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ファイル:A surfer in the air 2.jpg
波の水飛沫による虹

(にじ)とは、からまでのスペクトルが並んだ、円弧状の光である。気象現象の中でも、大気光学現象に含まれる。

太陽の光が、空気中の水滴によって屈折反射されるときに、水滴がプリズムの役割をするため、光が分解されて、複数色(日本では七色とされる)のに見える。上がり、水しぶきをあげる、太陽を背にしてホースで水まきをした時などによく見ることができる。虹色は多色の一つとも言える。

虹は英語レインボー(Rainbow)と言う。

名称

英語のRainbow(レインボー)は、「雨の」を意味し[1]外来語として日本語にも取り入れられている。また、フランス語では arc-en-cielアルカンシエル)といい、「空に掛かるアーチ」を意味する。

日本語の方言には、鍋づる佐渡島愛知県など)、地獄のお釜のつる富山県射水市)、太鼓橋大分県)、立ちもん長崎県南高来郡)などと表現する例がある。

「虹」を意味する漢語表現に、虹霓(こうげい)、虹桟(こうざん)などがある。また、などのように、虹を意味する漢字虫偏のものが多く存在する点を見ても解る通り、中国語では、虹をの一種と見なす風習が多い。明確に龍虹と呼ぶ地域(広東省増城市)や、「広東鍋の取っ手の龍」を意味する鑊耳龍(広東省台山市)と呼ぶ地域もある。このような例は世界各地に存在する。 テンプレート:Main2

虹の色数

現在の日本では、虹のの数は一般的に七色()と考えられているが、これは、ニュートンの虹の研究に由来する学校教育によるものである。

当時のイギリスでは虹の基本色は赤黄緑青紫の5色と考えられていたが、ニュートンは柑橘類のオレンジの橙色と植物染料インディゴの藍色を加えて7色とした。彼は虹の色と色の間は無限に変化していることを知っていたが、それにもかかわらず、虹を7色としたのは、当時、7が神聖な数と考えられていたからである。音楽のオクターブもドレミファソラシの7音からなる。ニュートンは美しい虹も7つの基本の色からできているとしたのである。

ニュートンが虹を7色と決めたからといって、イギリス社会一般で虹の色が7色だと統一されたわけではない。現在のアメリカでは一般的に赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の6色と認識され、ドイツでは物理の教科書でスペクトル分類と合わせて赤、オレンジ、黄、緑、青、紫の6色、またはニュートンの名とともに藍(インディゴ)を加えて7色としていて、人々の認識もさまざまである。虹の色を何色とするかは、地域や民族・時代により大きく異なる。日本でも5色(古くは8色や6色)、沖縄地方では2色(赤、黒または赤、青)、中国では古くは5色とされていた。なお現代でも、かつての沖縄のように明、暗の2色として捉える民族は多い。

インドネシアフローレンス島地方では、虹の色は、赤地に黄・緑・青の縞模様(色の順番としては、赤・黄・赤・緑・赤・青・赤となる)とするが、この例のようにスペクトルとして光学的に定められた概念とは異なった順序で虹の色が認識されることも多い。

虹の色は言語圏によって捉え方が異なる。実際に、ジンバブエショナ語では虹を3色と捉え、リベリアテンプレート:仮リンクを話す人々は虹を2色と考えている。このように、虹の色とはそれぞれの言語の区切り方によって異なる色の区切り方がなされるのである[2]

虹の色が何色に見えるのかは、科学の問題ではなく、文化の問題である。何色に見えるかではなく、何色と見るかということである。

虹の性質

主虹と副虹

ファイル:RainbowFormation LandscapeScheme.png
虹の仕組み(下が主虹・上が副虹)

主虹(しゅこう、しゅにじ)、または1次の虹と呼ばれる、はっきりとした虹の外側に、副虹(ふくこう、ふくにじ)、または2次の虹と呼ばれるうっすらとした虹が見られることがある。主虹は、赤が一番外側で紫が内側という構造をとるが、副虹は逆に、赤が内側、紫が外側となる。

主虹は、「太陽」-「プリズムとなる水滴」-「観察者」のなす角度が40~42度となる位置に見られる。このため、虹は太陽の反対側に見られ、太陽が高い位置にあるときは小さな虹が、夕方など太陽が低い位置にあるときは大きな虹が見られる。また、副虹は、「太陽」-「プリズムとなる水滴」-「観察者」のなす角度が51~53度となる位置に見られる。 

