行政行為

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行政行為(ぎょうせいこうい)

  • 行政行為(ぎょうせいこうい)とは、日本の行政法学で用いられる概念であり、行政庁の処分(行政事件訴訟法3条2項)とほぼ同義で用いられる行政処分とも呼ばれる。本項にて説明する。
  • 行政行為 (Verwaltungsakt) とは、ドイツの行政法学で用いられる概念であり、行政庁が公法の領域における個々の事案を規律するためになし、かつ、直接の法的効果が(行政庁の)外部に向けられる全ての処分、決定その他の高権的措置をいう(連邦行政手続法35条)。日本の行政法学における行政行為概念の模範となった。[1]

意義

行政行為(ぎょうせいこうい)とは、行政が国民に対して働きかける行為のうちでも、合意に基づくことなく一方的に、具体的な場合において、国民の権利義務に直接的・観念的影響を与える行為である。行政行為の概念は行政主体による他の行為形式、すなわち行政指導行政契約行政立法行政計画、および事実行為と対比することによって説明されることが多い。その際の定義は様々だが、上記したような「一方的(合意に基づかない)」「個別具体的」「直接的」「観念的(法的なものであって実力による強制ではないという意味)」という4つの要素を含む。まれに行政行為のことを行政処分という場合もあるが、通常「処分」とは行政事件訴訟法などの争訟法上で用いられる概念である。しかし両者はほぼ重なる概念でもある。

最高裁判所が行政事件訴訟特例法1条(現在の行政事件訴訟法3条2項)にいう「行政庁の処分」を定義する際に同様の要素を用いて説明している。すなわち、「行政庁の処分とは行政庁の法令に基づく行為のすべてを意味するものではなく、公権力の主体たる国または公共団体が行う行為のうち、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう」(最高裁判決昭和39年10月29日民集18巻8号1809頁)。また、この判決が先例として引用している最高裁判決(最高裁昭和30年2月24日判決民集9巻2号217頁)では、公権力の主体たる国(日本国中央政府)又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものを「行政庁の処分」と定義していると考えられる。

ある行政行為をある行政機関が自己の名で行うとき、その行政機関を行政庁という。つまり行政庁とは、ある行政行為について法的責任を負う者であり、ある行政行為について誰が行政庁となるかは個別的に判断される。その行政行為をする権限を行政機関に与える旨の法令の規定に明示されている場合もあれば、その法令の解釈によって定まる場合もある。行政庁の例としては各省庁の大臣や長官、地方公共団体の首長、各種の委員会などがある。なお、行政機関と同義で行政庁という用語を用いることも多い。前掲各最高裁判例には、行政庁の処分とは行政庁の法令に基づく行為の全てを意味するわけではない旨の説示をする部分があるが、ここでいう「行政庁」は後者の意味である。

諮問機関の答申は、それによって国民の権利義務に何らの変動をもたらさないから、行政行為ではない。また、政令省令規則条例などの規範定立(立法)行為は、それが国民の権利義務を規律するものであっても、一般にはそれによって直接国民の権利義務を変動させるわけではない(例えば「ウィキペディア日本語版における荒らし行為の規制に関する文部科学省令」で「著作物を、著作権法32条所定の要件を充たさないのに公衆送信可能化する行為を連続する24時間のうちに3回以上行った者は、1年以下の懲役に処する」との規定を置いても、所定の行為を行った者が直ちに刑務所に収容されるわけではない。同人に刑務所に収容される義務を負わせるには、刑事訴訟法所定の手続を経た裁判所の有罪判決が必要である。)から、やはり行政行為ではない。

行政行為の種類

分類

伝統的通説によれば、行政行為は、その法的効果や内容に従って以下のように分類される。もっともこの分類については批判が多く、法律行為的行政行為であるか準法律行為的行政行為であるかという分類と、命令的行為であるか形成的行為であるかという分類は別の次元に属する分類基準であるとする見解も有力である。そうした立場からは、例えば準法律行為的行政行為であるがその効果が許可としての性質を持つものなどが存在し得ると主張される。

ファイル:Verwaltungsakt.png
伝統的通説による行政行為の分類
  • 法律行為的行政行為
  • 準法律行為的行政行為
    • 確認・公証・通知・受理

