼られていない[2]

編成

  テンプレート:TrainDirection
西大寺検車区
所属
Tc1
ク5720形
M1
モ5820形
M2
モ5620形
T
サ5520形
M3
モ5420形
Tc2
ク5320形
  テンプレート:TrainDirection
高安検車区
所属
Tc2
ク5350形
M3
モ5450形
T
サ5550形
M2
モ5650形
M1
モ5850形
Tc1
ク5750形
  • ク5750形およびサ5550形にはトイレが設置されている。現在のところ、一般車両における車椅子対応トイレは大阪線の2編成のみである。大阪線では2009年夏に頻発した放火事件における車内の防犯対策から名張・青山町以西の準急や普通の運用時に[3]トイレは使用出来ないが、快速急行や急行の運用に入る際は使用可能である。
  • 高安検車区所属車のみ、同車庫内の洗車線の有効長が4両までとなっていることから、大阪側2両と宇治山田側4両で分割可能な構成になっている。そのため、サ5550形およびモ5450形の貫通路部分には入換用の簡易運転台が設けられている。

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配置と運用線区

奈良・京都線用

ファイル:Kintetsu Series 5820.jpg
近鉄5820系電車(奈良線用)

2014年4月現在、西大寺検車区奈良京都線用として6両編成5本を配置している[4] 。電算記号は5800系と同じく、Dual Seat(デュアルシート)のDと、6両編成車を意味する記号Hを用いて、DHとなっている。

大阪難波駅 - 奈良駅間の奈良線での運用の場合、平日は概ね10時 - 16時まで、土休日は終日クロスシートで運用されている。ただし、運用の都合や多客時あるいはそれが予想される場合は乗務員の判断でロングシート状態とする場合がある。特に、阪神との相互直通運転が開始された直後は、多客の状態が続き、曜日・時間帯を問わずにロングシートとすることが多かった。京都線・橿原線・天理線での運用の場合は終日すべてロングシートで運用されるが[5]、阪神との相互直通運転開始後は、相直改造が行われた6両固定編成車は優先的に阪神線直通運用へ使われるため、京都線系統で運転されることはほぼなくなった。車両運用でも相互直通開始後は、5800系のみならず9820系1026系1026F - 1029Fといった相互直通対応の6両固定編成車と共通で運用されるようになり、併結車両も相直改造の行われた1253系9020系にほぼ限定されるようになった。運用離脱時は1253系もしくは9020系による3編成連結の6両編成で代走を行う。

阪神の阪神なんば線・阪神本線で快速急行として運用される場合は奈良線内においては終日ロングシートで運用される予定であったが、実際は阪神線内もクロスシートで運用している事があり(土休日、平日昼間)、混雑具合により近鉄側の判断に委ねられている。なお神戸三宮駅での折り返しの際は座席の自動転換が行われていないが、尼崎駅に於いては転換作業が行われるようになった。

なお、阪神本線神戸三宮駅 - 尼崎駅間は山陽電気鉄道との相互直通運転区間にもなっているため、他の阪神相直対応の車両と同様、同区間では山陽電鉄の車両(5000系5030系)と並ぶ光景も見られる。 テンプレート:-

大阪線用

ファイル:Kintetsu Series 5850 Osaka.jpg
近鉄5820系電車(大阪線用)

2014年4月現在、高安検車区大阪線用として6両編成2本を配置している[4] 。電算記号は5800系と同じく、にDual Seat(デュアルシート)のDと、6両編成車を意味する記号Fを用いて、DFとなっている。

5800系と共通運用で、朝と夕方以降は主に急行系の運用に就くが、夜間を除いた宇治山田駅・五十鈴川駅直通の長距離急行は名張駅以東を4両編成で運転されることが多く、トイレ付きのロングシート車をメインに運用が組まれているため、当系列は青山町駅以西の急行、榛原駅以西の準急・普通の間合い運用に入ることや団体用の予備車として名張車庫や高安車庫などで待機していることが多い。ラッシュ時は1430系9020系と組んで8・10両編成で運用する列車もある。基本的には大阪線・山田線・鳥羽線大阪上本町駅 - 五十鈴川駅間での限定運用であるが、ダイヤ乱れの場合には、鳥羽線鳥羽駅や名古屋線に入線することがある。[6]