簡単に虹を観察するには、よく晴れた日に太陽を背にして、目線の高さより上にホースなどで水を状に撒いてみるとよい。飛行機周辺の空気が水蒸気を多く含んでいる場合には、窓から眼下に360度円環状の虹が見られることがある。雲海を超える高い山でも、眼下に虹が見えることがある。この飛行機や雲海の虹はブロッケン現象によるもので、通常の虹やホースの水による虹とは原理が異なる。

虹の光学的説明

雨滴内の光の進行
主虹における雨滴内の光の進行 副虹における雨滴内の光の進行
主虹 副虹

それぞれの雨滴に反射する光のスペクトルは観察者が見る虹と向きが逆になっている。雨滴内部での光の反射は、左図のように、主虹では1回、副虹では2回であり、雨滴に入るときと出るときで各1回屈折を起こす。屈折の角度は色によって少し異なっている。

観察者が見ることができる虹を主虹で説明すると、無数の雨粒のうち、高い角度にある雨粒からは赤に近い光が、低い角度にある雨粒からは紫に近い光が観察者の目に届くため、波長が長く屈折角が小さいので屈折しにくい)が一番外側でが内側という構造に見えている。

それぞれの雨粒は多色の光を反射しているが、1つの雨粒からはそのうちの1色のみが観察者の目に届く。たくさんの雨粒から「太陽」-「プリズムとなる水滴」-「観察者」のなす角度によって異なる色の光が見えて初めて虹となる。副虹の場合は色が反対となるが、同じように説明できる。

この角度は、空気と水との屈折率の比により主虹、副虹ともに決まっているため、太陽の高度によって見えやすさや虹の大きさが決まる。40~50度よりも低いと、観察者から遠い上空の雨粒を通って虹が見えるため、大きな虹ができる。40~50度よりも高いと、観察者に近い地上付近の雨粒を通って虹が見えるため、虹は小さく見えにくい。

ファイル:Rainbowrays.png
雨粒内の光の進行(主虹)。入射光(Incident rays)が水滴内に入る高さを徐々に上げていくと、出射光(Outgoing rays)の出る角度が変化し、ある高さで変化が逆になる。
ファイル:Rainbowrays2.png
雨粒内の光の進行(副虹)。入射光の高さを徐々に下げていくと、同様の変化が起こる。

厳密には、虹はプリズムの分光と同じではなく、より複雑な現象である。水滴外の入射光を延長したラインと水滴の中心の距離(粒子衝突における衝突径数に相当。以下"<math>b</math>"を用いる)が異なると、光と水滴表面のなす角度が変わるため、出射光の角度も様々なものとなる。それにもかかわらず、ある波長の光が特定の角度で強くなるのは、この散乱角θがbの関数で表したときに極値を持ち、その角度では、単位角度あたりの入射光のbの範囲(つまり逆関数b(θ)の微分)が発散するからである。これを虹散乱(rainbow scattering)といい、光学だけでなく原子物理核物理での類似の現象も指している。

平たく言えば、水滴を固定して太陽光(入射光)を水平に入れ、入射光の高さを水滴の中心方向(水平)から徐々に上げていくと、太陽光が水滴から出る方向も次第に下向きになる。しかし、入射光がある高さ付近になると、太陽光が水滴から出る方向の変化が小さくなり、今度は逆に上がり始める。この高さ付近から入る太陽光はみなほぼ同じ方向に出て行くことになり、この部分だけ強い光が出て行くことになる。このような仕組みで、「太陽」-「プリズムとなる水滴」-「観察者」のなす角度が特定の角度になったときに虹が見え、色が分かれる。

理論的には、赤色B線(686.719nm)の場合には、水滴内で太陽光が、5回、6回、9回、10回、11回...(2回以外を表示)と多数反射する場合も、その散乱光が観測者の目に届くため虹として見ることも可能だが、反射回数が増えるほどその回数分だけ強度反射率(S偏光ではRs、P偏光ではRp)を掛けることになるので、水滴から出てきた散乱光は相当光が弱くなる。理論的に強度を計算すると、2回反射して出てくる赤色B線の散乱光の場合は主虹の赤色の強度の約42.6%程度だからある意味よく見えるが、5回反射の場合は約10.3%、6回反射では約7.5%程度だから肉眼ではほとんど観測されない。また水滴内で太陽光が3回、4回、7回、8回...と反射して出てくる散乱光を観測する場合は、主虹を見る方向とは逆に、太陽光が来る方向へ目を向けなければならない。なぜなら、このときの虹を作る水滴は太陽と観測者の間にあるからだ。まず3回反射して水滴から出てくる赤色B線の散乱光の虹角は、太陽を中心にして約42.2°、菫色H線(396.847nm)の散乱光の虹角は約37.5°なので太陽の周りに主虹と同じ順に色が並ぶ。また強度の方は主虹のそれぞれ23.5%、23.5%程度なので、条件がそろえば第三次虹として観測が可能だ。日本国内では沖縄で数回の撮影例がある[3]。また4回反射して水滴から出てくる赤色B線と菫色H線の虹角は、それぞれ約43.1°と約49.2°なので太陽を中心にして主虹とは逆順に色が並ぶ。強度の方は主虹のそれぞれ約14.9%、14.9%程度なので第四次の虹として観測するのは、太陽光に邪魔されて相当困難だろう。