行政行為は法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為に大別される。

法律行為的行政行為

法律行為的行政行為とは、行政庁の意思表示によって成立する行政行為のことをいう。これと同様に法律行為も意思表示を要素とするものであることから「法律行為的」といわれる。この意思表示をさらに分解して考えれば、行政庁がある法的な効果を発生させようという意思を効果意思といい、その効果意思を外部的に表示しようという意思を表示意思、実際に表示する行為を表示行為という。行政庁の意思表示(厳密には効果意思)に応じて効果が発生するのであるから行政庁に裁量を認める余地があり、よって附款(後述)を付することもできる。これに対して準法律行為的行政行為とは、行政庁の意思ではなく法律の規定によって成立する行政行為をいう。法律によって効果が定められているので裁量を認める余地はない。

さらに、法律行為的行政行為は命令的行為と形成的行為に分類される。

命令的行為

命令的行為とは、本来国民がもっている自由を制限する行政行為のことである。

  • 下命とは国民に何らかの行為を強制する(作為義務を与える)行政行為である。
(例):違法建築の除去命令、納税
  • 禁止は何らかの行為をしないことを強制する(不作為義務を与える)行政行為である。
(例):営業停止、通行禁止
  • 許可は本来ならば国民が生まれながらにして自由に行えることが法令などによって一般的に禁止されている場合、それを特定人に解除することを言う。
生来国民の自由に任せられている事柄なのであるから、許可は原則として与えられるものと考えられている。
(例):自動車の運転免許、医師の免許、建築士の免許、営業許可
  • 免除は、法令などによって一般的に作為義務が課されている場合にこれを解除することを言う。下命の解除。
(例):納税の免除、年金・保険料免除
形成的行為

形成的行為とは、本来国民がもっていない権利などを与える行政行為のことをいう。

  • 特許とは、国民が生来にはもっていない権利などを与える行政行為をいうのであって、特許法に基づく特許権とは全く別である。特許は設権行為ともいわれる。特許によって与えられた権利や法的地位を変更する行為が変更行為、剥奪するものが剥奪行為であり、特許と合わせて議論される。
(例):鉱業権設定の許可、公益法人設立の許可、河川使用許可、帰化の許可
  • 認可とは、私人間で行われた契約などの法律行為を補充することによってその効果を完成させる行政行為をいう。認可を受けなかった法律行為は効力を生じない。ただしすぐさま無効となるわけではなく、認可を受けることを条件とする停止条件付契約(認可を受けるという将来起こるかどうか不確実な事実が発生した場合に契約の効力が生じるという契約)になる。
(例):農地の権利移転の許可、公共料金の改定、銀行の合併認可
  • 代理とは、第三者がするべき行為を行政が代わって行い、第三者自らが行ったときと同じ効果を発生させる行為をいう。つまり、通常ならば行政行為の効果は行政行為を行った行政庁に帰属するのだが、代理という行政行為の場合にはそれを行った行政庁とは別の主体に効果が帰属する。このような行為した者と効果が帰属する者とに食い違いが生じる関係が民事法にいうところの代理関係と類似するということから「代理」という言葉が用いられている。しかし、両者は全く別のものである。なお、この代理という分類は不要であって特許の一部として考えれば良いという見解もある。
(例):土地収用法に基づく収用裁決、地方自治法に基づく長の臨時代理の選任

準法律行為的行政行為

準法律行為的行政行為には確認公証通知受理の4類型があるとされる。

  • 確認は、ある事実や法律関係が存在するか否かを公的に判断する行政行為をいう。ただし、確認を独立した類型として把握することには批判もある。なぜなら確認という類型は権利義務を発生させるために必要な条件(法律要件)の認定という側面を強調させるために設けられたものであり、ある法律要件を満たすことによって発生する権利義務(法律効果)の側面から見れば他の行為類型に分類すべき場合も多いからである。
判断の表示といわれる。
(例)当選人の決定、発明の特許審査請求の裁決、建築確認
  • 公証は、ある事実や法律関係の存在を公的に証明する行為のうちでも法律によってその法的な効果の発生が予定されているものである。
認識の表示といわれる
(例)選挙人名簿への登録、証明書の交付、
  • 通知は、特定の事項を知らせる行為。人に一定の事実を知らせる観念の通知と、一定の行為を要求する通知で応じない場合など法律によって一定の法的効果が発生するもので意思の通知とがある。
(例)納税の督促(意志の通知)、特許出願の公告(観念の通知)、事業認定の告示(観念の通知)
  • 受理は、人の行為を有効な行為として受け付けることによって法律により法的な効果が発生するものをいう。これら準法律的行政行為は本来ならば事実行為に過ぎないが、法律によって法的効果が発生するために行政行為として扱われる。
(例)建築確認申請の受理、公安条例による届出