クロスシート車両でトイレが二箇所設置されているという関係上、5200系同様にピーク時には団体貸切列車に使用される場合もあり、定期運用の存在しない鳥羽線五十鈴川駅以南や京都・橿原線、志摩線にも入線する事がある。ただし、ドアカット機能が装備されていないため、信貴線や田原本線、生駒線など全駅のプラットホーム有効長が6両編成未満となっている路線に入線することは不可能である。編成の向きが異なる車両の乗り入れを禁止している難波線に入線する場合も、事前に中川短絡線にて方向転換を行ってから入線する必要がある。貸切運用時や定期検査時の運用離脱による本系列の定期運用には2610系 (ロングシート車) および1400系1407Fが本系列の代走を務める。 テンプレート:-

車内インテリア

デュアルシートは5800系同様、扉間に2人掛け3列のクロスシートまたは6人掛けのロングシートとなるよう配置されているが、シートの色は3220系など他のシリーズ21に合わせて、赤色に変更されている。また車端部の固定ロングシートは5800系とは異なり、ヘッドレストは省略され、9020系などと同様のシートとなっている。化粧板は5800系同様ラベンダーブルーで、床材は同じくグレー系であるが、黄色を取り混ぜて5800系よりも明るく仕上げられている。全体的にグレートーンでまとめられた内装と、赤系の座席や大型の固定窓と相まってより質の高い開放感と高級感の漂う車内空間となっている。吊革は5800系同様、5角形状のものが使われており、通常の高さのものとやや高いものの両方を設置している。側扉の横には仕切を設け、仕切には立ち客用の握り棒と背もたれ用の赤色のクッションを備えている。車内案内表示器を出入り口上部に正面を向いて左右交互になるように設置している。

大阪線の編成には大型洋式トイレが2ヶ所設置されている[7]。トイレ前は車椅子コーナーとし、座席を設置していない。他のシリーズ21にある1人掛け優先座席「らくらくコーナー」はデュアルシート部分には用意されず、車端部のロングシート部分のみに用意されている。

アートライナー

改造

奈良線所属車については、2006年度より阪神直通運転対応工事(阪神用のATS列車選別装置、奈良寄り先頭車に幌受けの取り付け、Tc車先頭連結部への注意喚起スピーカー取付など)を行っており、2007年までに全編成が本工事を完了した。
2009年から2010年にかけて奈良線所属の全編成、2012年に大阪線所属編成が新型ATS (ATS-SP) 設置・デッドマン装置更新工事を受けている。
さらに、先頭車の前面ガラスがUVカットガラスに順次更新されているほか、2012年8月から2012年11月にかけて大阪線所属車のL/Cマーク撤去、2011年2月から2012年11月にかけて全編成の転落防止幌台座および正面塗り分けの小変更も実施されている。

脚注

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関連項目

外部リンク

テンプレート:近畿日本鉄道の車両
  1. 使用列車によるものでは急行形電車とされる。
  2. 奈良線所属車は後述する阪神直通運転対応工事に伴い、それを示す蝶々をモチーフにしたステッカーが先頭車前面(従来のシールは貼り替えられている)と運転席後部戸袋部に貼り付けられた。
  3. 以前から、大阪上本町駅 - 高安駅河内国分駅で折り返す準急や普通列車では乗客の少ない列車によるトイレでの喫煙やいたずら等の防止から、本系列や5800系、5200系等のクロスシート車両はトイレ使用不可の処置がとられていた。
  4. 4.0 4.1 鉄道ファン』2014年8月号 交友社 「大手私鉄車両ファイル2014 車両配置表」
  5. 大阪難波駅 - 天理駅間の天理臨を除く。
  6. イベント展示で名古屋線の塩浜駅まで、乗務員訓練で白塚駅まで乗り入れたのを始め、試運転や回送列車などで名古屋線に入線したことが複数ある。
  7. このトイレを装備するのは現在のところ大阪線の2編成のみで、後に車体更新を受けたトイレ付き編成には設置されていない。