藤前干潟

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ファイル:Fujimae mudflat Aerial photograph.1987.jpg
藤前干潟周辺の空中写真。1987年撮影の13枚を合成作成。
国土交通省 国土画像情報(カラー空中写真)を基に作成。

藤前干潟(ふじまえひがた)とは、愛知県名古屋市港区海部郡飛島村にまたがるラムサール条約登録地の干潟である。

概要

藤前干潟は、名古屋港西南部の庄内川新川日光川の河口が合流する、名古屋市港区藤前地区の地先に広がる干潟である。

かつて、西1区と呼ばれ、名古屋市のごみ埋め立て予定地計画があった場所でもある。

干潟の面積はおよそ350 ha。潮位が名古屋港基準面で70 cm以下になると、干潟が海面の上にあらわれる。伊勢湾に残る最後の大規模な干潟で、シギチドリ類やオナガガモスズガモカモ類などの渡り鳥の飛来地として有名である[1]

ゴミ埋め立て計画中止後、藤前干潟と、隣接する庄内川新川日光川の3河川の河口にある庄内川河口干潟、新川河口干潟、飛島干潟の一部を保全し、2002年(平成14年)11月1日に国指定藤前干潟鳥獣保護区(集団渡来地)に指定(面積770 ha[1]、うち特別保護地区323 ha)、同年11月18日にラムサール条約に登録された。2007年(平成19年)5月22日に、名古屋市とオーストラリアジロング市が湿地提携に調印し、両市は湿地映像の相互配信を行っている[2]

歴史

ファイル:River mouth of Shōnai River and Shin River.JPG
埋立が回避された庄内川新川河口部の藤前干潟

1950年代以前には藤前干潟がある伊勢湾最奥部には広大な干潟が広がっていたが、港湾開発・工場用地・農業用地の埋立開発により、そのほとんどが消滅した[3][4]。名古屋市愛岐処分場(岐阜県多治見市)が2001年に満杯予定であったことから名古屋市が藤前干潟の一部を埋立る開発計画を立てたが、環境庁や住民団体などの反対により埋立は撤回された[5]

  • 1950年代 - 伊勢湾最奥部の干潟など4000 haほどが、臨海工業用地造成のために埋立地となる。
  • 1964年(昭和39年) - 西部臨海団地が造成され、西側では農地としての鍋田干拓地の444 haほどの干拓が完了した。
  • 1969年(昭和44年) - 伊勢湾台風後に、名古屋港の南端に高潮防波堤が建設された。
  • 1981年(昭和56年)7月 - 藤前干潟の一部を含む西1区(101 ha)が廃棄物処理用地等として港湾計画が立てられた。
  • 1984年(昭和59年)6月 - 名古屋市が埋立による「ごみの最終処分場」を西1区に建設する計画を発表。
  • 1985年(昭和60年)4月6日 - 庄内川河口部左岸に、藤前干潟の水鳥を観察するための「野鳥観察館」が開設された[6]
  • 1987年(昭和62年) - 「藤前干潟を守る会」の前身となる「名古屋港の干潟を守る連絡会」が発足。
  • 1990年(平成2年)1月 - 環境庁が湾港審議会で藤前干潟の開発に対して、環境配慮するように指示した。
  • 1991年(平成3年)6月 - 名古屋市議会に埋立中止請願書と10万人の署名が提出された。
  • 1993年(平成5年)12月 - 名古屋市の事業計画が見直されて、46.5 haに縮小された計画で事業実施を決定された。
ファイル:Fujimae-higata and Nanyo-kojyo.JPG
満潮時の藤前干潟と南陽工場
  • 1997年(平成9年)3月 - 名古屋市港区藤前二丁目101番地に、可燃ゴミ焼却施設の「名古屋市新南陽工場」が完成[7]
  • 1998年(平成10年) - 名古屋市が環境影響評価書を公表し、藤前干潟の埋立の環境への影響代償措置として人工干潟の造成を指示したが、環境庁と運輸省はこの人工干潟を承認しなかった。
  • 1999年(平成11年)1月 - 名古屋市が藤前干潟の埋立計画を断念。翌月「ごみ非常事態」を宣言し、その後徹底したごみの分別とリサイクルの取り組みが行われた[3]
  • 2002年(平成14年)11月1日 - 国の鳥獣保護区(集団渡来地)の指定を受けた。
  • 2002年11月18日 - ラムサール条約第8回締約国会議(COP8)にて、「藤前干潟」としてラムサール条約に登録された。
  • 2004年(平成16年)10月5日- 「藤前干潟クリーン大作戦実行委員会」が結成された。
  • 2005年(平成17年)3月27日 - 藤前干潟の接岸部に藤前活動センター、庄内川左岸河口にある稲永公園内に稲永ビジターセンターが開設された[6]
  • 2012年(平成24年) - 庄内川河口部左岸堤防の高潮堤防改修工事が完了[8]