附款

行政行為の附款(ふかん)とは、行政行為の効果を制限し、または義務を課すために付加される行政庁の意思表示のことをいう。附款は、行政行為を行う際により細かな状況の考慮を可能にするものであり、原則として法律行為的行政行為にのみ附することができる。これら附款は、法令によって附款を附することが可能であると明示されていたり、裁量が与えられている場合に限って付することができるが、裁量権の認められない羈束行為への附款は認められず、目的達成に関係のない附款(法律目的適合性への違反)や目的達成のために必要な最小限度を超える制限や義務を課す附款(比例原則への違反)は違法となる。通常、附款を付けるかどうかは行政庁の自由だが、法令によって行政行為の効果が制限さる場合もある。これを法定附款という。以下では通常の附款について説明する。

附款には、条件期限負担撤回権の留保法律効果の一部除外、がある。 附款には以上のような種類があるが、法令上はこうした区別をせずに「条件」という言葉だけを使っている場合も多い。

  • 条件とは、行政行為の効果を発生するかどうか不確かな将来の事実にかからせるものである。行政行為の効果を発生させる事実のことを停止条件といい、逆に行政行為の効果を失わせる事実のことを解除条件という。工事開始日から立ち入りを禁止する場合には工事開始という事実が停止条件となり、立入禁止という行政行為の効果が発生する。他方、工事終了日まで立ち入りを禁止するという場合には工事終了という事実が解除条件となり、立入禁止という行政行為の効果が失われる。
  • 期限とは、将来発生することが確実な事実について行政行為の効果をかからせるものである。到来によって行政行為の効果が発生する期限のことを始期といい、到来によって効果が失われる期限のことを終期という。10月1日から11月1日まで使用を許可するといった場合、10月1日の到来が始期であり、11月1日の到来が終期である。
  • 負担とは、行政行為の相手方に法令では定められていない特別の義務を命じるものである。許可や認可のように通常ならば禁止されている行為を有効にするような受益的行政行為に付随して行われる。自動車運転免許を交付する際に課される「眼鏡着用」は「負担」にあたる。負担についての問題は、条件や期限と異なり、それを守らなくても行政行為の効果は発生するので、違反した場合、行政庁はあらためて別の手段をとり、負担を履行させなければならない。例えば罰則の適用や主たる行政行為の撤回などである。負担は行政行為そのものなのか、あるいは行政行為に付随する「従たる意思表示」としての附款なのか、その差が曖昧な場合もある。この差は行政行為の効力を争う争訟の方法に影響する。
  • 撤回権の留保とは、撤回することをあらかじめ宣言しておくことである。「取消権の留保」という場合もあるが、後述するような取消と撤回の差異を踏まえれば「撤回権」というのが正確である。ただし撤回権の留保がされている場合であっても、自由に理由もなく撤回できるわけではない。
  • 法律効果の一部除外とは、法によって認められた効果を制限するものをいう。法律による行政行為の効果を行政庁の意思表示によって除外するのであるから、法律による根拠が必要である。例えば公務員に出張を命じるという行政行為を行った場合には旅費を支給することになっているが、命令をした行政庁の意思によってこの支給をしないこともできる。これは国家公務員等の旅費に関する法律(旅費法)46条という根拠規定があって初めて可能となる。

行政行為概念の必要性

行政行為という概念は、もともと、私人間の法律関係を規律する行為形式が契約であるのに対応させて、行政と国民との間の法律関係を規律する行為形式として構想されたものである。

行政の行為の中には、公益を実現するため相手方の反対を無視してでも実施でき、その正当性がとりあえず確保されなければならないものがある。公共の安全を確保するため私人の自由な経済活動に一定の制約を課す、いわゆる規制行政はその典型例である。この種の行政の行為を正当化しつつ、法律による規律を加えようとして構想されたのが、行政行為という概念である。

