輻輳

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輻輳(ふくそう)は、物が1か所に集中し混雑する様態をいう。医学、生物学領域では「輻湊」と表記する例もある。

  • 輻輳眼球運動(両目が同時に内側を向く目の動き)の略称。
  • たとえば電話網でイベントや災害などの時などに発生する、通信要求過多により、通信が成立しにくくなる現象の通信分野における用語。

本稿では通信分野での輻輳について詳述する。また、輻輳の発生を回避したり、輻輳状態から速やかに回復させる技術のことを輻輳制御(congestion control)と呼び、輻輳の状態が悪化し、通信効率が非常に低くなる状態を輻輳崩壊と呼ぶ。

語源

輻とは車輪スポークのことである。スポークのように電磁波が放射するさまを輻射と言う。じっさい重粒子線源の残したα線の軌跡は電子顕微鏡で見るとスポークのような広がりを見せる。

輳はその車輪の軋み、湊は車輪が撥ねる水しぶきを指し、車輪という文明の利器がもたらす予期せぬ副作用を指す。特に前者は、並走する馬車の車輪が軋み合う音を、電波が混信する音になぞらえた物と言える。

輻輳現象の詳細

電話などの通信は、道路交通に例える事ができる。道路のように通信にも許容量があり、それを超えると通信に支障が発生する。つまり通信の交通渋滞といえる。

電話網の輻輳

一般的には、輻輳が限界に達する前に通信を制限して、通信システムのダウンを防ぐようになっており、輻輳が発生している場合に電話をかけた時には、呼び出し音が鳴る代わりに「お客様のおかけになった電話は大変混みあってかかりにくくなっております」というような音声が直ちに流れ、回線が接続されない状態に置かれる。

主な発生原因

基本的には、大量の電話が短時間に集中することで輻輳状態が発生する。主な原因としては、次のようなケースがある。

  1. 大規模災害発生時の安否確認の電話。
  2. 各種チケット予約開始時の電話。

別の原因としては、いわゆる「ワン切り」、通信回線の故障(容量の低下)によるケースもある。

災害発生時

地震や風水害などの、大きな被害をもたらす自然災害が発生した場合、全国各地より、特定の地域(=被災地)に安否の確認が集中する。道路に喩えれば各地より観光客が集中するようなもので、目的地(=電話先)にたどり着くことが容易ではない。また、災害による道路の損壊の様に、通信機器や回線自体も被災して通信許容量が減少していることもある。

これらは災害型輻輳とも呼ばれる。特に災害の規模が大きい場合には、輻輳状態を回避する目的で災害用伝言ダイヤルや、インターネット上の電子掲示板の一種である災害用伝言板サービス(Web171)が設置されることがある。

なお、輻輳が発生し、通信網の停止という最悪の事態を回避する目的で、通信量の制限が設定されることがある。この設定時は、一般の回線からは接続が制限される。しかし、公衆電話など優先電話に指定されている電話からは制限は適用されない。

チケット予約など

コンサートスポーツイベントなどの人気チケット予約などでは、予約開始時間到来とともに、受け付け窓口に大量の電話が集中する。さらに、つながらなかった場合は再度かけ直すため、さらに現象は悪化する傾向が強い。

このようなケースは企画型輻輳とも呼ばれる。現在はこれを回避する目的でコールセンターの全国分散が進み、企画型輻輳の発生は減少傾向にある。

なお、災害時と同様に輻輳による制限が設定される場合がある。しかし、災害と異なり優先電話からの電話も関係なく制限される。「チケットは公衆電話からの方がつながりやすい」、あるいは「固定電話は比較的つながりにくい」といった都市伝説は、いずれも誤りである。

携帯電話・PHSの場合

携帯電話PHSの場合、災害やチケット予約よりも、次のようなケースで輻輳が発生することが多い。いくつかの例では、発呼側で発生するという特徴がある。この場合、接続できないか、携帯電話機に「しばらくお待ちください」といった表示がされる。なおPHSは利用者が少ないため輻輳の頻度は低い。

  • 年末年始(元日午前0 - 2時頃)の「おめでとうコール」。この場合、新聞広告などを通じて事前に告知を行った上で、該当時間帯の網全体の通信量を制限し予防策としている。
  • 花火大会成人式コミックマーケットなど、多数の人の集まる大規模イベントの開催会場周辺での通話の急増。この場合、移動基地局車を出動させて対処することがあるが、それでも追いつかない場合は輻輳が発生する。
  • 乗降客の多い大都市ターミナル駅周辺の夜18 - 21時頃(俗に言う「アフターファイブ」)での通話の急増。
  • 天候の急変や事件事故の発生など(例えば電車が途中駅に足止めされた場合)による突発的な通話の急増。

なお、台風や大地震など大規模な災害が発生した場合、携帯電話会社では、自社のネットワークサービス内に災害用伝言板サービスを開設して、音声通話網の輻輳状態に対応している。

TCP/IP網における輻輳

インターネットにおける通信では、データがパケットという単位に分割され、端末からいくつもの中継ルーターを経由して相手の端末へ送られることで通信する。ネットワークに流入するデータが増え通信回線の許容量を超えた場合、パケットは中継ルーターにおいて待ち行列にいれられ処理待ちとなる。これが遅延の原因となる。また中継ルーターにおいて待ち行列には限りがあるため、パケットが入りきらない場合は転送待ちパケットのいくつかを廃棄しなければならなくなる。このパケットの配送の遅延や廃棄される状況がインターネットにおける輻輳である。

輻輳が発生すると、ネットワーク利用者はデータ転送がスムーズに行われないことに気づき、データ転送を中止してから同じデータ転送を再び行ったり、複数のアプリケーションからデータ転送をおこなったりする。このような行為により輻輳は悪化する。

TCPなどの通信プロトコルでは、輻輳により再送を自動で行うような物があり、輻輳が悪化する。そのためTCPでは輻輳崩壊へ至らないための様々な輻輳回避アルゴリズムが考えられている。その核となっているのが、スロースタート輻輳回避という二つの通信段階である。

1986年10月頃 初期のARPAネットにおいて輻輳崩壊が観測されている。

参考文献

  • 西成活裕、渋滞学、新潮社2006年
  • 岩波講座インターネット3 トランスポートプロトコル、岩波書店2001年
  • W.Richard Stevens、井上尚司橘康夫、詳解TCP/IP、SOFTBANK BOOKS 1997年

関連項目

外部リンク

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