ゴミ埋め立て処分場問題

この問題は、名古屋市がこの干潟をゴミ処分場にするという計画が持ち上がったことがきっかけに発生した。名古屋市はアセスメントを行った結果、その計画が渡り鳥などの生態に影響すると知りながらも、人工干潟の造成を条件に埋め立てを実行に移そうとした。しかし、1999年環境省(当時・環境庁)は人工干潟の造成では現環境の維持は極めて困難とする見解を出したうえ、寺田達志環境庁環境影響評価課長が検討結果を持って名古屋市役所に単身で訪れるなど異例の行動で強硬な反対姿勢を示した[9]ほか、市民運動なども活発に行われ、その結果名古屋市は埋め立てを断念。ゴミの増大に悩む名古屋市のゴミ収集制度見直しの契機となった。

藤前干潟の生物

鳥類

東アジアで繁殖した多数のシギ類チドリ類が春と秋に旅鳥として飛来する重要な中継地のひとつである。採餌と休息を行った後にオーストラリアやニュージーランドへと渡り越冬する。「ダイゼンの越冬群」と「ハマシギの越冬群」が愛知県のレッドリストで地域個体群の指定を受けている[10][11]。冬にはロシア極東アラスカ方面で繁殖した多数のカモ類が飛来し越冬する。ミサゴなどの猛禽類アオサギカルガモカワウなどは一年中この周辺に留まる。172種の鳥類が確認されている[12]。シギ・チドリ類は41種確認されている。各季節ごとに干潟で見られる代表的な種を以下に示す[3]

渡り鳥の飛来調査

環境省により、藤前干潟の渡り鳥の飛来調査が行われている[13]。毎年定期的に60種ほどの水鳥が確認されている[14]。スズガモ、オナガガモ等のカモ類が10月から3月にかけて約1万羽、ハマシギが10月から5月にかけて約3000羽確認されている[14]。2011年9月6日から2012年6月26日までの期間で、30回飛来数の調査が行われた[15]。周辺には稲永公園などの森があるため、水鳥以外の多数の野鳥も観察できる。

底生動物

ゴカイカニなど174種ほどの底生生物の生息が確認されていて[12]、河口域の水質浄化の役割を果たしている[3]。カニやゴカイ類などは渡り鳥などのエサとなっている[3]

哺乳類

  • 鯨類 - スナメリ(現存する国内の干潟で鯨類が生息する希有な例)
ファイル:Birds and trash in Shōnai River.JPG
庄内川河口部の漂流ゴミと水鳥
ファイル:Fujimae-activity-center.jpg
ラムサール条約湿地藤前干潟 藤前活動センター
ファイル:INAE Visitor Center.jpg
庄内川河口左岸の名古屋市野鳥観察館の南側に併設されている稲永ビジターセンター(環境省のラムサール条約関連施設)

藤前干潟の課題

干潟には不法投棄や河川の上流から漂流ゴミが多く、アシ原などの窪地などに大量のゴミが堆積している。クリーン大作戦などの清掃活動が行われているが、流入するゴミに対応し切れていない。

関連施設

藤前干潟エリア

  • ラムサール条約湿地藤前干潟 藤前活動センター、その東側には名古屋市のゴミ焼却場(南陽工場)がある[16]

稲永公園・庄内川河口エリア

交通アクセス

藤前干潟エリア

稲永公園・庄内川河口エリア

その他

毎年7月ごろには、名古屋市の環境未来探検隊が藤前干潟を訪ね、事前学習会をする。

NPO法人藤前干潟を守る会により、「ガタレンジャー」と呼ばれるボランティアガイドが組織されている。

脚注

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参考文献

関連項目

外部リンク

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テンプレート:干潟
  1. 1.0 1.1 テンプレート:Cite web
  2. テンプレート:Cite web
  3. 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 テンプレート:Cite web
  4. テンプレート:Cite web
  5. テンプレート:Cite web
  6. 6.0 6.1 テンプレート:Cite web
  7. テンプレート:Cite web
  8. この工事に伴い、河口部のヨシ原が伐採されてその一部が消滅した。
  9. 朝日新聞1998年12月18日
  10. テンプレート:Cite web
  11. テンプレート:Cite web
  12. 12.0 12.1 テンプレート:Cite web
  13. テンプレート:Cite web
  14. 14.0 14.1 テンプレート:Cite web
  15. 括弧内の数値は30回の調査で、最も多く確認された日のカウント数
  16. テンプレート:Cite web