このような経緯から、行政行為には、公定力、不可争力、自力執行力といった効力が当然に内在すると説かれてきた。しかし、現在の日本では、これらの効力は、行政事件訴訟法や個々の授権法規(行政行為をする権限を行政機関に与える法令)の解釈として導かれるにすぎないという見解がむしろ多数を占めている。

行政行為の特徴

  • 権力的行為
  • 対外的行為
  • 個別・具体的行為
  • 法的行為

行政行為の効力

公定力

定義
行政行為における公定力とは、行政行為が不当行為であっても重大かつ明白な瑕疵がなければ、権限ある国家機関(行政庁または裁判所)がこれを取り消さない限り、一応有効なものとして公定される効力のことをいう。法論理的な効力であるので実定法上にはない効力である。
根拠
公定力を認める実質的根拠は、行政法秩序を安定させ国民の信頼を保護する点にある。すなわち、本来、契約は違法であれば無効であるのが大原則であり(民法90条)、契約の効力に疑いを持つ当事者は、これを有効とする裁判があるまでは、その契約に従うことを強制されないはずである。しかし、仮に一人一人の国民が行政行為の有効性を勝手に判断して行動すると、行政行為に従う者もいれば従わない者もいるということになる。これでは行政の実効性と信頼性が損なわれる。そのため行政行為の有効性は行政庁または裁判所という専門機関にその判断を委ねることとした。そしてその結果、行政行為には公定力といわれる効力を認めることになったのである。
そして形式的根拠は、取消訴訟の排他的管轄にある。すなわち、行政行為の法的効果を失わせるには取消という制度を用いなければならないという立法政策を採用したために公定力と呼ばれる効果が生じる。同条では一定の原告適格を有する者にのみ取消訴訟(同法3条2項にいう「処分の取消しの訴え」)の提起を認めている。このことを反対解釈すれば、同法は行政行為の有効性は取消訴訟(又は行政上の不服申立て)以外の手段によっては争うことができないという政策を選択したといえる。そのため取消訴訟が提起されて取消判決が確定するまでは、行政行為の当事者だけでなく第三者や裁判所すらも行政行為の有効性を争うことができなくなり、その行政行為が違法であろうとなかろうと事実上有効なものとして通用するというにすぎないのである。
なお、公定力という効力がいかにして認められるかについてかつては、行政行為ならば当然に公定力がある、すなわち公定力は行政行為に内在する効力であると説かれていた。その根拠として、行政行為は権限ある行政庁がなした国家権威の表れであるから、権限ある官公署が違法と認定するまでは適法と推定されるという適法性の推定を挙げる見解が一般的であった。しかしこの理論は克服され有効性の推定とされ、上記のように取消訴訟の排他的管轄によって説明する立場が通説化した。
機能
紛争処理の単純化機能がある。すなわち、行政行為に関する争いについて、原因行為の前後の実体法上の権利義務に引きなおして請求するのでなく、単純に行政行為の違法性を主張し取消を請求すればよく、紛争処理が単純化できる。
紛争解決の合理性担保機能がある。すなわち、取消訴訟において行政主体を当事者とすることで訴訟資料が豊富になり、審理の充実を図ることができる。
他の制度の効果との結合機能がある。すなわち、取消訴訟を経ていない限り、後述する不可争力や自力執行力が認められるという点で、他の制度の効果との結合機能を有する。

自力執行力

自力執行力とは、行政行為の相手方がその行政行為によって課された義務を任意に履行しないときに、行政庁が、債務名義を取得するまでもなく、自らその義務を強制的に執行し得る(行政上の強制執行)効力のことをいう。単に「執行力」と呼ばれることもある。

かつては、この自力執行力も行政行為に当然内在する効力と説かれた。

しかし、現在の日本では、自力執行力は行政代執行法国税徴収法その他の法令によって初めて認められるものであり、行政行為であるというだけで当然に認められる効力ではないという見解が支配的である。

自力執行力が認められる行政行為は、取消訴訟が提起されて取消判決が確定するまでは、強制執行をすることができると解されているが(行政事件訴訟法25条1項参照)、これを上述の公定力の効果として説明する見解がある。他方、これは公定力の問題ではなく違法性不承継原則が適用される一場面にすぎないとする見解もある。