白虹・赤虹

雨粒を構成する水滴が大きければ、虹の幅が狭くなり、色は濃くなる。ただし、大きすぎると水滴が空気抵抗の影響で変形して球形にならないため、虹が見えなくなる。反対に水滴が小さければ、虹の幅が広くなり、色が薄くなって全体的に明るくなる。そして水滴が小さすぎると、ミー散乱によって色が分かれなくなり、白く明るい半円が見えるようになる。これを白虹(しろにじ、はっこう)といい、や雲を構成する水滴でよく見られるので霧虹や雲虹とも言う。また、このとき朝焼けや夕焼けなどの時間帯で太陽光線が赤みを帯びていると、白虹が赤く見えることがあり、これを赤虹と呼ぶ。

暗帯

主虹と副虹の間に見える空や風景は、虹に比べて相対的に暗くなる。特に後ろの雲が真っ黒でよどんだ空だと、暗い部分がはっきりと帯状に見える。これをアレキサンダーの暗帯(-あんたい, Alexander's dark band)あるいはアレキサンダーの帯という。これは、先に述べた原理から、主虹の内側と副虹の外側からは観察者に向かって若干の反射光が入ってくるものの、その間の部分からは反射光が全く入ってこない状態になるためで、この部分だけ本来の空の色が見えていることになる。

反射虹

水面などに反射した光が太陽光と同じように水滴内を通って反射すると、同じように虹ができることがある。これを反射虹という。反射虹にも主虹と副虹がある。反射虹が描く円弧の中心は、普通の虹とは異なるため、普通の虹と反射虹は同心円状にはならず、ずれて見える。普通の虹と反射虹が重なってきれいなV字型を描くこともある。

過剰虹

このほか、主虹の下側や副虹の上側に、さらに色のついた部分が淡く見えることがある。これを過剰虹(かじょうにじ)あるいは干渉虹(かんしょうにじ)という。これは、水滴がある大きさになったときに、太陽光が干渉して弱め合ったり強め合ったりしてできる。

月虹

テンプレート:Main 月の光でも同様に虹ができる。この場合は月虹(げっこう)という。

虹の形状

虹は主虹(一次の虹)と副虹(二次の虹)が同心円状の形状となる。主虹は赤が一番外側で、副虹は赤が一番内側である。

同心円・半円になる理由

虹が描く弧は、観察者を基点として、太陽とは正反対の方向、対日点(たいじつてん)が中心となる。対日点は、観察者から見れば地平線の下にあるので、虹は半円に見える。

主虹(一次の虹)と副虹(二次の虹)は、対日点を中心に同心円状に並ぶ。これは、すでに述べた『「太陽」-「プリズムとなる水滴」-「観察者」のなす角度』の変化によって異なる色の光が見えて虹になるメカニズムが、地面に対して垂直方向のみの角度の変化ではなく、斜めの方向の変化でも適用できるためである。

スペクトルの発見

ファイル:Prism rainbow schema.png
プリズムによる白色光の色分解

イギリスの自然哲学者アイザック・ニュートンはプリズムに白色光をあてると虹色が見られることから、光は様々な粒子の混合体であるという「光の微粒子説」を唱えたが、ロバート・フッククリスティアーン・ホイヘンスなどから激しく批判された。

