調和振動子

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テンプレート:出典の明記 テンプレート:古典力学 調和振動子(ちょうわしんどうし、テンプレート:Lang-en-short)とは、ポテンシャルの大きさが中心からのユークリッド距離の2乗に比例する振動運動を行う振動子のことである。平たく言えば、理想的なバネにつながれた物体の振動のこと。運動の自由度によって一次元、二次元、三次元調和振動子がある。

特徴の一つは、振幅ないしそれに対応する物理量によることなく定まった周期で振動することである。調和振動子は一点を中心とする振動の単純なモデルであり、実際の問題では複雑なポテンシャルを調和振動子で置き換えることもよくある。たとえば結晶で、格子点にある原子の熱振動を三次元調和振動子とみなして、比熱などの理論値を計算することができる。

古典的な調和振動子

運動方程式から

ばね定数 k のばねにつながれた質量 m の物体を考える。ばねの自然長から x だけ引っ張り、手を離すと物体は振動を始める。物体にかかるは -kx である。ニュートンの運動方程式 <math>mx=-kx</math> を解くと、一般解は次のようになる(' は時間微分)。

<math>x(t)=A\cos\omega t+B\sin\omega t,</math>
<math>\omega=\sqrt{\frac{k}{m}}</math> : 調和振動子の角振動数(固有円振動数)

A , B は定数で、初期条件によって決まる。振動数ω は、ばね定数と物体の質量には依存するが、振幅などの初期条件(これは定数A , B に関係)にはよらない。

さらに詳しい議論は自由振動を参照。

解析力学から

調和振動子のポテンシャルU は次のようになる。

<math>U=\frac{1}{2}kq^2</math>

ただし q はばねの自然長からのずれである。ハミルトニアン H = T + U を求めれば、運動はハミルトンの正準方程式にしたがう。T運動エネルギーp は運動量である。

<math>H=\frac{1}{2m}p^2+\frac{k}{2}q^2</math>

ところで、この系がある一定の力学的エネルギー振動エネルギーとも言う)E を持っているとき、ハミルトニアンH の値はE にほかならない。このときqp を座標軸にとってみると、上の式は楕円の方程式になっている。このように座標空間と運動量空間からなる空間を相空間と呼び、ある時刻の系の状態は位相空間内の一点であらわされるのだが、その点が動いた軌跡のことをトラジェクトリーと呼ぶ。

量子的な調和振動子

正準量子化

ハミルトニアンを正準量子化すると、1次元の量子的な調和振動子についての時間依存しないシュレーディンガー方程式は、以下のように書ける。

<math>\left[-\frac{\hbar^2}{2m}\frac{\partial^2}{\partial x^2}+\frac{1}{2}kx^2\right]\phi(x)=E\phi</math>

この方程式は煩雑だが解析的に解くことができ、その解(エネルギー固有状態)はエルミート多項式Hn を使って以下のように表される。

<math>\phi_n(x)=AH_n(\xi)\exp\left(-\frac{\xi^2}{2}\right)</math>

ただし、<math>\xi=\sqrt{\frac{m\omega}{\hbar}}x</math>、A規格化定数である。

エネルギー固有値は次のようになる。

<math>E_n=\hbar\omega\left(n+\frac{1}{2}\right) \qquad (n=0,1,2,...)</math>

つまりエネルギー準位は <math>\hbar\omega</math> という均等な間隔で並ぶ。

より高次元の調和振動子

以上は一次元調和振動子の場合であるが、二次元、三次元も同様に解ける。結果だけを言えば、エネルギー固有値は次のようになる。

<math>E_N=\hbar\omega\left(N+\frac{3}{2}\right)</math>

N は三方向の量子数 (nx , ny , nz ) の和で、またEN は、(N +2)(N +1)/2 重に縮退している。これは縮退が見られなかった一次元の場合とは明らかに異なる。

生成消滅演算子

調和振動子の扱い方としては他に生成消滅演算子を使用する方法がある。

以下のような演算子を定義する。

<math>\hat{a}=\sqrt{\frac{\hbar}{2m\omega}}\left(+\frac{\partial}{\partial x}+\frac{m\omega}{\hbar}x\right)</math> : 消滅演算子
<math>\hat{a}^\dagger=\sqrt{\frac{\hbar}{2m\omega}}\left(-\frac{\partial}{\partial x}+\frac{m\omega}{\hbar}x\right)</math> : 生成演算子

これを使うと、上述のシュレディンガー方程式は次のように書きなおせる。

<math>\hbar\omega\left(\hat{a}^\dagger\hat{a}+\frac{1}{2}\right)\phi=E\phi</math>

1/2の項が出るのは演算子に微分が含まれているためである。エネルギー固有値との比較から、<math>\hat{a}^\dagger\hat{a}</math>の固有値は n に等しいことがわかる。よって<math>\hat{a}^\dagger\hat{a}</math>を数演算子と呼び<math>\hat{n} \ </math>で表す。

生成・消滅演算子をエネルギー固有状態<math>\phi_n(x)</math>に作用させると、<math>\hat{n} \ </math>の固有値n を増減させる。

<math>\hat{a}\phi_n(x)=\sqrt{n}\phi_{n-1}(x)</math>
<math>\hat{a}^\dagger\phi_n(x)=\sqrt{n+1\,}\phi_{n+1}(x)</math>
<math>\hat{a}\phi_0(x)=0</math>

つまりn をなんらかの粒子の数と見なすならば、生成演算子は粒子を一つ作り、消滅演算子は一つ減らす働きをする。また基底状態(粒子数0の状態)に消滅演算子を作用させても、もう粒子は消せない。

上の解析的方法とやっていることは同じなのだが、演算子とブラ-ケットの記法を使えば式を計算するよりもずっと楽に扱える。

関連項目