なお、行政行為については、仮処分をすることができず(同法44条)、執行停止(しっこうていし)のみが可能である。これは、取消訴訟の提起があった場合において、裁判所が、申立てにより、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の全部又は一部を停止するというものであるが(同法25条2項本文)、内閣総理大臣の異議があったときはすることができない(同法27条4項、1項)。この異議の制度は、司法の判断を行政が不可争的に覆すことを認めるものであり三権分立に反するという違憲論もあるが、裁判例(東京地裁昭和44年9月26日判決行集20巻8=9合併号1141頁。なお、東京地裁昭和42年6月10日決定行集18巻5=6合併号737頁参照)は合憲説を採用している。

不可争力

行政行為が違法であるなど、行政行為に瑕疵があれば行政事件訴訟法による取消訴訟行政不服審査法などの不服申立てによってそれを取消すことができる。しかしこれらの訴訟の提起や不服申立ては、一定の期間内に行わなくてはならない。この期間を出訴期間というが、これを経過した後に行政行為の取消しを争訟によって争えなくなる効力を不可争力という。形式的確定力ともいう。

ただし出訴期間を過ぎても取消しの原因となる行政行為の瑕疵が消滅したわけではない。つまり私人の側からは行政行為の効力を争えなくなったというだけであって、行政庁などが職権によって取消すことは依然として可能である。

  • 不服申立期間 : 処分があったことを知った日の翌日から起算して60日。処分があった日の翌日から起算して1年(行服第14条
    郵送に要した日数は、算入されない。
  • 出訴期間 : 処分があったことを知った日から6ヵ月。処分があった日から1年

相手方(名宛人)の知り得る状態に置かれたときに行政行為は効力発生する。通常は書面送達等により通達される。 例外は公示送達である。これは送達する相手が行方不明であるような場合であっても、裁判所などにおいて書面を一定期間掲示することで相手にその書面が送達されたとみなす制度である。

不可変更力

不可変更力とは、行政上の不服申立てに対する決定及び紛争を裁断する行政行為(例えば,裁決がこれに当たる。)について職権取消しが制限される効力をいう。不可変更力が認められる行政行為を確認行為と呼称する学説もある。不可変更力は,明文によって規定された効力ではなく,学説上主張されている効力である[2]。ただし,法律上の争訟を裁判することを本質とする裁決(行政行為)は他の一般的な行政行為とは異なり裁決をした行政庁自ら取り消すことはできないと判示した最高裁判決がある[3]

不可変更力が認められる趣旨は、①裁決の撤回があると、これを信じた私人の信頼が害されること、②不服申立制度を設けておきながら、裁決を裁決庁が自由に変更できるのであれば、認容裁決を受けても当事者は全く安心できず、国民の権利の救済をはかる審査請求制度の意味が失われてしまうことによる。

また,法律上の争訟に対する裁判という本質をもつ行政行為(裁決)について,職権取消しを制限する不可変更力のみならず,行政行為の内容に法的拘束力を与え,これを実質的確定力と呼称する学説もある[4]

拘束力

拘束力とは、行政行為が外形的に存在すると、当事者(その行政行為の相手方その他の関係人及び行政庁自身)がその行政行為の法律効果に拘束される効力をいう。

瑕疵ある行政行為

瑕疵#行政行為の瑕疵」も参照。

行政行為は、全ての側面において法律に適合していなければならない。また、公益にも適合していなければならない。しかし中には内容や手続などに法律違反があったり、公益に反していたりといった欠陥を抱えた行政行為もある。この欠陥のことを瑕疵といい、そうした行政行為のことを瑕疵ある行政行為という。

瑕疵ある行政行為は取消しの対象となるが、瑕疵の種類によってその方法が限定される。

種類

瑕疵ある行政行為には、違法な行政行為と不当な行政行為がある。

  • 違法な行政行為とは、現行法秩序に照して許されない行政行為のことである。
    • 取り消し得べき行政行為
      行政行為を行うには法律の規定が必要であるが(法律による行政の原理)、この規定に違反した場合(行政法規違反)だけでなく一般法原則に違反した場合も含まれる。これらの行為は行政事件訴訟法行政不服審査法による不服申立ての対象となり、取消しの対象となる。取消しまでは一応有効なものとして扱われることは前述した(公定力)。
    • 無効な行政行為
      違法な行政行為の中でも「重大かつ明白な瑕疵」がある場合には、初めから法的効力が発生していないとして、特別の手続をとることなく無視・否定できる行政行為。その例としては、内容が不明確な行政行為が挙げられる。
  • 不当な行政行為とは、法律に違反してはいないが、裁量行為を誤ったために不適切な判断をしてしまった場合である。不当な行政行為は法律に違反するわけではないため、司法審査によって取消されることはない。このため、不当な行政行為の効力が否定される場合は、行政庁自らが職権で取り消す場合、及び、行政不服審判法等の不服申立てによる場合に限られる。