虹に類似した大気光学現象

学術的には虹でなくとも、色が分かれていたり、弧を描いたりしていて、一般的には虹と混同されやすい大気光学現象が多数ある。

  • ブロッケン現象光輪 - 観察者を中心として、太陽と正反対の方向にできる。虹と同様に色分かれがあり、水滴によって起こるが、光が水滴内を通過する際のメカニズムが異なる。
  • (かさ、うん、ハロー) - 太陽の周りにできる。虹と同様に色分かれがあるが、氷晶によって起こる点が異なる。
  • 光環(光冠) - 太陽の周りにできる。色分かれはほとんど無く、光が回折することで起こる。
  • 彩雲 - 雲に重なって見え、できる位置はさまざま。色分かれはほとんど無く、光が回折することで起こる。

このほかに環水平アーク環天頂アーク外接ハロ幻日など、虹のように色分かれする現象は多数ある。

星虹

星虹(せいこう、テンプレート:Lang-en)とは、光速近くで移動する宇宙船から星空を眺めると、ドップラー効果特殊相対性理論の効果によって、星の見かけの位置が進行方向前方に移動し、進行方向を中心とした同心円状に星の色が変化して虹のように見える、といわれている現象である。英語のスターボウ(starbow)は、雨が作る弓型であるrainbowから、星が作る弓型という意味で作られた造語。また星虹はその直訳語である。

通過する救急車サイレンや、電車内から聴く踏切の警報など、音源からの距離が連続的に変化することで周波数を圧縮・延伸され、音が歪んで聞こえる現象(ドップラー効果)は日常的に体感することができるが、これらの音波と同じように、相対的に接近し遠ざかってゆく星々から、飛行中の宇宙船に向かって飛んで来るの波長が圧縮・延伸されることにより色が歪んで見えるため、全体が虹の様に色を帯びて目に映るのではないかと仮説したもの。

しかし、仮に全ての恒星などからの光がすべて単一の波長であるならば赤から紫まで明瞭に色が分かれた虹に見えるであろうが、実際には様々な星が様々な波長の光を放出しているため、七色に分かれた一般の虹のように見えることはない。星のスペクトルを黒体輻射と仮定してドップラー効果による色変化を検証した科学論文[4]によれば、ドップラー効果による色変化は星温度の変化と同様で虹にもドーナツ状にもならないことが示されている。シミュレーションソフト[5]で再現した場合も進行方向に明るく青っぽくなり、側方、後方の星は赤く暗くなる色変化は観測されるが星虹は出現しない。

いずれにせよ亜光速で飛行できる宇宙船が実際に在ると仮定した場合にのみ、観測が可能となる空想科学上の現象であり、現代の科学技術ではそのような宇宙船はまだ理論の上にも現されていない。

宇宙を扱うSF作品の視覚化・映像化においては亜光速の表現に用いられ、一般には(学術的な推論ではなく)フィクションとしてよく知られている。スタートレックの初期シリーズに星虹が表現されている。

虹に関する伝承

テンプレート:See

虹とデザイン

色彩やデザインにおいては、虹のように多色を規則的に並べる技法がある。このとき規則的に並んだ色を「虹色」と呼ぶことがある。

象徴としての虹

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レインボーフラッグ
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マイヨ・アルカンシエルを着る2011年大会男子ロードの優勝者、マーク・カヴェンディッシュ

虹はさまざまな色を含むが、そのすべてが太陽の白色光から分かれたものであり、各色の間に明確な境界を引くこともできない。この性質から、虹色の旗は「多様性」「共存」の象徴として用いられている。セクシュアリティの多様性と共存という意味合いからLGBTの象徴としても用いられる(平和の旗レインボーフラッグ[6])。同じ理由から、直接民主主義の実現を目指すハンガリーインターネット民主党も虹をそのシンボルに採用している。

スポーツの世界では、世界選手権自転車競技大会の優勝者だけが着ることを許される、マイヨ・アルカンシエル(英語では「レインボージャージ」とも)にもあしらわれている。優勝者は生涯、ユニフォーム等の一部に虹色のデザインをあしらうことも認められる。

キリスト教においては虹は「神との契約」「約束の徴」を意味する(創世記9-16)。

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

テンプレート:Commons&cat テンプレート:Sister

外部リンク

テンプレート:気象現象

テンプレート:Link GA
  1. なお、同じ意味の単語より成り立つドイツ語Regenbogen には、「O脚の人」という意味もある。
  2. 大修館書店『社会人のための英語百科』(監修 大谷泰照、堀内克明)163頁
  3. 服部貴昭の備忘録/第三次虹
  4. テンプレート:Cite journal
  5. HippLiner -- A 3D interstellar spaceship simulator with constellation writing function
  6. 初期には同性愛コミュニティで使用された象徴であり、そのためゲイプライド旗とも呼ばれる。