瑕疵の治癒と違法行為の転換

たとえ瑕疵ある行政行為であっても、実質的にその瑕疵を無視することが可能で、無視する方が都合がいいという場合もある。それが瑕疵の治癒や違法行為の転換といった場面である。

瑕疵の治癒
瑕疵ある行政行為でも事情の変化によって取消すまでもなくなった場合には適法な行政行為として扱ってしまおうというものである。確かに、瑕疵がなくなったわけではないので依然として取消の対象となるとも考えられる。しかしこうした場合にまでわざわざ行政行為を取消すのは効率的ではない。そこでこのような状況下においては「瑕疵が治癒された」と考えてその行政行為を適法なものとして扱うのである。
違法行為の転換
その瑕疵ある行政行為を別の行政行為としてみれば全く瑕疵がないという場合に、これを後者の行政行為とみなして有効なものとして扱うことをいう。例えばAという行政行為がなされたが、これは法律の要件を満たしていないなどの欠陥があるため瑕疵ある行政行為であったとする。これは本来ならば取消の対象である。しかしこの行政行為Aを、それとは別の行政行為であるBとして見ると、瑕疵のない適法かつ妥当な行政行為であったという場合には有効な行政行為Bが行われたとして扱うのである。これも効率を考慮して認められた考えである。

違法性の承継

 段階的に複数の行政行為が行われ、先行する行政行為が後行する行政行為の前提となっている事がある。このような構造になっている場面で、先行行為に瑕疵があった場合、先行行為の瑕疵が後行行為の瑕疵の有無に効果を与えることがある。
 ただし、先行行為の瑕疵の程度が「取消しうべき瑕疵」に留まる場合、瑕疵が存在していたとしても、公定力により、先行行為は取り消されない限り有効なものとして扱われる。そして先行行為の不服申し立て手段の出訴期間が過ぎれば、先行行為の効力には不可争力が発生する。このように先行行為が有効なものとして扱われる時に後行行為の瑕疵の有無を争う場合、先行行為の瑕疵を理由として後行行為の瑕疵を主張する、つまり、先行行為の違法性を後行行為に承継させて主張することが、先行行為が有効にも関らず許されるかは問題となる。先行行為の瑕疵が「取消しうべき瑕疵」に留まる場合に発生するこの問題を一般に「違法性の承継」の問題と呼ぶ。

 違法性の承継が認められるかについて、原則論としては、先行行為の瑕疵は後行行為に影響を与えないものとされる。一方で、先行行為と後行行為が連続した一連の手続であること、どちらも一定の法律効果の発生を目指していること、手続的保障などを理由として、違法性の承継を認めた判例も存在する。

 なお、先行行為の瑕疵の程度が「重大かつ明白」であった場合は、先行行為は当然に無効となる。そして、前提となる先行行為が無効となったことにより、後行行為は前提を欠くことになるため、後行行為も当然に瑕疵を帯びる。したがって、いわゆる「違法性の承継」の問題にはならない。

行政行為の不存在

  1. 法の定める行政行為の成立要件を全く欠き、外観上にも未だ行政行為と称するに値するだけの形態を備えない場合
  2. 行政行為として外部に表示・到達されていない場合

判例

撤回と職権取消し

上述してきたように、瑕疵ある行政行為は取消しの対象である。この取消し、特に職権取消しと似て非なる概念に撤回がある。

撤回とは、瑕疵なく成立した行政行為を後発的事情の変化で将来に向かって消滅させることをいう。違法でも不当でもない行政行為が行われたとしても、時間が経つにつれて実状と適合しなくなり、その効果を維持することが公益上好ましいものではなくなる、ということはままある。そうした場合に行政行為の効果を失わせるのである。

撤回も職権による取消しも行政行為を行った行政庁が行うと言う点で共通する。 しかし取消しは成立時の瑕疵を理由に成立当初に遡って行政行為の効果を消滅させることであるから根本的な違いがある(もっとも撤回だから常に将来に向かっての効果を消滅させるとは限らない)。

職権取消しは法律による規定がない。しかし瑕疵を是正して適法または妥当な状態を回復する措置なのだから法律による根拠は必要ないと考えられている。 他方、撤回については撤回される行政行為の根拠となった法律が撤回の場合にもその根拠となるとした裁判例がある。

撤回や職権取消しは、権利利益を与える受益的行政行為や第三者に利益を与える複効的行政行為の場合は、それを上回る特別の公益上の利益がある場合にのみ取り消せ、損害を被ったものがいる場合には、損失補償が必要である。

  • 法令の文言では、「取消し」とされている場合でも「撤回」の場合がある。
    旅館業法第8条

裁量行為

テンプレート:Main 裁量行為は、行政裁量とも言われ、法治行政の原理の下では、行政行為を含めてすべての行政活動は法律の拘束を受けている。法の機械的執行の覊束(きそく)行為に対する。

そしてその考えを徹底すれば、全ての行政の行為は法律で定められている方がよい。しかし行政には社会の実状に合わせた臨機応変な対応が求められるため、裁量を認めざるを得ない。ゆえに法律の拘束の程度には強弱があり、この強弱が覊束裁量の問題である。

この裁量の問題は司法審査が及ぶかどうかという観点から論じられる。つまり、裁判所の役割(司法権)は具体的な争訟について法を適用することにより紛争を解決する国家作用なのであるから、法律が行政に判断を委ねている場合、換言すれば行政に裁量がある場合には法的拘束はなく、司法審査も及ばないと考えられるのである。よっていかなる行為が裁量行為であるのかが重大関心事となり、美濃部達吉による美濃部三原則などが登場した。

行政法規の構造は要件部分と効果(行為)部分からなっている。法律が行政行為の要件と効果について一義的に明確に定めているときは行政庁の判断余地がなく覊束状態であり、こうした行政行為を覊束行為(きそくこうい)と呼ぶ。他方、前述のような要請から要件・効果が一義的に明確に定められていない行政法規に則って行われる行政行為を裁量行為という。

この裁量行為をさらに法規裁量(覊束裁量)と便宜裁量(自由裁量)に区別し、前者についてのみ司法審査が及ぶと考えられてきた。しかし、自由裁量とされるものであっても、行政庁の恣意が許されるものではなく、法の一般原則、個別法規の目的による制約に服すべきではないかと説かれるようになり、また、覊束裁量、便宜裁量という区別自体、行政の行為の複雑化、多様化に伴い、次第に重視されなくなった。このような流れを受け、行政事件訴訟法30条において、裁量行為であっても裁量の逸脱や濫用があればこれを取消すことができる(つまり司法審査が及ぶ)と規定されるに至った。

裁量の逸脱や濫用があるかどうかは、その行政行為がそれを根拠づける規定の目的にしたがって行われたかにより判断される。例えば児童遊園個室付浴場出店予定地の近くに設置することを許可し、条例違反によってその出店を阻止しようとしたことが裁量の濫用にあたるとした判例がある[5]。この場合、許可という行政行為をするかしないかは、行政の裁量に委ねられた事項であった。 また、不合理な差別を禁じる平等原則や、目的達成手段を目的に照らし必要最小限のものに限定する比例原則といった一般的な法原則も考慮される。

用語

行政行為の不存在
  1. 成立要件を欠き、外見も値しない場合
  2. 外部に表示、到達されない場合
一般処分
個別的に特定された名宛人ではなく、不特定多数を対象とした行政行為。告示の形式でなされることが多く行政立法と類似するが、具体的な法の執行である。
例:道路の通行の規制、路の供用開始決定、鳥獣保護区の設定
不利益処分
行政庁が、法令に基づき、特定の者を名あて人として、直接に、これに義務を課し、又はその権利を制限する処分をいう(行政手続法2条)。

脚注

テンプレート:Reflist

関連項目

外部リンク

  • Verwaltungsakt の概念を確立した行政法学者オットー・マイヤーを、「行政行為の父」と呼ぶことがある。
  • 宇賀克也『行政法概説I』311頁以下参照
  • 最高裁判所昭和29年1月21日判決・最高裁判所民事判例集8巻1号102頁所収
  • 宇賀克也『行政法概説I』312頁参照
  • 最二判昭和53年5月26日民集32巻3号689頁 2014年8月19日閲覧